雨―――――



 雨が降っていた



 土砂降りの雨



 朱に染まった木の刀



 虚ろに佇む一人の少年



 その視線の先には雨と朱に濡れた…………















 バサッ!



 「はぁ……はぁ……夢か……」



 勢いよく布団をはぐって起きる少年、よほど夢見が悪かったのであろう、全身が汗でびっしょりになっている。

 カーテンから微かに覗く朝日の光がそんな少年の整った顔を照らす。

 少年の名は相沢祐一、今日この日から御音(おね)高校に通うことになる新高校一年生である。



 「ちっ……今日から高校だっていうのに、幸先の悪い……!」



 祐一はそう忌々しげに呟きつつ、部屋のとある一角を見つめる。

 そこには布に包まれた一振りの木刀が壁に立て掛けてあった。



 「俺の『罪』か……いつになったら消えるんだろうな……いや、消えやしない、か」






























 DUAL ONE’S STORY     第1話   四月、主役達の集い@






























 「おはよう祐一♪」

 「ああ、おはよう母さん」



 祐一が着替えと学校へ行く用意を済ませてリビングに入ると祐一の母親―――――相沢春奈が祐一に声をかけてくる。



 「いきなり顔色悪いわねー…………また、『あの時』の夢でも見たのー?」

 「……ああ」

 「別に忘れろとは言わないけどー……いつまでも引きずってもしょうがないじゃない、第一あれは―――――」

 「母さん」



 春奈がそこまで言うと祐一はこの話はここまでだと言わんばかりに続く言葉をさえぎる。

 そんな息子の姿を見ると母親である春奈はただ黙ることしかできなかった。

 春奈が黙ったことを確認すると祐一は席に座り、すでに用意されていた朝食を食べ始める。



 (祐一……)



 釈然としないものを感じつつも春奈も食卓について朝食を食べ始める。

 こういうとき出張中の最愛の夫がいたのならば……などど考えてみるが無いものねだりをしても仕方が無い。

 自分なりの方法でこの場の空気を変えることを決意する春奈。

 とりあえず今日という日を利用してみるらしい。



 「そういえば今日からあんたもピカピカの高校一年生ねー♪ 本当に時間が過ぎるのは早いわよねー」

 「……高校か、どんなやつがいるのか楽しみだよ」

 (……ほっ)



 祐一が言葉を返してきてくれたので心の中でほっと一息つく春奈。



 「へぇー、やっぱりあんたも新たな出会いに胸をときめかせたりするのー?母さんびっくりよー」

 「あのな、俺も枯れてるとは自覚してるが……一応十五の健全な男なんだから、それぐらい当たり前」

 「ま、まさかあんたからそんな言葉が聞けるなんて母さん思っても見なかったわー、長生きはするもんねー」

 「おいおい……」



 まだ長生きって歳じゃないだろ等の突っ込みはとりあえずしないで(したらこの母親は調子に乗ると知っているから)

 苦笑する祐一、さっきまでの重い空気はどこへやら……すっかり春奈に翻弄されてしまう祐一だった。

 春奈は祐一に見えないようにしてやったりの表情を浮かべていたりする。



 「でー? あんたは部活とかには入るのかしらー?」



 何部、と具体的な名称は出さないようにする春奈。

 なぜならその部の名前を挙げることは息子が傷ついてしまうことだと知っているから。



 「いや、特に考えてはいない」

 「あんた運動神経いいんだからもったいないわよー、それにどこの部もあんたをほっとかないんじゃない?」

 「と、いわれてもね……」

 「女の子にモテモテよー♪」

 「そんなことに興味は無い、とは言わないけれどそんなんで寄って来るミーハーな娘は母さん的には駄目なんじゃないのか?」

 「まあ、それはそうだけどー……もてないよりはいいじゃないー」

 「スポーツが出来るってだけでは俺はもてないだろ…………」

 「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 「何なんだよ、その『私、滅茶苦茶あきれてるんです』的なため息は」

 「言葉通りよー……」

 「……なぜだろうか、近い将来今と同じ台詞を他の人から聞くことになるような気がする……」

 「言葉通りよー」

 「いや、わからんって」

 「まあ、それはこっちに置いておいて。あんた、少しは自分のことを理解した方がいいわよー」

 「は?」

 「容姿―――――私と祐馬さんに似てかなり良し   運動能力―――――全てのジャンルにおいて全国クラス

  頭脳―――――少なくとも悪いとは言わない    性格―――――ちょっと無愛想だが、見る人によってはクールに見える

  ってところねー。これでもてないわけ無いでしょうが」

 「はぁ」

 「まだわかってないようねーこの天然はー。だいたいあんた中学校のときかなりの数の女の子に親しくされてたでしょうー?」

 「ああ、俺が口数が少ないから心配してくれて話し掛けてきてくれた娘たちのことだろ?」

 「……あとはこの朴念仁なところさえなければねえ」

 「なんか凄く失礼なことを言ってないか」

 「気のせいよー」















 「いってらっしゃいー♪」

 「ごまかされてる、きっと俺、ごまかされてるよ……」



 結局、春奈に上手くごまかされてしまった祐一。

 そして何故か生暖かい笑顔で息子の高校への初登校を見送る春奈であった。

 その笑顔の裏には



 天使春奈(高校で祐一の傷を癒してあげられる娘が見つかればいいのだけれど…………)

 悪魔春奈(うふふー♪今年こそ祐一には彼女を作ってもらって家に連れて来てもらうわー♪)



 という天使と悪魔の思考があったことを祐一は知らない…………















 「御音高校、か……」





 あとがき

 さて、我がHPオンリーになる予定の連載スタートです!目指せ、シリアス!(笑)
 このお話はKanon開始一年と九ヶ月前のものです、そして祐一君の通うことになる御音高校はONEキャラの通う高校です。
 つまり祐一君の転校前の話をONEとクロスさせて描いてみよう、という物語です。
 ONEキャラの時間軸はそのままですので祐一君は一年ですが浩平君は二年ということになっております。
 ONEキャラに関しては多少設定をいじってあります、まあそのへんは話が進めばわかっていくことになりますが…………
 ONEキャラはほぼ全員出てくる予定ですが…………繭と広瀬は出ません。この二人のファンの方、すみません〜

 この物語の祐一君は原作より無愛想でクール気味です。
 とらは3の高町恭也をイメージしてもらえればよろしいかと、わからない人の方が多いとは思いますが…………
 そんな祐一君を原作の祐一君にしていくのがこの物語の目的の一つですね。
 この物語のヒロインは二人いますがどちらのヒロインもONEを知っている方ならわかると思います。

 次回は北川のポジション(祐一の親友)になる予定の男とヒロインの一人が登場予定です。