DUEL SAVIOR INFINITE Scwert4-8
 守護者の機能の1つに、面白いものがある。
 別世界から、その世界の脅威となる存在をコピーするという事だ。
 この機能を用いると、無限再生機能は停止してしまうのが難点だが、それを補って有り余るほどの恩恵を得る事が出来る。
 どれだけ木っ端微塵になろうとも、この機能を使えば1度だけ完全に回復できるのだ。
 実際のところ、守護者は打破される寸前までいっていた。
 その結果として、この機能を発動したのだ。
 今回、その機能によってコピーされた存在は竜。
 跳躍力を武器にし、相手の死角から死角へ跳び狡猾に獲物を追い詰める存在。
 元の世界では、迅竜《ナルガクルガ》と呼ばれるモンスター。
 それが、その形状の名前だった。

















DUEL SAVIOR INFINITE

Schwert4-8
絶影 〜Assassin of The Sea of Trees〜
















「未亜は、もう疲労がピークみたいだな」

「だ、大丈夫ですよ」

「立ってるのがやっとなのに、そう強がりを言うものじゃない。
 下手な強がりは、《死》に繋がるぞ」

「うっ―――

「リコ、逆召喚は出来るか?」

「今、この部屋全体の結界が一時的な機能不全を起こしているようです。
 今の瞬間なら、1人くらいは出来ます」

「よし、なら未亜を頼む」

「で、でも!!」

「そんな疲れ切っている状態でいられても、迷惑なだけだ」

「ッ!!」

 冷たい言い方かもしれない。
 だが、少しでも無駄な犠牲を減らすためだ。
 時として、こうした厳しい態度でいなければならない時もある。

「リコ、頼む」

「分りました、逆召喚を開始します」

 未亜の体が光に包まれ始める。

「お兄ちゃん!! みんな!! 絶対に、帰ってきて!!」

「あったりまえだのクラッカーよ!!」

「大河、そのネタ古いぞ」

「なにぃぃぃいぃっ!!??」

「だ、大丈夫そうだね」

 更に光が未亜の身体を包み込む。
 そして、未亜は逆召喚によって退避した。

「さて―――未亜を退避させたが」

「問題は、こいつって事だ」

「空想とかに出てくるのと形は違うが、コイツも竜ってわけか」

「ああ――――何とかするっきゃねぇがな」

「フロア内の結界が、再起動しました。
 もう、逆召喚による退避は出来ません」

「分ってるさ――――それに…」

 視線の先で、破壊した入口の壁が再構築されていく。
 これで、完全に退路は塞がれた。
 もちろん、力押しで突破する事も可能かもしれないが。

「やるにしても、その時間をくれるほど甘い相手ではないか」

 アダムを警戒しているのであろう。
 縦横無尽に動く尻尾を、2度3度と地面に叩き付け唸り声を上げながらこちらを威嚇している。
 無用心に攻撃しなかったという事は、それ相応に警戒心も持ち合わせているという事。

「やりにくい相手だ」

「だが、やるしかねぇぜ」

「まったく、本当にその通りだ」

 大河の言う通り、やるしかない。
 何、問題なんて何もない。
 戦いとは、常に未知を含んでいるもの。
 なら、目の前の敵が未知であったとしても―――戦うのに支障なんてない。

「それじゃ、やるか。
 オレと大河で、前衛を。
 リコは、後衛で援護を頼む」

「了解しました」

「んじゃま、行くぜぇぇぇ!!!」

 突進する大河を尻目に、アダムは一気にナルガクルガに突進した。
 アマテラスから、眩いばかりの赤いマナが噴出す。

「Bing―――!!」

 振り抜かれる一閃は、しかしナルガクルガを斬る事は無く。
 跳躍によって、ナルガクルガはアダムの死角へと回り込む。

「ッ!」

「■■■■■―――!!!」

 咆哮と共に迫り来る軌跡。
 迫り来る刃。
 避ける――――否、避けれない。

「だらぁっ!!」

 籠手に変化したトレイターがナルガクルガの横腹を殴る。
 若干だが、動きが鈍るがナルガクルガは止まらない。

――――、!」

 だが、その僅かな鈍りがあれば充分。
 迫り来る刃と交差するように、アダムは前転して刃をやり過ごした。
 だが、それだけではナルガクルガは止まらない。
 着地と同時に再跳躍。
 再び、アダムの死角へと回り込む。
 
「なるほど、なッ!」

 迫り来る翼刃を前転で回避し、やり過ごす。
 2度も避けられた事に苛立ったのか、再びナルガクルガは跳躍によって死角に回り込もうとする。

「ハルダマー」

 だが、それを許すはずがない。
 リコの魔法により、雷が1発、2発とナルガクルガに直撃する。

「■■■■―――!!」

 しかし、ナルガクルガは止まらない。
 雷を受けても、物ともせずにアダムの死角に回り込む。

「悪いが、それは予測済みだ」

 アマテラスが振り抜かれる。
 脳天を両断するであろう一撃は、しかしながら頭頂部を軽く斬るだけに終わった。

――――、!」

 あの瞬間に、頭を動かして一撃を回避したのだ。
 驚嘆する程の反射神経。
 そして、回避を実行できるだけの身体能力。
 何もかもが、伝えられる竜と異なる。

「アダム!! 避けろ!!」

 反射的であった。
 咄嗟に、アダムは屈んだが、それが生死を分けたと言っていいだろう。
 頭上を猛スピードで何かが通過する。

「尻尾か!」

 それは、縦横無尽に動いていた尻尾であった。


















◇ ◆ ◇


















 なるほど、存外に出来ると《それ》は思う。
 素質も素晴らしいが、何よりも素晴らしいのはその技術。
 まだ荒削りなところがあるが、それを補って有り余るだけの戦闘センス。
 更に、状況判断能力も悪くない。
 だが、まだまだ焦りは禁物だ。
 干渉するのは、本当にピンチになってから。
 それからでも、まったく遅くない。


















◇ ◆ ◇


















「ちっ!」

 迫り来る尻尾、刃翼を避ける。
 ナルガクルガは止まらない。
 着地と同時に、安全圏、あるいは死角へ跳び回る。
 動作の1つ1つが、次の動作への予備動作となっているのだ。
 それは、人間のように鍛え抜かれたものではない。
 強いて言うなら、天然の暗殺者なのだろう。
 だからこそ、厄介でもある。

「アダム!! 距離を―――!!!」

「ああ、分ってる!」

 今までの攻撃から、この怪物は遠距離攻撃を持っていない可能性がある。
 なら、こちらはリコに遠距離から攻撃し続けてもらえばいい。

「もっとも、生半可な攻撃は無意味だがな」

「おいアダム、あのバケモノ―――何をしてやがるんだ?」

 ナルガクルガが、尻尾を掲げて勢い良く回転させ始めた。
 その先端部分の鱗が、棘の様に鋭く逆立つ。

「まさか――――

 脳裏に、1つの答えが浮かび上がる。
 それしか、考えられない。

「避けろ!」

 叫ぶのと、鱗が弾丸の如く飛んでくるのは同時であった。


















◇ ◆ ◇


















 もはや決定したと言っていいだろう。
 とは言え、前代未聞の《男》なのだが―――それは些細な事でしかない。
 素質、戦闘能力、判断力、精神力――どれを見ても、超一流と言っていいだろう。
 あとは、状況を見て干渉すれば問題はない。


















◇ ◆ ◇


















「ったく、とんでもねぇぜ」

―――炎を吐いたりしないが、しっかりと遠距離攻撃を持っているか」

「どうしますか?」

 本棚の影に隠れながら、ナルガクルガの様子を伺う。
 自分達の姿を見失ったのか、辺りをキョロキョロしているようだ。

「どっちにしても、このままではヤバイな。
 耐久力もかなり高いし、生半可な攻撃じゃ動きを止められない。
 瞬発力と跳躍力で死角に移動して攻撃してくるし、かといって距離を取ればさっきの鱗の弾丸が飛んでくる」

「ったく、これじゃさっきのキマイラの方がマシだったぜ。
 まぁ、無限再生とかふざけた特性があったがよ」

「それはつまり、体が損傷してもすぐに直るって事か?」

「その通り。お陰で、無理やり持久戦を強いられた」

「なら、オレ達に勝機はあるな」

「どういう事ですか?」

「隠れる時に確認したんだが」

 もう1度、ナルガクルガの様子を伺う。
 まだ、こちらに気付いていないのか、辺りを見回しているようだ。

「さっき、頭に傷を付けただろう」

「確かに掠り傷を負ったみてぇだが、それがどうかしたのか?」

「その傷、まったく治っていなかった」

「おいおい、って事は」

「無限再生能力は、停止しているのですね」

「どうやらそうらしい―――そこが、オレ達の狙い目だ」

 とはいえ、状況はよろしくない。
 生半可な攻撃では止められないし、近距離も遠距離も対応している。

「付け入る隙が、少ないか」

「だが、やるしかねぇぜ」

「はい、このままでは終れません」

「分ってるさ―――問題は、どうやって倒すかだが」

 アダムが立ち上がる時に、微かに音がフロアに響く。
 瞬間、ナルガクルガは正確にアダム達がいる方向を見た。

「■■■■■―――!!!」

 咆哮と共に、その場で身構える。
 狙いは間違いなく―――

「本棚ごと、俺等を叩き切るつもりかよ!」

「叫ぶ前に避けろ!」

 刃翼が本棚を切断し、アダム達に迫る。
 だが、本棚を先に切断したが故に、微かにだが刃翼の速度が低下した。

(今、!!)

 その微かな低下を見逃さず、アダムは一気に相手の懐に入り込む。
 空中に跳んでいるナルガクルガの頭を、すれ違い様に斬り付けた。

「■■■■■―――!?」

 いや、若干だが狙いがズレた。
 アマテラスの刃は、ナルガクルガの脳天ではなく右目を切り裂く程度にとどまる。

「浅かったか!」

「だがよ、右目を潰すって言うのは、こっちにとっちゃアドバンテージだぜ。
 それによ」

「やはり、右目が再生する気配がありません。
 再生能力は、完全に停止しているものと思われます」

「それに、1つ分った事がある」

 アマテラスのエクシードを全開まで充填させる。
 次の一撃は、今までの比ではない。

「さっき、オレが微かに音を出すと反応していた」

「どういう事だよ?」

「あの竜は、音に反応する。
 いえ、聴力が異常なまでに発達しているという事ですね」

「おそらく、だがな」

 だがきっと、間違いない。
 特殊な環境下で生息する生物は、異常な進化を遂げる場合が多い。
 たとえば、深海魚などはいい例えだろう。
 暗闇の世界であるが故に、必要性の無い眼などは異常に退化しているか。
 あるいは、暗闇でも見れるように異常に進化するか。

「こいつは、後者のタイプ――つまり、聴力を異常なまでに発達させているようだ」

「って事は、大きな音を耳元で出せば」

「しばらくは平衡感覚を失い、動けなくなるはずです」

「そこがオレ達の狙い目だな。
 リコ―――テトラグラビトンは、撃てるか?」

「あと1発だけなら問題ありません。
 無理をすれば、2発はいけます」

「よし、ならオレのアマテラスで化け物の近くで爆音を出す」

「それで、動けなくなった化け物をリコが隕石で潰すって作戦だな?」

「あとは、爆音を出すまで大河がある程度だが、牽制してもらわないといけない」

「分ってるよ」

 作戦は決まった。
 なら、後は実行するだけなのだが―――

「おい、何か様子がおかしくねぇか?」

「確かに、少しおかしいな」

 明確に変わったところと言えば、それは間違いなく眼だろう。
 眼光という言葉が似合うほど、ナルガクルガの眼は異常なまでに輝いていた。

「■■■■■――――!!!!」

 吼える、先ほどよりも大きな咆哮。
 瞬間、ナルガクルガは跳躍した。

「さっきよ…」

 着地と同時に、ナルガクルガは狙いを定めたようだ。
 狙いは間違いなく、後方にいるリコ。

「避け…」

 全てを言い切る前に、リコは弾き飛ばされていた。
 迫った刃翼を、咄嗟に召喚しておいた甲羅でガードしたのだろう。
 だが、重量の差か、リコの身体は簡単に弾き飛ばされたのだ。

「ちっ!」

 らしくも無い舌打ち。
 昔の自分なら、様になったかもしれない。
 だが、相応の経験も積み、落ち着きを手に入れた自分には―――

「似合わないな、本当に!」

 自覚しているが、それでもせずにはいられない。

「怒った、ってところか!」

 先ほどまで狡猾さはない。
 跳躍から跳躍。
 苛烈に、ナルガクルガは獲物を追い詰める。
 その動き―――既に眼光の残光しか捉えられないほど。

「アダム!!」

「撤退したいが、おそらく不可能だぞ!」

 そもそも、逃げ道なんて無い。
 さっき隠れれたのも、鱗の弾丸の着弾音に紛れれたからだろう。
 だが、今の状況下で逃げるのは不可能に―――

「いや、行けるか!」

 ナルガクルガの聴力は、発達する方向に進化している。
 つまり、一時でも相手の耳元で大音量の爆音を聞かせれば、一定時間だが行動不能に陥らせれるはず。
 そして、今のリコにそんな事をする余裕は無い。
 となると、後は大河が自分だが。
 大河の爆音を発生させる方法は、爆弾。
 しかも、前時代の爆弾だ。
 爆発させるには、導火線の火が火薬に点かなければならない。
 つまり、致命的なまでにタイムラグがあるのだ。

「なら、オレがやるしかないか!」

「アダム!! 俺が牽制するからよ!!」

「ああ、頼む!!」

 大河がナルガクルガに突進し、何とか牽制する。
 いや、遊ばれていると言ってもいいかもしれない。
 跳躍から跳躍―――死角から死角へ。
 とてもじゃないが、大河ではナルガクルガを捉える事は出来ない。
 そもそも、残光を残すほどの速度で跳躍しているのだ。
 アダムとて、目の前でやられれば見失うかもしれない。

(だが―――!)
 
 何度も観察する事によって、アダムの中ではある程度の攻略法が確立され始めていた。
 この竜、特定の攻撃行動をする時に一瞬だが硬直時間がある。
 その瞬間に、爆音を耳元で聞かせれば動けなくなるはずだ。

(まだだ、まだ―――

 その時を、アダムは静かに待つ。
 焦りは禁物だ――こういう時こそ、冷静に見なければならない。

(まだ、まだ、まだ―――

 斬撃に次ぐ斬撃。
 埒が開かないと判断したのか、ナルガクルガが後退する様に跳躍する。

(今、!!)

 場所は着地点。
 ナルガクルガが着地するのと同時に発生する、微かな硬直。
 狙い目は、まさにそこ。

「ッァ!!」

 蓄積されていたエネルギーを全て開放。
 響き渡る爆音。
 そして―――

「■■■――!?」

 ナルガクルガが、地面に倒れた。
 悶えながら、何とか立ち上がろうとし、しかし倒れたまま起き上がれない。

「どうやら、成功のようだな」

「アダム!! 急いで隠れるぜ!!」

「ああ―――、!?」

 後方から感じる、魔力の奔流。
 後にいるのは、リコ。
 つまり―――

「リコ!?」

「どいてください、2人とも」

 既に、リコは発射態勢に入っている。
 奇しくも、当初の作戦通りの展開になっていた。
 つまり―――

「大河!」

「応よ!」

 すぐさま離脱、そして放たれる隕石。

「影よ、大地を覆い尽くせ―――テトラグラビトン!!」

 上空に描かれた魔法陣より、巨大な隕石がナルガクルガ目掛けて落とされた。


















◇ ◆ ◇


















 さて、そろそろ動こうか。
 状況も整い始めた。
 こちらの準備は万全。
 あとは―――


















◇ ◆ ◇


















「何とかなった、か」

「そのだな――というより、あれを避けたとなったら」

「それこそ、常識を疑うって事だぜ」

「まぁ、な」

 爆音と共に発生した爆風は、2人を簡単に吹き飛ばす程の威力であった。
 それだけの威力の隕石を至近距離で喰らい、それでも無事というのなら。
 それは竜の形をした悪魔に違いない。

「とりあえず、これで何とか最後の関門を突破だな」

「あとは、導きの書を手に入れて終わりか?」

「そういう事だ。リコ、そっちは大丈夫か?」

「疲れましたが……問題は、ありません」

 とは言え、相応に疲れているのだろう。
 声に、少しだけだが覇気がない。

「それじゃま、導きの書をゲットして任務は達成だ!
 アダム、1番乗りは俺だぜ!?」

「はぁ……好きにしてくれ。
 それより、その封印されている導きの書をどうやって手に入れるんだ?」

「はっ? おいおい、なに変な事を言ってんだよ。
 守護者を倒したら、封印は解除されるってリコが言ってたぜ」

「……いや、実際に封印されたままだぞ」

 実際に、導きの書は、未だに封印された状態だった。
 ここで、示される可能性は2つ。
 リコが嘘を吐いていた可能性。
 そして、もう1つは―――

「避けてください!!!」

 悲鳴にも似た、リコの叫び。
 そして、眼前に迫る刃翼。

「■■■■■■――――!!!」

「ッ!!」

 反応できたのは、奇跡に近い。
 咄嗟に、アマテラスで防御したが―――元々の身体能力に差があり過ぎる。
 アダムは、あっさり弾き飛ばされた。

「アダム!?」

 叫ぶと同時に、

「ぐがっ!?」

 鞭のような尻尾で、大河も弾き飛ばされた。

「大河さん!? アダムさん!?」

 悲鳴のような、その叫び声。
 だが、その叫び声も―――

「ッ!!」

 息を呑むような、悲鳴に変わった。


















◇ ◆ ◇


















 どうやら、やっと時が来たようだ。
 さぁ、介入するとしよう。


















◇ ◆ ◇


















「まったく、やれやれだ」

 かつて出会った男の口癖が、知らず知らずのうちに出ていた。
 そんな事に苦笑いしながらも、アダムは状況をまったく楽観的に視ていない。
 いや、視れないと言った方がいいかもしれない。

「■■■■―――!!!」

 ナルガクルガが、跳躍する。
 眼が光っていない事から、おそらく怒り状態は解除されたものと思われる。
 だがそれでも、あの瞬発力と跳躍力は驚異的だ。
 少なくとも、

「ッ!」

 迫る刃翼を避ける。

「対処は難しい、か」

 避けれるだけでも、儲けものと考えるべきか。
 だが、一瞬の油断が命取りなのは間違いない。
 大河は気絶し、リコも気絶した。
 2人とも打ち所が悪かったのか、しばらく起きる気配はない。

「万全の状態なら、問題なんてなかったがな」

 今のアダムは、極めて《弱体化》した状態だ。
 《万全の状態》に戻るには、まだまだ時間が掛かる。
 生き残るのに最善の手段は、大河とリコを見捨てる事だが。

「後味が悪いだろうし、出切る筈も無いか」

 独り言のように口に出しながら、

「■■■■■―――!!!!」

 迫ってきた刃翼を避ける。
 さて――どうするか。

「誰かが、助太刀してくれればいいんだが」


















◇ ◆ ◇


















「おい、起きろ」

 呆れたような声がフロアに響き渡る。
 その声に反応したかのように、大河は目を覚ました。
 軽く頭を振り、周りを見回す。

「えっと……」

「寝ぼけてるのか?」

 まだ、夢現なのか。
 大河の目線は、合っていない。
 だが、ようやく目が覚めたようだ。 

「そうだ!! 竜は!?」

「ああ、竜なら消した」

 何でもないように、アダムは呟いた。

「へっ?」

「ああいうタイプは、跡形もなく消せば問題ないからな。
 だから、跡形もなく消した」
 
 まぁ、かなり疲れるがな。
 心の中で、そんな事を言いながらアダムは背中を伸ばす。
 実際、かなり疲れたのは確かな話なのだ。

「おいアダム、大丈夫か?
 少しだけ顔色が悪いぞ?」

「大丈夫だ、少しだけ疲れただけだ」

 実際に、疲れているのは少しだけだ。
 それ以上に疲れる理由もあるにはある。
 もっとも、その事を言うつもりはない。

「っとそうだ! リコ!!」
 
「リコなら、もう起きてるぞ」

「へっ?」

「大河さん、大丈夫ですか?」

「ぬおっ!?」

 心配した相手が目の前にいたら、驚くのも無理はない。
 ただ、もう少し驚き方というものがあるだろうに。
 幽霊を見たかのような驚き方は、流石に失礼だ。

「何ですか?」

「あぁ、いや何でもねぇ。俺は大丈夫だ。それより、リコは?」

「はい、私も問題ありません」
 
 いつものポーカーフェイス。
 だが心なしか、少し疲れているように見える。

「とりあえず、これで残すは導きの書だけだな」

「ああ、それでオレ達の任務は終了だ」

 疲れているが、目的達成も目前なので問題はないだろう。
 リコは2人に回復魔法で傷を癒していく。
 ベリオほどの回復魔法は使えないが、ないよりはマシだろう。

「さてっと、じゃメインイベントといくか」

 アダムは静かに鎖で雁字搦めにされている書を見上げる。
 だが、その鎖には先ほどのような力は感じられない。

「よぉぉし、ケガの方もリコの魔法でだいぶ癒えたし。
 次はいよいよアダムの言うとおりメインイベントの出番だよな」

 リコの治療でケガも良くなった大河は、心機一転とばかりに威勢よく構えた。
 大河は既に解けた鎖を導きの書から除けていき、赤黒い装丁の書を持ち上げる。

「取ったぁ! やったぜぇ! 救世主1番乗りぃ!! ははははは〜!」

 誰よりも先にそれを手にしたことがよほど嬉しいのだろう。
 大河は踊り出さんばかりの勢いで喜びを表す。
 だが、その喜びにリコが水を差した。

「大河さん……ごめんなさい」

「はは―――――はっ?」
 
 謝る必要がどこにあるのか分からない。
 少なくとも、大河自身は謝られるようなことをした覚えなどないのだ。
 だが、大河が全てを理解するより遥かに早く、リコは術式を構築した。
 彼女が扱う唯一の拘束魔法であるハルダマーを。

「はが? んがが、身体が……動かんぞ!?」

「ごめんなさい、私です。本を再封印してから……元通りにします」

「だからと言って、リコ―――オレまで拘束するのは、どうかと思うぞ」

「すいません、アダムさんにも見せるわけにはいかないのです」

 リコはそう言って大河に近づき、その手にある導きの書を取り上げた。
 間違いなく、リコは何かを知っている。
 もはや、疑念ではなく確信に近い考え。

「ちょ、なんでだよ!?」

 どうやら、大河の方はそこまで考えが至っていないようだ。
 混乱しているのだから、無理の無い事だが。
 出来る事なら、こういう状況下でも冷静に考えて欲しい。

「この本は……人が見てはいけない本なのです」

「なん……?」

「この本を見た者は……救世主となる…でも、それは同時に未来を知るということ……」

「だからこれまでの救世主たちは、世界を救おうとしてその本を取りに来たんだろう?」

 自分たちと同じように。
 やはり理解していないようだ。
 未来は、決して自分が望むような都合のいいものではないのだということを。

「その中で真に救世主の使命の重さに耐えられる人は……いませんでした」

「え?」

「未来を知るという事は、これから発生する全ての悲劇を知ると言うのと同じ。
 だからこそ、その悲劇の重さに耐えられなかった。
 そういう事なのか?」

「少し違いますが、概ねそう考えてもらって構いません」

 情報を整理する。
 世界を救う為に、救世主を目指したものが、その使命に耐えられない。
 なら、何かがあるはずだ。
 救世主を目指すものが、それを放棄して自らの命を絶つほどの絶望。
 たとえば――――

「みんなその使命の重さに耐えられずに……自ら命を絶って逝きました」

「そん……」

「考えられない事じゃない―――――

「おい、どういう事だよ?」 

「簡単に言うなら、救世主としての役目は―――破滅を退ける事ではないのかもしれない。
 それを目的に、救世主を目指した候補者達が目的を放棄して命を絶つほどの絶望だ。
 なら、救世主の役目は、それ相応の絶望が伴うものと言える」

 だからこその、疑念が生まれる。
 このアヴァターにおいて、まったく受け継がれていない事。
 伝承として伝わっていない事。
 それを――――

「その事を―――どうして、キミが知っている?」

「それは……」

「ここに訪れたことは、まぁ目を瞑ってもいい。
 だが、王族にすら伝わっていない事を―――どうして知っている?
 それも、まるで見てきたかのような話し方だぞ」

「………」

「黙秘、か――――オレの予想だと、キミは…」

 瞬間、アダムを拘束しているハルダマーが弾け飛んだ。
 同時に、アダムの足元に魔法陣が展開される。

「これは、逆召喚!?」

「おいリコ!?」

「私は何も…!?」

「アマテラス!!」

 アマテラスを召喚。
 逆召喚の魔法陣を破壊するより早く―――

「間に合わないか!」

 アダムは、その場から消失した。


















◇ ◆ ◇


















 振り下ろされ、破壊されたのはレンガで出来た道であった。
 粉々に砕けた道を見て、アダムは遅かった事を悟る。

「まったく――――

 ため息を吐きたくなる。
 厄介事というのは、次から次へ来るらしい。

「ちょっと、何であんたがここにいるのよ?」

 ふと、後を見ると撤退した仲間が全員揃っていた。
 
「突然、逆召喚が発生してな。
 それで、地上に強制的に戻された」

「ふん、だらしないわね」

「アダム殿、師匠は大丈夫なのでござるか?」

「まぁ、大丈夫だろう。
 アイツは、殺しても死なない性質だし」

「ああ、何と言うか―――説得力がありますね」

 和気藹々と話し合いながら、少しだけアダムはため息を吐いた。

「とりあえず、釘を刺しておくか」

「何か言ったんですか? アダムさん?」

「いや、何でもない」




あとがき
ってわけで、ゲスト出演はモンハンのナルガクルガでした。
こいつと初めて戦った時の感想は。
お前、出るゲーム間違えてる。