DUEL SAVIOR INFINITE Scwert4-5
 禁書庫は図書館の地下、それも最奥に位置する場所に存在する。
 図書館へとやって来た一行は、ミュリエルより預かった鍵で禁書庫へと入る。
 全体のフロアもかなり広く、幾つもの本棚にぎっしりと本が並び、パッと見た限りでは、下へと続く階段は見当たらない。
 少なくとも、どうやればこれ程の本を集めれるのか。
 全世界の本がここに集まっている、と言われたら納得してしまいそうだ。
 それらを一通り見渡すと、カエデは感心したような声を上げる。

「ほう、ここが地下の禁書庫でござるか」

「気をつけて下さいね。学園長の話によると、ここには侵入者を撃退する罠があちこちにあるらしいですから」

 おそらくだが、かなりの数の罠が仕掛けられているのだろう。
 まぁ、それは普通だが。
 ベリオの注意を聞きながら、呆れたように大河は、

「そんなもん仕掛けるなっての……ったく、面倒なことになりそうだぜ」

「つまり、アンタみたいなバカが悪戯をしないようにでしょ」

「んだと!? お前はそんなに俺に突っ掛かってきて疲れないのかよ!?」

 よくもまぁ、厭きもせずにこれだけ憎まれ口を出せるものだ。
 そういう点では、大河はリリィを称賛している。
 称賛したところで、彼女の口が閉じるわけではないのだが。
 
「なんですって? 私は別に、突っ掛かってなんていないわよ!
 単に思った事を口にしただけでね!」

「2人とも」

 ふと、周りの温度が下がった。
 滅茶苦茶、下がった。
 ギギギと錆び付いた機械ような動きで大河とリリィの首が動く。
 その視線の先には、アマテラスを召喚し、柄を握って戦闘態勢に入っているアダムの姿があった。

「いい加減にしないか、オレ達がここに来たのは喧嘩をするためか?
 違うだろ? それに、今からは訓練でもなければ試験でもない。
 正真正銘の殺し合いだ、それをちゃんと理解してるのか?」

「お、俺が悪いんじゃない、この似非マジシャンが…」

「違うわよ! このバカが!!」

「黙れ……」

 爆音が響き渡る。
 その音こそが、アダムの怒気の証に他ならない。

「これ以上、喧嘩をするようなら、オレがこの場で…」

 フロアは大きいとはいえ、夜の低温により音は非常によく響く。
 余談だが――― 基本的にアダムは本気で言っているのが分かる。

「「ごめんなさい!!」」

 恥も外聞もなく、大河とリリィは謝った。
 誰だって、命は惜しいものである。
 そんな2人を見ながら、ため息を吐きアダムはアマテラスを肩に置いた。

「以後、気を付けてくれ」

 本当に、厄介ごとが次から次へと、とか考えているのかもしれない。
 アマテラスを消さないのは、ここは既に戦場だからか。
 
「でも、ここが昔、救世主たちの最終目的地だったのなら、
 どうしてそんな大事な神殿の上に学園なんて建てたんだろう」

「それは学園長も知らないって言ってたけれど、確かに不思議ですね」

「んー、救世主が生まれるまで、破滅に荒らされぬように隠しておくためでは?」

「それにしては、学園長が見つけるまでは誰も知らなかったみたいだけどな。
 そんな理由なら、管理者には普通は伝えられるのではないのか?
 まぁ、管理者が途中で失伝させてしまったのなら、話は別だが」

 長い時間の果てに、伝えるべき事が形骸化してしまう。
 あるいは、失伝してしまう。
 人類の歴史を紐解いても、それらは比較的によく起こる事。
 ならば、伝えるべき事が伝えられなかったとしても不思議ではない。

「じゃあ、神殿を封印した人がわざと後世に伝えなかったって事?」

「どうしてでござるか。ここを封じてしまっては、真の救世主の誕生もあり得ぬではござらぬか?」

「もしくは、伝えたくても伝えられなかったか」

「何でですか?」

「伝承を管理する一族が途中で断絶。
 その際に他の者に伝えていなかったのなら失伝している場合がある。
 あるいは」

「あるいは?」

――― いや、なんでもない」

 なぜアダムが話を途中で止めたか、大河には薄々ながら理解できた。
 アダムとの特訓や話し合いの結果、多少なりとも視野を広く見る事が出来るようになった結果とも云える。
 だが同時に、見たくないものまで見えてきてしまうのも確か。

(最初から伝わらないように細工をしていたってか――― ったく、やれやれだぜ)

 間違いなくヤバい考えだ。
 少なくとも、この考えは皆には伝えるべきではないだろう。
 下手に伝えて場を混乱させるべきではない。
 特にリリィは間違いなく噛み付いてくる。

「まぁ、それもそうね。ひょっとしたら、この本の中には、それに付いて書かれたものもあるのかもしれないけど」

 だが、この手は基本的に侵入者撃退用のトラップなどが大量に張り巡らされている場合が多い。
 たとえば、指が触れただけで何かのスイッチが入り大量の罠が発動するなどだ。
 流石に好き好んで罠に引っ掛かるほどアダムはお人よしでもなければ異常者でもない。

「この本の中に…」

「未亜さん、駄目!」

 未亜の行動を見ていたベリオが声を上げる。
 だが、逆にその声に驚いたようにびくりと本の表紙に掛けていた指が震え、そのままページを捲ってしまう。
 途端、床が淡い光りを放ち、フロア狭しとモンスターが出現していく。

「侵入者迎撃用のトラップ、と言ったところか」

 右も左もモンスターだらけ。
 瞬く間に、大河達は囲まれた。

「悪質なのは、間違いねぇがな!!」

 迫り来るモンスターを大河はトレイターで一刀両断した。
 
















DUEL SAVIOR INFINITE

Schwert4-5
行く道は罠だらけ 〜Trap Starts〜
















「余計なものに触るなって言われたでしょうが!」

「ご、ごめんなさい」

 リリィの怒鳴り声に反応して謝る未亜だが、もはや遅い。
 すでにモンスターは大量に発生してしまっている。
 全てを倒さない限り、この場で死亡確定。
 そんな結末など、大河は御免だ。

「おいリリィ、んな事は後回しだ。とりあえず、前と後ろ二手に分かれるぞ」

「何であんたが指示を出すのよ!」

「ズベコベ言ってる場合かよ!」

 モンスターの数は、少なく見積もっても30匹以上。
 ノルマは、1人5匹ぐらいか。
 それが少ないと思うか多いと思うかは、各々の捉え方次第。

「大河―――― 分ってると思うが」

「大丈夫だぜ、アダム。
 それより、俺としちゃお前の方が心配なんだが」

「まぁ、な――― そこ等あたりは、上手くやるさ」

 2人が危惧する事――― それは2つある。
 1つは、乱戦に持ち込まれること。
 大河は、トレイターの形状を小型の武器にすれば問題はない。
 だが、アダムのアマテラスは致命的なまでに乱戦に向かないのだ。
 これが単独であったなら話は別かもしれないが、仲間がいる状況では分が悪い。
 下手をすれば、仲間を巻き添えで斬ってしまう可能性が出てくる。

「乱戦に持ち込ませる前に、倒すのが最良か」

「ノルマは、1人5匹ってとこか。
 何とかなると思うか?」

「何とかするしかないだろう――― 危険は、できるだけ犯すべきじゃない」

「同感だぜ」

 状況はこちらに不利。
 だが、地の利を活用すれば状況の打破は比較的に容易。
 これから、まだまだ多くの敵と戦う可能性がある。
 体力は、少しでも温存しておく方がいい。

「じゃぁ、後ろは私とベリオとカエデで引き受けたわ。いくわよ、2人共」

「わかったでござる!」

「はい」

 本来なら、この状況下は多勢に無勢。
 数の暴力に他ならない。
 ならば、常人では死は免れない事象。
 だが、仮に一騎当千の者達であるならば、状況を打破するのは比較的に容易。
 ましてや、地の利を利用しているのであれば尚更のこと。

「Bing――――

 爆音と共に、アダムは一気に彼我の距離を詰める。
 推進力のエネルギーを、そのまま斬撃へ。
 襲いかかって来るバケモノ共の首を刎ねるのに、大した労力は必要ない。

「もう、次から次にうざいのよ! 燃えろ!」

 遥か後方の方でリリィがブレイズノンで敵を焼き飛ばす。
 射撃魔法と着弾魔法の融合であるブレイズノンの使い勝手の良さはリリィが一番良く理解している。
 故に、周りから襲い掛かってくる敵をブレイズノンの着弾能力で消し飛ばす。
 何しろ、着弾と同時に周囲を巻き込んである程度吹き飛ばしてくれるのだから。

「オラオラオラオラァ!!」

 そのリリィの前方で大河が徹底的にモンスターを蹴散らしていく。
 ここ数週間の大河の伸びは凄まじいものがあるのだ。
 故に、この程度の敵に遅れを取るなど有り得ない。
 どんどん、敵は減っていく。
 ちなみに、大河やアダムに並んで前衛で敵を蹴散らしていく人物が1人。

「忍!」

 両手の指の間に挟んでおいたクナイを大量に投げ、一気にモンスターを殲滅していくカエデ。
 続いて、後ろから襲い掛かってきたモンスターの急所を爪先で蹴り抜く。
 忍者だけあって、気配を察知するのに長けているらしい。

「ベリオ、後ろだ!」

―――― シルフィス!」

 後ろから襲い掛かってきた敵にシルフィスで迎撃するベリオ。
 シルフィスは襲い掛かってきた敵を真っ二つにし、さらにその後ろに控えてきたバケモノ共を蹴散らしていく。

「まったく、負けてられないな」

 襲いかかって来たバケモノを蹴散らす。
 この程度の敵に後れを取るアダムではない。

「お兄ちゃん!! あぶない!!」

 未亜の叫び声。
 見ると、大河の右の真横から襲い掛かるモンスターが1体。
 しかし、大河は目の前の敵に気を取られ、気づくのが完全に遅れている。
 このままでは、まずい。

「ジャスティ、お願い!」

 未亜がジャスティの矢を大河の方に向けた。
 同時に、弦を放し矢を射る。
 矢は軌道補正を行い、寸分狂わず大河の右の真横から襲い掛かってきたモンスターの眉間に突き刺さった。
 それを認識した大河は、目の前の敵を全て切り倒すと未亜の方へ親指を立てた。

「良かった」

 ホッとする未亜。
 敵を倒し、尚且つ大河が無事だったことに対する安堵。
 だが、

「未亜さん、危ない!!」

 今度は未亜の真後ろから形状が狼男のモンスターが襲い掛かる。

「未亜!!」

 大河と未亜の距離は、約10m程度。
 本来なら、間に合うはずの距離。
 だが――――

「■■■■■■―――――!!!!」

「てめぇ!! 邪魔だ!!!」

 道を塞いだモンスターを大河は切り倒す。
 だが、それゆえのタイムロス。
 一手―――― 大河は遅れた。

「あっ――――、!」

 間抜けな声が響き渡る。
 その声の主は、誰だったか。

――――、!!」

 声にならない叫び。
 その叫び声は、誰だったか。
 未亜に迫りくる狂爪。
 その狂爪から未亜を守る手段を、大河は持ち合わせていない。 

「Double―――――――

 そう―――― 大河は。
 間に合う人物は確かにいる。
 その人物の名は――― アダム。

――――― Down」

 まさに火の落下。
 脳天から串刺しにされ、更に発生したマナのエネルギーにより狼男は全身を焼き尽くされる。

「間抜け―――――――――

 引き抜くと同時に、焼き尽くされていく狼男だったものを両断する。
 真っ二つになり、全身を焼き尽くされていく狼男。
 あたりに、肉が焼ける嫌な臭いが漂い始める。

「あ、あの、ありがとうございます」

 助けてもらったことに感謝の言葉を言う未亜。
 そんな未亜の方を振り向くでもなく、

「ぼさっとするな、まだ敵は残ってるぞ」

 アダムはそう言うと、再び戦場へと走り出す。
 そんなアダムの後姿を見ながら、未亜は静かにジャスティを構えた。


















◇ ◆ ◇


















 やがて、全てのモンスターを倒し終えた。
 そうして、ちょうどフロアの中央に付近にいた未亜の元へ皆が戻って来る。
 どうやら、全員が無傷のようだ。

「どうやら、怪我人はいないみたいだな」

「当然でしょう。あんな雑魚にやられている場合じゃないのよ」

 アダムの呟きにそう返すリリィ。
 誰1人として息切れを起こしていないので、どうやら楽勝だったようだ。
 日頃の訓練の賜物だろう。
 だが一方で、カエデは険しい顔で呟く。

「しかし、聞きしに勝る剣呑な場所でござるな。
 これでは、迂闊に調べる事もできないでござる」

「あ、あの、ごめんなさい」

 慌てて謝る未亜。
 何しろ、先ほどのモンスターが出現した原因は自分にあるのだから。
 まぁ、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。

「良いでござるよ」

「大したことはない」

「そうよ、気にしないでね」

 そんな謝る未亜に対してアダムやカエデ、ベリオらが何でもないように答える。
 まぁ、実際のところ何ともないのだから。
 それを聞きながら、大河とリリィは辺りを慎重に見渡しながら話し出す。

「にしても、面倒なことになったぜ。
 この分だと、下へ降りる為の階段は何かにカモフラージュされてるんじゃねぇか?」

「ええ、そのようね。こうなったら、手分けして探した方が良さそうね。
 ただ、どんな罠がどこにあるのかは分からないから…」

「1人で行動するのは危険だぜ? 最低でもタッグを組んだ方がいいぜ」

「あとは、迂闊な場所には触らない事ね」

 お互いに今後の方針を決めつつ話ていた2人。
 しかし、そこでハッと気付いたように、思わず顔を見合わせる。

「って、何でアンタと、のほほんとこんな話をしなければいけないのよ!」

「知るか!! んなもん、そっちが原因だろうが!!」

「そんな訳ないでしょうが! たまたま、私が考えていた事をアンタが口に出していたから。
 ついよ、つい」

「そりゃ俺の台詞だぜ!!」

 また始めてしまったが、これもまた2人のいつものやり取り。
 どのような場所でも、普段の態度が変わらないというのはいい事である。
 緊張感がないとも見れるが、逆にいうならそれだけ気負いしていないとも言えるのだから。

「まったく、本当に厭きないな」

「それだけ気負いしていない、という事ではないでしょうか?」

「時と場合にもよる――― まったく、やれやれだ」
 
 アダムとベリオが何か言っているが、大河の耳には届かない。
 大河が今すべきことは、2人の呟きに耳を傾ける事ではない。
 全力で、リリィを論破する事である。

「はぁ……大河君とリリィ。
 今は真剣な場面なんですから、喧嘩ならまた今度にしてください」

 つまり、この場でなければ喧嘩を容認するという事か。
 ベリオは、どうやら何気にいい性格をしているようだ。

「それじゃ、この場で別れましょう。ほら、リリィ、向こうを探しましょう」

 まだ文句を言っているリリィの腕を掴むと、ベリオは少し強引に歩いて行く。
 リリィが何か文句を言おうとしているようだが、ベリオは取り合わない。
 いちいち取り合っていては、時間の無駄になるからだ。
 そんなベリオに感謝しつつ、大河は残る面々を見て、未亜へと声を掛ける。

「それじゃあ、未亜、行こうか」

「あ、うん」

 そう言って大河は未亜と共に歩き出した。
 そんな大河と未亜の後姿を見ながら、カエデは涙をダラダラと流している。

「うぅぅぅ、師匠〜〜〜」

 背後でカエデの泣き声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいに違いない。
 そんな事をいちいち気にしていたら、自身の身がもたないのだから。

「まったく、前途多難とはこの事か」

 厭きれたようなアダムの台詞が耳に入ってきたが、それも気のせいに違いない。


















◇ ◆ ◇


















 大河たちの居る階よりも、更に下の階。
 その場所を1人の少女が歩いていた。
 不思議と、少女の足取りに迷いはない。
 数多の罠が重ね合わされ、更に数多のカモフラージュが重ね合わされている禁書庫。
 だと言うのに、その少女の足取りに迷いは一切なかった。
 まるで、最初から正解の道を知っているかのように。

(ようやく、半分を超えたといったところですか)

 少女はそんなことを考える。
 何度か門番であるモンスターたちに邪魔されたが、あの程度で自分を止めることなど不可能だ。
 なぜなら、どんなに頑張ろうとも蟻が象に勝てるはずなどないのだから。
 とは言え、予定よりも少しばかり進行速度が遅いのは間違いない。
 まだ気付かれていないはずだが、それでもいつ気付かれるかわからない。
 何しろ、あの学園長はかなりの食わせ物だ。
 いつ自分の行動に気付いてもおかしくない。
 何しろ、■年前のあの時からそうなのだから。
 とは言え、見つかったときの言い訳を考えておかなければ、と少女は考えた。
 と、その足が急に止まり、前方を軽く見詰める。
 少女、リコが見詰める先。
 そこから2足で立ち、その手に先が大きな棍を持ち全身を毛に覆われた、犬に似た顔をした化け物が姿を見せる。
 1匹だけでなく、その後ろから数匹、新たに現われてくる。
 どうやら囲まれたようだ。
 だが、だからと言ってこの程度で自分を止める事など出来はしない。
 現れたソレをただ静かに見詰めつつ、リコは小さく呟く。

「困った人たち……こんな危ないものを……」

 リコの呟きに答えるように、低い唸り声を一斉に上げる。 
 敵意は全開――― 向こうは殺る気満々。
 こっちとしては、余計な時間を喰うわけにはいかないというのに。
 それに、リコは尚も静かな口調のまま話し掛ける。

「どいて。あなたたちでは、私を止められない……」

 淡々と告げるリコ。
 しかし、そのモンスターたちはゆっくりとリコへと近づき、一斉に叫び声を上げて襲い掛かる。
 そんな行動を目を細めて見遣りつつ、リコは静かに片手をモンスターたちへと向けて持ち上げる。
 その持ち上げた片手に、微かに雷光が奔った。

「駄目なのね……そう、なら仕方ない……」

 瞬間、雷光は巨大な閃光となり敵を消し飛ばした。


















◇ ◆ ◇


















「あ、あったわ」

 ベリオが上げた声に、全員がベリオの元へと集まる。
 だが、ベリオの周りには壁があるだけ。
 その背後は無数の本棚だ。
 とてもじゃないが、下へと降りる階段があるようには見えない。

「何処でござる?」

「ここよ、この壁に薄く切れ込みが……」

 確かにベリオの言うとおり壁に切れ込みが入っている。
 どうやら特殊な術式によって幻影を作り出しているようだ。
 もっとも、完全に作り出しきれていないのか、若干だが切れ込みのようなものが見えてしまっている。

「マジだな、開くか?」

 大河の問い掛けにベリオは一つ頷くと、その切れ込みへと手を伸ばし、

「待って、今……」

 開けた瞬間、すぐ目の前に数種類のモンスターが居た。
 モンスターが、いっせいに襲い掛かる。

「きゃぁぁぁ!!??」

「ベリオ下がれ!」

 大河が叫びつつ前へと出ようとする。
 だが、それよりも早くベリオに近かったカエデがベリオの前へと出てモンスターの攻撃を受け止める。

「う、ぐぅぅ!」

 受け止めるが、その大きな体躯から繰り出された強烈な一撃を完全には受け止め切れない。
 数m吹き飛ばされたカエデは、何とか着地する。
 しかし、先ほどの一撃を受け切れなかったのか微かに左の二の腕の辺りに切り傷を貰っている。

「くっ!」

 思わず膝を付くカエデの元へ、狼男の姿をした化け物が後ろ足だけで走り寄り、その爪を振りかざす。
 だが、その爪を大河がトレイターで受け止めた。
 瞬間、大河の後ろからアダムが現れ、

「寝てろ」

 狼男を脳天から串刺しにした。
 そのまま、大河の前に着地するアダム。
 着地の折に、狼男の脳天を思いっきり踏み付け、地面に叩きつけて踏み潰す。
 もう、1週間ぐらいは肉が食えなくなるのではないだろうか。

「す、すまないでござッ……あぐっ!」

 一瞬、油断したのかカエデは背後から思いっきりモンスターに背中を切り裂かれた。
 かなり傷は深い。
 幸い、ベリオがいるので死ぬ事はないだろうがこの戦いの間は戦線復帰は不可能だろう。

「迂闊―――――― だったな」

「言ってる場合じゃねぇぜ、アダム!!」

「ああ――― 急いで、全て殲滅する!」

 B級アクション映画のような下手な展開。
 だが、その下手な展開は間違いなく効果があった。
 少なくとも、カエデの傷は深い。
 戦力低下は否めいないか。

「カエデ、動くなよ!!」

 大河が叫び、同時にトレイターを突撃槍に変化させカエデの背後にいたモンスターの顔面を穿つ。

「こっんの、痺れろ!」

 リリィもまた、己の持つ魔法の中で最速を誇る雷撃系魔法ヴォルテクスを放つ。
 モンスターは数体ほど感電し焼け焦げた。
 ヴォルテクスはリリィが重宝としている魔法の1つである。
 術式構築が非常に簡単なことと、魔力消費の少なさ。
 それでいて、威力は申し分ない。
 リリィが重宝とするのは、当然だった。


















◇ ◆ ◇


















 幸いというか、それ程数が多くなかったため、程なくしてモンスターたちを全滅させた大河たち。
 だが、完勝というには程遠い。
 その最大の理由が、カエデの負傷具合である。
 幾つかの傷の中でも、特に大きいのが背中に走る傷で、そこは大きく斬り裂かれていた。
 あとの傷は大したことはない。
 せいぜい、根棒などの打撃による傷だ。
 後は残らないだろう。
 それがカエデにとっては救いと言えば救いだ。
 だが、怪我そのものは結構、酷いらしく、その場に座り込むカエデをベリオが見て言葉を無くす。

「これは……帰った方が良いですね」

「そ、そんな……あうっ」

 ベリオの言葉に反論しようとするが、それよりも背中の激痛の為にうまく言葉が出ない。
 確かに、カエデの状況はかなり酷いようだ。
 少なくとも、素人の目でもわかるぐらいに。

「ベリオ、回復はできねぇか?」

 大河の言葉に首を横へと振りつつ、ベリオは答える。

「やってるけれど、どうも怪我だけじゃないみたい。毒も受けてる……」

 どうやら、ここらの迎撃用モンスターは毒属性らしい。
 まったくもって厄介である。
 これで、嫌でも敵の切り裂く攻撃は受けるわけにはいかなくなった。
 とは言え、今の問題はそれではない。

「解毒は出来るのか?」

「……駄目。特殊な毒みたいで、私の魔法では回復しきれない。ごめんなさい」

 ベリオの僧侶としての実力はかなり高い。
 そのベリオの能力を持ってしても解毒できないとなると、かなり特殊な毒なのだろう。
 この世には、まだまだ知らないことが多い。
 それを考えれば、まぁベリオがカエデの体を蝕んでいる毒が何なのかわからないというのも仕方のないことかもしれない。

「まぁ、気にするなよ。
 とりあえず、ベリオの言うとおりこのままじゃ動けなくなるかも知れねぇな。
 カエデ、いったん戻った方がいいぜ」

「し、しかし……」

 大河の言葉に、何か言おうとするカエデ。
 だが、そんなカエデを遮るように、いつになく厳しい口調でリリィがカエデへと言葉を投げる。

「私たちの事を思うのなら、帰るべきよ。
 傷を負ったあなたを守る為に、私たちを危険に曝したくないのならね」

 非情かもしれないが、それが正しい選択だ。
 これからまだまだ戦いは激化する可能性が高い。
 ならば、体を毒で侵されているカエデは足手まといになりかねない。

「…そうでござるな……無念でござるが、みなに迷惑を掛ける訳にはいかぬ故。
 ここは大人しく引き上げるでござる」

 そう決心したカエデ。
 ここで皆についていくより、戻って足手まといにならない方を選んだようだ。
 もっとも、それは彼女からしてみれば悔しすぎる決断であったが。
 そんなカエデへと、ベリオが心配して尋ねる。

「大丈夫? 一人で戻れる?」

「それは大丈夫でござるよ。少し痺れが残ってはおりますが、とりあえずは。
 師匠、リコ殿の事は…」

 そのカエデの問いかけに、大河は力強く頷いた。

「ああ、任せとけって。リコは俺が連れて帰ってやる。
 だから、カエデは医務室で手当てを」

「かしこまって候。では、おのおの方、御免」

 そう告げると、カエデは少しふらつきながらもこの場を去って行く。
 その背中を見つめ、しばらくすると大河たちは下のほうへと降りて行った。




あとがき

遅くなってすいません。
ゲームばっかやってて、なかなか続きに手が付きませんでした。
最近、PNを変更しようかと考えています。
とはいえ、長い間使ったPNです。
愛着があるといえばあるので、変えるのも躊躇したり。