DUEL SAVIOR INFINITE Scwert4-1
「さて、今日の授業は破滅について少し考えてもらう為に、少し話をしましょう」
そう言ってダウニーは救世主候補たちを見ながら教育を始める。
そこでダウニーの目に留まる大河の姿。
何やらミイラ紛いの格好になっているが、まぁ深くは問うまい。
少なくとも、ダウニーにはその大河の姿については不問とした。
いつも馬鹿なことをする大河にはいい薬と考えた面があったと言えばある。
だがそれ以上に、大河の姿について問いただしたくないと言う面の方が強かった。
なんだか、自分も巻き添えを喰らいそうで怖かったから。
生き物として当然の本能だろう。
DUEL SAVIOR INFINITE
Schwert4-1
歴史の矛盾 〜Usual Class〜
「そもそも破滅がいつ頃生まれ、破滅として世界を蝕み出したのか、それは正確には分かっていません。
そればかりか、破滅と呼ばれるものがどうして起こるのか。
何を目的として誕生し、世界の人々を襲うのかさえ分かっていないのです」
ダウニーが話している途中だったが、リリィが手を上げて発言を求める。
それにダウニーが頷いたのを受け、リリィが口を開く。
「目的なんて、破滅は世界を破滅させようとする病巣だからこそ、破滅と言われているんじゃないんですか?」
「確かに、破滅は大勢の人々を殺し、町と農地を破壊して耐えられぬ痛みと悲しみをもたらします。
しかし、破滅が破滅と呼ばれ出してからも、一度たりとして世界が本当に滅んだ事はないのです。
もし、世界が死滅していたら、私たちの誰一人、ここには居ない訳ですからね。
それは、何故なのでしょうね?」
確かにダウニーの言うとおりだろう。
もし、破滅が破滅を起こし、世界を滅ぼしたと言うのなら誰一人として存在することなど出来ない。
それは矛盾だ。
そう言った意味で、ダウニーの言っていることは正しいと言えよう。
「それは、その都度、歴代の救世主たちが見を呈して世界を救ってきたからです!」
「確かにそうでしょう。しかし、歴史に残る限り、救世主が世界を救えるのは、いつも大勢の人々が死に絶えた後です。
本当に救世主が破滅から世界を救う者ならば、彼女たちが救世主に目覚めた時に速やかに破滅を退ける。
そして、世界は救済されていなければならないはずです」
リリィの意見に対し、すぐに返答するダウニー。
だがその言葉を聞き、リリィの眦が少し鋭くなる。
おそらく、リリィの価値観を覆すような台詞なのだろう。
もっとも、そのことについてはリリィ以外は誰にもわからない。
「先生! 今の言い方では、まるで救世主が役立たずのように聞こえます。
訂正してください!」
「救世主が役立たず、なんて言うつもりはありませんよ。
ただ、破滅の目的が謎であるように救世主の役割そのものも我々には分かっていないのだという事を言いたかったんです」
少しだけ声を荒げるリリィに対し、ダウニーはあくまでも淡々と答える。
そこへ、今度はベリオが口を挟んでくる。
「救世主の役割は、当然、破滅を滅ぼして人々を救うことではないのですか?」
「ふっ、破滅を滅ぼす、ですか……矛盾した言い様だと思いませんか?」
そう言ってダウニーは一度全員を見渡す。
それぞれの顔に困惑めいたものが浮かんでいるのを見た後、ダウニーは続ける。
「破滅を滅ぼせるものが、破滅以外にいるというのですか?」
「その矛盾を力でもって可能にする存在こそが、救世主なのではないですか!」
「だが、その救世主がどのようにして破滅から世界を救ってきたのか。
それを覚えているものは、現代には誰もいないのです」
それは、明らかに矛盾した返答だった。
世界の危機、それによる打破。
だが、その方法は後世に残されていない。
これは、いったいどういうことを意味するのだろうか。
そこで、未亜がオズオズといった感じでダウニーに対して質問を出した。
「えっと、どのように救ってきたのかと仰りましたけれど、召喚器を呼び出して、破滅を倒したんじゃないんですか?
だから、召喚器を呼べる私たちが異世界から召喚されて集められているのでは?」
「ええ、救世主が召喚器を用いて奇跡を行うことは確かです。
しかし、その奇跡の具体的な中身が伝えられていないのですよ」
それこそありえない話だ。
召喚器を用いての世界を救うほどの奇跡なのだ。
中身を知らない何ていう事はまず有り得ない。
そこで、ベリオはダウニーに次の質問をする。
「だったら私たちの誰かが救世主になったとしても、どうやって破滅から世界を救えば良いのか。
その方法は、分からないって事ですか?」
「それは【導きの書】だけが知っていると言われています」
ダウニーから出た初めて聞く言葉に、全員が不思議そうな顔をする。
今まで何度も授業を受けてきたが、【導きの書】なんてものは聞いた事がない。
それを見て、ダウニーがそれについての説明を始める。
「神が宇宙を創生された時に、その進路を決めるべき者に世界の真実を教える為に書いたとされる書です。
その書には、破滅が生まれた訳、救世主が生まれた訳、どうすれば世界を死の滅びから救えるか。
それらの原因や方法が書かれていると言います」
「ほ、本当にそんな書が……」
まさかそんな書物があるとは、今の今まで聞いた事などない。
それは他のメンバーも同じだった。
もっとも、2人だけ例外がいたが。
その1人がリコであり、もう1人はアダムだった。
もっとも、リコはわからないがアダムは心の中で嘘付けと言いたい。
神々が宇宙を作り出したなんて嘘っぱちである。
真に宇宙を作り出したのは、最初の人間であるヤミ・ヤーマなのだから。
だが、それを言ったところで信じてなどもらえないだろうし、何より余計な注目を浴びる事になる。
アダムとしては、それは避けたいところなのでわざわざ発言する必要性などない。
「ええ、あります」
「じゃあ、それを手にした人が救世主という事ですか!?」
確かにリリィの言う通り、話の流れから考えればそれが正しいものだ。
それほどの書物の持ち主こそ、真の救世主になると考えるのが当然の考えの到達点である。
そのリリィの質問に、ダウニーは頷きながらも否定した。
「そういう事になりますね。しかし、それは無理でしょう」
「どうしてですか?
どんな困難があろうと、その書を手に入れられれば、破滅を永遠に消滅させられるかもしれないんですよ」
「何故なら、書は1000年前の救世戦争で失われてしまったからです」
ダウニーの言葉は、ある種の絶望だった。
それほどの書物が、すでに1000年も前に失われている。
これで、破滅を永遠に消滅させるための手段が、1つ消えた。
「詳しい事は分かっていません。
ですがが、私はそれまでの救世主には無かった事態が、1000年前には起こった。
それ故に、王家は次の救世主を生み出すために、この学園を作ったのではないか思ってます」
「1000年前に……」
そっと呟くリリィ。
1000年と言うのは、あまりに絶望的な言葉だ。
少なくとも数年以内であれば、もしかしたら修復することが可能だったかもしれない。
だが、そうではない。
1000年――― その単純な言葉とは裏腹に、なんと長いことか。
これでは、書はまったく残っていないことだろう。
「じゃあ、その導きの書が見つからなければ、私たちのうちの誰が救世主となっても…その、真の意味で世界を救う事は出来ないという事ですか?」
「いえ、そうと限った訳ではありません。
ただ、破滅の意味について考える事も、救世主の真の役割を知ることに繋がるのだと、覚えていて欲しかったのです」
確かに、ダウニーの言うことも正しいだろう。
破滅の意味を考えることは、間違いなく正しいことだ。
だがそれは、あくまで1面でしかない。
やはり、全体的な部分を見るべきなのかもしれない。
そんな時にチャイムが鳴り響く。
「もうこんな時間ですか。それでは、午後の実技訓練まで自習にしましょう。
各自、今言った事をもう一度よく心に刻んで、今後、救世主としてどうすれば良いのかを考えて勉強してくださいね」
そう言うと、ダウニーはベリオへと頷く。
それを受け、ベリオが号令を掛けると、ダウニーはそのまま教室を出て行った。
ダウニーの後姿を見送ると、未亜は静かに自分の隣の席の人物を見た。
いつの間にか、包帯は取れ普段の姿に戻っている大河だが、なぜか机に倒れ込んでいる。
つまり、寝ているのだ。
「お兄ちゃん、授業終ったよ」
「……ん? ああ、終わったのか」
「アンタね〜、授業もまともに受けれないの!」
やはりというか、リリィは大河に即行で突っかかった。
確かに大河の授業態度はお世辞にもいいとは言えない。
しかし、嫌だというのなら注意などせずに無視すればいい。
寝ている、逆に言うなら他者の授業を妨害するつもりはないという事なのだから。
「いや、きっちりと授業は受けてたぜ」
「嘘ばっかり。寝ていたじゃない!」
確かに、大河は寝ていた。
そりゃもう、完全無欠に寝ていた。
だと言うのに、簡単に嘘をつくあたりさすがは大河だろうか。
「ふ、甘いなリリィ。俺は寝ていたのではなく、あの体勢で様々なことを考えていただけだぜ」
「おおー、流石は師匠でござるな」
思いっきり嘘をつく大河に、わかっていないのかカエデは驚愕して大河を尊敬している。
前回の事もあるが、これではっきりとした。
カエデは天然だ――― そこに疑問を挟む余地すらない。
大河の言い訳など、嘘だと簡単に見破れるものだというのに。
カエデは何だかんだいって忍者などの暗殺者には向かないのかもしれない。
「……このバカバカ師弟コンビが。
寝てないって言うんなら、途中で手から顔が落ちそうになったのは何故かしら?」
明らかな状況証拠である。
どう考えても、手から頭が落ちそうになる原因は寝ている以外にない。
だが、ふとあることに気付いた。
いや、気付いてしまったというべきか。
「何で、リリィがそんな事を知っているのかしら。
それこそ、ちゃんと授業を聞いてないで、大河君の方ばかり見てたんじゃ……」
聞こえないように呟いたベリオだが、結局その呟きはリリィに聞こえてしまったらしい。
リリィは勢い良く振り返ると、ベリオへと詰め寄る。
本人にとっては不本意な事なのだろう。
「変な事言わないでよね、ベリオ! 私はたまたま、その場面を目撃しただけなんだから!」
が、そのリリィの勢いは先ほどに比べたら威厳がない。
どうやら、半分以上は図星のようだ。
「そ、それよりも、アンタ、まだ寝てないって言い張るつもり!?」
どう好意的に見ても逃げたとしか判断できないのだが、それは言わぬが花。
言って矛先が自分に向くのは勘弁して欲しい。
こういうのは、見ている分には面白いのだから。
「違うぜリリィ。
あれは、睡眠学習と言って、最低限必要な睡眠を取りつつ、話を聞くという高等な技術なんだぞ!」
「お、おおー、やはり師匠は凄いでござるな。
拙者、大変感服致しました」
明らかに前と後ろとで言っている事が違う。
そんな嘘に、簡単にカエデは騙されてしまっている。
天然もここまで来ると罪である。
「だったら、さっきの授業の内容を覚えてるわよね?
言って御覧なさいよ」
リリィは勝ち誇るように胸を張り大河へと詰めより、カエデは何かを期待するような眼差しで大河を見詰める。
もちろん、それに比例して大河は1歩、2歩と下がる。
何しろ、先ほどまでのことは全て嘘なのだから仕方がないといえば仕方がない。
はっきり言って、滅茶苦茶拙い。
心の中で「助けてドラエも〜ん!!」と叫んでいるのかもしれない。
当たり前だが、この世にドラエもんのような奇天烈で便利な存在がいるはずもない。
現実なんて厳しいものなのである。
「はぁ――― 仕方ないな」
そんな大河を見ながら、仕方がないのでアダムは助け舟を出してやる事にした。
軽く手を動かす。
手話と呼ばれるその技術で、先ほどまでの授業内容を簡単に教えた。
幸い、大河も手話の心得があったのかアダムの手話の内容を理解したようだ。
「簡単に言っちまえば、救世主と破滅に関する不明な点。
あとは、導きの書ってやつだな」
「う、嘘……」
「流石、師匠でござる〜」
茫然と呟くリリィの気持ちも分からないでもない。
まさか本当に睡眠学習をしていたのかと驚愕しているのだろう。
そんな事ないのだが、ここまでスラスラ答えられると、そう思わずにはいられない。
アダムとて大河の解答の理由が分からなければ、一瞬とはいえ本当にやっていたのでは疑ってしまう。
「とりあえず、次は自習だからな、適当に俺は寛いどくぜ」
「え、ええ」
大河の言葉にベリオは戸惑いつつも何とか返事を返す。
驚いている他のメンバーを無視して、出て行く大河。
そんな彼の後姿を見ながら、アダムは心の中で呟いた。
(今日の訓練は、通常の5倍ぐらいでいいか)
大河の未来は暗い―――― 自業自得だが。
◇ ◆ ◇
明るくない未来が確定したからと言って、それを大河が認識できるはずもない。
理不尽とは、いつも突然にやって来るものなのだから。
「マジで突然だったな」
「ああ――― もっとも、オレ達にとっては突然でもダリア自身は前もって知っていた可能性もあるが」
「つまりあれか、俺達に連絡するのを忘れていたと?」
「簡単に言うとそういう事だろうな」
「うっへぇ、最悪」
そう、話は本当に突然やって来た。
簡単に言うと、今日は候補者たちの席次を決める試験があるわけだ。
現状において席次の順番は、リリィ>アダム>大河>カエデ>ベリオ>リコ>未亜の順番である。
何度か試験をやっているが、アダムとリリィが直接対決はまだ実現していない。
大河はアダムに負けた1敗以外は全勝しているし、カエデ自身もアダムと大河以外の戦いは勝利している。
もっとも、カエデ自身もリリィとはまだ戦っていないのだが。
「ちなみに、アダムの主眼では戦闘能力の順位はどんくらいだ?」
「相性やコンディションの影響もあるから、明確には言えない。
強いて言うなら、大河とリリィには差はそれほど存在しないだろう」
「嬉しい事を言ってくれるな」
「あくまで差がそれほど、というだけだ。
僅差ではあるが、リリィの方が上を行っている」
「何か、一気に地獄に突き落とされた気分だ」
「実際のところ、オレを含めて大河、リリィ、カエデの戦闘能力はほぼ拮抗している。
いや、オレ自身の戦闘能力は大河を含めた3人には及ばないさ」
「…初戦で一方的に俺を倒した奴の台詞じゃねぇぜ」
「オレの方が経験があったからな。
戦いにおいて、力や知恵、度胸と同じくらい――― あるいはそれ以上に経験がものをいう。
オレは沢山の戦いを経験してきた。
戦争にだって参加した事がある。
そういった経験が、あの場においてオレに絶対的なアドバンテージとなったというだけの話さ」
「経験か――― ってか、アダムも戦争に参加した事があるのかよ?」
「戦争というか、まぁ…参加したというより巻き込まれたと言った方がいいか。
たった、七騎と主達による壮絶なバトルロワイヤル。
出来ることなら、二度と参加したくない」
「…何というか、苦労してんだな」
実際、あの戦争は厳しかった。
右を見ても、左を見ても超人ばかり。
騎士王やら大英雄に英雄王。
挙句の果てには【この世全ての悪】なんていう存在まで出てくる始末である。
生き残ったのは、運が良かったからだろう。
「っと、話を席次試験に戻そうぜ」
「そうだな。対戦相手は誰になると思う?」
「あ〜、誰だろ。流石に2回連続でアダムとなんて嫌なんだが」
「それでは席次の意味がないだろ」
現在は昼休み。
既に終わりに差し掛かっているのでアダムと大河は次の授業場所へと移動している。
次の授業は席次試験。
つまり、闘技場で戦うというわけだ。
「いや、分からねぇよ。
なんせ、決めるのはダリアだぜ?」
「……否定できないのが何とも」
彼女の事だ、決めるのが面倒とかいう理由で適当に決め兼ねない。
いや、それどころかくじ引きやって適当に決め兼ねない。
「仕舞いにゃ、またサイコロ振って決めそうだけどな。
前回と同じ組み合わせになっても、もう一度振るのが面倒だからそのままとか」
「充分に有り得るな」
実際、有り得る話なので問題だ。
「実際にそうなったらどうするんだろうな?」
「さぁ? 案外、本当にそのままやっちまいそうだけど」
「お〜い、大河にアダム!!」
突然の叫び声に、2人は声の方に向き直った。
「ようセル…に、ソフィアさんだっけ?」
「ああ、ソフィアで合ってるぞ」
珍しい組み合わせだ。
傭兵科に所属するセルと、以前教会で出会ったソフィア。
この2人の接点など、ほとんどないと思われる。
あるとすれば、この学園内で出会うという点だけだろうか。
「何とも珍しい組み合わせだな」
「よく言われるけどな。おれとソフィアは、こう見えても幼馴染なんだぜ」
「へぇ」
意外な接点だった。
なるほど、幼馴染であるならば一緒にいても不思議ではない。
「まったく、昔はあれほど可愛らしかったというのに。
どこをどう間違って成長すれば、こんな軟派野郎になるのか」
「おいおい、そりゃひでぇぜ。
おれは決める時は決める男だ」
「どの辺が」
「……あ〜、戦い?」
「私にすら勝てないというのに、虚言を口にするのはどうかと思うぞ」
「うっ」
意外な真実であった。
セルはこう見えて傭兵科でも上位に食い込むほどの実力者である。
そのセルが、ソフィアに勝てないというのだから。
「そういや聞いてなかったが、ソフィアさんって何でこの学園に?」
「何を言っている。私はこれでも神聖学科に在籍している現役の生徒だぞ?
歳だって、今年で17歳だ」
「……予想外だ」
驚愕の真実とでも言えばいいか。
落ち着いた雰囲気や佇まいから、ずっと年上だと思っていたのだろう。
確かに、ソフィアの佇まいや雰囲気、周りへの配慮の仕方や価値観は学生というカテゴリーに収まらない。
大河が誤認してしまうのも無理のない事だ。
「む、失礼だな。私のどこをどう見れば学生以上に見えるんだ?」
「雰囲気、佇まい、他者への対応、配慮の仕方、価値観」
「…あっさりと答えられてしまったな」
もっとも、それらを判断するとソフィアは大概に年齢以上に感じる。
見た目も17歳という年齢にしては大人びいて見えるのも理由の1つか。
「それはそうと、そっちは何すんだ?」
「席次試験だよ」
「席次、って事は大河の次の相手はリコか」
「へっ?」
これこそ予想外の返答であった。
セルが大河の次の対戦相手を知っている、というのは本当に以外であったのだから。
「ってか、何で俺の対戦相手を知ってんだよ?
俺は知らなかったっていうのに」
「いや、普通に連絡掲示板に張り紙を出されてたぞ……見てねぇのか?」
「見てねぇよ」
連絡掲示板に次の対戦相手が張り出されているなど予想外もいいところだ。
いくら口頭で伝えるのが面倒とは言え、張り紙に出すなど余計に手間だろうに。
それとも、狙ってやったのだろうか――― おそらく狙ってやったのだろう。
それより、まさか既に対戦相手が決まっていてしかも大河の相手がリコとは。
基本的に大河はフェミニストである。
故に、外見が少女であるリコと戦うのは気が引けるのだろう。
もっとも、彼女が本当に外見通りの年齢なのかどうかと言われると疑問に思うところもあるのだが。
「かぁ、盲点だったぜ。次からは気を付けねぇとな」
「しかし、口頭よりも手間が掛かると思うんだが」
「狙ってやったんじゃねぇか?」
「おそらくそうだろう。ダリア先生は、訳の分からない事を時たまするからな」
「時たまどころか、いつものような気がするが」
「それは気にしない方がいい」
結局、ダリアの印象など他の学科の生徒から見てもその程度なのである。
「しっかし、リコちゃんか〜」
「リコが何かあるのかよ?」
「ああ…彼女は一応、席次は下から2番目だろ?」
確かに、リコは席次では下から2番目である。
召喚士という珍しいクラスであるが、同時にそれが実力に直結していないとも言える。
だが―――― 何かあるのだろうか。
「これはある種のジンクスとも言えるものなのだが。
彼女は初戦であれば、どんな相手にも負けないらしい」
「初戦なら?」
「ああ、何たって席次トップのリリィも初戦ではリコに負けたらしいぜ」
「…マジか…あのリリィだぞ?」
精神的に不安定な部分があるとは言え、リリィの実力は候補者の中でもトップクラス。
少なくとも、彼女の現在の実力とリコの実力を見比べると負ける要素など見当たらない。
いや―――― もしかしたら、前提が間違っているのかもしれない。
「信じられねぇ…って、そういや未亜も初めてリコと戦った時は負けてたな」
「戦術などは普段と変わらないのに、どういうわけか初戦以外は全て敗退している。
理由は不明だ、おそらく何か理由があるのだろうが」
話を聞くと、どんどんリコの不気味さが増していく。
初戦以外に敗退する理由――― 何かあるのだろうか。
「全力は出しても、本気では無かった―――― それしか考えられないな」
「それって、どういう意味だよ? ってか、本気も全力も同じだろ?」
「よく誤解される事だが、本気と全力は別物だ。
本気とは、気の持ちよう。その事柄に己の気力を全て注ぎ込むという事。
全力とは、己の力や知恵、出来る事の全てを投入して目の前の事態に対処する事だ」
故に、初戦以外での試験では手加減していた可能性が高い。
全力ではあるが、本気では無かったのだから負けるのは必然。
ましてや、相手が救世主候補ともなれば尚更だ。
「へぇ、そうなのか。知らなかったぜ」
「とはいえ、私自身リコと戦った事などないから彼女の本当の強さというものは分からぬがな」
「いや、ソフィアなら救世主候補でも普通に勝てそうな気がするが」
「それは気のせいだ。私自身、あれほどの超人的な力を持ち合わせてなどいない」
「どうだか」
2人の言論から察するに、ソフィア自身もかなりの強さを持っている事が伺える。
まれに人の中で突然変異種のように超人的な力の持ち主が発生したりするが、ソフィアもそういった類なのだろうか。
もっとも、当人にそのような不躾な質問をするのはアダムとしても気が引ける。
この場は流すのが吉だろう。
「まぁ、リコに気を付ければいいんだな」
「もっとも、気を付けたところでどうしようもない事もある。
時として諦めるというのも手の1つだと思うぞ」
あっさり諦めろと薦めるあたり、ソフィアも大概な性格をしている。
いや、もしかして狙ってやっているのだろうか。
「それより、長く話しすぎたな。そろそろ昼休みも終わりだ」
「ああ、もうそんな時間か」
人と話し合っていたりすると、時間というのはあっという間に過ぎていくもの。
この場合も、まさしくその事柄に当てはまる。
「さて、私達はそろそろ行くがそっちはどうする?」
「オレ達もそろそろ行くとするよ」
「そうか、ではまたな」
とりあえずセルとソフィアとはその場で別れたわけだが、少しだけ大河の表情が伺えない。
「どうしたんだ、大河?」
「いや…ちょっと燃えてきただけだ」
俄然やる気が出たという表情だった。
おそらく、初戦でリコが敗退した事が無いと聞いて一気に闘志が燃え上がったのだろう。
「仮に俺がリコに勝てれば、ジンクスを破ったって事だよな?
ってことは、俺は学園中の女子から注目の的!!」
「やっぱりそんな事を考えていたのか」
懲りないと言うか、何というか。
その後でナンパをし、未亜に制裁を受ける大河の姿が簡単に想像できる。
もしかして、大河はその事を意図的に考えないようにしているのだろうか。
あとがき
今回から、元ネタ集は書きません。
いい加減、書くのがしんどくなってきたので。
ちょっとずつ、書いていますが。
どうにも創作意欲が…