DUEL SAVIOR INFINITE Scwert3-3
「おっそぉ〜〜いぃぃ! もう、何をしてたのよ。
リコちゃんの方はもう準備も出来てるってのに〜」
怒っているのだろうか、多分怒っているのだろう。
思わず疑問に思ってしまうほど、ダリアの台詞は異様に間延びしていた。
だが、疑問に思うのは大河達も同じだ。
なぜ、自分たちは予定時刻に遅れてしまったのだろうか。
原因は間違いなくあの少女だったに違いないが、原因が行方不明なので責めるに責めれないのが現状だ。
「あ、あの、それが、私たちにも、何でこうなったのか……」
「は〜ん?」
未亜の説明はまったく説明になっていなかった。
だが、その意味不明な説明もまた真実なので大河はまったく強く言えない。
そもそも誰も、あんな展開を予想できたはずなどないのだから。
世の中どうしようもない出来事というのは確かに存在する。
だが、それがあれほど理不尽なのだ…世の中、何が起こるか分からないものである。
「このバカが妖精――― もとい、小悪魔を召喚したのよ」
「ほえ?」
なんとも言えないリリィの台詞に、ダリアは更に?顔になる。
だが、そんなダリアをお構いなしに、
「おい、俺は別に召喚したような覚えはねぇぞ」
「そんな事は分かってるわよ。例えよ、例え!」
「どんな例えだよ!! それは!?」
「小悪魔というより、グレムリンでしたね」
「え、え〜っと」
大河とリリィの台詞。
さらに、ベリオが疲れたような声で言った言葉に、ダリアは益々訳が分からないといった感じで見渡す。
もっとも、こんな台詞で事の展開を予想しろと言っても無理だ。
流石のダリアも、リコを抜いた救世主候補たちのため息に困惑せざる得ない。
もちろん――― あと1名だけ例外がいたが。
「あっら〜? そう言えばアダム君はどこにったのぉ〜ん?」
相変わらず間延びした声でダリアが訊ねる。
それに気付いたように、リコを抜いた救世主候補たちは自分たちの周りを見回した。
そこに、アダムの姿はない。
「逃げやがったか?」
「いえ、それはないわよ。たぶん、ノンビリとこの場に来てるんじゃない?」
「その可能性は高いですね」
などという大河、リリィ、ベリオの台詞にうんうんと頷く未亜。
何やらダリアが疲れたような顔をしているが、もしかしたら早く来てくれなどと思っているのかもしれない。
DUEL SAVIOR INFINITE
Schwert3-3
新しい仲間、それは忍者 〜New Friend〜
ここから見下ろす学園は、それなりの豊かさがあった。
巨大な石を積み上げられるかの如く建てられた塔は、まるで人の傲慢を示すかの如く。
伝説に存在した【バベルの塔】の如く、ここもやがて神の手によって崩れ落ちるのか。
(はぁ……馬鹿馬鹿しい)
その考えを、大河はいとも簡単に放棄した。
いくらなんでも考えていることが馬鹿馬鹿し過ぎる。
確かにファンタジーな展開をしている。
世の中何が起こるか分からないという事を身を持って経験した。
だが、いくらなんでも神様はないだろう。
仮に神様なんて存在がいるとするなら、何が何でも一発ぶん殴らなければ気が済まない。
「まっ、今更言っても仕方ねぇか」
「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」
「何でもねぇよ」
アダムが遅いのは、おそらく彼自身も何か考え事をしながら向かっているからなのだろう。
だが、分かるのはそれだけだ。
彼が何を考えているかなど大河には分からない。
そもそも、根本的に大河は頭を使うのは苦手な方だ。
普段使わないものを突然使ってうまくいくはずなどない。
それでも、アダムの影響なのか最近は色々と考えているのだが。
「遅いわよ」
少し不機嫌そうに、しかしどこか沈んだような口調でリリィがアダムを見ながら言う。
そんなリリィの口調に、アダムは少しだけ苦笑いをしてしまった。
恐ろしいほどの豪胆さ。
こういうところは、大河自身も見習うべきだろうと思っている。
「悪いな」
誠意のない返答、おそらくその返答とは裏腹に特に悪いとは思っていないのかもしれない。
いや、真実として悪いなど思っていないのだろう。
でなければ、あれほど気の抜けた謝罪もあるまい。
「おいおい、アダム……お前、悪いなんて思ってねぇだろ?」
「さて、何の事やら」
あっさりはぐらかされた。
あらゆる事態に常に対処できるだけの余裕を確保している。
その辺は見習いたいと大河は思っている………その余裕が時として変な方向に働いてしまっているのだが。
「うおっほん!」
ダリアは珍しく頭痛がするのか額を押さえると、1度咳払いをする。
どうやら見なかったことにするらしい。
ダリアは気を取り直すように話し出した。
「ま、まあ、良いわ。それじゃあ、時間も押している事だし、すぐに召喚の儀式を始めましょう。
リコ、準備は良い?」
後半の言葉は真剣な顔付きと口調に変わり、ダリアはリコへ訊ねる。
もっとも、どんなに真剣な顔つきと口調をしても、それが嘘っぱちに見えるあたりダリアの人徳か。
リコは頷くと、床に描かれた魔法陣の中央へと進み出る。
それを固唾を飲んで見る一同の中、未亜は小さな声で大河に話しかけた。
「何が始まるんだろうね」
「何言ってんだよ、召喚の儀式だろ?」
「そ、それは分かってるよ。そうじゃなくて………」
「何だよ?」
「どういった事をするのかって」
それを聞き、大河は不意に考えた。
召喚、神秘、呪術、魔女。
連想されるのは、とても呪術的な事。
鶏の頭とかを切り落として、やたら謎のような呪文を唱えるリコの姿が脳裏を過る。
更に本を片手に顔を影で隠し、明らかに人道面で問題のありそうな場面が――――
「うっ―――」
とんでもない光景だった。
間違っても思い浮かべてはならない場面だったのかもしれない。
精神衛生上まったくと言っていい程よろしくないので、すぐさま大河は脳裏に描かれた光景を忘却の彼方へと追いやった。
「お兄ちゃん?」
未亜が心配そうな声を出すのも仕方のない事だ。
先ほどまでと違い、何やら顔の青い状態の大河を見れば誰でも心配になるのは間違いではない。
大河自身も、自分の顔が青いだろうという事は何となくだが自覚している。
「ああ、大丈夫だ」
などと言っているが、やっぱり顔は青いように見える。
「本当に?」
「おう。まぁ、どんな事をするかは見りゃわかるだろ」
「それもそうだけど……」
「第一、俺が知っていると思うのか?」
「……だよね」
などと説得力充分の大河の台詞に未亜は思わず同意してしまう。
召喚や魔法などとは無縁の世界で過ごしてきた2人だ。
更に言うなら、自分たちは強引に召喚されたイレギュラー。
そんな状況下でどんな形で召喚されるかなど分かるはずもない。
2人がこそこそと話していると、リリィとベリオから鋭い視線が飛ぶ。
「しぃっ!」
人差し指を唇に当てつつ睨みつけるように、ってか実際に睨んでくるリリィとベリオに大河と未亜はお互いに黙り込む。
アダムの方は特に気にしている様子はなく、静かにリコを見ていた。
と、そこへリコの静かな声が聞こえてくる。
「――― アニー・ラツァー・ラホク・シェラフェット」
響き渡る呪文。
小さな会話も途絶え、救世主候補たちは中央の召喚陣を見つめる。
「―――― シシート・アホット・アフシャヴ・キュム・シェラヌ・カディマー――――」
不思議なメロディーを奏でるように、リコの口から呪文が紡がれていく。
その呪文は、確かに大河と未亜がこのアヴァターに召喚された時に聞いた呪文だった。
だが、気のせいだろうか。
呪文はそうだが、その声は間違いなくリコとは違っていた。
しかし、確認する術はない。
いずれにしても、大河も未亜も黙って事の成り行きを見続けることしか出来なかった。
休む事なく唱えられる呪文が当たりに響く中、リリィが短く呟いた。
「……来るわ」
「何処にですか?」
未亜が真っ先に反応してそう尋ねると、ベリオが当然と言わんばかりに召喚陣を指差す。
「勿論、召喚陣の真ん中にです」
ベリオの指につられるようにそちらへと視線を向ける二人だったが、そこには特に変わった様子もない。
未亜なんか、光が漏れたり煙が出たりして新たな仲間である救世主候補が出現するとか考えていたらしい。
その未亜の落胆振りからみれば、一目瞭然だ。
特に変化など見られず、ただ静かなリコの呪文による旋律のような台詞が部屋の中に響き渡る。
しかし、大河と未亜以外の面々には何か感じられているようだ。
微かに感じる、魔力、あるいはマナの奔流。
それはリリィも、ベリオも感じ取っていた。
そういったものを感じ取れない大河と未亜だったが、邪魔にならないようにただ静かにリコと召喚陣を見詰める。
すると、リコの目の前の空間がゆっくりと歪み始め、大河と未亜は思わず小さな呟きを洩らす。
おそらく、どれだけ非現実的な日常を送っていてもこのような状況には出会ったことがないからだろう。
もっとも、自分たちもその一旦を担っていたりするのだが、この2人は気付いていない。
まぁ、どちらにしてもどうでもいいことだろう。
そんな中、ぼんやりと人の影が床へと落ち空間の歪みがゆっくりと徐々に形を作っていく。
それから程なくして、召喚陣の真ん中に1人の少女が横たわった状態で現われる。
それを見て、ダリアが真っ先に声を上げる。
「だ〜い成功〜〜♪」
先ほどの真剣な顔や口調など、ゴミ箱に捨ててポイ。
それほどの気の抜ける台詞を平然とダリアは吐きやがった。
「何か、最後の最後で全てが台無しになったような気が」
「気にしたら負けですよ」
その言葉を皮切りに、救世主候補たちはその少女を囲む。
長身でショートカット、きりりと引き締まった表情の少女は小さな呻き声を洩し、そのまま動かない。
そんな体の筋肉のつき方を見ながら大河は思案する。
確かにスピードタイプだと。
筋肉のつき方が非常にしなやかであり、極限の瞬発力を生み出すようにされている。
外見が忍者に似ているが、まさしく姿どおりの戦い方をするのだろうと大河は考えた。
「いかに忍者とはいえ、【殺す】という1点においてあの七夜一族を上回る存在はあまりいないと思うが」
「うん? 何か言ったか、アダム?」
「いや、何でもない」
いずれにしても、どうでもいいことだろう。
少女は動けないのか、やや意識が朦朧としているようにも見受けられた。
そんな少女の様子を見て、大河が心配そうに近づいて声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
少女の肩へと置こうとした手は、しかし、少女の体をすり抜ける。
いや、真に驚嘆すべきところはそこではない。
朦朧とした意識の中、それでも失われない武芸の動きだ。
もはや脊髄反射に等しいほどのレベルで行われたそれ。
ましてや、あの体勢から大河に触れられれずにすり抜ける等、いったいどれほどの技量なのか。
「触るな……」
低い声を発する少女に、大河は手を戻して少女へと反射的に謝った。
「わ、悪りぃ」
そんな大河へと、リリィが声を掛ける。
「急に女の子に触れようとする人には触られたくないんだって。あ〜あ、可哀相に、嫌われたわね、アンタ」
「へっ、どうだか。
今に俺の魅力に取り付かれるに決まってるぜ」
「んなわけないでしょ、自意識過剰な男って、無様なものね」
「黙れ、似非マジシャン!」
「なんですって!?」
なにやらまたまた喧嘩に発展しそうな2人。
傍から見ればどちらも同類なのだが、それは知らない方が互いのためなのかもしれない。
「まぁ、大河とリリィは無視して」
すでに無視することに決定したようだ。
実際問題として構っていたら時間の無駄なのは間違いないだろう。
下手な夫婦漫才に付き合うのは、無駄な体力の浪費に他ならない。
「ヒイラギ・カエデちゃんだったわよね。ようこそ、救世主♪
根の世界アヴァターへ。 あなたは6人目の救世主候補よ♪
あたしはダリア。ここの戦技科教師をしているの。よろしくね〜」
ダリアの挨拶にも無言のまま、少女じゃただ鋭い眼差しに研ぎ澄まされた殺気を放つ。
まるで、抜き身の刃のような殺気を纏う少女にダリアは一向に気にも止めずに続ける。
この辺りは、さすがと言えばいいのだろうか。
別の言い方をすれば、ただ鈍いだけともいえるが。
「それで、こっちがあなたのクラスメイトとなる……」
ダリアの言葉に続けて、それぞれが自分の名前を名乗る。
大河とリリィは相変わらず喧嘩をしていたが、結局未亜とベリオがそれぞれの後頭部を殴ることによって鎮火した。
なんとも強引な鎮火方法だが、気にする事ではない。
全員が名乗り終えたのを受けても、カエデは無言のまま、未だに静かな殺気を放っている。
と、カエデは少しふらつき倒れそうになる。
「お、おい大丈夫…」
ベリオが小さく声を上げて近づこうとするよりも早く、大河がカエデを支えようと手を伸ばす。
しかし、その手はまたしてもすり抜け、カエデは右手を宙に差し上げて静かな口調で呟く。
「来たれ、黒曜」
瞬時にカエデの右手が淡い光に包まれ、そこには輝くような黒色の手甲が現われる。
全員がそれに目を奪われた瞬間、カエデの右手が大河の顔面へと素早く突き刺さる軌道だった。
(やっべぇっ!!)
反応出来たのは奇跡に近い。
だが、避けるにしても対処しようにも時間が無さ過ぎる。
彼我の距離は約30cm。
ひどくゆっくりとしたスピードで、黒い軌跡が大河の顔へと突き進む。
誰もが、その一撃が大河の顔に吸い込まれると思った瞬間、
甲高い音共に、カエデの一撃は止められた。
「ッ!?」
それに、純粋な驚きの表情を作り上げるカエデ。
カエデの一撃を止めたのは、アダムだった。
咄嗟にアダムはカエデの一撃を左手で止めた。
だが、ダメージは計り知れないのかアダムの表情が一瞬だけ歪んだ。
「大河、今の一撃くらいもっと素早く反応しろ」
呆れたようにアダムは呟きながら、カエデを弾き飛ばした。
弾き飛ばされたカエデは空中で素早く体勢を整えると微かに音を立てて着地する。
カエデは標的をアダムに変えたようだ。
ゆっくりと無音でカエデは構える。
「別に争う気はないから、その召喚器を消せ」
呆れたような表情を作りながら、アダムは台詞を投げかける。
そのアダムの台詞に、殺気を放ったまま無言でカエデは黒曜を消した。
そんな3人を見ながら、リリィは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あーあ、アンタのセクハラの所為で、可笑しな事になったじゃない。
見なさいよ、変に緊張しているじゃない」
「それも、いずれは俺の魅力にメロメロさ」
「何を言ってるのよ、このセクハラ男が」
「うっせぇ、この似非マジシャン」
「なんですって!?」
「なんだよ!?」
そんな二人のやり取りを相変わらず無言で眺めるカエデ。
その顔に、いかなる表情も浮かんでいない。
こうして見ると、どことなくリコと似た感じがする。
未亜は少しリリィの方をむっとした顔で一瞥した後、やや引き攣った笑みを浮かべて声を掛ける。
「あんまり気にしないでくださいね。いつもの事だから。
リリィさんが一方的に食って掛かってるだけで、そんな事実はないですから」
「ええ、未亜さんの言う通りですから。
大河君は、どんなにセクハラ好きで煩悩でも悪い人じゃありませんから」
「えっと、ベリオさん?」
大河の事をフォローする2人。
もっとも、片方は完全にフォローをしていない。
それどころか、明らかに貶している。
などと明らかにやばい事を言い切るベリオに、未亜は冷や汗を流しながら唖然とした顔でベリオを見つめた。
そんな救世主候補たちを無視しダリアが少し真剣な眼差しでカエデへと話し掛ける。
「それは後にして、カエデちゃん、あなたはここの事をどのぐらい知っているのかしら?」
ダリアの言葉に、ようやくカエデがその重い口を開いて答える。
「一通りは聞いたと思う。殺せば良いのだろう? 敵を……」
「な、何か違う気もするけれど、でも、説明は受けているという事は、今回は正式な召喚だったって事よね」
「……ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまう未亜。
もっとも未亜には責任などないのだから謝ったところで意味などないのだが。
「あ、未亜さんのせいじゃないのよ。
未亜さんたちの召喚の時はリコもいなかったんだし、全くのイレギュラーだったんだから…って、あら?」
気付いた時には、すでに召喚したリコの姿はどこにもいなかった。
どうやら出て行ったらしい。
「あ、そういえば、リコさんが居ませんね」
2人の話を聞いていたダリアが、未亜の言葉に答える。
「召喚が済んだから、自分の仕事はおしまい〜とか思ったんじゃないの。
本当に、困った子ね〜。まあ、別に良いけれど。
さて、とりあえず、説明の手間が省けて良かったわ〜。
それじゃ〜、早速で悪いんだけれど、テスト〜、といっても良いかしらぁん?」
「……構わない。いつでも死ぬ覚悟は出来ている」
「―――また随分と物騒な覚悟をしてるな」
ダリアの質問に物騒な言葉で答えるカエデに、アダムは己の正直な感想を述べてしまう。
そもそも、まだ死ぬと決まったわけではないのだから召喚されていきなり死ぬ覚悟をするのはどうかと思う。
「はぁ、また妙なのを召喚したわね」
「またとはどういう意味だよ!?」
「自分の胸に手を当てて考えてみなさいよね!」
いつの間にか喧嘩を終了していた大河とリリィだが、また再加熱する。
本当に厭きない事だ。
もしかして、2人とも今の自分たちの現状を分かってやっているのだろうか。
いや、きっと分かっていないに違いない。
大河にしてみれば、リリィ・シアフィールドという少女は天敵以外の何者でもなかった。
ある意味では、相性がいいのかもしれないがそんなこと大河には認められない。
リリィとは天敵同士、それが大河にとっての全てであった。
「た、楽しみですね、一体、どんな戦い方をするのかしら」
「そ、そうですね。あ、テストって、もしかして……」
ベリオのあからさまな話題の転換に、これぞとばかりに乗る未亜。
どうやら彼女としてもこの場は居心地が悪いらしい。
他の学科の学生がいないのがせめてもの救いか。
いたのなら、その学生は幻滅したのかもしれない。
憧れの救世主候補たちの実態が、何しろこんなのだから。
ちなみに、ある事に気付いた未亜だが、それを遮る様にダリアが説明し始めた。
「未亜ちゃんや大河くんが行ったテストは、ちょっと例外よぉん。
まあ、似てると言えば似てるけれどね。闘技場での模擬戦。
ただし、相手はあなたたちの中の誰かよ。
そうね〜、誰かカエデちゃんの相手をしてくれるかしら〜ん?」
「俺!!」
「私よ!!」
先ほどまで喧嘩をしていた大河とリリィだが、ここでは息がピッタリだ。
そのことが不満なのか、未亜は嫉妬の含んだ視線を大河に投げかけている。
その視線を受けた大河は、無言のまま未亜の視線をスルーした。
構っていては時間の無駄と判断したのだろう。
「……妙な所では、きっちりと息が合うのねぇん」
ダリアの偽りのない感想が本人の知らず知らずのうちに声に出る。
もっとも、他のメンバーたちも同様の感想を抱いていたりする。
「何よ、大河! またセクハラでもする気」
「するか! というか、またってのは何だ、またってのは!
俺は純粋に、どんな戦い方をするのか興味があるだけだ!」
弁解する大河だが明らかに下心があるのはわかる。
おそらく試合に勝ってあんな事やこんな事をしようと考えているに違いない。
だが、実際問題として大河の言っている事も一理ある。
基本的に前衛である大河にとって、同じ前衛型であるカエデの戦い方に興味があるというのは真実でもあった。
もしかしたら、カエデの戦い方を参考にして自身のスタイルに組み込もうと考えているのかもしれない。
「もう我慢できないわ! こうなったら、アンタの煩悩を速攻で天に召さしてあげる!」
「望むところだ! てめぇの如何様的な魔法を打破して、俺が最強であることを示してやるぜ!」
「それはこっちの台詞よ! この勝負で勝った方が、テストの相手よ!」
「その代わり負けたら今日1日、俺の言うことを聞いてもらうからな!」
「良いわよ。その代わり、私が勝った場合、アンタを変態と呼ぶからね。
それじゃあ、早速闘技場へ……」
「やめなさ〜〜〜〜い!!」
リリィが言いかけたところを、ダリアの大声が遮る。
揃ってダリアの方へと顔を向ける二人に、ダリアはいつになく厳しい顔で告げる。
実際問題として、大河とリリィが行おうとしているのは大問題なのだ。
「救世主候補同士が私闘なんて、そういうのはぜ〜〜ったいに許しませんからね!」
救世主候補というこの世界でも有数の地位にあるが、故に何でも許されるというわけではない。
その地位には相応の義務や責任が課せられる、これはどんな世界でも共通の事だ。
ましてや、現状において救世主候補というアヴァターの希望の星といえる存在が私闘を行うなど前代未聞。
仮に私闘をしてしまったのなら、悪い風評は避けられない。
「だって、このバカが……」
「このいかさまマジシャンが……」
「誰がいかさまマジシャンよ!」
「お前だよお前! お前意外にいかさまマジシャンがどこにいる!?」
「何処がよ! それに、アンタなんかバカで充分でしょうが」
「誰がバカだ、誰が! このいかさまマジシャン!!」
「やる気?」
「やるか?」
「だったら、闘技場で……」
「だから、やめなさいって言ってるでしょ〜〜〜〜!!」
再びダリアの大声が二人のやり取りを止める。
この2人の仲の悪さは生粋と言っていいレベルだ。
出会うべくして出会ったと言っていいかもしれない。
2人が黙り込んだのを見ながら、ベリオが思い切ったように言う。
「先生、こうなったら遺恨を残さないように、一層の事、2人を戦わせた方が良いんじゃ……」
「ベリオさん!?」
思わぬベリオの言葉に、未亜が驚いたようにベリオを見る。
だが、その顔は冗談を言っているのではなく、何処までも本気だった。
なお、そんなベリオより遥かに過激が意見が出た。
「いっそのこと、後頭部を殴って気絶させて保健室に監禁でもすれば問題ないんじゃないか?」
「アダムさんまで!? というよりこっちの意見の方が酷いし!」
その人権なんてクソ喰らえみたいな意見を平然と出すアダムに、未亜は恐怖のようなものを感じた。
だが、実際のところ未亜も普段は大河に対して人には出来ない暴力的な事をやっている。
それを考えると未亜はアダムもベリオもまったく批難出来ないのだが、おそらくその事には気付いていない。
というより、気付かないふりをしているのだろうか。
「個人的には、2人共好きですけれど、これ以上、クラスの和を乱すようでしたら」
「こ、こ、個人的には、好き!?」
「駄目よぉん、今、あの2人を戦わせてみなさい」
ダリアに言われたとおり大河とリリィ、事情を知らないカエデと既に去っているリコ以外の救世主候補たちは考えた。
もしここで大河とリリィを戦わせた場合の展開を。
「――― 周りの被害とかまったく考えずに戦いそうだな」
などとアダムが感想を述べると、他のみんなは大きく頷いた。
まったくもってその通りだと。
「それに、どっちが勝っても意味がないような気がします……」
「そうねぇん」
ベリオの意見に未亜やダリアは大いに賛成だった。
勝てば相手を1日だけ好きに出来るという決まり。
考えると、どちらも踏み倒しそうである。
「カエデに選んでもらった方がいいんじゃないか?」
アダムの意見に、今更ながらに気付いたような顔になる他のメンバーたち。
それだ、という顔をして一斉に皆はカエデを見た。
そんな救世主候補たち+αにカエデは思わず1歩だけ後退してしまう。
わからんでもない。
「そうですね。こうなったら、カエデちゃん本人に選んでもらったら。
その方が、話も早いし」
「……そうですね」
ダリアの台詞に、未亜も同意する。
それを聞き、はじめに勢いよく台詞を吐き始めたのはリリィだった。
「それよ! さあ、転入生、私への挑戦権をあげるわ!
勝てばいきなり主席になれるチャンスよ」
「おい、なんでお前はそんなに偉そうなんだよ?」
「五月蝿いわね! アンタは少し黙ってなさいよね!」
まるで強迫概念に押されるかのようなリリィの形相に、さすがの大河も不審に思った。
いくらなんでも必死すぎると。
まるでリリィには余裕がない。
そんなことを考えていた。
「まぁいいか。カエデ、オレ達の中から誰か1人、戦いたい相手を選んでくれ」
アダムは簡素にそう訊ねた。
それを聞き、カエデは悩むような仕草をする。
それから決断したのか、カエデは相手を指差した。
「えっと………どうして?」
「……同属の匂いがする」
カエデが指差したのは、あろうことかダリアだった。
そんなカエデの台詞にベリオは驚愕したような声を上げた。
「同属!? やっぱり常に色香を纏ったような服装をしているのはそういう意味だったのですね!?
そんな服を着て、学生を色香で惑わせて食い物にしてるんですね!?」
普通では考えられないような事を叫びまくるベリオに、他のメンバーたちは唖然としていた。
唖然としない方がおかしい。
ベリオと一番付き合いが長いリリィでさえ、あまりのベリオの変貌振りに唖然としている。
当のダリア本人はというと笑みを浮かべている。
そりゃもう、素晴らしい笑みを。
その笑みに反比例してこみかめに青筋が浮かんでいるのは気のせいだと思いたい。
「ベリオちゃん、貴方はそんなことを思っていたのねぇん」
傷ついたような仕草をするダリアだが、本当に傷付いたかどうかは怪しいところだ。
その飄々とした態度を見ている限り、傷付いているとは思えない。
「なら、もっと真面目に授業を行ってください」
「いや」
ベリオの意見を速攻で却下するダリア。
流石、と言えばいいのかどうかは別だ。
世間一般では、こういうのを駄目人間というのかもしれないが。
「悪いけど、私は教師だからねぇん。
貴方と試験を行うことは出来ないのよぉん。
だから、私以外の救世主候補と試験で戦って欲しいのよぉん」
それを聞き、カエデは再び考えるような仕草を取った。
そうして考えが決まったのか、カエデは静かにその人物を指差した。
「彼で」
「やったぜ! やっぱりこの大河様の……」
「ちょっと黙っててね、お兄ちゃん」
「おぐっ!?」
確かに選ばれたのは大河だが、直後に未亜の一撃を喰らって昏倒してしまった。
そんな彼を見ながら、ひそかに人選を失敗したかと考えてしまうカエデだが、それは仕方のない事だ。
【元ネタ集】
ネタ名:――
元ネタ:――
<備考>
――
あとがき
ブレイブルーとモンハン、更にMUGENストーリー動画を作成しながらのんびりと作っています。
そう言えば、随分と暑くなってきましたね。
いよいよ、夏本番って感じです。