DUEL SAVIOR INFINITE Scwert2-2
 時間も限られている事だし、移動するのは当然の事だった。
 時刻も、大体昼に差し掛かっていたし、ちょうど昼食の時間だったのもある。
 腹が減っては戦は出来ぬという言葉があるように、まずは腹ごしらえをしてから案内してもらう事にしたのだ。
 それはきっと、正しい選択。

「じゃあ、お昼を食べてから校内をご案内しますね」

「おう、悪いな。今度デートで埋め合わせするぜ」

「激しく結構です!」

「むぅ………」

 ベリオの容赦のない返答にうな垂れる大河。
 あわよくば、あんなことやこんなことをやろうと思っていたのかもしれないが、そう簡単に事が運ぶほど世の中は甘くない。
 本当に残念そうな表情をする大河だが、その表情がベリオの善意を刺激する事などないし、そもそも刺激する理由がない。

「とりあえず、行きたい場所に自由に行ってみてください。その場で説明します」

「了解。それじゃ、行くとしますか」

「魔法の国の学校なんて、何があるんだろ?」

















DUEL SAVIOR INFINITE

Schwert2-2
スクールガイダンス 〜Scene of the Surprise〜
















「ここが食堂です」

 ベリオ達は食堂にやって来た。
 開放感があり、食堂は予想通り大勢の生徒で賑わっている。
 大多数の人が出入りでいるように入り口付近の壁などは全て撤去されており、故に外の風景は丸見えで太陽の光が多く食堂内に差し込めているので明るさも申し分ない。
 それに、そもそもここは食堂―――― 学食なのである。
 利用する機会は多そうだと大河たちは考える。
 ただ――――――

「……………混んでる」

 未亜が呆然としたように呟くが、それも無理のないこと。
 人、人、人と、人だらけの食堂でなければそれなりの雰囲気を楽しめたかもしれない。
 だが、残念な事に今現在において食堂は昼食を求める学生達によって騒然としていた。

「なるほど、やっぱり食堂は混むもんだな」

「うむ、盛況盛況」

「う〜ん、人が多いわ」

 とりあえず、腹ごしらえと言う感じで来た食堂だが、中は多くの生徒が昼食タイムであった。
 手短な場所にある席などを見るが、既に何処も彼処も学生が席に座っており、とてもじゃないが座れる状態ではない。
 とはいえ、探せば流石に空いた席はあるだろう―――― 見つけ出すのは、それなりに苦労しそうだが。

「好きな物を注文していいんですよ。私たち救世主クラスは食費、寮費、全て免除ですから」

「おお、タダ飯まで食えるのか。やっぱ救世主って美味しい職業…………では早速」

 意気込んで人ごみの中へ入っていこうとする大河を未亜は引き止めた。
 心なしか顔に不安な色が滲み出しており、少しだけだが顔色が優れないが、それでも何か言いたそうだ。
 何となくだが、大河には未亜が何を言いたいか理解できた。

「あの…………お兄ちゃん」

「あ〜…………で?」

「ランチの一番安いの」

「了解、待ってろ」

 2人のみの短い会話。
 だが、その短い会話で全てが通ったようで、このあたりが兄妹である事を窺わせる。
 その会話を終了すると、大河はとっとと中へ出陣していった。

「オレも行ってくる。ベリオ達は席を取っておいてくれないか」

「あ、はい」

 そんな会話の後、アダムもまた人ごみの中へと出陣して行った。
 微かに出来た人と人との隙間に滑り込むようにしながら巧みに前へと進軍していく。
 確かにこの人だかりは凄まじいものがある。
 だが、人と人が押し合うこの状況故に発生する微かな隙間。
 それを利用すれば、難なく前へと進撃できる。
 大河の方は、どうやら力任せに人を退けながら前へと進んでいるようだ。

「さて、何を頼もうか」

「おっさん!!! 一番安いランチをくれねぇか!!!」

 悩むアダムの隣で、大河は大声で料理長に叫んだ。


















◇ ◆ ◇


















「今のは、どういう意味なの?」

 空いている席を見つけ、そこに座りながら、ベリオが未亜に質問した。
 それに対して未亜は少し言い辛そうな顔をする。
 が、意を決したように話し始めた。

「あ、あ〜………私、人ごみとか苦手で………」

「え?」

 意外そうな顔をするベリオだが、それも仕方がないことだ。
 未亜の今までの行動を思い返してみるが、少なくとも人ごみが苦手には見えない。
 とはいえ、本人の顔色がこの食堂に入ってから若干ながら優れない点を見ると、未亜の告白は真実であることを窺わせる。

「こういうところだと、お兄ちゃんが全部……………」

「意外ねぇ……………」

 そのベリオの台詞を聞き、未亜は苦笑いを隠せない。
 確かに、意外であるのは間違いないだろうから。

「なんだかんだ言ってお兄ちゃんに頼っちゃって。
 こんな私が救世主候補なんて、おかしいですよね」

「いえ……意外なのは………」

 だが、どうやらベリオが意外に感じたのは他にあったらしい。
 しかし、そんなベリオの次の台詞も、遮断されることとなる。

「ん、どうかしたのか?」

 ベリオが言葉の続きを話そうとしたところで、大河たちが帰ってきた。
 その手には2つのトレーが握られている。

「ほらよ、未亜」

「あ、ありがとう」

 未亜に片方のトレーを渡して席に座る大河。
 同様にアダムも席に座り、2つあるトレーの1つをベリオに渡した。

「ベリオの奴も勝手に選んだけど、大丈夫か?」

「ええ、ありがとう」

「アダム、やっぱカレーがよかっただろ、聖職者だし」

「いや、メニューにカレーなんてなかったぞ」

 そう言っているものの、アダムの脳裏には1日三食カレーを食べる聖職者の女性の姿が思い描かれた。
 人間というカテゴリーからは考えられないほどの戦闘能力を有し、転生否定の効果を有する第七聖典を操る女性の姿を。
 ついでに、その聖職者が、すっごく怖い笑みを浮かべながら黒鍵を投げまくってくる姿も。

「………やっぱり、カレーを馬鹿にしたのが悪かったか?
 でも、あの後でカレーのレシピを教えたら喜んで許してくれたし、埋葬機関に伝わる秘伝も教えてくれたし」

「どうかしたんですか?」

「いや、気にするな。嫌なものを見てしまったような気がしてな」

「?」

 わけが分かりませんという顔をする未亜。
 ただ、アダムの顔が若干だが青くなっているのに、彼女は気づかなかったわけだが、気づかない方が幸せだろう。
 世の中、知らない方が幸せなんて事は山ほどあるのだから。

「あの、カレーとはいったい?」

「俺のいた世界の聖職者が欠かさず食べていた食い物だ」

「…………お兄ちゃん、嘘付かないの」

 元いた世界の住人なら、一瞬で解けてしまうような嘘を見抜く。
 もっとも、その毎日欠かさずにカレーを食す聖職者に心当たりというか、該当する司祭を知っているアダムとしては一概に笑い飛ばせる内容ではない。

「は、はぁ」

 わけがわからないのか、とりあえず気のない返事をしておくベリオだが、その気持ちはわからないでもない。
 とはいえ、ベリオがその該当者と言える聖職者を知る機会など未来永劫訪れる事がないのは事実なのだが。

「まぁ、気にするなベリオ」

「…………はい」

「いや気にしてくれ。なぜなら、聖職者の朝、昼、晩の三食をカレー・・・・・」

「お兄ちゃん!」

 そのまま、再び大河は未亜に問答無用のボディーブローを鳩尾に叩き込まれた。
 しかも、もろ急所のど真ん中にストレートで入っている。
 野球なら3振でアウトだ。

「ぬぐはぁ!」

 そのまま腹を押さえて悶絶する大河だが、自業自得なので誰も同情しない。
 特に未亜など、かなり冷たい目で悶絶する大河を見下ろしているが、途中からは他人のフリをしている。
 もっとも、大河はわずか数秒で回復したが。
 どうやら耐久力、ならびに回復力が向上しているようだ………嫌な向上のし方なのは間違いないが。
 
「それより食おうぜ。もう腹が減って」

「そうですね」

 なんとか復活した大河の言葉にそれぞれが食事を開始する。

「「「いただいます」」」

「天にまします我らが神よ………」

 約1名、神に食事前の祈りを捧げていが。
 


















◇ ◆ ◇


















「へぇ、なかなか美味いな」

「ほんとだー。今までに食べた事のない不思議な味」

「私もここにはじめて来た時は同じ感想でした」

 見た目は元いた世界とそんなに変わらない。
 ただ、その味付けは今までに体感した事のないものだったので、非常に新鮮なものだった。
 もちろん、新鮮とはいっても美味しい意味での新鮮であって、この世のものとは思えないような味ではない。
 たとえるなら、M○レーを食した時のようなものではない。
 あれは一般料理の材料から生成された史上最強最悪の1歩手前の生物兵器なのだから。
 ちなみに、第1位は某冬の街の主婦が作る謎○夢だったりするらしいのだが、真実は誰にもわからない。

「後で作り方を聞いておこうかなぁ」

 何やら未亜の心を刺激するような味だったらしい。
 未亜の目が、心なしか輝いているように見えるが、世の中そんなに甘くなどない。

「救世主クラスだと、実技や演習でお料理をする時間なんてありませんよ」

「そっかぁ………残念」

「でもまぁ、ほんとに美味いな、これは」

 そう言って大河は食事を続けていく。
 特に何を言うでもなくアダムは食事を続けながら食堂内を見回した。
 中世のヨーロッパを描いたような店内は、それだけでも活気に満ちていた。
 多くの学生が食事を取り、和気藹々と雑談をしている。
 そんな光景を見ながら、ふとアダムはあるものが目に留まり、

「は!?」

 そのあまりの光景に驚愕の声を上げた。
 らしくない、とアダムは心のどこかで冷静に思考したが、そんな事を呑気に考えるほどアダムには余裕などない。
 アダムの心の中で浮かんだ言葉は、実に簡単だった。
 すなわち、なんだあれは、である。

「どうしたの? 喉に詰まった?」

「い、いや…………そうではなくて…………あれ」

「あれって………」

 大河と未亜がアダムが指差した方向を見てみるが、別におかしいところはない。
 食堂そのものは相変わらず騒然としていて騒がしいし、未だに空いた席をゲットすべく学生達が右往左往している。
 だが、これはいつもの光景らしいので問題ないし、いつもと変わらない光景ならそれは日常の1コマで済ませる事が出来る。
 なら、あの光景は【異常】という言葉と意味に値するものなのだろうか。
 なにしろ、そこには―――――――――

「リコ・リス…………だったか?」

「たぶん……」

 改めてアダムはリコを見た。
 リコはこの満席の中で、一人長テーブルを陣取っていた――――― が、それは問題ない。
 救世主候補であり、また無表情で無感動とはいえ外見そのものは愛らしい少女の姿をしているのだ。
 ならば、そのステータス故に他の生徒がリコに席を譲るという可能性はないことはなく、また可能性的にも決して低いわけではない。
 もちろん高くもないが。
 とりあえず、それらは【普通】というカテゴリーに属する事で処理する事にしよう。
 では、その問題の部分はやはり【異常】という言葉が適しているのだろう。
 その【異常】という言葉にカテゴリーに属するであろう、その長テーブルに置かれている皿の量。
 あの小柄な少女の前に置かれているパーティーに使われるような大きな皿が、ざっと30皿以上は積まれている。

「あれって………本人より料理の体積の方が大きくねぇか?」

「流石にそれはない…………とは思うが、何人前なんだろうな?」

 純粋な疑問である。
 確かに、どう見てもリコの小柄な体格よりも彼女が食している食べ物の体積の方が大きく感じるが――― いや、事実大きいのかもしれない。
 何しろ、机の上に並べられている皿の量といったら、数えるのが馬鹿らしくなるくらいの量であり、少なくとも成人男性が1日に食す食事の量を軽く凌駕している。
 なお、決してドラゴ○ボールの孫悟○ではないので、安心してもらいたい。
 だって孫悟○もよく食うから………いや、よく食うなんてレベルじゃないが。

「ああ、あれはいつもの事なんですよ」

 大河とアダムの疑問に答えるベリオ。
 それがさも当然の光景だから疑問に思いません、といわんばかりに。
 それが、更なる驚愕を彼らに呼んだ。

「いつもの!?」

「いつもあんなに食べるんですか!?」

 この事態において最大に驚愕点は、あのリコの大食いが【普通の日常】というカテゴリーに属してしまっているという点だろう。
 どう見てもリコの外見から予想される胃袋の大きさでは、あれだけの食べ物を胃袋に入れる事は不可能だ。
 だというのに、今こうしている間にも次から次へと食べ物がリコの胃の中へ消えていく。
 見ているだけで胸焼けが起きそうな光景だが、ここでもう1つの疑問が発生した。

「そもそも、あれほどの量、メニューなんてあったか?」

 あれだけの量の食べ物のメニューなんて、あっただろうか。
 だが、その疑問はベリオによって解き明かされる事になる。

「実は、あれは料理長さんの挑戦状なんです」

「はっ? 料理長の?」

「はい」

 ベリオの説明によると、ここの料理長は豪勢な人で、

“若者は元気が無くちゃいかん。元気の元はもりもり食べることだ!”

 と、いうのがポリシーの人だった。
 それに昂じてか、【特盛り鉄人ランチ】なる物凄い量のセットメニューを作り出した。
 そして、それを食べ切った者は生涯学食を無料にするというイベントを毎月開催していた。
 していた、と言うと今はしていないように聞こえるが、実際は未だイベントは続いている。
 当たり前のように続いているし、当然のように続いている。
 ただし、今では誰も挑戦しない状態と化してしまった。
 その原因が、完全にその目的が違ってしまったのが原因だ。
 理由は以下のようなものである。
 ある日、リコがいつもより遅れて学食へ来た。
 あいにくその日は別のメニューが売り切れていて、更に月一度のイベントの日。
 元々世事に疎いリコは仕方なく一種類だけ残っていた特盛り鉄人ランチを注文した。

「もしかして、それがあれ?」

「…………最初は3皿だったんです」

「待て! どうみても10倍以上はあるぞ!?」

「これが、料理長の23度目の挑戦ですから」

「23度目って………」

 仕方なく特盛り鉄人ランチを注文したリコは、それを容易く平らげ、予鈴の前に悠々と席を立った。
 まるでなんでもないという感じに。
 おそらくリコにとってみれば、せいぜい普通に昼食を食した程度にしか思っていないのかもしれない。

「それからと言うものの、特盛り鉄人ランチはただ一人のためだけに進化を続け、今に至るわけです………」

「めでたしめでたし、って続きそうな終わり方だな」

「えっと、リコさんはその事を?」

「サービスメニューが、どんどんお得になるくらいにしか…………」

「料理長……なんて、哀れ」

 ベリオが説明を続ける間にも、リコは食事を進め、既に7割の攻略を終了していた。
 それも物凄い勢いで食べ物を胃の中に収めていく。
 昔あったドラマで「俺の胃袋は○宙だ」なんて台詞があった。
 もしかしたら彼女の胃袋は本当に宇宙なのかもしれない、真実はどうあれ。

「うぇっぷ…………ごちそうさま」

 大河が気分悪そうにフォークを置いた、心なしか顔色が悪いが、それは仕方がない事だ。
 あんなリコの食べっぷりを見た後に食事をするなんて拷問もいいところである。

「まだ、残ってますけど?」

「もうお腹一杯です…………」

 未亜もフォークを置いた。
 流石に、リコのあの圧倒的な攻略状況を見て、食事をしようというほど彼らは愚かでもなければ無謀でもない。
 ただ残った約1人は、黙々と食事をしていた為、大河と未亜に尊敬的な眼差しを受けることになる。
 とはいえ、その1人にとっては迷惑な尊敬理由なのだが。


















◇ ◆ ◇


















 その後、学園長室、医務室などに移動し、今は召喚の塔にやってきている。
 で、なぜかは分からないが、ベリオの説明がリコのことになっていた。
 ベリオの説明によると、リコは救世主候補に選ばれるほど優秀な召喚士であるらしい。
 そもそも、召喚魔法が特異な上に、その使い手も数十年に一度しか生まれない。
 その上、今学園に在籍している召喚士はリコただ1人らしい。
 だからリコはミュリエル直々の要請で、他の世界にいる救世主候補生を探し、導く役目も担っている。
 しかし、学年の席次では3人中最下位で、【凄いけど強いわけではない】そうだ。
 また、現在いるメンバーの中で一番最初に救世主クラスに入ったのもリコらしい。
 そして大河達が呼ばれた時に近くにリコがいない、というのもおかしいそうだ。
 なんとも謎の展開である。

「完全なイレギュラー………それじゃあ誰が召喚を」

 そんな事をベリオが呟く。
 確かに、イレギュラーなのは間違いない。
 ましてや、アダムはこの上ないくらい、この世界にとってはイレギュラーなのだろう。
 と、いきなり大河が叫んだ。

「よし、解った!」

「はい?」

「俺たちをここに呼んだやつの正体だよ!」

 まさしく閃いたとばかりに嬉々とした表情で叫ぶ大河。
 何となく、前時代の演説に見えなくもない。

「ええ?」

「それは、どんな?」

「決まってるじゃないか。前代未聞の男性救世主を呼び出すようなやつだぜ? 
 世界の物理法則から逸脱した存在に決まっている!」

 それを聞いて、少し青ざめる未亜。
 何となく、大河の言わんとすることが理解できたようだ。

「お、お兄ちゃん。それだけは言うのやめたほうが…………」

 そう、大河はベリオがそれに仕える身だと知りつつ、

「そこまでして世界が欲するこの当真 大河! 神の力で呼ばれたに決まってるじゃないか!」

 こういう事を言うわけだが、大河の台詞を聞いたアダムと未亜は同時に思った。
 大河は自殺志願者だろうか、と。
 そうこうしている間にも、ベリオから不穏な空気が辺りを侵食し始めるが残念な事に大河はまったく気付かない。

「…………お兄ちゃん…」

「なぁ、未亜」

「…………何ですか?」

「少し離れておこう…………巻き込まれないようにな」

「はい」

 無言の圧力というか、暗黒空間というか、そういった空間が周辺を暴食していく。
 威圧感の発生源であるベリオから数歩離れるアダムと未亜、彼らに出来るのは念仏を唱えるぐらいしかない。
 それを気にもせずに大河は調子に乗り続けるわけだが、やはり自殺志願者だろう。

「そっかぁ、神様に呼ばれたのか。
 なあベリオ、神様ってすっげぇ美人な女神様だったり……………」

 大河がそこまで言ったところで、ベリオの手に一本の長い杖が現れた。
 ベリオは神官が持つようなそれを、眼前に構え

――― ホーリー、スプラーッシュ!」

 大河に天罰を下した。
 南無阿弥陀仏。


















◇ ◆ ◇


















 移動を開始する大河たち。
 ところどころに火傷を負っている大河だが誰も気にしないし、そもそも気にする理由すらない。
 なぜなら自業自得なのだから、気にしても仕方がないのだから、誰も大河を心配しないのは当たり前だ。

「まぁ、大河の言葉も一理あるかもな」

 不意に、アダムがそう話し始めた。

「何が、ですか?」

「自分を召喚したのは神様だ、っていうやつ」

「冗談でもそんなこと言わないでください」

 アダムの言い草にベリオは睨みつけるようにアダムを見る。
 そんなベリオの視線を受けて、アダムは微かに苦笑いをした。

「お、お前もそう思うか!?」

 なお、この突然のアダムの賛成意見に大河は目を輝かせるが、対照的に未亜はいい顔をしていない。
 未亜にとってみれば、大河を調子付かせることはいいことではないのでいい顔をしないのは当然だ。
 そんな2人の対照的な表情を見て、アダムは微かな苦笑いと大半の呆れたような視線を大河へと送った。

「別に大河のように単純な話じゃない」

「おい、誰が単純な話だよ」

 不機嫌そうな顔をする大河と、大河の勢いを殺いでくれたアダムに対する感謝の意を示す未亜。
 本当に、本当に、対照的だ。
 だが、アダムはそんな顔で睨んでくる大河の視線を即行でスルーした。

「学園長の話からも分かるように、【破滅】と【救世主】は、だいたい1000年周期で現れる。
 いうなれば、これは完全なサイクルとなっているわけだ。
 そして、固定されたサイクルを打ち破るには、想像を絶するほどの意思と力と行動力が必要だ。
 仮に神が存在するというのなら、正しくそいつが大河を召喚したのだろう。
 神じゃなかったとしても、それに近い存在、それに近い力を持っている存在が大河を召喚したんだと思う。
 そう言ったことを考えれば、大河の意見もあながち的外れじゃないだろう」

「…………なんか、難しい話だな。じゃ、俺達を召喚したのは神様なのか?」

「いや、そこまではわからない。
 結局、この意見も考案、いうなれば想像の領域でしかない。
 真実なんてものは、大抵は見えないものだ」

 なんとも難しい話に、大河は首をかしげる。
 そもそも、彼は頭で考え理屈で動くというよりは、直感で動くタイプであり、同時に頭脳派というよりは肉体派だ。
 だから、この手の話はそれなりに苦手だろう。

「まぁ、オレの意見なんて忘れてもらっていい――――― 所詮、戯言に過ぎないだろうからな」

 そう、戯言に過ぎない。
 だが、同時に笑い飛ばせれる内容でもない。
 そもそも、あの強制転移には不可解な点がいくつかある。
 まず、魔法や魔術の術式には個人の特性というのが表れやすい。
 まったく同じ効果を発揮する魔法でも、その過程となる術式には個人個人の差が少なからず発生する。
 たとえば、同じ字を書いたとしても書いた個人個人の文字は大まかな形こそ同じであれ細部は違っていたりする。
 これは、その人の癖などが反映した結果だ。
 魔法や魔術の術式もこれと同じであり、術式にも個人個人で差異が発生する仕組みである。
 そして、あの強制転移と疑似牢獄の術式の特色はかなり違っていた。
 つまり、あの強制転移と疑似牢獄を作り上げた存在は別人というわけである。

(まぁ、疑似牢獄を作り上げた存在は既に分かっているが……強制転移を行った存在については今だに謎か)

 とはいえ、考えても埒が明かないのも確か。
 とにかく、今は学園内の地理を覚えるのが先だ。
 そうこうしている間に、次の目的地に着いたようだ。

「ここが、図書館ね」

 いつの間に付いたのか、目の前には巨大な図書館の姿があった。
 やはり造りそのものは現代社会でいうところの中世の時代に相当する形と造りだ。
 聞くところによると、この図書館はアヴァターでも有数の図書館であり、アヴァターに存在する古今東西のあらゆる書物が集められているらしい。
 もちろん、全てではなく他にも王都にある図書館が、この図書館と双璧を成すほどの大きさらしい。
 中に入ると、物凄い数の本が出迎えてくれた。
 すでに図書館というよりは、巨大な倉庫の中に収納された本の館というイメージが浮かぶ。
 王室の抱える貴重な蔵書の一部も保管されていて、許可さえあればそれの閲覧も可能らしいが極秘ファイル的な部分が多いため、基本的に観覧は不可能に近い。

「ここは、色々な本があるみたいだな」

「ええ、良く私も利用しています」

「大河は、絶対に利用しないだろうけど」

「そうですね」

 そんなアダムとベリオの問答無用の言い草に、大河は不機嫌そうに顔を歪めた。
 歪めものの、実際に自分はどうだろうと考えたが、ほぼ絶対に利用しないだろうという結論に達してしまう。
 仮に利用したとしても三日坊主が関の山であり、永続的に利用するのは絶望的だ。
 なら、アダムとベリオの言い草は正しいのであり大河が強く反論できないのは当然の事だった。

「まあ、ここに来ればそういう勉強も出来るんだろう?」

「基礎の方からちゃんとありますから、ここでほとんどの魔術は覚えられると思いますよ。
 ただし、それなりの力と資質があれば、ですけれど」

「そうか…………機会があれば利用する事になりそうだ」

「うげぇ、アダム、こんなとこにまで来て勉強しにくるのか?」

「まぁ、そうかもな」

「信じられねぇぜ…………」

「エッチな本以外の分厚い本は、お兄ちゃんの天敵だもんね」

「そ、そもそも昼休みにまで勉強してるやつがいるのか?」

 未亜の問答無用の言い草に、大河は冷や汗を流しながらベリオに訊ねる。
 どうやら図星だったようだ。

「いるわよ…………」

「え?」

 ベリオが指差した、図書館の一番奥の方にいたのは、

「リリィ?」

 教室で突っかかって来た少女だった。
 真面目な表情で、図書館にある本の中でも厚い部類に入る本と、ノートらしき物を開いて何かを書いている。
 あまりのリリィの真剣な表情のため、流石の大河も邪魔する気にはなれない。

「あれは…………マグナス魔道概論?」

「なんだそりゃ…………」

「大昔の偉い魔術師が書いた貴重な本です。
 力場と魔道触媒との関係について書かれた難しい本なのですが」

「なんだってまたそんな消化に悪そうな本を」

「もしかしてリリィ、来週の浮遊魔術の試験に向けて勉強してるのかしら」

「試験があるのか?」

「ええ。貴方達については、魔術の資質が無ければ免除されるはずだけど」

「ほっ、よかったぁ」

 安堵の息をつく未亜。
 魔道や魔術、魔法なんてものが存在しなかった未亜の世界において、そういったものは天敵なのだろう。
 大河なんて頭から湯気が出て倒れても仕方がないかもしれない。
 肉体派の大河にとって、頭脳が必要な魔法や魔術なんて覚えれるはずがないのだ。

「ここで騒いだらリリィの邪魔になるし、出ましょうか」

「そうですね」

「大河君、どうしました?」

「あ、ああ。すまない」

 一同は図書室を出る。
 アダムは、その直前に再びリリィの方を見た。
 リリィはアダム達に気付いていないのか、一心不乱にマグナス魔道概論を調べている。

(他人に努力は決して見せない、か――――― そのために、こんな図書館の奥で勉強してるのか。
 元の資質も高いのだろうが、まるで白鳥だな)

 白鳥は水面の優雅さと美しさで知られている。
 だが、逆に水の中では、必死に足をバタつかせて泳いでいるのだ。
 表面の優雅さと裏面の必死さ、それが白鳥の魅力の1つである。
 そういった意味では、確かにリリィは白鳥の魅力を持つ女性といえる。
 大河たちは、図書館の外に出る。
 出た瞬間に太陽の日差しが容赦なく彼らの全身を襲うが、この暖かさと眩しさが今はありがたい。
 アダムは静かに後ろを振り向いて、図書館を見上げた。

(利用する機会はあまりなさそうだが、たまには来ることになるか)

「アダム〜、行くぞ〜」

「わかった」
 




【元ネタ集】

ネタ名:1日三食カレーを食べる聖職者の女性
元ネタ:月姫
<備考>
埋葬機関所属の第七司祭シエルの事。
【弓】の異名を持っており、戦闘能力も極めて高いのだが凄まじいまでのカレー狂。
1日三食がカレーなど当たり前であり、一年を通してカレーを食べない日があるのだろうかと思われるぐらいにカレーを食べる。
ちなみに、アニメ版はカレーの変わりにスパゲティを食べていたためファンから不評を買ったらしい。
そのくらい許してやろうや。


ネタ名:M○レー
元ネタ:新世紀エヴァンゲリオン
<備考>
特務機関ネルフ作戦部に所属する葛城ミサトが作るカレー。
レトルトカレーを原料としているはずなのに、その味は凄まじいの一言。
一口で親友であるリツコの怒りを買い、ペットのペンペンにいたっては一口で昇天させる程の凄まじい威力である。
本編で書かれていた生物兵器という言葉は、誇張でも何でもなく事実の断片なのである。


ネタ名:謎○夢
元ネタ:KANON
<備考>
謎のジャム……じゃなくて邪夢。
原材料、調理方法、隠し味などの詳細は一切不明。
甘くないらしい。
ヒロインの一人である名雪の母、秋子さんが作る。
のだが、彼女自身も仕事は何なのか普段何しているのかなど私生活全てが謎に包まれている。


ネタ名:ドラゴ○ボールの孫悟○
元ネタ:ドラゴンボールシリーズ
<備考>
ドラゴンボールシリーズの主人公である孫悟空の事。
明らかに当人の体積よりも大量の食べ物が彼の胃袋の中に消えていく。
というより、彼の家系の男児は大抵がよく食べる。
食費がどこから出てきているのか、はたはた疑問に感じるところだ。


ネタ名:俺の胃袋は○宙だ
元ネタ:フードファイト
<備考>
フードファイトの主人公である井原満の決め台詞から。
格好よく決めているのかもしれないが、台詞だけ聞くとなぜか間抜けな感じがしてしまうのは何故だろうか。
余談だがスペシャルドラマでは、更に続編があるかのような描写があったものの、結局続編は作られていない。
原因はいくつかあるらしいが、小学生の早食い事故と出演者の刑事事件が原因とされている。
ちなみに、演じた草g剛は早食いが苦手らしい。




あとがき

分かる人は分かると思いますが、実はヤミ剣の文章を流用しています。
話数がヤミ剣に追い付くまでは流用部分が多々あるかと。
もちろん、完全な流用ではなくところどころにアレンジも加えています。
しかし、最近時間がないなぁと思ってしまう今日この頃です。
では、本日はこの辺で。