DUEL SAVIOR INFINITE Scwert1-3
 史上初の男性救世主候補の誕生。
 それは、アヴァターという世界の歴史を紐解いても前例の無い事態であった。
 歴代の救世主は全て女性。
 その中で誕生した、男性の救世主候補という異端にしてイレギュラー。
 この事が情勢を好転させるか、それとも更に悪化させるか――― それは、誰にもわからなかった。
 少なくとも、この時点では誰も。

















DUEL SAVIOR INFINITE

Schwert1-3
薄汚れたペントハウス 〜Room of the Garret〜
















「おめでとうございます、これで晴れてあなた方は救世主候補となったわけです」

 試験後、学園長室に呼び出されミュリエルの口から飛び出した第一声がこれであった。
 賞賛の言葉だが、その言葉とは裏腹に目には冷徹な光が灯っている気がした。
 少なくとも、大河にはそう見えた。

(なんか、あるのか…って、分かるわけねぇか)

 直感的に何かあると察した大河だが、それを口にすることはない。
 何となくだが、口にしたところで簡単に誤魔化されてしまう気がしたからだ。
 いずれにしても、今はどうしようもないと考え大河は彼女の瞳に灯っていた冷徹な光に関しては問う事を止めておいた。
 それよりも、聞きたい事があったし、とりあえずはそちらの方を優先する事にする。

「んじゃ、これから俺達はどうなるんだ?」

「先がどうなるかは別として、この学園内で生活してもらう事になるでしょう。
 ですので、まずはこの学園内の案内をします。
 とはいえ、既に時刻は午後7時近くですので学園の正門と寮ぐらいでしょう。
 詳しくは、明日改めて案内するという事になります」

「学園長が自ら、か?」

「いえ、私自身も多忙なので案内事態は別の教職者にやってもらいます」

「別の、ですか?」

 ちょうどその時、コンコンと学園長室のドアを誰かがノックした。
 おそらく、ミュリエルがいう案内役の教職者なのだろう。

「どうやら、来たようですね。入りなさい」

「失礼致します」

 入ってきたのは男だった。
 190cmに達しようかというほどの長身に、どこか厳格な光を帯びた瞳が印象的だった。
 体格はどちらかというと痩せている方だろうか。
 細身でありながら、その動きはとてもキビキビとしている。

「よく来てくれましたね、ダウニー」

「いえ、学園長の指示なら従わないわけにはいきません」

 もしかしたら、ダウニーという男の教師はミュリエルの直属の部下に位置する教師なのかもしれない。
 もちろん、考案でしかないので真実は違う可能性もあるわけだが。

「おい未亜、あのダウニーとかいう教師なんだが…どう思う?」

「え? えっと…厳しそうだけどいい人だと思うよ」

「ふ〜ん、そう思うのか」

「そういうお兄ちゃんはどう思うの?」

「何っていうか…相容れないものを感じるんだが」

「もう、お兄ちゃん…初対面の人にそんな事を言ったら駄目だよ」

「ああ、わかっちゃいるんだが……どうにもな」

 そういうものの、大河はどうしてもその思いを消し去る事が出来なかった。
 ダウニー・リードと名乗った男…少なくとも、教師としては信用できるかもしれない。
 だが、一人の人間としては致命的に己と相性が悪いと思った。
 なぜかはわからない。
 強いていうなら、直感的にそう感じたのだ。
 ただ、どこか共感できる部分もあるのでダウニーという存在を全否定するつもりもない。
 その共感できる部分が何なのか、大河自身にも今はわからないわけだが。

「どうにも、なぁ」

「相容れない、しかしどこか共感できる部分もあるといったところか」

「お、アダムもそう思うか?」

「ああ、まぁな」

 どうやら大河と同じ感想をアダム自身も抱いたらしい。
 拒絶と共感、そう反する2つの感情に挟まれ何ともいえない不快な感覚を得る。
 とはいえ、今はそんな事を気にしたってしょうがないので、大河はこの感情を無理やり心の奥底に封じ込めた。

「あなた方が今回の試験で覚醒した救世主候補ですね。
 史上初の男性救世主候補という事には驚きましたが、今はそんな事は関係ありませんでしたね。
 改めてはじめまして、私はこのフローリア学園で魔法学科などを教鞭しているダウニー・リードと申します。
 以後、お見知りおきを」

「あ、丁寧にありがとうございます。私は当真 未亜といいます。
 はじめまして、ダウニー先生」

「当真 大河だ。未亜と苗字が一緒なのは兄妹だからだぜ」

「アダムだ」

「大河君に未亜さん、そしてアダム君ですね。
 では、時間もありませんし早速学園内の軽い案内と寮の場所について説明しましょう。
 私についてきてもらいますが、問題ありませんね?」

「ああ、問題ない。大河と未亜は?」

「問題ないぜ」

「私も、問題ありません」

「わかりました、では付いて来て下さい。
 では学園長、失礼致します」

 ダウニーが案内されながら、大河たちは学園長室を後にした。


















◇ ◆ ◇


















「率直に言うなら、私は貴方たち2人の事が信用できません」

 学園長室を後にし、しばし歩いた後ダウニーは突然そんな事を言い出した。
 言うまでも無い事だが、ダウニーが言う2人とは大河とアダムの事である。
 
「それはオレたちが男だから、か?」

「ええ、そうです。歴代救世主候補は全て女性。
 なのに、今回に限っては男性の救世主候補が2人。
 これを警戒するなという方がおかしいでしょう」

「そりゃ、明らかに俺たちに責任じゃねぇ気がするが」

「ようは気の持ちようですよ、そんな事もわからないのですか?」

 肩を竦めながら、いかにも大河を馬鹿にするような態度を取るダウニー。
 その仕草に、大河は明確に理解した。
 目の前の男は極めて嫌味をよく吐き、故に自分とは極めて相性が悪いと。

「愚かだな、ダウニー・リード」

 だからこそ、そんなアダムの突然の台詞に大河は一瞬だけ反応できなかった。

「仮にも年長者に対して、口の聞き方がなっていませんねアダム君。
 何が、そんなに愚かなのですか?」

「己が理解できないものに対しては拒絶の態度を取る。
 それは器の小さい証拠だ、それでは己の程度が知れるぞ。
 仮にもこれほどの大きな学園で教職者という立場にあるのなら、もっと寛大な心を見せてくれてもいいんじゃないか?」

 そこには、嘲笑いや蔑みの感情は無かった。
 ただただ、呆れたような失望したような感情だけが込められている。

「まぁ、人間とはそういう生き物だ。
 己が理解できないものに対して取る行動は2つ。
 拒絶か、排除のどちらか」

 人は己が理解できないものに対しては強烈な嫌悪感を抱くもの。
 アヴァターでは、歴代初となる男性救世主候補の誕生なのだ。
 つまり、今までの歴史を紐解いても前例の無い存在といえる。
 だからこそ、そんな前例のない存在にダウニーが拒否感を抱くのは当然だった。
 そう、何も不思議な事なんて無いのだ、ダウニーの態度に関しては。

「喜ぶがいい、ダウニー・リード。お前は紛れも無い矮小で浅ましい人の子だ」

 不思議な事といえば、アダムの態度だ。
 まるで、自分が人間ではないと言わんばかりの物言い。
 その言い方に、大河は強烈な違和感を感じた。

(まさか、実は人間じゃないとか……馬鹿馬鹿しい)

 大河は己の脳裏に浮かんだ考えを即座に打ち消した。
 どう見ても人間にしか見えないアダムの、どこか人間ではないというのか。
 あの言い回しも、おそらくダウニーを挑発するための虚言なのだと大河は己を納得させた。

「随分な言い方ですね、仮にも教師に対して」

「怒るな、この程度の事なんて簡単に聞き流せるだろう?」

「…まぁ、私の仕事はあなた方を案内する事。
 与えられた仕事は、きっちりとこなしますよ」

 とはいえ、明らかにダウニーは心情を悪くしているようだ。
 当然だ、あのような言い方をされて怒らない人間がいたら、そいつはよっぽどの人格者か頭が逝っている奴に違いない。 
 大河自身、あのような台詞を自身に向けられたなら冷静でいられる自信など欠片もなかった。

「私、何っていうか空気だね」

 背後で何やら影を背負っている未亜がいる気がするが無視しておく。
 気にしてしまったら、何やらよからぬ空間に引きずりこまれそうな気がするからだ。

「何やら1名ほど暗い空気を纏っていますが…まぁ、いいでしょう。
 さて、付きましたね」

 そういってダウニーは3人をある場所に案内した。
 目の前に悠然とした造りの門。
 質素な造りの様で、年代を感じさせる。

「これがフローリア学園の正門になります。
 今はまだ空いていますが、門限の6時には閉まるので覚えておいてください」

「6時って、後ちょっとじゃねぇか」

 実際、門限の6時まですでに30秒を切っている。

「そろそろですね」

 そう言いながら、ダウニーは静かにカウントダウンを始めた。

「…25…24…23…22…21…」

 カウントダウンが開始されると同時に、ゆっくりだが門が閉まり始めた。
 ギギギと軋む様な音を響かせながら、門は己の役目を全うするために動き続ける。
 その時―――――

「うぉぉぉおぉ!!!! 待ってくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 遠くの方で人影が見えた。
 大声で叫び声を上げながら、猛スピードでこっちに走ってくる。

「…15…14…13…12…11…」

 だがカウントダウンは無常にも刻まれていく。
 少しずつ、しかしゆっくりとしたペースで。

「…10…9…8…7…6…」

「ちょ、そんなに早くカウントするんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!」

 人影が叫ぶが、それでカウントダウンが止まるはずも無い。
 門の間のスペースは、既にほとんどない。

「…5…4…3…2…1…」

「ぬうぅぅあぁりぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 人影が微かにあったスペースに身体を滑り込ませようとする。
 まさに運命の天秤にも似た賭けの一瞬。

「…0…」

 バタンと、門は無常にも閉じられた。
 いや、正確に言うならギリギリのところで閉じられかけている状態で止まっている。

「セルビウム君、また貴方ですか」

「む、むきゅぅ」

 門の間に挟まれた青年にダウニーが呆れたような口調で呟くが、生憎と青年は返事している余裕なんてない。
 というより、今にも門に潰されて死んでしまいそうだ。

「……すごいな、大物だ―――― 感動した」

「って、呑気に言ってる場合じゃねぇだろ!?」

「そ、それよりも早く助けないと!!」

 そんな青年にアダムは感動し、大河はアダムにつっこみ、未亜は慌てて青年を助けようとする。
 何とも三者三様の反応だ。
 とはいえ、この状態がずっと続けば青年は窒息死してしまうのは確実だろう。

「おいダウニー!!」

「仮にも教師なんですから、ちゃんと先生を付けなさい」

「どうでもいいから、早く助けねぇとやばいんじゃねぇか!?」

「気にする必要などありませんよ」

「どうして!?」

「なぜなら、セルビウム君だからです」

「……」

 なぜだろうか、そのダウニーの台詞に妙に納得できるものを感じてしまう自分がいる事に大河は戸惑った。
 そもそも、このままでは窒息死するなんてぶっちゃけありえね、なんて考えてしまう自分に大河は何の疑問も抱かないのだから何とも不思議なものだ。

「ぬぅぅぉぉぉぉぉ……」

 低い唸り声を出しながら、青年は身体を捻るりながら少しずつ門から抜け出してくる。
 凄まじい形相で身体を捻りながら門から抜け出してくるその姿は、さながらゾンビのそれだ。
 少なくとも、大河にはそう見えた。

「ぉぉぉぉぉぉぉりゃぁ」

 何とか青年は門から抜け出す事に成功するが、既に半死半生。
 生きているのも不思議なほど、ボロボロだった。
 主に精神的な意味で。

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…し、死ぬかと思った」

 あの状態で死ぬかと思っただけで済むだけでも充分に凄い事だが。

「やれやれ、またですかセルビウム君。
 何度言ったらわかるのですか? この門の門限は6時だと。
 バイトに励むのもいいですが、もう少し校則というのを守っていただきたいものですね」

「わ、わかってる…ぜ…ダウニー……先…生…」

 死に掛けだった、いろんな意味で。

「本当にわかってるのですか? なら、なぜいつもこのような事になるんでしょうね」

 嫌味炸裂。
 明らかに原因がわかっていながら、それをあえて追求しようとしている。
 ダウニー・リードという男は大河から見ても、思いのほかいい性格をしているようだ。
 もちろん、悪い方向に。

「お兄ちゃん…」

「何だよ、未亜?」

「あのやり取りにお兄ちゃんの未来を幻視するんだけど」

 未亜に言われ、大河は青年を自身に置き換えてみた。
 門限を超え、門に何とか滑り込むも、その後でダウニーに永遠と嫌味を言われ続ける。

「………」

 違和感など、まるで無かった。

「未亜…」

「何?」

「気のせいだ」

「そう? 間違いなく」

「気のせいだって言ったら気のせいだ、じゃないと俺の精神的衛生によろしくない」

 つまり気付いているというわけである。
 とりあえず、未亜は大河の精神的衛生のためにそれ以上追求する事を止めておいた。
 賢明である、迂闊にそんな事をしようものなら大河は暴れだしていたかもしれない。

「それより、大丈夫ですか?」

「あ、ああ…何とも……」

 青年が未亜の顔を見た瞬間、固まった。
 まるで時が止まったかのよう。

「あ、あの…私の顔に何か付いてますか?」

「……う…」

「う?」

 瞬間、瞬間移動でもしたかと思うほどの速度で青年は未亜に接近した。
 あまりに一瞬だったので未亜も驚く。
 そして、青年が次に取った行動は――――

「生まれる前から愛して……」

 言い切る前に、大河の前蹴りが青年の顔面に突き刺さった。

「いげがっ!?」

「てめぇ、兄の目の前で妹に愛の告白をしようなんていい度胸じゃねぇか」

「は、ははは、じょ、冗談…」

「で済むなんて、思ってねぇだろうなぁ?」

 ボキボキ手を鳴らしながら、大河は眉間に青筋を作る。
 どうやら、青年の命運はここまでのようだ。
 南無南無と手を合わせるアダムを尻目に、未亜は慌てたように青年に近寄った。

「あ、あの、顔は大丈夫ですか!?」

「は、はははは、この程度、このセルビウム様に掛かればなんてことはないのですよ!!」

 自信満々に宣言し、どこか威厳のある姿を見せる青年。

「顔面から血を大量に流して言う台詞ではないですね」

 だがその姿も、ダウニーの冷静なつっこみによって瓦礫のように崩れ去った。
 何しろ、鼻血を大量に垂れ流しながら格好よく言っているのだ。
 威厳なんて最初から欠片も存在しないし、何よりあまりにもその姿が間抜け過ぎる。

「ダ、ダウニー先生…いくら何でも今の台詞は…」

「とりあえず、その鼻血を早く止めなさい。
 悪いですが、このような事で私は回復魔法を使うつもりなんてありませんよ」

「なっ!? いたいけな生徒を助けようと思わないんですか!?」

「貴方は別格だから大丈夫ですよ」

「ひ、ひでぇ」

 顔を上げ、首筋をトントン叩きながら何とか青年は鼻血を止める事に成功した。
 その青年の仕草に、大河は凄まじいまでの共感の念を抱いた。

(何って言うか、出会うべくして出会った親友…みたいな?)

 その共感に、どことなく嫌な意味も含まれているような気がしないでもない。
 主に女性に対してセクハラ行為を行う事に関しての共感とか。

「さて、ここで会ったのも何かの縁といいますし自己紹介をしましょう。
 こちらはこの学園の傭兵科に在籍しているセルビウム・ボルトです。
 セルビウム君、こちらは今日このフローリア学園に入学された人たちです。
 右から、アダム君、当真 未亜さん、当真 大河君です」

「っと、そういや自己紹介がまだだったな。
 俺はこのフローリア学園の傭兵科に在籍してるセルビウム・ボルトってんだ。
 学園内で分からない事があったら、俺に聞きに来てくれ。
 何でも教えてやるぜ!
 あ、あと俺の愛称はセルだ、できればセルって呼んでくれ」

 セルビウムの言論を聞く限り、面倒見はそれなりによさそうだ。
 もちろん、裏が無いのかと言われると首を傾げてしまうが。

(まぁ、確かに今の俺たちには分からない事だらけだからな。
 何かあった時は、こいつに頼ればいいか)

 内心で大河はこんな事を考えていたりする。

「ご丁寧にありがとうございます。
 私は当真 未亜っていいます。
 今日付けでこのフローリア学園に入学する事になりました。
 よろしくお願いします」

「次は俺だな。
 俺は当真 大河、こっちの未亜とは兄妹って関係だ。
 何か分からなかった時は、頼りにしてるぜ」

「最後はオレか。
 アダムっていう名だ、よろしく」

 何それぞれの正確が少しだけわかるような自己紹介だ。
 ただ、セルの表情がどことなく輝いているような気がしてならない。
 というより、主に未亜を見て輝いているような気がする。
 当たり前の事だが、大河自身はまったく油断していない。
 これで再びセルが怪しい行動を取れば、その瞬間に彼の顔面が陥没するような一撃を繰り出す事だろう。

「それより、だ」

 何か共感めいたものを感じたのか、セルは大河を連れて木陰付近にやってきた。
 もちろん、他の3名は少しだけ無視して。

「お、おい…なんだよセル?」

「おお、いきなり愛称で読んでくれるとは。
 ま、それよりもだ。こいつを知ってっか?」

 徐にセルは腰のポケットに手を突っ込むとそこから1つの玉を取り出した。
 形は、水晶に近いだろうか。

「見た感じは水晶に近いな…何なんだ、これ?」

「知らねぇのか、意外だな。
 こいつは幻影石って品物でな、映像を任意に記録したり出来るんだ」

「…ああ、なるほど。ビデオカメラみたいなもんか」

「…? びでおかめら? よくわからんが、とりあえず見てみろよ」

 セルは幻影石を起動させる。
 そこに記録されていた映像は―――― 

「おぉお!!??」

 大河が思わず大声を出してしまうのも仕方がない。
 中に記録されていた映像は、若い女性や少女の映像だった。
 しかも、どれもが下着姿。
 どうやら、どこかの更衣室で着替えているところを盗撮でもしたのかもしれない。
 仮に盗撮が真実なら、どう考えても犯罪行為だ。

「す、すげぇ!! これ、どうやったんだよ!?」

「ふっふっふ、蛇の道は蛇ってね。
 このセルビウム・ボルト様に掛かれば、この程度の事など容易いことよ!!」

 仁王立ちするセルの姿に、大河はどこか神々しさを感じずにはいられなかった。
 まるで、自分を天国に連れて行ってくれる神様のような存在。
 少なくとも今の時点で大河の目に映るセルとは、そういう存在だった。

「セ、セル!! いや、心友よ!! わかってるじゃねぇか!!」

「おうよ!! 漢ならば、誰もが憧れる女子更衣室!!
 そこに女子更衣室があるならば、撮らねば漢じゃない!!」

「セル!! お前は神だ!! 神がここに光臨した!!」

 既にまったく忍んでいない事に2人は気付いていない。
 というより、自分達の背後に立っている男に、2人はまったく気付いていなかった。
 当たり前だろう、2人は自分達の世界に入ってしまっているのだから。

「さて、これはどういうことですか?」

 世界が死んだ。
 そこでようやく2人は背後に立っている悪魔の存在に気付く。
 ギギギと錆びた機械のように、非常にゆっくりとした動作で大河とセルは振り向いた。

「まったく、セルビウム君、貴方はまたこのような事をやっていたのですか?
 いい加減、学習して欲しいものですね」

 背後に立っている悪魔の皮を被ったダウニー・リードという名の教師。

「なっ!? 忍んでいた俺たちに気付いただとう!?」

「いや、どこをどうみれば忍んでいるのですか?
 仮に本気で忍んでいた気になっていたのなら、私は貴方の頭を本気で心配しますよ」

 そう言っている隙に、ダウニーは神業にも等しい速度でセルから幻影石を取り上げた。
 まさしく、一瞬の出来事。

「なっ!? いつの間にっ!?」

「どうでもいいですが、この幻影石は没収です。
 いくら学生だからといって、やっていい事と悪い事があるでしょう。
 セルビウム君、貴方はそれが分からないほど頭が足りていないのですか?」

「ふっ、ダウニー先生、俺は子供の心を持ったままの大人になりたいんですよ」

「子供心とスケベ心は別物とすら認識できないのですね。 
 それに気付かない私が悪いのでしょう、謝っておきます」

「………すいません」

 フローリア学園傭兵科在席、セルビウム・ボルト―――― 17歳。
 教師であるダウニーの嫌味にあっさりと陥落した。

「ったく、随分とあっさり陥落したな」

「遺言はそれだけ、お兄ちゃん?」

 右側から聞こえる背筋が凍るような冷たい声に反応せず、大河はあえて聞こえないふりをしておいた。
 そんな事が無駄な事など分かりきっているが、それでも聞こえないふりをしなければならない。
 なぜなら、その声が聞こえたと認識した瞬間、間違いなく精神的衛生によろしくない。

「聞こえないふりをするの?」

「あ〜あ〜、本日は青天なり」

 既に空は茜色を越え、夜の闇に染まり始めているのだが。
 もちろん、大河の台詞は現実逃避以外の何でもない。
 どれだけ現実逃避しようとも、ある意味において大河が絶体絶命のピンチに変わりはないのだから。

「現実逃避するなら、それでもいいよ。
 どっちにしても、お兄ちゃんが地獄逝きの契約書にサインしたのは間違いないんだから。
 あと、お兄ちゃんは次に“俺は別にサインなんてしてない”って言うよ」

「ちょ、俺は別にサインなんてしてない……はっ!!??」

 この瞬間、大河の死亡フラグが成立した。

「阿鼻と叫喚が奏でる地獄の世界へようこそ、お兄ちゃん。
 で、覚悟はいいよね? 自分で死亡フラグにサインしたんだから」

 来て、ジャスティと言って未亜はジャスティを召喚する。
 率直に言うなら、この時点で大河は四面楚歌に匹敵するような状況に陥っていた。
 セルはダウニーの嫌味によって撃墜されており、そもそもダウニーが助けてくれるとは思えない。
 最後の頼みの綱であるアダムなど、逝って来いと云わんばかりに笑顔で手を振っている。
 なら、後は自力で何とかするしかない。
 何とかなる可能性は限りなく0に近いのだが。

「…未亜」

「何、言い逃れを考えてるの?」

「当真家には代々伝わる伝統的な戦い方があってな、それは……」

「逃がさないから」

 逃走フラグは、あっさりへし折られました。
 放たれた矢が、大河に直撃する。

「げばっ?」

 矢は貫通する事無く大河を衝撃波で吹き飛ばしただけだった。
 というより、貫通したらその時点でヤバイのだが。

「さて、言い逃れはある、お兄ちゃん?」

 神速も真っ青な速度で未亜は大河の傍によると、胸倉を掴み顔面を一発殴る。
 大河の鼻から血が流れたような気がしたが、未亜はまったく気にしない。
 にしても、外見に似合わずなかなかバイオレンスだ。
 そもそも、言い逃れを言ったところで未亜はまったく大河を許すつもりなどないだろう。

「み、未亜…」

「遺言だね、お兄ちゃん。安心して聞いてあげるから」

「わかった、じゃいうぜ」

 そういって大河は息を吸い込むと――――

「白………グッジョブ!!」



























「HAHAHAHA!!」

 アメリカンな笑い方をしながら倒れた大河をマウントポジションで殴りまくっている未亜の姿が目撃できたわけだが、きっと目の錯覚に違いない。
















〜しばらくお待ちください〜



















 ズタズタのボロボロな状態の大河にモザイクが掛っているような気がするが、気のせいに違いない。
 じゃないと、衛生によろしくない。
 特に精神的に。

「生きてるのか?」

「ってか、マジで未亜さんに惚れそうだぜ」

「…セル、趣味悪いって言われないか?」

「へっ?」

「いや、何でもない」

 人間、見かけによらないものなのだ。


















◇ ◆ ◇


















 その後、色々と案内され、最後に寮へやってきた。
 もっとも、この場にダウニーはいない。
 ってか、はっきり言うと途中からいない。
 何しろ途中から、

“今日は遅いですし寮の案内はセルビウム君に一任します”

 などと言って去って行った。
 逃げたなどとも取れる行動だが、彼も教師だ。
 それなりに忙しいのかもしれない。

「ここが寮だ」

 セルが言う先には豪華絢爛と言える大きな建物が立っていた。
 形そのものは、中世のヨーロッパ貴族が住んでいた建物に似ている。
 かなり大きめであり、大勢の生徒が住む為に設けられたのだろう。
 ならば、手抜き工事なんて出来るはずもない。
 そういった意味では、この建物はまさしく『普通』の出来である。
 もちろん、出来そのものは現代世界の建物に比べても、上出来の部類に属するのは間違いない。

「わぁ…………なんだか、ヨーロッパのお屋敷みたい」

「へへっ、いいだろ? この学園、こういうのケチらないからな」

「それで、オレたちはここのどこに住めばいいんだ?」

「ん? 救世主専用の部屋がある棟に行けばいいんじゃねぇか?」

 それを聞き、アダムはちょっとだけため息を吐いた。

「大河にセル、こういう場合は寮長とかに話を通した方が早いと思うが」

「寮長? ああ、ベリオさんがいたよな。よし、ちょっくら呼んでくる」

 そう言ってさっさと走っていってしまうセル。
 パッと見ではいい人であり、実際に未亜も、セルの後姿を見ながら、いい人だね、と言いながら見送っていた。
 ただ、大河とアダムには、それが未亜に対するアピールだと言うことはバレバレであった。

(何を考えてるか、見え見えだっての)

 セルが何を考えているのか、大河は一発で見抜いたがあえて何も言わなかった。
 理由はどうあれ、確かに助けられているのは事実。
 なら、その事実を否定する事もあるまい。

「ねぇ、お兄ちゃん………」

「ん? どうした未亜」

「私たち、どうなるのかな」

 不安――――― その言葉と感情が未亜を支配する。
 だが、仕方がない事かもしれない。
 昨日までは普通の高校生で、今日は世界を救うと伝えられる救世主候補。
 たとえるなら、普通の高校生が次の瞬間には戦場に放り出されたようなものであり、だから不安である事はおかしい事などなければ恥じる事でもなくて、寧ろ当然の事だった。
 そう――――― 当然といえば当然の感情。

「心配すんな未亜、俺が守ってやるよ。なんたって、俺はお前の兄貴だからな!」

「………うん!」

 嬉しそうに笑う未亜。
 そんな笑顔の未亜を見て、大河は自分が妹を守らねばならないという使命感に燃えていた。
 その使命感のような思いがどのような結果をもたらすのか、この時点では誰も予想できなかっただろう。

「お〜い、寮長を呼んできたぜ!」

 で、そんなこんなでセルは1人の女性を連れてきた。
 金色の髪に、どことなく神官が着るような服を着ている女性。

「初めまして、私は救世主候補でこの寮の寮長をしていますベリオ・トロープです」

「初めまして、当真 未亜です」

「アダムだ」

「俺は当真 大河! 1000年前から愛していました!! 一緒に(ぐわしゃぁ!!)・・・」

 大河が何かを言い切る前に、未亜の手によって沈黙させられる。
 そんな大河を未亜は怒気の含んだ顔で、アダムは呆れたような顔で、ベリオは?顔で、セルは少しだけ尊敬したような顔で、それぞれ見ていた。
 もっとも、大河にとって見ればこの上ないくらい痛いだろうが。

「大丈夫か、大河?」

 とりあえず呆れた顔のままアダムは大河に話しかける。

「だ、大丈夫、だ」

 そう言って倒れる大河は、どう見ても大丈夫じゃない。
 なお、大河が倒れて抑えている部分は水月であることを記しておく。
 もっと分かりやすく言うなら、鳩尾の部分である。
 とりあえず、アダムは大河の事は無視する事にした………決して、命が惜しいからという理由ではない、と思いたい。

「あ〜、とりあえずベリオと呼ばせてもらうけど、いいか?」

「はい、構いませんよ。そのかわり、私は貴方をアダム君、と呼ばせてもらいますね」

「構わない。それで、早速なんだけどオレたちは一応、救世主候補となっている。
 なんで、住む部屋を教えてもらいたいんだけど」

「何!? お前、救世主候補だったのか!?」

「ってか、気付かなかったのかよ?」

「あ、ああ」

 驚きの声を上げるセル。
 いや、驚いたのはセルだけではなく、ベリオや未亜、大河も驚いている。
 というか、大河、いつの間に復活したよ?
 とりあえず、変な事をしないように未亜が大河の後頭部を踏み抜いて再び気絶させる。
 誰もその事についてはつっこみを入れない、ってかつっこみの入れようがないのだが・・・・・・まぁ、仕方のないことだろう。

「えっと、救世主候補だったんですか?」

 驚いた表情のまま未亜がアダムに問いかける。
 そんな未亜の問いかけに、アダムはなぜか乾いた笑みを浮かべた。

「史上初の男性救世主候補だぜ! しかも、俺とアダムの2人!!」

「歴史に名を残す、か?」

「おうよ! 史上初なんだからな、歴史に名を残さないと嘘だぜ」

「悪名じゃなければいいが」

「確かに、そうですね………しかし、困ったわ」

 そう言って本当に困ったと言う表情を作るベリオ。
 そんなベリオを見ながら不振そうな顔をするアダム。

「どうかしたのか?」

「いえ、本来なら救世主候補専用の部屋に入れたいんですが………」

「ま、しょうがないぜ。なんたって、今まで女しかいなかったんだからな」

 と言うセルの台詞に、アダムが何となくだが理解できた。

「つまり、ほとんど女性専用と化しているわけか」

「そうです。ですから、未亜さんを入れる分には問題ないのですが」

「確かに。ましてや、オレと大河は異端と言えば異端だ」

 異端とはいえ、救世主候補に違いない。
 史上初の男性救世主候補が寮に入れず野宿させられるなど、まったくもって前代未聞だろう。
 存在そのものが前代未聞でもあるのだが。

「とは言え、野宿をさせるわけにもいきませんし―――― 傭兵学科の寮はどうですか?」

「無理。この学園、慢性的に部屋が不足してるからな」

 逆にいうなら、それだけこの学園は原住民に人気があると言えよう。
 文明レベルは地球でいうところの中世に相当する。
 当然ながら、それなりの格差も存在するはずだ。
 だというのに、寮の部屋が慢性的に不足しているという事は、人気以外にも入学費や授業料などの費用が格安という面もあるのかもしれない。

「となれば、後は宿屋か野宿か。
 資金面の問題から宿屋は除外したとして、残りは野宿、か」

「先ほども言いましたが、野宿はだめです。体に悪すぎます」

「だが、部屋は満室なんだろ? さっきも言ったけど資金面の問題から宿屋も長期的には無理だ」

「ですよねぇ〜」

 進退ここに極まったというやつだ。
 さて、どうしたものか。
 明らかに嫌々という顔をする大河だが、現状に選択肢はそれほどない。
 まぁ、いきなり野宿しろなんて昨日まで高校生だった大河には大いに抵抗があるに違いないし、何より問題なく大河が野宿を出来るかと云われると、それはそれで無理な話なわけである。
 もちろん、やろうと思えばやれるだろうが所詮は素人。
 かならずどこかで歪みが発生する事だろう。

「なぁ、委員長。なんとかならないか? 俺はさすがに野宿は嫌だぜ?」

「う〜ん」

 彼女としても、このような展開は予想していなかった。
 まさか、男の救世主候補が現れるなんてベリオは・・・・いや、きっとこの世界の住人の誰も予想していなかったに違いない。

「ならさ、私の部屋で一緒に寝ればいいよ」

「「駄目!!」」

 未亜の提案に一瞬にして却下をするベリオとセル。

「男性と女性が一緒の部屋で寝るなんて、言語道断です!!」

「そうだぜ! そりゃ許せねぇ!!」

 もちろん、セルが未亜と一緒に住むという点に駄目と言っているが、それはどうでもいい。
 ベリオの方は、純粋に駄目と言っているようだ。
 もっとも、彼女が固すぎるのは間違いないだろうが。

「ならどうするんだ?」

 もはや呆れたような表情を作りながらアダムがベリオに聞く。
 それから悩むようにしばし考え出したベリオだが、妙案が浮かんだとばかりに嬉々とした表情を作った。

「ちょうどいい部屋がありましたよ!」

「いい部屋?」

「はい、ペントハウスですよ♪」

 その笑顔に、なぜか寒気にも似た悪寒を感じる大河とアダムだった。


















◇ ◆ ◇


















「ペントハウス………なのか?」

「絶対に違うだろ。詐欺なのは間違いねぇぜ」

「はぁ〜、人生、侭ならないものだ」

 などと愚痴る男3人。
 ベリオが提案した場所とは、屋根裏部屋であった。
 それも、蜘蛛の巣が張り、かび臭い刺激臭が蔓延し、もはや人が住めるのかどうか怪しい部屋。
 セルの言う通り、これがペントハウスなら詐欺もいいところである。
 現在掃除しているのは大河が使用する予定の部屋であり、アダムは向いにある屋根裏部屋を使用する予定だ。
 ちなみに、向かいの屋根裏部屋は既に清掃済み。

「これがペントハウスなんて言うんなら、世の中の普通の部屋はどれだけ高級なんだよ」

「言うな。とりあえず、もっと早く体を動かせ」

「うるせぇ」

 そりゃまぁ、言いたいことはよくわかる。
 こんなボロ部屋がペントハウスなら、まさしく詐欺であり詐欺以外なんでもない。
 これは何かの陰謀か、と大河とアダムは考えると同時に、神に向かって恨み言を大量に送ってやる。
 送ったところで現状に変化など一切ないし、既に決定してしまっているので今更この状況が覆るわけでもない。

「ったく、これでよしと」

 何とか人が住める程度に片付いた部屋を見ながら、大河は深くため息を吐いた。
 もしかして、自分は呪われているのではないかと考えてしまう。
 確かに、そう思えてしまうくらいボロかったのだから仕方がないと言えば仕方がないかもしれない。

「これで、当分は大丈夫だろうけどな……男だと、いつもこんな扱いを受けるのか?」

「ああ。救世主が今まで全員女だったからな。
 だから、どうしても女が出来て男は何も出来ないって言う偏見みたいなのが生まれちまったんだ」

「なるほどな―――― まぁ、俺たちが住んでた世界にも似たようなのがあったな、男女が逆になってたけど。
 だけどよ、そんなに救世主ってやつはいいもんなのか? 俺にはよくわからねぇよ」

「あ〜、お前にはわからないかもしれないけどさ。
 そのかわり、リターンもでけぇから気にすんなよ」

 実際、救世主というのは世界で唯一の職業と言えた。
 人々から英雄と称えられ、尊敬と畏敬の念を一身に背負い続ける。
 それがアヴァターという世界における救世主という存在。
 多くの人々が憧れるのも無理はないことなのだ。

「そういうな。救世主なんて、いいもんじゃない」

 そう言ってアダムは静かに2つあるベットの片方に腰を下ろした。

「な、なんだよ? お前、救世主を否定するのか?
 なんたって、王様以上になるのが難しいんだぜ?」

「セル、お前は何もわかってないな。まぁ、大河もだけど」

「何がだよ?」

 大河とセルを見ながら、真剣な顔をするアダム。
 その雰囲気に、大河もセルも息を呑んだ。

「いいか、救世主なんてものは、結局のところ『人殺し』だ。
 救世主と呼ばれてきた者たちが犯してきた罪。
 英雄と呼ばれる人々が犯してきた罪。
 それは全て一緒だ、つまり人殺し。
 1人殺したら人殺しで、10人殺したら殺人鬼。
 100人殺したら殺戮者、1000人殺したら虐殺者。
 そして、10000人殺したら英雄となる。
 おかしいものだろ? 殺した人数によって呼ばれ方が変わるんだから」

「だ、だけどよ」

「言いたいことはわかる、確かに救世主と言うのは他の者たちから見れば魅力的だろう。
 だけどな、救世主が人殺しであるのは、どの時代でも、どんな世界でも変わりないんだ。
 そして、救世主になったとしても絶対に救えない人間なんていくらでもいる。
 なら、時にはそう言った人々を見捨てる『覚悟』も必要になってくる」

「……………」

「……………」

 大河もセルも何も言わない。
 だって、アダムの言っていることは、何となくだが真実に思えたから。
 だから、大河もセルも、何も言えない。

「まぁ、こんなこと言ったって意味なんかないけどな。
 結局、救世主に対して何を見出すかは、その人物しだいさ」

 そう締めくくったアダムに対して、大河とセルは呆然とした感じで見ている。
 そんな2人を見ながら、アダムは何か不思議そうな顔をした。

「どうかしたか?」

「いや、なぁ」

「ああ、なんっていうか」

「だから何だ?」

「哲学的っていうか」

「論理的っていうか」

―――――― 少し、難しかったか」

 呆れたような表情を作りながら、アダムはため息を吐いた。
 もちろん、この後の二人の行動が何となく予想できたからだ。

「それで、大河たちはこれからどうするんだ?
 一応、部屋の掃除も終わったし、明日までやる事は特にないが」

「ん? んなもん決まってるぜ、なぁ大河!!」

「何すんだ?」

 訂正、大河は何もわかっていなかったようだ。
 話が突拍子過ぎたのも原因の1つかもしれないが。

「かぁぁ!! わかってねぇな大河!! 
 この夜、そして響き渡る女の声!! そして、風呂!!
 もうやること決定じゃねぇか!!」

「なるほど!! そうだな!!」

 はっはっはっは、と先ほどの展開を感じさせないかのように笑う大河とセル。
 そんな2人を見ながら、アダムは深くため息を吐いた。
 2人が何を考えているかなど、アダムにも理解できているのだろう。
 もっとも、理解できてもアダムの場合は行動を起こそうとはしなさそうなのだが。

「つまり、覗きに行くんだな」

「人聞きが悪い!! 純粋に、女性の体に傷がないか風呂へ確かめにだなぁ」

「つまり、覗きなんだな?」

 身も蓋もない言い方だが、事実その通りなのだ。
 だから、大河もセルもアダムに対して強く言い返せない。

「ああそうだよ! 覗きだよ! お前なんか誘ってやらねぇからな!」

「ああ、誘わなくて結構だ。そこまで女に飢えてるわけじゃない」

「じゃまさか、男色家!?」

「死にたいのか?」

 ドスの入ったアダムの台詞に2人はブンブンと顔を横に振った。
 どちらにしても、大河達のやるべき事は変わらない。

「じゃ、アダムはほっといて、俺たちだけで行こうぜ相棒!」

「おう!! 行こうぜ相棒!!」

 そう言って部屋を出ていく大河とセル。
 そんな2人の背中に――――

「やれやれ、結末なんて分かり切ってるのに。
 まぁ、こういうのも楽しまなければ損か」

 そんなアダムの台詞が突き刺さった。







 なお、この後で大河とセルがどうなったかなどいちいち言わなくても分かる事だろう。





【元ネタ集】

ネタ名:生まれる前から愛して…
元ネタ:GS美神
<備考>
横島がよく行っているお約束の台詞。
本編では未遂に終わっているが、原作ではこの言葉の後でルパンダイブをしたりしなかったり。
登場当初はあんなにへたれだったのに、最後辺りではかなりの漢になっている人物。
でも、やっぱりへたれな部分はへたれなままだったりする。


ネタ名:俺は別にサインなんてしてない……はっ!!??
元ネタ:JOJOの奇妙な冒険 第3部
<備考>
登場人物の1人であり、第2部で主人公をしていたジョセフ・ジョースターの先読みから。
「次にお前は、○○と言う」と言い、相手がその通りの台詞を言った後、敵をボコボコにするという展開が待っている。
簡単にいうなら死亡フラグ。
本編では大河がやってしまった。
その後、彼の行方を知る者は誰もい(ry


ネタ名:HAHAHAHA!!
元ネタ:武装錬金
<備考>
大戦士長の坂口照星から。
武装錬金の世界において、ヴィクターを抜くと最強の人物と思われる。
何気に他の戦士長を「HAHAHA!」と笑いながら素手でボコっているので腕っ節もかなり強い。




あとがき

こうやって見てみると、本当にネタが満載だなぁ、とか思ったりしています。
というか、ギャグ…ちゃんとギャグになってますよね?
実はいうと、私はギャグはそんなに得意ではないんです。
どっちかというと、シリアスの方が書きやすいっていうか、なんっていうか。
なので、ギャグがちゃんと書けているかどうか不安です。
いや、究極的にはシリアスもちゃんと書けてるか不安なんですが。