「そ、それでこの格好で何を……? 拙者、正直なところかなり恥ずかしいのでござるが……」



 チラチラと自分の格好を気にしている様子のカエデを見て、大河は一人ほくそ笑んでいた。

 恐らくカエデはこういった女の子っぽい服は着たことがないんじゃないかと予測していたのが、どうやらビンゴだったらしい。

 短いスカートや体のラインを強調するという部分はそれほど抵抗はない。

 だが、自分が女の子女の子している服を着ているという現実に戸惑いを覚えている。

 そんな感じだった。



 「ふっ、それが狙いなのだよ」

 「そ、それはどういう……」

 「カエデ、お前こういう服を着たことがないだろう?」

 「はい、故郷にはこういったものは」

 「違う違う。女の子っぽい……こういうスカートがあるような服だよ」

 「無論、ないでござる。修行の毎日であったので」

 「ちっ、やっぱりか。なんてもったいな……げふんげふん。じゃなくてだ、お前、今恥ずかしいだろう?」

 「そ、それは当然でござるよ……」



 穴があったら入りたい。

 そんな感情を表情に出しているカエデを抱きしめたい衝動に襲われた大河だったが、なんとか自制する。

 でないと先に進まないのだ。



 「よし、では特訓の内容を発表する……それは、デートだっ!!」




















Destiny Savior

chapter 56   Apprentice(Y)





















 「でーと……でござるか?」

 「うむ、逢い引きとも言うが」

 「あ、あああああああ逢い引き!?」



 ぼしゅ!

 頭から湯気を発したカエデが激しく動揺する。

 相変わらずこのテの話題には弱いよなー、と微笑ましくカエデを見つめる大河。



 「無論、ただの逢い引きではないがな」

 「そ、それはどういう……」

 「これは特訓だと言っただろう? これから俺たちはバカップルとなるのだ! 主にお前が!」

 「せ、拙者バカになるでござるか!?」

 「そうだ! そうすることによって人目を気にしない度胸をつけ、確固たる自己を確立することによって自信をつけるというわけだ!」

 「な、なるほど!」



 目から鱗が落ちた!

 カエデの表情はそんな感じであった。

 当然、騙されていることには気がついていない。

 まあ、大河からすれば騙しているつもりはないので実際騙されているかといえば微妙なところなのだが。



 (ま、できるだけやってみるか……成功すればそれで良し。また失敗すれば……うひひ)



 前のことを思い出し、大河は邪な笑いを浮かべる。

 しかし、カエデはその笑いを大胆不敵なものと捉え、大河への尊敬の念を一層深めていたのだった。

 盲目は時に喜劇を呼ぶという一例である。















 「んじゃ、とりあえずここの壁ののぼり降りな」

 「……逢い引きではなかったのでござるか?」

 「準備運動だ」

 「なるほど」



 何がなるほどなのかさっぱりわからないが、カエデは納得した様子で壁のぼりを始めた。

 二人が最初に目的地としたのは召喚の塔。

 カエデに壁走りの技能があるとすでに知っている大河としては、この行為にさほどの意味がないことなど承知済みである。

 では何故やらせているのか?

 それは……



 (うん、丸見えだな)



 大河はうむうむと首を振りながらカエデの様子を見つめていた。

 そう、この男は壁をのぼって行くカエデのスカートの中を見たいがためにこんなことをやらせているのである。

 無論、それだけではない。

 バーストフットに応用できる部分がないかと足運びなどにもちゃんと目を向けてはいる。

 一応戦闘関連のことも忘れてはいないのだ。

 まあ、今の大河を見る者がいれば間違いなく単なるスケベ男にしか見えないだろうが。



 「しかし……シュールだな」



 ぽつり、と呟かれた大河の言葉に返事を返すものはいなかった。

 しかし誰かがいれば大河の言葉に同意しただろう。

 壁を駆け上がったり飛び降りたりするメイドさん。

 シュール以外の何者でもない。



 「……凄いもんだなよなぁ。体術だけであれだけのことができるんだから。白だし」



 最後の一言は余計だったが、大河は純粋にカエデの体術を賞賛していた。

 召喚器抜きならまず勝てない。

 ありで戦ったとしても、真っ当な接近戦では恐らく手も足もでない。

 改めてカエデの凄さを認識する大河だった。



 「でも、性格がアレだからな……多分今だってパンツ見えてることを指摘したらおっこちるだろーし」



 大河は顔を真っ赤にして墜落するカエデを想像し、笑いを漏らす。

 もちろんそんなことになっては困るので指摘はしないが。

 実際問題、カエデが今後の戦いにおいて役に立たなかったかといえばそうでなない。

 カエデは戦闘状態へとスイッチが入れば別人のように凛々しくなり、頼もしい仲間へと変貌する。

 血が苦手といっても、モンスターの血は赤くないのでモンスターの血に関してはどうやら体液として認識しているようでもあった。

 つまり、カエデは現在のままでも対人戦を除けば十分戦力になるし、仲間として申し分ないのである。

 実際、カエデがいたせいで困ったことになったということは戦闘においては一度もなかったのだ。

 そういう意味では大河の特訓は意味がないといっても差し支えない。



 (でもまあ……自信を持てるようになることは大切だし、恐怖症だって治せるんなら治したほうがいいだろうしな)



 言い訳するかのような自分の思考に大河は苦笑した。

 本音を言ってしまえば、単に前と同じことをしたかっただけだったのである。

 師匠と弟子、そんなふざけているようでふざけていない関係が好きだったのだ。

 もちろん、カエデに自信を持たせようとしているのは本当の気持ちである。

 ただ、昔を懐かしむかのような、そんな気持ちもあったのだ。



 「カエデには悪いことしてるかな……」



 ポリポリ、とバツが悪いように頬をかく大河。

 その時、大河の背後をすうっと通り過ぎていく人影があった。

 当然、大河はそれに気がつかない。

 しかし、偶然人影が砂利を踏んだことで大河はその存在に気がついた。



 「お?」

 「…………(ぺこり)」



 人影はリコ・リスだった。















 「師匠〜、終わったでござる」

 「お、そうか」



 カエデの登場に大河は少しだけほっとした。

 理由がよくわからないのだが、自分はリコに避けられている。

 それがわかっていたが故に大河は第三者であるカエデの登場に感謝した。



 「ん? おお、リコ・リスどのではござらぬか」

 「……どうも」



 リコはぺこりと軽く一礼するとカエデへと視線を向ける。

 彼女としては大河のいるこの場をすぐに離れたかったのだが、カエデがいるのではそうはいかない。

 カエデはそんな微妙な気配がわかっているのかわかっていないのか、嬉しそうな表情でリコを見つめていた。

 ちなみに、リコはカエデの服装を怪訝に思ったりはしていない。

 元々彼女には外見を気にするという概念はあまりないのだ。



 「先日は礼も済まぬままであったからちょうど良かった」

 「……礼、ですか?」

 「リコ・リスどのは拙者の恩人でござるからして」

 「私はただ……資格のある者に、選択肢を与えるだけです」



 無表情に返事を返すリコ。

 しかし、大河はリコの感情に僅かな揺れがあったことを見抜いていた。

 本人が自覚していない程度―――――照れというよりは困惑。

 そんな感情がリコの纏う雰囲気に表れていたのだ。

 無論、それがわかるのは大河くらいのものではあったのだが。



 「拙者のような者でも、世界を救うことのできる可能性がある……最初に勇気をくれたのが、リコ・リスどのでござった」



 心の底から感謝している。

 そんな想いを前面に押し出した声音でカエデは独白していた。



 しかし、カエデ達と違い、大河と未亜はリコに呼ばれたわけではない。

 白の書の力とトレイターの力が二人をここ―――――召喚の塔へと導いたのだ。



 (ま、そんなことは今となっちゃ関係ないけどな)



 大河は塔を見上げ、そしてリコへと視線を戻した。

 召喚のことを抜いたとしても、リコには感謝している。

 赤の書というパートナーとしての意味だけではなく、仲間として、傍にいてくれた女の子としても。

 目の前にいるリコは厳密に言えば大河の大切なリコではない。

 それでも、それがわかっていても。

 大河はリコへ手を伸ばすのを止められなかった。



 「え……」

 「……ごめんな」















 口から出たのは謝罪の言葉、それでも大河は精一杯の感謝をこめてリコの頭をゆっくりと撫でた。
















仮のあとがき

リコなでなでイベント、原作にあったイベントですがこれはどうしても外せない!
何故ならばリコ関係ではこのイベントが一番萌えたからだっ! ←バカ
あと、一つほど謝罪らしきものを。
前回後二話でカエデ編終わるよーって言ってたけど見事にそれはなくなりそうです。
ぶっちゃけ三話以上確定(マテ