「お嬢ちゃんではない。私にはクレアという名前がある」
偽名、というか友人に呼ばせている愛称を名乗り、クレシーダ―――――否、クレアは自分を見つめる救世主候補三人を見つめ返した。
戦士系の大河、魔法使いのリリィ、僧侶のベリオ。
(見事にバランスが取れておるな……確かあと一人召喚士がいると言う話だから、後は後方支援のジョブクラスがいれば完璧なのだが)
書類だけではわからないことを知りにクレアはここにやってきたと言っても過言ではない。
自分で見て、自分で判断する。
それはクレアにとって当たり前のことだった。
まあ、お供の者からすれば迷惑この上ないことなのだが。
(ふむ、仲間内の仲は悪くなさそうだな……ややあの魔法使いの我は強そうではあるが)
自分をどうするか話し合っている三人を見つつ、クレアはそんな評価を救世主クラスに下していた。
Destiny Savior
chapter 48 Princess(U)
「おおー、すごいのぅ」
目を爛々と輝かせてクレアは闘技場へと飛び出して行く。
大河一行はやはり前と同じくクレアを案内することになった。
今回は気弱な未亜の変わりに生真面目なベリオから切り崩されてしまったのである。
「おい、迂闊に変なところ触るんじゃないぞ」
「平気である」
「おいおい……ったく。ベリオ、リリィ、お前ら二人もなんとか……って駄目か」
後ろを振り向いた大河は暗いオーラを背負った二人の少女を見てため息をついた。
ご案内ルートとして一同は礼拝堂、校舎外、食堂を通って来たのだが……
礼拝堂では破滅についての論戦でクレアに論破されたベリオが。
校舎外ではミュリエルとダリアの話を盗み聞いたことでリリィがそれぞれ落ち込んでしまったのである。
かく言う大河もセルとの約束(魔術師クラスの女の子との食事)をすっぽかすことになってしまい、少しだけ落ち込んでいるのだが。
「ああもう俺一人で子守りかよ……って待てよ、なんか忘れてるよーな……?」
ガチャン
大河が何かを思い出そうとしたその時、何かが作動する音が周囲に響いた。
クレアの方を見ると、彼女は何かのレバーを下に倒している。
「……すまぬ」
「おい……」
「動かしてしもうた……」
「しまった、これを忘れてたーっ!?」
大河の叫びと、開放された檻の中からモンスターの群れが飛び出てくるのは同時だった。
「トレイターっ!!」
クレアの傍にいた大河は瞬時にトレイターを呼び出すとクレアに襲い掛かろうとしていたモンスターを蹴散らす。
そしてそのままクレアを肩に担ぎ、離脱しようとする。
「おお、大河……やるのう」
「しっかり掴まっていやがれ……って援護しろよお前らっ!?」
「え……あ!?」
「も、モンスター!? なんで!?」
大河の叫びにようやく反応するベリオ&リリィ。
人一人を肩に担いだままという非常に不利な戦いを繰り広げる大河。
だが、慌てて援護を始めた二人のおかげでなんとか戦線離脱が行える状態になる。
しかし、援護が遅すぎたせいか、離脱の際に大河は背中に攻撃を喰らってしまう。
「ぐうっ……!」
「た、大河!?」
「ちょっとここで大人しくしてろ! すぐに奴らを黙らせてくる!」
「し、しかしお前、その傷では……」
「やかましい! 女が戦っているってのに男である俺がこれくらいの怪我で休んでいられるかってんだ!」
「……すまなかったな、大河」
流石に責任を感じているのか、クレアは申し訳なさそうな表情になる。
だが、大河はニカッと笑い、クレアの頭を一撫でした。
「バーカ、ガキがいちいち心配すんなって。なーに、俺はヒーローだからな、これくらいの怪我はむしろちょうど良いハンデだ!」
破顔一笑、モンスターの群れへと駆け出す大河。
クレアは、そんな大河の姿を頼もしそうに、そして痛ましそうに見つめていた。
「本当にすまなかった……だが、見せてもらうぞ、救世主候補たちの実力……」
救世主候補三人の戦いっぷりは、ある意味でクレアの期待通りであり、また期待外れのものでもあった。
まず、ベリオ。
彼女は他の二人を懸命にサポートし、縁の下の力持ちを見事に成し遂げている。
その上、自身もサポートだけではなく隙あらば攻撃に打って出ているし、状況判断も悪くない。
次にリリィ。
その時々で最適な魔法を使用する冷静さは見事なものであるし、魔法の技術・威力は共に申し分ない。
だが、彼女はワンマンな部分が目立ち、他の二人との連携が出来ていないためか一人が突出する形になることが多かった。
そして最後に大河だが、彼はある意味圧巻だった。
身の丈ほどあろうかという大斧を片手で振り回しモンスターを蹴散らし続けている。
それでいてベリオやリリィの邪魔にならないように、いや、時には彼女らのサポートにまわるような形をとることすらある。
「ふむ、個々の能力は高い……だが、パーティーとしてはまだまだというところか」
戦術を学んでいるクレアは三人の戦いを見て、そう評す。
大河やベリオが合わせようとはしているのだが、リリィが突出した形をとっているために連携が取れず、個々で戦うような形になっているのだ。
「ふむ……ん?」
クレアが見つめる中、また一体のモンスターが大河の大斧に屠られる。
だが、クレアはそんな大河の戦いっぷりに違和感を覚えた。
大河の動きが何故か時々一瞬止まるのだ。
それに大河は先程から片手しか使っていない。
「まさか……先程の傷だけではなかったのか!?」
驚愕の声をあげるクレア。
そう、大河の体は万全ではない。
守護者との戦いで負った右腕の傷は完治していないし、昨夜の戦いで傷はまたぶり返している。
しかも、昨夜の戦いで受けた傷も戦いの中で開いてしまったのだ。
更に、つい先程背中に受けた傷もある。
本来ならば大河は戦闘ができる状態ではないのである。
「馬鹿な……何故、そこまでして戦うのだ……」
クレアの言葉は喧騒の渦に飲み込まれていった。
「これでっ……ラスト!」
最後の一体に炎を放ち、その絶命を確認したリリィは力を使い果たしたとばかりにその場にへたりこんだ。
ベリオも同じなのだろう、ユーフォニアを支えになんとか立っているといった様子だった。
「ベリオ……大丈夫?」
「ええ、なんとか……リリィは?」
「こっちもなんとかね……しかしあの子供、なんてことすんのよ……」
「それはこちらの台詞です」
「え……ってお、お義母さま!?」
聞き覚えのある声に慌てて振り返るリリィ。
そこには、険しい表情をしたミュリエル・シアフィールドその人が立っていた。
「ダリアから集合時間になっても、リコ以外の学生がこないと報告を受けて探してみれば……」
「お義母さま……これは」
「いくら救世主候補といえども、特権には限度というものがあります!」
「い、いえ、これには訳が……」
「訳?」
「そうです、私たちはあの娘を助けようと……っていない!?」
「ええ!?」
「どこに何がいるのです?」
「そ、それは……大河、あんたも何か……ってアイツまでいない!?」
愕然とするリリィ。
そう、クレアはもちろんのこと、何時の間にか大河まで姿を消していたのだ。
「……あなた方の処分は追って行います。今は急いで召喚の塔に行きなさい」
「はい……」
「お義母さま……」
振り返ることなく闘技場を去って行くミュリエル。
リリィとベリオはそれを沈痛な表情で見送りながらも、自分たちも召喚の塔へと向かうためにトボトボと歩き出した。
「お義母さまに嫌われたわ……お義母さまに……」
「リ、リリィ……」
ずーん、という効果音がつきそうな勢いで落ち込んでいるリリィにベリオは声をかけることが出来なかった。
(……でも、大河君は一体どこへいったのかしら)
一人逃げた大河にどんなお仕置きをしてやろうかと考えつつ、ベリオは召喚の塔につくまでリリィを慰め続けるのだった。
仮のあとがき
質問の中に「taiさんは他の方のデュエルセイバーのSSって読んでるんですか?」とあったのですが……
多分、私って現存するほぼ全てのDSのSSを読んでると思います、まあそれは言い過ぎかもしれませんけど。
元々これ書く切欠になったのは他の方のSSを読んだからですし……
ちなみに現在私が読んでるDSのSSの中でのイチオシは時守 暦さんの「幻想砕きの剣」ですね、今はサーバのメンテ中で見れませんけど(w