「……なんか見覚えのある場所だなオイ」
目覚めた大河が目にしたのは一面のピンク色。
上下左右360度どこを見てもピンクの世界。
「夢か?」
「いえ、違います。厳密には違いませんけど」
大河の独り言に答えたのは蒼髪の少女。
大河の一番の相棒の化身である少女。
「少しぶりですね、大河」
「ああ、少しぶりだな、レイ」
Destiny Savior
chapter 35 Sister(T)
「レイ?」
「ああ、トレイターだとなんか味気ないじゃないか。だから縮めてレイ。これなら女の子っぽいし」
「まあ、如何様に呼んでもらってもいいのですが……」
呆れ半分、喜び半分でトレイター改めレイが微笑む。
「で、どーなってんだ一体? お前眠りについたんじゃなかったのか? あと、俺はどうなったんだ?」
「一つずつ説明します。まず、大河は導きの書の守護者の攻撃によって気絶しました」
「ああ、そこまでは覚えてる」
「その後、白の書の精霊の力によって貴方と当真未亜は転送されました。そして今は医務室のベッドで貴方は治療を受けながら眠りについています」
「未亜は?」
「ほぼ無傷です。今は貴方の看護をしています」
「そうか……よかった。んで、あのデカブツは? それにナナ子とイムニティは?」
「それはわかりません。ホムンクルスの少女は現在未亜と一緒にいます」
「……? どういうことだ?」
「わかりません、ただ二人は無事ですし、白の書の精霊も実体がない以上危害は加えられていないはずです」
大河と共にある以上、レイは大河のいない場所で起こったことは把握できない。
しかし、レイの言うことももっともなので大河はとりあえず安堵の息をついた。
「それで、なんでお前がここにいるんだ?」
「あのですね、自分で叩き起こしておいてそれをいいますか?」
じと目で睨んでくるレイに大河は一歩後退する。
自分の預かり知らぬことではあるが、どうやら今の一言が不興をかったらしい、と察したのだ。
「剣ですよ。貴方、剣の形態を使ったでしょう? その影響で私の意識が無理矢理引っ張り起こされたんですよ」
「そ、そうなのか? でもなんで? 俺は今剣は使えないはずじゃあ……」
「キレたからでしょうね。あの時、大河は未亜の姿を見て頭が真っ白になったようですから。無我であったが故の産物でしょう」
要するに火事場の馬鹿力ですね、と言葉をきるレイ。
思い当たる節がある大河はしきりに頷くばかりだった。
「まあ、いい傾向といっていいでしょう。無意識とはいえ、剣が使えたのは僥倖です。後はそれを自分の意志でできるようになれば……」
「ああ、努力する」
「よろしい。けど乙女の眠りを唐突に妨げないで下さいね? いくら元は男の人格だったとはいえ、今はほぼ女の人格なんですから、私は」
「ほぼ?」
「言ったでしょう? 私の今の人格は統合されて生まれたものだって。歴代の救世主達は全て女性でしたけど、トレイターは男でしたからね」
クス、と笑うレイには男の要素など微塵も見当たらない。
しかし1%未満とはいえ、男の要素が混じっていると言われると微妙に違和感を覚える大河だった。
「あー、そういえば確かにアイツは男の人格だったよな。あれ、そういえば召喚器って人格があるもんなのか? 他の奴らはそれっぽいこと言ってなかったけど」
「ありますよ、もちろん。ユーフォニアにも、ライテウスにも、黒曜にも……そして、ジャスティにも」
瞬間、レイの表情に影がおりた。
「……レイ?」
「そう、全ての召喚器には精神がある。ただ、その全ては神によって封じられているのです。
召喚器とは神の定めた救世主の選別を行うアーティファクトにして、かつて自らが存在した時間軸の中では救世主と呼ばれていた者たちなのだから」
「なっ……おい、つまり召喚器は俺たちと同じ人間だったって言うのか!?」
「そうです。私たちは神の意志に従い、自らの世界を滅ぼし、いえ、滅ぼすことを強制された。そして神の力によって永遠の呪いを授かったのです」
「それが、召喚器……それじゃあ、召喚器ってのは、救世主になれた、いや、なれてしまった人のなれの果てってことか!?」
「その通りです。私たち、つまりオリジナルのトレイター以外の意識は救世主候補止まりだったためにそれを知らなかった。
アヴァターそれ自体が数え切れないほどの消滅と創造の果てに創られた世界。そしてアヴァターこそが真なる破滅から逃れ続けて来た唯一の根幹世界だということを」
「んな……」
大河は開いた口が塞がらなかった。
新しく発覚した事実は、より一層の驚愕を、怒りを、悲しみをわきあがらせるものだったのだから。
「この世界の救世主たちが、自らの命を絶ち、あるいは封じ、この世界を守ってきたのです。私たちは幾千、幾万、幾億の時を越えてそれを見続けてきました。
しかし、このアヴァターを根幹とする世界において、初めて我が主になり得る人間を見つけることが出来ました」
「それが……俺?」
「そう、私を扱うことができるのは、私と同じ資格なき者である貴方だけだったから」
「どういうことだ?」
「男では救世主にはなれないのですよ。生命を生み出すのは聖母、故に神が望む新たな世界を生み出すのは女性でしかありえなかった」
「救世主に女性しかいなかったのはそういうわけか……じゃあお前はなんで?」
「私が存在している世界が終わる時、私は望んだのです。彼の世界で救世主であった私の最愛の妹と共にこの先の呪いを生きることを。
そして私の妹……ジャスティもまた、私を望み、自らの力を分割して私を召喚器にしたのです。
故に、私は貴方と同じ、神の計画から漏れた存在となった。神を打倒しうる唯一の存在になったのです。
そして私たちは神の計画を阻止すべく、白の書の召喚に乗じて、神の用意した歯車を狂わせ、貴方を召喚した」
結局失敗してしまいましたけどね、と苦笑するレイに大河は何も言うことができなかった。
「なるほどな……けど、ここまで来るともうなんか陰謀を感じるぞ。よりによってジャスティがお前の妹? 偶然にもほどがあるだろ」
「……偶然ではありません」
「な、に?」
レイの悲しげな瞳が大河を射抜く。
大河は、ふと喉が渇いていることに気がついた。
それは予感。
今から知らされるであろう事実が自分にとっての大切な何かを壊すであろうと確信できる予感だった。
「そう、偶然など何一つなかった……何故なら、貴方と未亜もまた私とジャスティと同じ―――――血を分けた半身だったのだから」
かしゃん、と。
大河の中で何かが割れる音がした。
「……大河?」
「ダーリン?」
リリィとナナシは見た。
眠っているはずの大河が涙を流すところを。
「……悪い夢でも見てるのかしら?」
「ええ〜? ダーリン、可哀想ですの〜。よしよし」
心配そうな表情で、大河の頭を撫で始めるナナシの姿にリリィは一つ溜息を吐いた。
大河の様子を見に(決してお見舞いではないと本人は言い張っている)やってきたのだが、それを出迎えたのは満面の笑顔をした眼鏡の少女。
眼鏡の少女ことシエルは「後は若い人にお任せしますね♪」と言い残しさっさと退室。
引き止める間もない素早い行動だったため、自然残されてしまったリリィは数秒後に解凍。
逃げられた、と気が付くのは更に数秒後のことだった。
なお、この時シエルの後を追いかけなかったことを後にリリィは死ぬほど後悔することになるのだが、それは余談である。
(ていうかこの娘誰?)
今のリリィの思考は目の前で大河の頭を撫でている少女に集中していた。
挨拶はした、名前も聞いた。
だが、このナナシを名乗る少女の素性はリリィのデータベースにもなかったのだ。
一番可能性が高いのは、大河が街でナンパした女の子といったところだろうか。
無論、リリィといえども学園の全生徒を把握しているわけではないので学園の生徒である可能性もあるにはあるのだが。
(ったく、この女たらしは……)
剣呑さを帯びた目でリリィは大河を睨んだ。
とても重症患者に向ける視線ではないが、その視線の中に安堵が含まれているのはご愛嬌だろう。
彼女の気性から言えば、素直に大河を心配できるはずもない。
まあ、だからこそ一人で様子見(お見舞い)に来たのだが、部屋に入ってみれば当の本人は二人の美少女によって看護されている。
一人は妹であり、もう一人はゾンビ(ホムンクルス)娘なので見た目とは裏腹にそんなに良いものではない。
しかし、リリィからすればそんなことは関係がない。
折角来て見ればピンク色の空間を作り出しているのだから、大河自身には責任がないとはいえむかつくものはむかつくのだ。
何故、むかつくのか。その感情の源がどこにあるのかはリリィ自身ですら把握していないのだが。
仮のあとがき
トレイター改めレイ再登場。
そしてジャスティスのネタバレ満載。ジャスティスでは未亜は血を分けたとはいってますが、実妹とは明言してません。
しかし私はあえて実妹に踏みきる! 何故ならそっちの方が未亜をヒロインから外しやすいからだ!(マテ
つーか原作では未亜のショックの描写も適当だったし、大河は結局そのこと知らないまんまだったのでDSでは結構踏み込んでいきます。
ここまでやっておいて、実はまだ未亜のヒロインの可能性が残っているって言ったら皆さんは信じます?(笑