「くくく……どうやら面白いことになっているみたいだねぇ」
影が呟く。
視線の先には睨み合いを続ける二人の少女。
そして、少し離れた場所で頭を抱える火種男と成り行きを見守る双子の少女がいた。
「リリィは売り言葉に買い言葉ってとこか……けど、あっちの未亜って娘はマジで大河に惚れてるようだね……」
確か聞いた話では彼女は大河の妹のはずなのだが……
訝しがる影。
が、すぐにそれは些細なことだと思い直す。
なんせ自分がそれを言えた義理ではないのだから。
「ま、このまま見続けるのも一興だけど……それじゃ面白くないしね」
ニヤリ、と口元を吊り上げて―――――影は動いた。
Destiny Savior
chapter 23 Date(X)
カーン、とゴングが高らかに鳴り響いた。
「あなた、お兄ちゃんに何の用事ですか」
先制は未亜。
流石に大河が絡むと彼女は強気だ。
「私はコイツと買い物に来てるのよ」
「そうですか、でもそれなら今からは私が付き合いますのでどうぞお気になさらず」
「なっ……」
リリィの反撃にもひるむことなくストレート一閃。
無茶苦茶自分勝手な言動だが、ここまではっきり言うとむしろ清々しい。
「あのね、コイツがどうしても買い物に付き合ってくれっていうから私はここにいるのよ。
なのになんであんたの都合で私が帰らなきゃならないのよ」
「そこまで気合の入った服装をしておきながら何言ってるんですか。言い訳は見苦しいですよ?」
「くっ……と、とにかく、今日、コイツは私と付き合うことになってるの」
「人の兄を捕まえてコイツコイツ言わないで下さい。お兄ちゃんには当真大河っていう立派な名前があります」
「コイツはコイツで十分よ!」
「名前すら呼べないのに二人で買い物に来るんですか? それっておかしくないですか?」
「うっ……」
反論できずに一歩後退するリリィ。
流石に試験で負けて命令されたからこうしているのだとは言えない。
かといってこの状況で大河の名前を言うのも恥ずかしい。
リリィは心境的にロープ際に追い詰められた。
「何やってるんだ、あの二人は……」
二人のやりとりに胃をキリキリ痛ませる大河。
こうなってみて初めてわかった。
女の戦いは怖い。
「大河さん、モテモテですね」
「どこをどう見たらそういう感想が出てくるんだ、フジョウ」
「あ、私のことはコハクでいいですよ、ヒスイちゃんとかぶっちゃいますし」
「いや、そーいう問題じゃなくてだな」
「まあまあ、ケンカするほど仲がよいって言うじゃないですか」
「あの二人は初顔合わせだ」
この世界ではな、と付け加える大河。
前の時間であの二人は最後まで和解できないままだった。
だから、というわけではないが二人が顔を合わせて険悪な雰囲気を出すところは見たくなかった。
それが、自分の罪を自覚させられるようでつらかったから。
「しかし未亜さんってブラコンだったんですねぇ。少し意外です」
「あー、まあ、な。俺達は両親がいなかったから……それで、な」
両親がいなかった当真兄妹は二人で身を寄せ合って生きてきた。
大河が未亜を助け、未亜が大河を助ける。
それは二人が生きていく上で当たり前のことだった。
だが、十年前にその関係へある楔が打ち込まれた。
それは今でも大河を苛む出来事。
大河はその事件の時に未亜を守れなかったことを悔やみ続けていた。
しかし、当の未亜はそうではなかった。
未亜はその時から、否、それ以前から大河に抱いていた想いを自覚した。
だが、それはどこまでも純粋で、それでいて屈折した想いだった。
そして、その想いは悲劇を招くことになった。
(……全部、身から出たサビだけどな)
もしも、あのまま神を倒して、無事に未亜をも助けることができていたらどうなっていたであろうか。
一緒に地球に帰って何もかも忘れて幸せに暮らしただろうか?
それとも、未亜のおかした罪を償うために心中でもしただろうか?
はたまた、未亜とリリィの間で修羅場を演じることになっていただろうか?
今となってはわからないことであるし、考えても仕方の無いことだ。
だが、だからこそ思う。
未亜も、リリィも幸せにならなくてはならないと。
例え自分でそれを行う資格が無いとしても、大河は願わずにはいられなかった。
「難しい顔してますね、大河さん」
「ん、ああ……」
「あんまり悩まない方がいいと思いますよ? 私の幼馴染の女の子ですけど……彼女もすっごいブラコンでして、
シキさん……あ、これは義理のお兄さんの名前なんですが、に近づく女はサーチ&デストロイってほどですし」
「……おいおい」
「おかげでわたしやヒスイちゃんも凄く苦労してるんです……ま、いずれシキさんはわたしたちが捕まえてみせますけどね♪」
「恋する乙女を、無敵です」
「……はは……まあ、頑張ってくれ」
にっこりと微笑むコハクと微かに頬を染めながら謎の言葉を放つヒスイ。
大河は身につまされる二人の態度に苦笑しながらも、どこか心が軽くなるのを感じるのだった。
同時に「ちっ、売約済みか」と心の中で舌打ちするのも忘れなかったが。
「あんた、こっちに来なさい!」
「へ?」
心が軽くなったのも束の間、大河はリリィに手を引っ張られる。
そして未亜の前面に押し出された。
「な、何事?」
「お兄ちゃん、この人の婚約者になったって本当なの!?」
「なんですとーっ!?」
吃驚仰天の大河は慌てて後ろを振り向いた。
そこで大河が見たのは気まずそうに顔をそらしながらも目だけはしっかりと放さないリリィの視線、というかガンつけだった。
余談ではあるが、フジョウ姉妹はリリィの婚約者宣言に吃驚したらしく目を丸くして棒立ちになっている。
(な、何をいっとるんだお前は!?)
(し、仕方ないでしょ!? 話の流れでこうなったんだから!)
(アホか!? どこをどうしたらそういう話になるんだよ!)
(うっさいわね! こうなったのにもあんたに責任があるんだから男らしく責任とりなさい!)
(せ、責任って……)
大河の頭上に責任の二文字が浮かんだ。
思い出されるのはリリィとの逢瀬。
別に目の前にいるリリィに責任をとる筋合いはまるでないのだが、混乱している大河にはそれを考える余裕は無かった。
ちなみに二人はアイコンタクトで会話を交わしていたりする。
(後で誤魔化せばいいんだから、はやくしなさい!)
(……わ、わかった)
少し考えれば誤魔化せるはずが無いということはわかりきっていることである。
しかし、色々テンパっていた大河とリリィはそれに気がつかなかった。
後々二人はそれを後悔することになるのだが……それはまた後の話である。
「お兄ちゃん、どうなの!?」
「あー、そ、そのだな、未亜。まずは落ち着いて話し合おうじゃないか」
「いいから答えて! イエスかノーか、それだけいいの」
(……こ、答えられねえ)
未亜の鋭い眼光が大河を突き刺す。
ガルガンチュワの艦橋でジャスティを向けられたときの視線に勝るにも劣らないその視線。
リリィの手前ノーとは答えられないが、イエスと答えたら命が無くなるとさえ思えてしまう。
(そ、そうだ! ここは彼女達の力を……っていねえし!?)
フジョウ姉妹に助けを求めようとした大河だったがそこには人影は無かった。
どうやらとばっちりを受けないうちにと二人は退避したようだ。
「お兄ちゃん!」
「さあ!」
前門の恐怖、後門の責任。
昨日のそれとは比較にならない事態に大河は進退窮まった。
(神様……は駄目だから、女神様仏様! 助けてください!)
その時、神様は駄目だから女神様という大河ならではの発想に動かされたのか。
助け(?)はそこに訪れた。
「あはははははは! 大河、どうやら困っているようだねぇ!」
「だ、誰だ!?」
フロアに響く声。
未亜とリリィにもそれが聞こえたのか彼女らも辺りを見回す。
すると、天井の一部が抜け、その真下にあったマネキンの上に人影が降りたった。
その人影の名は―――――!
「陽光の空に舞う、虹色の蝶。ブラックパピヨン、見参!」
仮のあとがき
パピヨン再登場。
ベリオルート以外では初登場以降の出番がほとんどなくなる彼女ですが、DSでは登場頻度を上げたいと思っています。
口喧嘩では未亜が圧倒的に有利の模様、というかリリィは救世主クラスで一番口喧嘩が弱いと思ってる私(w
次回でデート編は終了……かな?