「つまり、友人とはぐれたと」

 「はい、今日お友達になったばかりの娘なんですけど……いつのまにかはぐれちゃいまして」

 「ああ、だから困ったような顔をしてたんだな」



 持ち前の人懐っこさをいかんなく発揮した大河は二人の少女と話し込んでいた。

 月の少女はまだ大河を警戒しているのか、単に人見知りが激しいのか、喋っているのはもっぱら太陽の少女だったのだが。



 (しっかし二人とも滅茶苦茶可愛いな……未亜たちと比べても遜色ないぞ……)



 脳裏に救世主クラスの少女達を思い浮かべる大河。

 性格に一癖も二癖もある面子ではあるが、彼女らは容姿に関しては文句のつけようが無かった。

 そんな彼女らに勝るにも劣らない少女二人とお近づきになれたのだから大河の機嫌はうなぎのぼりである。



 「んで、その友達とやらはどんな娘なんだ? こうして知り合ったのもなんかの縁だし探すの手伝うぞ」



 自分から話し掛けておきながらいけしゃーしゃーと申し出る大河。

 太陽の少女はほんの数瞬ほど悩んだものの、大河に害はないと判断したらしい。

 軽く微笑むと了承の意を示した。

 が、次の瞬間、その表情は崩れることになる。



 「あ、やっと見つけ……ってお兄ちゃん?」



 何故なら、探し人がこちらを見つけたからである。




















Destiny Savior

chapter 22   Date(W)





















 「未亜? なんでここに……」



 思わぬ人物の出現に大河は驚いた。

 しかし、考えてみれば未亜も大河と同じ状態なのだから彼女がここにいることは不思議ではない。

 だが……



 「それはこっちの台詞だよ。ここ婦人服のフロアだよ?」

 「う……」



 未亜の言う通り、この場合は大河の方がおかしいのだ。

 だが、理由を言えるはずがない。

 リリィと大河の双方がどう思っていようと大河の今の状態はデートだ。

 それが未亜にバレたら彼女が不機嫌になるのは火を見るより明らかである。

 一筋、大河の頬に冷や汗が流れた。



 「未亜さん、この方とお知り合いなのですか?」

 「え、あ、うん。私のお兄ちゃんなの」

 「あらら、そうだったんですか。すごい偶然ですねー」



 冷静に問いかける月の少女とニコニコと微笑む太陽の少女は未亜の友人だった様子。

 妙な偶然に驚きを覚えながらも大河は話がそれたことにほっとした。



 「それより、コハクさんとヒスイさんはどうしてお兄ちゃんと?」

 「あはー、それがですね。わたしたちお兄さんにナンパされちゃってたんですよ」



 ピシッ

 大河は確かに未亜の額に青筋が浮かぶを目撃した。

 同時に、大河の頬を流れる冷や汗の量が増す。



 「……お兄ちゃん?」

 「ち、違うぞ未亜! 俺はただ二人が困っている様子だったから……」

 「ふーん」

 「いや、お前全然信じてないだろ!?」

 「うふふ、仲がいいんですね」

 「いや、そんな物凄く楽しそうに笑っていないで助けてほしいんだが」

 「くすくす、未亜さん。お兄さんの言っていることは本当ですよ」



 仲裁に気が落ち着いたのか、未亜は大河に軽くじと目を送りながら少女二人の元へと駆け寄った。

 どうやら完全に信用はしていないらしい。



 「ごめんなさい、つい服に目が行っちゃって……」

 「いえいえ、この人の数では仕方ないですよ」

 「お気になさらず」



 会って一日だというのに仲の良い様子を見せる三人に顔がほころぶ大河。

 なんだかんだ言っても彼は未亜に甘いのだ。



 「あ、そういえば自己紹介が遅れましたね。わたしは魔法使い科のコハク・フジョウです」

 「コハクさんは薬学……薬の知識が凄いんだよ。自分でもいくつか調合してるんだって」

 「へえ、薬ってどんな?」

 「んー、そうですね。しびれ薬とか、キマイラでも眠る強力睡眠薬とか、使用者の自我を一時的に消しちゃう薬とか……」

 「……はい?」

 「あっ、今研究しているのは幻術の薬ですね。なんと、自分がイメージした映像を相手に見せることができちゃうんですよ!」

 「いや、できちゃうんですよって……」



 この女の子に逆らってはいけない。

 大河の本能はそう警告を発していた。



 「……姉さんの言うことは気にしないのが無難です」

 「あ、ああ……」

 「申し遅れました。メイド科のヒスイ・フジョウです」

 「フジョウってことは……」

 「はい、そこの危険人物は私の双子の姉です」

 「ヒスイちゃん、ひどいー」



 よよよ、としなだれかかるコハクを他所に、表情を崩さずに淡々と事実を述べるヒスイ。

 大河はひきつった顔のまま思うのだった。

 未亜、友達は選べよ……と。

 まあ、大河も人のことは言えないのだが。



 「ええと、当真大河だ。そこの未亜の兄をやってる」

 「当真大河……もしかして、未亜さんのお兄さんは史上初の男性救世主候補っていうあの当真大河さんですか?」

 「あのっていうのはわからんが……当真大河は俺しかいないと思うぞ。ま、それはそうとして、その問いの答えはイエスだ」

 「わっ、凄い有名人じゃないですか! 私、救世主候補の方と話すのって初めてなんですよ!」

 「(こくこく)」

 「そ、そうなのか……?」

 「むっ……」



 目をキラキラと輝かせるコハクとヒスイに満更でもない表情になる大河。

 こういった視線で見られるのは久々のことなので悪い気はしないのだ。

 未亜が頬を膨らませるのは……まあ、ご愛嬌だろう。



 「……何してるのよ、あんた」



 だが、大河の平穏はそこまでだった。















 (…………な、なんなんだこの空気は)



 大河は滝のような汗を流していた。

 フロアに重い空気が立ち込めている。

 客はおろか、店員ですら距離をとって近づこうとはしない空間がそこにあった。

 空気の発生源は対峙する二人の少女。



 リリィ・シアフィールド。

 当真未亜。



 それが二人の名前だった。















 (何よ、この人……)



 未亜は目の前に立つ赤毛の少女を睨んだ。

 いきなり出てきたと思ったら自分の最愛の義兄に文句をつける。

 これだけでも未亜的には不快なのだが、何よりも許せないのが兄の少女に向ける視線だった。

 包み込むような、優しさに溢れた瞳。

 そんな視線を向けられるのは今まで自分だけだった。

 声をかける女の子は多々存在する兄だったが、自分のように優しい視線で見つめられる存在はいない。

 それが自慢だったのに、目の前の少女はそんな兄の視線を受けているのだ、態度も険しくなろうというもの。

 前回は『同じクラスの仲間』という部分がそれを抑えていたのだが、今回はそうではない。



 (なんなの、この娘……)



 一方、リリィはそんな未亜の視線を真っ向から受け止めて睨み返していた。

 いつのまにか移動していた大河を見つけ、文句をつけたらそれを庇うかのように目の前に立ちふさがった黒髪の少女。

 態度から察するに大河と親しいのはわかる。

 だが、何故にこんな敵対的な視線を受けなければならないのか。

 別に自分は大河と仲がよいわけではない―――――むしろ、彼とはライバルとも言える関係(リリィ主観)なのだ。

 だからこんな視線で見られたところで気にはならない。

 なのに、何故か対抗するように目の前の少女を睨んでしまう。

 困惑を僅かに感じながらも、売られた喧嘩は買う流儀なのだ、と自分を結論付けるリリィだった。



 バチィッ!!



 二人の視線の中心点で火花が巻き起こる。

 両者に共通する想いはただ一つ。



 『むかつく、この女』















 そんな光景を見ながら大河は頭を抱えていた。



 (まさか、出会い方が変わっただけでここまで状態が変わるとは思わなかった……)



 我を常に貫いているようで、実は流されやすく弱気のリリィ。

 人を立て、いつも一歩引いた位置にいるように見せながらも実は自分の意を通す未亜。

 正反対の性格の二人だが、前の時間では仲がよかった。

 だが、それは大河という存在が絶妙な位置で関わっていたからといえる。

 それがない今回、この事態はある意味当然と言えるのだが……



 (……こんなに相性が悪かったのか、この二人は)















 原因が自分にあることを全く理解していない大河は、一人心の中でぼやいていた。
















仮のあとがき

竜虎激突!(笑
デート編で一番書きたかったのがこの二人の遭遇です。
前の世界であんな関係になってしまった三人が原作とは違う出会いを果たしたらどうなるか、それを書いてみました。
ちなみに、本編で未亜にあの幻術の薬を渡したのはコハクさんという裏設定がDSにはあったりします(w