「……っ、な、何が起こったんだ……? ってここはどこだ?」
目を覚ました大河が目にしたものはピンク色の世界。
上もなく、下もなく、ただ一面ピンクのみが存在する世界。
「滅茶苦茶目に優しくないカラフルな光景だな……」
『あら、でもこれが貴方の精神なんですよ?』
「何、このピンク色な世界が!? ……ぬ、ぬう、しかし確かにそう言われると納得できてしまうのは何故!?」
『ふふふ……相変わらずですね、当真大河』
「いや、相変わらずって……っていうかアンタ誰だっ!?」
何時の間にか大河の目の前に一人の少女が立っていた。
見た目はリコと同じくらいだろうか。
未亜と同じストレートロングの蒼髪をなびかせ、細身ながらも均整のとれたスタイル。
そして顔は大河好みの美少女。
思わず状況を忘れておだやかに微笑んでいる少女に見入ってしまう大河。
『ふふ……わかりませんか?』
「いや、キミのような可愛い娘に会ったことがあるなら俺は絶対覚えている自信があるんだが……」
『あら、嬉しいですね…………娘冥利に尽きるというものです』
「…………は?」
ピシリ、と音をたてて固まる大河。
今、目の前の美少女さんはなんと仰られた?
「む、むむむむむ…………」
『こんにちわ、パパ♪』
「―――――むすめぇぇぇぇっ!?」
Destiny Savior
chapter 8 Reunion(W)
「は、ははは……冗談きついぜ。娘ができるようなことは…………ま、まあそれなりにした覚えはあるが」
『ベリオさんとかリコさんとかリリィさんとか未亜さんとか?』
「うむ……ってなんでそれを知っているぅぅぅっ!!??」
『貴方の娘ですから♪』
「マジか!? 俺この歳で子持ち!? まだ遊んでいたい年頃なのにっ!」
なんてこったい!? と神様に向かって八つ当たりをする大河。
自分で当の神様を倒しておきながら良い根性である。
『まあ、半分くらいは冗談ですが』
「…………はっ?」
『ですから、厳密な意味では私は貴方の娘ではありません。
別に貴方がどこかの赤髪の魔法使いを妊娠させて産まれた子供ってオチじゃないですからご安心を』
「な、なんかいやに具体的だな」
『いえまあ本来ならそういう展開もありえたと』
「は?」
『気にしないで下さい。まあ、混乱なさっているようですし、一つずつちゃんと説明しますから』
「あ、ああ……」
なんとか気を落ち着け、いつのまにか下に敷いてあった座布団に座る大河。
まだ軽く混乱しているのか座布団に関してのツッコミはない模様。
『まず、ここは先程も言った通り貴方の精神の中です。まあ、夢の中のようなものだとご理解ください』
「いや、精神って言われてもなぁ……」
『わからなくて結構ですから納得してください。それで次に私がなんなのかということですが……』
「いうことですが?」
『まあ、簡単に言ってしまうと私はトレイターです』
「はい?」
大河、二度目のフリーズ。
それはそうだろう、いきなり目の前の美少女に『私は貴方が使ってる武器です』なんて言われて混乱しない方がおかしい。
「いや、ちょっと待て。確かに俺はトレイターと話したことはある。
だけど、アイツはもっと堅苦しい喋り方だったし……声は似てるような気はするけど……」
『ふふ、疑問に思われるのも当然です。何故なら私は貴方と前に話したトレイターではありませんから』
「へ?」
『今の私はある存在とトレイターが統合して生まれた存在です』
「ある存在?」
『はい、その存在とは―――――貴方の力となった歴代の救世主達』
そして少女―――――トレイターは語り始めた。
あの最後の瞬間、神の暴走によって世界は消滅した。
だが、大河の中に流れ込んだ歴代の救世主達の意思がそれを良しとせず最後の抵抗を行なった。
自身の力を使って消滅への力の方向性を少しだけ変えたのである。
少しだけ変えられた力は神の座にいた生ける魂、すなわち大河を消滅以外への場所へと飛ばす。
その場所とは過去の世界の座標。
大河が世界の座標から他の世界の座標へ飛んだことは召喚された時ただ一回。
消滅する世界に飛べないが故に、あの始まりの時の世界に飛ぶことになったというわけである。
しかし、ここで問題が発生した。
世界を完全消滅させるほどの力の方向を、例え極一部だとはいえ変えた代償は尋常なものではなく、
歴代救世主達の力は意思ごとなくなりかけたのである。
だが、辛うじてそれはトレイターの中に吸収されることよって防がれた。
人間である大河の中に残ったままでは消滅は免れないが、真の救世主の武器たるトレイターの中ならば消滅は防げるというわけである。
が、ここで誤算だったのはトレイターも武器とはいえ一個の生命体であり精神体であったということ。
同じ精神体である歴代救世主達の精神が入ることによって全てが統合されてしまったのだ。
「なるほど、だから俺の娘ってわけか……」
『ええ、貴方の中から出て生まれたわけですしね』
「で、俺が過去に戻ってこれたのはキミのおかげってわけか」
『はい、勝手なことだとは承知の上でしたが……』
「いや、謝らなくてもいいさ…………こうしてまた皆に会うことが出来たしな」
『けれど、また別れることになるかもしれません。また……貴方を悲しませることになるかもしれません』
「ならないさ」
『……何故?』
「俺が―――――そう決めたからだ」
意思の宿った強い瞳が少女を射抜く。
ああ、そうだ…………この瞳が、この意思が私たちが彼を選んだ理由。
世界なんて果てしない重荷を彼に背負わせてしまった理由。
自分は大きな過ちをまた犯そうとしている。
飛びっきりマヌケで、すけべで、優しくて、強いこの少年にまた新たな重荷を背負わせようとしている。
引き返せ、今ならまだ間に合う。
そう警報を鳴らす声がした。
でも、それでも、彼に全てを任せるしか道はなくて。
それが彼を苦しませるとわかっていて。
だから涙が止まらなくて―――――
ふわっ
『あ……』
大河の大きな手のひらが少女の頭を包んだ。
なでり、なでりと撫でられる少女の頭。
彼の想いが少女へと染み入っていく。
「泣くなよ」
『だけどっ……』
「きっかけはなんであれ、これは俺が選んだ道だ。だから、気に病むな」
『貴方はっ……何故そこまで……』
「俺はフェミニストなんでね。女の子を泣かせたくないだけだ。ま、今まで泣かせまくってるから説得力はないけどな」
苦笑する大河。
けれどその表情に後悔はあれど後ろ向きなものはなく。
「やってやるさ……今度こそ、完膚なきまでに神の野郎をぶっ倒す」
少女の表情が笑顔に変わるまでに時間はかからなかった。
「で、なんで俺をここに呼んだんだ? 事情説明ってだけじゃないんだろ?」
『もちろんです。ただ一つ訂正させてもらうなら呼んだというのは正確ではありませんね』
「なぬ?」
『私には現在力はありません。故に貴方と話すためにはトレイターを召喚してもらうしかなかった』
「それはおかしくないか? ゴーレムを倒す時に一度召喚してるぞ?」
『はい、そこが本題なのです。―――――大河、貴方は今トレイターを扱えない状態にあります』
「は? いや、だから召喚できたって……」
『それは真のトレイターではありません。真のトレイターの形態は剣であって剣でないもの故に』
「剣であって剣でないもの……?」
『論より証拠、今ここでトレイターを剣の形態で召喚してください』
「あ、ああ……」
迫力に押され、わけもわからぬままトレイターを召喚する大河。
しかし、手には何も現れなかった。
「な、なんで!?」
『やはり、ですか……』
「やはりって……どういうことだ!?」
『トレイターは、真の救世主のために生み出された言わば神殺しの剣(ラグナ・ブレード)と言って良い存在。
しかし、その真の力を発揮するためには幾つかの条件があり、前はそれが満たされなかったが故にあの結末になってしまいました』
「なに!? っていうか聞いてないぞそんなこと!?」
『私も統合されて初めてそれが理解できてしまったので……すみません』
「いや、それなら仕方ない……怒鳴って悪かった」
『いえ……続けます。トレイターの真の力を発揮するための条件の一つとして、真の形態をとること、というのがあります』
「それが剣の形態ってわけか?」
『はい。ですが大河は今剣の形態をとらせることが出来なくなっています。
おそらく……最後の瞬間のトラウマでしょう』
その言葉に苦い表情を浮かべる大河。
何を、と言われるまでもなく未亜を殺した時のことだろう。
「…………それで?」
『大河は今剣の形態をトレイターにとらせることはできない。しかしトレイターの真の力の発揮はその形態なしにはありえません。
私が今こうして大河と話せているのは言わば力の欠片が発動しているからです』
「わかるようなわからないような……」
『それで、他の条件ですが……っ』
と、そこで異変が発生した。
精神世界改め桃色空間が歪んだのである。
「な、なんだ?」
『どうやら……時間のようです』
「時間?」
『私が眠りにつかなければならない、ということです』
「ああ、なるほ……ってちょっと待て!? それは何ゆえに!?」
『最終決戦までに力を回復させなければいけませんし……私の力を全開に使えるというのも条件の一つですから』
「いや、他の条件聞いてないぞ!?」
焦る大河。
しかし空間はどんどん歪みを増し、目の前の少女もうっすらと姿を消していく。
『トレイターを……理解して……それが一番の近道……』
「トレイターを理解? それってどういう……」
『大丈夫……貴方が貴方で……当真大河である限り、きっと今度こそトレイターは真の力を発揮してくれます……から。
そう、《運命を断つ剣の担い手》にして《運命に導かれし救世主》―――――Destiny Saviorである貴方なら』
「お―――――」
微笑みながら消えていく少女をただ見守るだけの大河。
だが、消え行く少女の最後の言葉はしっかりと彼の耳に残るのだった。
『時が来た時にまたお会いしましょう…………その時は、貴方のハーレムに入れてくださいね』
仮のあとがき
説明話のせいかちょい長めで退屈な感じです
トレイターの擬人化はみさき先輩の蒼髪ちびっこバージョンと思ってください(何
ギャグやったりシリアスやったりと大河くん大忙しです(w