「うぁぁぁぁん! お前なんか覗きに誘ってやんないもんねーっ!」



 そんな捨て台詞を残しつつ泣きながら部屋を去っていったセル。

 未亜が救世主候補になっていないせいか、前より大河への期待が多かったのが悔しかったらしい。

 前ならばこれから女湯を覗きに行くはずだったのだが、セルが帰ってしまったためこのイベントはお流れ決定。

 まあ、やろうと思えば大河一人でもできるのだが。

 というより前回を鑑みるにセルがいないほうが良い。

 なんせ今回は覗きの場所がばれていないわけだし。



 (再会に気を取られてベリオのデカ乳もゆっくり鑑賞できなかったしなぁ……)



 今日は考え事があるからやめておくが、次からは覗きに行こう! と固く誓う大河なのだった。





















Destiny Savior

chapter 7   Reunion(V)




















 一方、そのころの女湯。



 「きゃあああっ! ノゾキよっ、ノゾキーっ!!」

 「あっ、あれって傭兵科のセルビウムじゃない!」

 「えっ、またあの男!?」

 「みなさん…………どいてください」

 「りょ、寮長?」

 「ホーリースプラーッシュ!!」



 ちゅどぉぉぉぉん!




 「ぐはぁぁぁっ!? あっ、げ、幻影石がぁ〜っ!?」

 「あれ、お兄ちゃんがいない……?」














 再び、大河の部屋。



 「ふっふっふ、こういう時は未来の経験があるって便利だよなぁ」



 セルの自爆で覗き穴が使用不能になっていることなど露知らず一人ニヤける大河。

 ちなみに、覗き穴が塞がれているを発見して世界が終わったかのようにガッカリし、

 未亜に「お兄ちゃん、風邪でもひいたの?」とノゾキに来なかったことを心配されてハテナ顔になるのは明日のことである。



 「さて、これからどーするかね……」



 桃色な思考はさておき、一人になった部屋でベッド寝転がりながら思考に入る大河。

 考えるべきことはたくさんあった。



 まずは現状の確認。

 今日過ごしてきたことから考えるにここは間違いなく過去。

 召喚器が呼び出せたことなどから、あの戦いが夢だったという可能性は皆無。

 となると何故過去に戻ってこれたか、ということになるが全く心当たりはない。

 ライトノベルの知識から、ここが平行世界というのも考えた。

 だが実際に専門の知識があるわけではないので結局何もわからず終いであった。



 次に、戻ってきたのは自分だけかということ。

 これはおそらく自分だけだろう。

 未亜もベリオもそれらしい節は見せなかったし、唯一リコが気になるそぶりを見せていたがこれも恐らく違う。

 明日会うであろうリリィや、後に会うであろうカエデやナナシも同じだろう。



 「と、なると今後起こるであろう事態やその事情を知っているのは俺だけってことか……」



 もちろん大河とて全部が全部を覚えているわけではない。

 だが、知っていることで今後有利に働くであろう記憶は多くある。

 問題はこのことを誰かに話すべきかどうか、ということになるわけだが…………



 「こんなこと話しても普通は頭のおかしい奴って思われるか、破滅のスパイかなんかと思われるよなぁ……」



 考える。

 事情を話す候補としては現時点では数人が該当する。

 まずは同じ救世主候補であり、仲間であったベリオ、リリィ、ナナシ、リコ、そして未亜。

 そしてある程度知識がある学園長、ダリア、クレア。



 まず、現在親しくもないベリオとリリィは除外。

 事情を話す場合、あらかた全部話さなければならないであろうことを考えると未亜も除外。

 ナナシは……なんか実は千年前の赤の救世主、ルビナスだったらしいが事情がよくわからないので会ってみないとわからない。

 知識があるといっても、疑うことが商売ともいえるスパイであるダリアもやはり除外だろう。

 となると残るは学園長、クレア、リコということになる。

 この三人ならば、現時点で事情を話せば最終的には信じて協力してくれるだろう。

 だが、学園長とクレアの場合は立場が立場だけに迂闊な対応は自分自身がやばいので保留。

 リコは―――――リコはきっと力になってくれるだろう。

 彼女に事情を話すことには特に問題はない。

 今後のことを考えると、彼女と契約して力を得るのも重要なことである。

 だが、



 『―――――私の存在全てを賭けて』



 あの時の儚い笑顔が脳裏に浮かぶ。

 光に包まれ、消えるリコの姿。

 あんな光景は二度と見たくない。

 だから―――――話せない、巻き込めない。



 「……はぁ、リリィに笑われるな。仲間を頼れ、単独行動するな…………どの口が言うんだか」



 苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く大河。

 だが、今度こそは誰も死なせたくない。

 いや、それは無理でもせめて大切だと思った人たちだけでも。

 例えそれがエゴであれ、余計な被害を出すことになるのであれ、これだけは譲れなかった。



 「みんなは―――――そして、未亜は今度こそ絶対に守る。例え、憎まれ、恨まれることになっても……!」



 ぎゅっ、と血がにじむほど右手を握り締める大河。

 彼は今、一つだけ明確な決意をした。

 それは未亜を戦いに関わらせないこと。

 だが、それはとても悲しい決意だった。

 何故ならば未亜を戦いに関わらせないということは、自身から遠ざけるということ。

 元の世界に送り返すのが最上ではあるが、それが出来ない以上これがベストの選択肢。

 当然、未亜は自分が戦えないことを苦しむだろうし、悲しむだろう。

 「帰ろう」と説得してくるかもしれない。

 それでも―――――



 (もう、失うわけにはいかないんだ……)



 未亜のことは今でも世界で一番愛している。

 万の他人と未亜のどちらを取るかと言われれば迷わず未亜を取る自信もある。

 だが、自分が未亜を幸せにできるとはどうしても思えくなってしまったのだ。



 大河にとっての未亜とは、「一番幸せになって欲しい存在」である。

 恋人として、妹として―――――それ以前に大河にとって未亜という存在は宝物なのだ。

 だが、彼は二度にわたって彼女を殺してしまった。

 一度目は奈落の底に落ちていくその手を掴めなかった。

 二度目は自らの手で彼女の体を刺し貫いた。

 そんな自分がどうして彼女を幸せにしてやれるだろうか。

 どうしてこの手で抱きしめて愛を囁いてやれるだろうか。



 (もう一度抱きしめることができた……それで、十分だ)















 「しかしすでに歴史は変わりまくってる……なんせ未亜は救世主候補になっていない。

  となるとイムニティは―――――白の救世主はどうなる?」



 リコと同じく自分をかばって逝った白の少女を思い出す。

 いつどこで未亜が彼女と契約したのかは不明だが、リコと契約する前だったのは間違いない。

 だが、未亜が救世主候補となっていない以上、今回は破滅がどう動くかが読めなくなってしまったのだ。

 可能性としては、最悪の場合ベリオやリリィを主としようとするかもしれない。

 まあ、彼女達ならば大丈夫だとは思うが、未亜の前例があるだけに楽観視は出来ない。



 「ふぅ、いずれ機会を見て図書館地下の禁書庫に行ってみるしかないか……でもあそこって扉があるんだよなぁ」



 覚醒したトレイターならばぶち破れるだろうか? と、考え大河はふと気がついた。

 そう、トレイターは『覚醒していた』のだ。

 現に最初に召喚した時の『声』が聞こえなかったし、あの斧の威力は初期のものではない。

 目が覚めた時に服などが綺麗なままだったことを考えると逆行してきたのは精神だけということ。

 ならば何故トレイターは覚醒しているのか?

 大河はある可能性に思い当たった。



 「もしかして…………俺の今の状態には、トレイターが何か関係しているのか……?」



 呟き、トレイターを召喚しようとする大河。

 だが―――――彼の手には剣は創造されなかった。

 代わりに小さな光の球が手のひらの上に現れ、そしてはじけた。



 「な……にっ!?」















 光は、全てを飲み込み―――――そして、大河は意識を失った。
















仮のあとがき

大河、決意をするの巻。
これで未亜はヒロイン戦線脱落決定か!?(ぇ
大河の考え方には賛否両論あるでしょうがこの話ではこう考えたということで……
なんせこの話での彼は神を倒せず、未亜を二度も殺してますから。