メサイアパーティ。

かつては、世界を救う希望の呼び名。

現在では、伝説に名を残す救世主一行。

彼女らもまた、救世主候補であったことも伝説となっている。










DUEL RIDER



7.エルダーアーク























原初の召還器と呼ばれる召還器がある。

先代赤の主、ルビナス=フローリアスが振るい、勇者として戦った彼女の無二の相棒である。

また、召還器には自在に召還できるものと、常に持ち歩く必要があるものがあるともされている。しかし、ミュリエルはそれについては否定するだろう。魂からの叫びに召還器は呼応する、と。そのような意味では好き勝手に召還を繰り返すことの出来るトレイターが異質であるとも言えるだろう。

七海はここに来る前に調べた内容と、ミュリエルから聞かされていた真実を照合した。

(彼がトレイターを使うにあたって、毎回魂からの叫びに等しい求めをしてるとは思えない)

直情型の大河だからこそ、もしかすると魂からの叫びに等しい求めを繰り返している可能性はある。しかし、七海はその可能性はゼロであると思っている。

そこまで考えて、七海はその思考を振り払った。今必要なのはそれではない。

「大河君。君、地下墓地で拾ったロザリオ、持ってるよね?」

「え? ああ。これか?」

言われて、大河は自身の首にかかっていたロザリオを持ち上げる。

「それ、こっちの…… えっと、何だったっけ」

「ナナシですの」

「そう、ナナシちゃんにかけてあげて。本来の持ち主らしいから」

「俺が、ですか?」

叩きのめされたことで大河は七海に関しては一定の敬意を払うことに決めた。その表れが慣れない敬語であった。

「うん。大切な相手にかけてもらうのが一番でしょ、こういうのは」

「…… そういうことでいいのか、これ」

悩みつつも、避けるという選択もなかったため大河はロザリオをナナシにかける。

「ふわぁ……」

当のナナシは『ダーリン』にかけてもらう、という一点で恍惚の息を漏らしている。そのうち、成仏しちゃいますのなどと言いかねない勢いである。

しかし、そんな呑気な空気は一瞬で消える。

「ふぅ。千年経つと色々変わるのね。変わらないものもありそうだけど」

ナナシの口調があまりにも変わってしまったのだから。

「ナナ子か、お前?」

「ふふ。ある意味では初めまして、かしら。ダーリン」

そう言う彼女はある意味では変わっていない。

「私は千年前のメサイアパーティの一人、ルビナス。で、この体は千年前に用意した器で、このロザリオに魂を封じていたの。自分達の代の責任を取らないといけないから」

ナナシ、改めルビナスは己の存在を迷うことなく晒した。彼女は嘗ての仲間が真実を伝えていると思っていたからでもある。

しかし、そんなことは七海以外の誰も知らない。

「ルビナスさん、でいいかな。その話、全然現代に伝わってないみたいだよ」

なので七海が釘を刺す。それは暗に余計なことを言うな、と言っているのだが最早後の祭りである。千年前の救世主に何かがあった、という程度には情報が露呈してしまった。

女の子とイチャイチャすることがメインの大河と、ある意味脳筋のカエデ以外はある程度考える面子が揃っている。これで誤魔化すのは至難の業である。

「そうなの? あぁ、だからか。オルタラも繰り返しちゃったのね」

一瞬でそれを理解し、ルビナスは口を噤むことにする。もう、余計なことは言うまい、と。

それで納得しない面々もいるだろうが嘗てのメサイアパーティの一員と、高い能力を有している大河を圧倒した七海を相手にすると任務を前に痛い目を見る。そのことも解っているからか取り敢えずの沈黙を守ることとした。

「じゃあ、ルビナスさん。改めて状況の説明に移ります」

七海がこれまでの癖で現場を仕切り始めた。

「まず、先日、ある村から破滅のモンスターに襲われたという救助要請が王都に入りました。そして、これに対処するため救世主クラスの投入が決定され、そこにいる面々が当の救世主クラスです。私は雪代七海。彼らとは別で救世主クラス別室として当初より実戦に投入されています。あなたの旧知の方の協力者、といったところです」

「なるほど。旧知の知人がオルタラ以外の誰なのかは気になるけど、今はそれどころじゃなさそうね。村の情報はある?」

「今のところ詳細は不明です。なので、まずは現地で偵察を行うつもりです」

「わかったわ。そういうことなら、一緒に行動するわ。ナナシの状態だと記憶力がよくないみたいで帰れそうにないし」


























村について、すぐに村長と名乗る男が接触してきた。

破滅のモンスターは村の庁舎を占拠し、人質をとった上で立てこもり、人質のための食料の差し入れは非武装の人間が一人で行うことのみを許可している、と言った。

「破滅のモンスターが人質? 随分と高そうな知能を持ってるんだな」

話を聞き終えて大河が感想を漏らす。

「そうですな。しかし、現実にそこにその脅威があるというのは。人質になっているのも女子供ばかりで」

「それならばすぐにでも救出しなくてはならぬでござるよ」

「はい。私なら回復もしてあげられますから、ここは私が行くべきです」

カエデが同意、ベリオが自分が行くと立候補する。ユーフォニアを傍にいた未亜に預け、一歩を踏み出した瞬間、その進行方向にルビナスが手を出した。

「回復できるからって、何も考えずに相手の懐に飛び込むものじゃないわ」

「でも」

「私はルビナスさんに賛成かな。最低限、相手に人質をとる程度の知能があるわけだから無策で行くのはお勧めしないよ」

ルビナスと七海に諌められる形になったベリオは渋々といった体で引き下がる。

それを見たルビナスと七海は内心で胸を撫で下ろしていた。

「ルビナスさん、ちょっとあっちでお話いいですか」

「いいわ。そうね、私達がいない間はリコとリリィ。あなた達がみんなが先走らないようにしてなさい。ちょっと打ち合わせしてくるから」

そして、彼らから距離をとったところで七海が口を開く。

「あの村長。黒ですよね」

「そうね。まあ、今回のケースで言えば白、になるのだけど」

普通の会話であれば黒が疑わしい、白は潔白を示す。しかし、ここにいるのはこの状況下においても普通とは違う者しかいない。千年前にこの世界で戦った者と、その仲間から全ての情報開示を受けた者。その時点で白という意味は確かに成立する。

「みんな、人間の形をしたものを疑うっていう考えはまだないでしょうから」

「ああ、そこまで言い切りますか。ということは、この村の正確な現状、大体理解してるみたいですね」

「生存者ゼロ。あの村長は擬態ね」

「ただ、あの村長…… 白と少し違う気もするんですよ」

七海は村長に関する違和感について口にした。

「なんていうか、今ここにいない他の仲間、ほら、ナナシの記憶でやたらと無愛想な人がいるでしょ。彼と、同じような力を持ってる人がいるんだけど、どっちかと言えばそっちに近いような」

「あぁ、つまりは七海にもよくわからない、そういうことでいい?」

「そうなるんだけど…… それで終わらせたら駄目な気がする」

この予感は、嫌な予感、というものである。

そして、それは概ね正しい。

仮面ライダーカブトという仮面ライダーがいる。彼らの世界では渋谷に落着した隕石から出現したワームと呼ばれる怪人と戦いを繰り広げていた。このワームにはいくつか特徴がある。

一つは、進化することで超高速での行動、通称クロックアップが可能となること。

もう一つは、人間に擬態し、社会に入り込み、人間に成り代わっていくことである。

もしもこの場に士や大樹などがいたらその正体はすぐに判明しただろう。因みに、人間に擬態したワームの正体を暴くコツは、化粧乗りが悪いこと程度であり、今回であれば年嵩のある男性が嫌疑対象であるが故に、この対応は難しい。それでなくても、七海でさえもワームは知らないのだ。

「そうね。違和感を感じているなら慎重に行動すべきね」

そこまで言って、ルビナスは近くの木に絡み付いている植物に目をやった。その植物には独特の外観の果実が生っている。

「特にこれ。間違いなくアヴァターの物ではないし、見た目は気持ち悪いのに美味しそうに見える。そういうのって、得てして危険なのよ」

「ですね。これ、十中八九ブービートラップと思っていいと思うんです」

その果実から目をそらしたときだった。近場の住宅の壁を突き破り、アヴァターに存在するモンスターとも、ビシャス、ビースト、反信徒いずれとも一致しない怪人が現れた。

「あれは……」

もしも、士がいたならばその怪人をこう呼んだだろう。インベス、と。

そして、村長の姿が緑色の蛹のような姿の怪人へと変わった。

「これ、もうどうしようもないパターン、かな」

言って、七海は戦闘準備に移る。大河たちは動揺が見られたが、リリィ、リコが迅速に村長の姿をしていたワームに牽制し体制を整える。

「これは色々まずいわね」

周囲を見回し、インベスが村中にいるのに気付いたルビナスが焦りと共に虚空に手を伸ばした。

「余裕ぶってる状況じゃなさそうだし、行こうかしら。来たれ、エルダーアーク」

一瞬の閃光の後、ルビナスの手に一振りの長剣が握られていた。それこそ、原初の召還器、エルダーアークであった。

「エルストラスメリン。其は万物の奇蹟なり。爆ぜよ」

その詠唱と共にインベスの体に爆発が生じる。ルビナスはその空間に存在したものを等価で爆発物へと変換した。彼女は錬金術師であった。

「クリスタライズ」

一方の七海は即座にクリスタルスノウに変身、大河が牽制していたワームに向かってサークルジュエルを叩き込んだ。まだ進化していないとはいえ、一般人を超える能力を有する怪人であることに間違いは無い。拳打の一撃のみで倒せないであろうことは七海自身が誰よりも理解している。

中途半端が一番どうにもならない。だからこそ、七海は決意をする。

「そろそろ出し惜しみはやめておいたほうが懸命だね」

言って、七海はいつものようにその言葉を発した。

「クリスタライズ、マキシマムッ!」

あまりに自然で、誰一人として何も気にしなかった。それは、少し離れた位置で現状の対処に当たりつつ視界の隅に七海を捉えていたリリィでさえも。

「スノーフェアリー、マックスギア、インッ!」

そこに顕現したのは圧倒的な暴力の象徴、雪女の名を冠し、これほどに暴力的な雪女がいてたまるかと誰にも言われる存在。

スノーフェアリー。

聖痕持ち、後にGuardian Angel(通称GA)最強の破壊力をもつ存在として認知される者。それが当たり前のようにそこにいた。

サークルジュエルは腕全体をはるかに越えるサイズのナックルガードと呼ぶことすらおこがましいヴァリアブルツール、アームドジェムスフィアに変化し、左腕のアームドジェムスフィアには弓状のブレード、シュトルーデルボーゲンが装着されている。

鎧部分も一部肥大化し、パーガトリーに装着されていたようなブースター状の突起も背面に向かって突き出ている。

「あなた、存在自体が盛大に間違っている気がするわ」

「奇遇ですね。自分でもそう思うし、これを見た人は誰でも同じ事を言います」

慣れたものだ、とスノーフェアリーはつぶやき、村長が姿を変えたインベスに襲い掛かった。

ランクの低い下級インベスはアームドジェムスフィアの直撃に耐えられず、一撃で沈むことになった。

「意外と呆気ない? いや、能力が分かっていないことのほうが多い。なら、速攻で片をつけるべき? うん。対処できない類の能力を発揮されるほうが苦しくなる」

インベスが沈んだことを受け、スノーフェアリーはその後の行動の大まかな指針をすぐに立て、実行する。

インベスは果実を摂取することで強化されるが、ワームは時間経過とダメージ蓄積で強化される。当然、この場にいる誰もがそんなことは知らないが、訓練でもないのだから相手の土俵に上がる必要は無い。少なくとも、スノーフェアリーとルビナスくらいはそのことをよく理解している。

もしもこれが救世主クラスの訓練ならば自分の不利な状況であったり、長期戦への対応などを理由に時間をかけることもあっただろう。

「この状況なら人質がいるって言われてるあの建物、屋根か壁一枚くらいなら吹き飛ばしてみてもいいんじゃないかな」

風通しがよくなれば自ずと色々な答えが見えてくる。なんとなく、その程度の感覚で言葉を発したスノーフェアリーだったが、それを真に受けた者がいた。

「吹き飛ばせばいいのね。なら、ブレイズノンッ」

リリィが適度に威力を制御した火球は文字通り、彼女側の壁を一枚破壊した。そして、そこにあったのは実に醜悪な光景でもあった。

「…… 救世主候補が女の子ばかり、というあたり、あれを用意した奴は相当な変態だと思う私は間違ってる?」

かつては村役場であった建物の中には触手を張り巡らせ、獲物がかかるのを待ち構えていたモンスターがいた。所謂、ローパーと呼ばれる触手に塗れたモンスターであり、俗な意味での創作であれば女性と絡ませる定番と化している存在でもある。

事実、その姿を見た大河は一瞬ではあったが興奮しており、リリィにショック程度の電撃を喰らっていた。

「まぁ、正体がわかったところで早めにけりをつけておいたほうがいいのかな、これは」

言って、近寄ってきたインベスを打ち払い、左腕をローパーに向けて構える。

「シュトルーデルボーゲン、最大出力。ピュリフィカトリースター、発射」

弓状のブレードに光が集まり、集まった光が圧倒的なエネルギーの奔流となってローパーに襲い掛かる。かつてはビシャスの広域殲滅にも使用された技である。そんなものをローパー一体のためだけに使用するというあたり、彼女がそれをいかに嫌悪しているかがよくわかる。

圧倒的な光の奔流がなぎ払われた元役場は、落ち着いた頃には更地に変えられていた。ただし、ローパーは本体を爬虫類系の魔物に進化させてギリギリでやり過ごしていた。とはいえ、いたるところが焼け焦げており、再生にはいくらかの時間を要する有様ではあったが。

「意外としぶとい」

呟いた七海だったが、視界を埋め尽くすほどではないが、溢れるインベスとワームの前に追撃を断念する。

「くそっ。こいつら地味に硬い」

トレイターを振り抜いた大河が、ワームを一撃で切り伏せられないことに悪態を吐く。それもそのはず。ヒヒイロノカネ製のガタックダブルカリバーや、カブトクナイガンのアヴァランチスラッシュなどを受けて一撃で沈まないこともある相手である。常人を越える身体能力を有する救世主候補とはいえ、実力のある傭兵や、一部の例外(それでも人間をやめていない括りに限定する)に対して、大した訓練もなしに並び立つ能力でしかない。

本来ならばそれでも良かったのだ。しかし、この世界にディケイドが流れ着き、数多あるライダーの世界と繋がってしまった今のアヴァターでは、怪人という存在はある意味では圧倒的強者となってしまっている。事実、ライダー達の世界でも、生身やほぼ生身に近い存在が怪人を倒せた例は限りなく少ない。倒した気になっている者もいるが、実際にはかなりのお膳立てが行われていた。

戦闘員のような存在は例外であるが。

もっとも、蛹状態のワームですら一般人にとっては絶望的な相手である。そこに、傷をつけられればヘルヘイムの植物に寄生されてしまうインベスが加わるという、普通に考えれば絶望しかない状況がここにはあった。

「けどなぁっ!」

だが、大河は諦めなかった。

翔矢に一方的にあしらわれ、七海に当たり前のように敗北し、目の前で七海は更なる力に手を出した。リコと契約し、力を手に入れた。しかし、そんな程度で満足してはいけなかった。大河は直情タイプの馬鹿ではあるが、それ故に、正しく火をつけられれば化ける。

「そう…… らぁっ!」

トレイターで傷をつけたワームに接近し、三節棍で牽制。動きが止まったところで斧に変化させる。斧で地面を削りながら力のままに振り上げ、ワームを土礫とともに打ち上げる。

「貫けっ!」

そこをめがけてランスで貫く。ワームはその一撃で爆散した。

「よっしゃ」

自分でも、自分たちでもやれる。大河はそのことを確信し、次なる標的を定めて剣に戻したトレイターを振りかぶった。


























最も強い固体であると推測されたローパーを後回しにしつつ、周囲のワーム、インベスを全滅させる。

ローパーの触手は一定程度であれば伸縮が可能であり、その速度をもって偵察を試みたカエデがその有効射程を判明させている。

しかし、その有効射程はリリィやベリオといった後衛の射程を上回っており、相手の攻撃をやり過ごしながら接近する必要があった。スノーフェアリーではローパーの周囲を更地にしてしまうため、後に何の調査もできなくなるため今回は見合せとなっている。

「拙者もかわせるとは思うでござるよ。しかし、ぎりぎりまで近付くと密度が高くなって速度を活かせなくなるのが目に見えているでござるよ」

とはカエデの談。

「攻撃方法が全方位に対応しています。何人かで分散して仕掛けても優位は得られないと思います」

「だったら、取るべき手段は限られてくるわね」

ベリオの言葉にリリィが返す。

「耐久力のあるメンバーを前衛に立てて、ベリオの障壁で援護しつつ、他のメンバーの有効射程内に入るまで前進。そこから一斉攻撃で撃破。これでどう?」

「悪くないわね。その場合はカエデと私は撹乱に当たるわ」

「ルビナスさんが?」

「カエデは相手の本体の目をひきつけて、私は後ろから爆発を起こして触手を牽制する。これで盾役の負担は少しは減ると思うわ」

ルビナスは勇者と呼ばれたことと、エルダーアークの存在ばかりが先行していて、彼女の最も得意とする分野については意外と知られていない。

「私はれっきとした錬金術師よ。支援も十分に可能、というより、ある意味では本業でもあるわ」

「それなら、ルビナスさんの支援と合わせて大河君と私が壁役でベリオちゃんが障壁で援護ね」

それぞれの役割がはっきりしたところで行動開始となった。

「エルストラスメリン。其は万物の奇蹟なり。爆ぜよ」

先行した爆発を縫うようにしてベリオの展開した障壁が姿を現し、ルビナスを除く全員が前進を開始する。

「後衛組は周囲の触手の迎撃、リコちゃんは射程に入り次第相手の行動阻害にシフト。大河君はベリオちゃんをしっかり守って」

前方から前方から迫る触手を障壁から外れた場所で迎撃するスノーフェアリーが指示を出す。

「あんた、何で作戦無視してんだよ」

「囮は多いほうがいいの」

その言葉に何か言いたそうなリリィを認めたのか、更に続けた。

「それに、私、密集してると周りを巻き込みそうで嫌なの。特に今の場合は」

もしも、クリスタルスノウとしてここにいたなら率先して壁役を買って出ただろう。しかし、今はスノーフェアリーとしてここにいる。スノーフェアリーは自他共に認めるスタンドアロンタイプである。誰かをそばに置こうものならば、その誰かにすら危険が及ぶ可能性もある。

当然、試し撃ちをした結果役場の壁を吹き飛ばした閃光と更地にしかねないという本人の発言もあり、それは認められた。

しかし、彼女は同時に別のことを考えもしていた。

(まだ彼らがこちらの味方になると確定しているわけじゃない。ルビナスさんだってかつてはこちらだけど、今は分からない。翔矢君はリリィちゃんに仕込みはしてあるって言ってたけど、芽がでた段階だし、明らかに大河君意識してるし。ある程度は距離を置いておいたほうがよさそうかな)

救世主候補はまだ、味方ではない。

それは、分室の一致した見解である。たとえ、かつての仲間がそこにいたとしても。

だからこそ、スノーフェアリーは一人で動き、バックアップに徹する。救世主候補の実力の底上げ、人格の見極め、理由は様々だ。ミュリエルはルビナスを引き込めるならば引き込みたいと言っていた。しかし、彼女はナナシとして大河を慕いすぎていた。それがルビナスにどの程度影響を及ぼしているかも分からない。

「考え事は後かな」

迫る触手を纏めて打ち払い、開いた空間に飛び込み前進を続ける。それでいて大河達よりも前に出ないように気を配る。

(ゲームか何かの寄生プレイみたい)

ひどい感想だが、概ね事実に等しい。そして、これが現状の救世主候補の実力でもあった。独力ではまだ心もとない。それでいて漸く連携の必要性を認識し始めた。

本来、若い力を育て上げるには優秀な先導者が必要である。しかし、召還器により既に突出した力を持つ彼らを先導できるのはミュリエルくらいであり、そのミュリエルも魔術師。前衛に対しての指導は些か不足する。さらには、学園長という立場上、常に指導のために身を割くことは出来ない。

そんな中であればこそ、彼らが分室と本当に連携できるのならば底上げができる。出来うるならば、リリィくらいでも引き抜きたい。それが翔矢や七海の偽らざる本音だった。

「寄生されてる分だけ、いいとこは見せてあげないとね」

言って、スノーフェアリーはローパーの触手を無視し、一気に距離を詰めた。そして、その足元に拳打を叩き込む。

「前へ!」

拳打により生じたクレーターに足を取られ、一瞬ではあるものの攻撃がとまるローパー。これは間違いない好機であった。少なくとも、真に危険が迫る場合でもない限り、これ以上の手助けをするつもりのないスノーフェアリーにとっては。

「ぶち抜けッ!」

大河が突進力を乗せたランスを構え突っ込む。どこを足場にしたのかと思い、スノーフェアリーが振り返ると、ベリオの障壁が破られていた。

(いつから妖怪になったの、彼。妖怪首置いてけは違う人だったと思うんだけど)

そんなことはどうでもいい。薩摩の生んだ殺人マシーンとか、薩魔人とかは本題ではない。

大河のランスが突き刺さり、悲鳴のような咆哮を上げるローパー。そこに速度を生かしてカエデが追撃をかける。

「槍連脚ぅうッ!」

その速度を生かした高速の蹴りで単独で飽和状態にする。スノーフェアリーもルビナスもここまでの説明はしなかったが、きちんと理解はしているようだった。

ローパーはその触手の数だけ攻撃の手段を、手数を用意できる。その触手を一時的とはいえ封じることができたならば、そのまま封じ込める以外にすることはない。可能な限りの手数を以って相手の行動を封じ、そのまま倒してしまう。

往々にして、救世主クラスの面々は訓練ということもあってか、相手の力を全て引き出す、敢えて相手の土俵で勝負をするという行動をとることが多い。しかし、こういった場合は問答無用でかまわない。当然、ある程度の情報をる必要はあるのだが。

「紅蓮ッ」

カエデが炎で牽制し、跳躍する。そして、どこから出したのか大量のクナイで飽和攻撃を仕掛ける。自分でも威力がないのを承知しているからか、完全に手数で圧倒する方向で挑むようだ。そして、それはどう見ても時間稼ぎだった。

「カエデ、下がれ」

大河が再接近、斧へと転じたトレイターを地面を抉るようにして振り上げ、ローパーを空中へと浮かせる。

「くらえ、ヴォルテカノンッ」

そこにリリィの雷撃呪文で追撃、未亜も矢を番えて援護に移る。

「テトラグラビトン」

止めといわんばかりにリコが燃え盛る巨岩を召還し、ぶつける。オーバーキルもいいところだろうが、相手にはアヴァター以外の要素が入っていたことを考えればこれくらいが丁度いいのかもしれない。

事実、これらの攻撃を受けたローパーは見事に爆発四散した。


























「ふぃー」

祐一はため息をつきながらものみの丘を後にした。そこにはいたるところに爆発の痕跡が残されている。それら全てがビーストとの戦いの痕跡だった。

一体一体の能力は非常に低い。少なくとも輝石2つの力を有するフェンリルや、2つのEマターを使用しているカノンにとっては雑魚に等しい。しかし、数が違った。

「流石に一晩ぶっ通しは疲れるな」

丘を埋め尽くすビーストの群れは見る者にとっては絶望にすら感じられただろう。しかし、祐一にとっては最早その対象ですらない。

「カノンも使いこなしてるわけじゃないし、もうちょっと何とかしたいけど……」

何とかしたいというのは戦いを望むということで、現状でそれを望むのは些か問題があった。

そんなことを考えている祐一の後方で、それは起きた。

爆発とともに散ったビーストの破片が突如として出現した魔方陣に吸い込まれていった。異変に気付き振り返る祐一だったが、すでに全て吸い込まれていた。

「あれは……」

見覚えがある。祐一は確信した。セイバーを身に着けていたときに見た、魔方陣とよく似ている。

つまり、モンスターの質はともかく、戦いの兆しが確かにそこにあったのだ。

「不謹慎なことを考えるもんじゃないよな」

こんな正夢は要らない。切にそう思う祐一であった。


























to be continued…





















the next episode



8.鬼、再逅



























後書

久方ぶりすぎて後書のテンションが分かりません。これ書いてる現在(2016/6/11)まだドライブが半分とゴーストがたっぷり全て残っています。仕事も忙しすぎて手をつけられず。この話も作成日から1年半かけて完成とか……

容量は今よりも圧倒的に少なかったですが、1日2話とか書いていたころが懐かしいです。

で、話は変わり。

今回と前回でルビナスさんに焦点を絞ったはずが絞れていない。まぁ、扱えたというので十分ではあるのですが。そして、いろんな作品の必殺技を網羅するというサイトと出会ったことである程度(主にリリィあたりの)活躍の幅が広げられそうなのがいいなと。

しかし、デュエルももう10年経過してるんですね。時間って早い。

カノンなんてもうじき20年いく筈ですよね? そんな題材で未だに続ける自分って何だろうとも思う次第で。まぁ、最近カノンのキャラクターを扱った記憶はかけらほどもないのですが。