力がほしいと願った。

だからこそ、彼は行動した。

願い、動いたものにだけ結果は与えられる。

相沢祐一はそのことをよく知っている。










DUEL RIDER



5.カノン























待ち合わせ場所にやってきた浩平はこれでもかというくらいに眠そうだった。

「時間、そんなに早くないだろ」

「……うるさい。俺は朝はゆっくり過ごすタイプなんだ」

やや呆れながらも時間通りに現れたことに変わりはないため、祐一はこれ以上の追及をやめた。

「で、俺はどうしたらいいんだ。機械工学なんて普通科高校の生徒だった俺ができるわけないと思うんだけど」

「安心しろ。機構を準備しろなんて言ったが、あんなもの方便だ」

一瞬、祐一は目の前の男が何を言っているのかわからなかった。

「俺たちの使ってるEマター、使えば後戻りなんてできなくなる。そんなものを使ってまで戦おうって言うんだ。覚悟くらい見ておきたいだろうが。実際には、見るまでもなかったみたいだがな」

つまり、祐一は浩平に試されていたということである。

事実、Eマターは浩平の家族や城島司とその関係者、さらに多くの人々の世界を壊した。そんなものを好んで使いたいと言う男の正気を疑うくらいには浩平は自分の腹部に埋まる存在を信用していない。ただし、力として信頼はしている。

今となっては思い出を消費する者から思い出を紡ぐ者となったことで、無限に能力を発揮することができるがそれでも忌避感は付きまとうのが常である。

「俺は約束したからな。約束は守るもんだ」

「そうだな」

その言葉をきっかけに2人はその場を後にした。2人とも近くの駐輪場に愛車を止めてある。祐一のナインティル、浩平のただのオンロードマシン。

「それにしても、これ、整備不良とかで警察にとめられたりしないのか? 」

「一応、ナンバー付いてるし。細かいことは葉塚さんや神埼さんが何とかしたみたいだ。ベース車はあの人たちが作ったやつだから」

その所為か、未だに警察無線を傍受できることは祐一は秘密にしている。


























「初めまして、七瀬です。大雑把な話はそいつから聞いてるわ。それで、どんなものを作りたいの? 」

七瀬技研に到着し、留美と面会するなりいきなり本題に入ったことに面食らう祐一。しかし、余計な話が要らないのは祐一としても好都合だった。

「単純に言えば、ONEを超えるスペックがほしい。最低限、トライナルかONEと同等でなくちゃ困る」

この言葉に留美は言葉をなくした。

ONEを超える。最低限がトライナルやONEと同等。挙げられた名前だけでも十分すぎる力、もはや兵器だ。それを超えることを前提条件としたこと自体が既にどうかしている。

「それ、本当に必要なの? 」

「必要なんだ」

確認しても即答で断言するあたり筋金入りだろう。そもそも何故そんなものが必要なのかということまでは留美は問わない。警察やそれに順ずる関係のものの間ではとても有名な話だ。

相沢祐一は仮面ライダーだった男である。

つまり、彼が何らかの目的を持って仮面ライダーにもう一度なろうとしているということだ。

留美としてはその何らかの目的が相当危ないことでなければ協力もやぶさかではないと思っている。

「俺は、もう一度翔矢に追いつく必要があるんだ。そのためには、あなたたちの協力が必要なんだ」

もう何を言っても聞きはしない。それが確信できた留美は携帯していたアタッシュケースを開いた。

「これ、セイバーのアンダーウェアに応用するために開発していた擬似変身システムの試作ユニットでね。想定出力が高すぎてお蔵入りになった奴なの。ここに、折原が持ってるゼロを組み込む。そして、同じく折原が持ってるミストを起動キーとしてこの世界に存在させる、というシステムを考えてて、すぐにでも組み込める状態にまではしてあるの」

あまりにも準備がよすぎる。だが、それはそれで祐一としては助かる。

これでもう一度仮面ライダーとして戦える。

「これを、あなたに託すのはいいけど、その前にひとつだけ頼みがあるの」

「頼み?」

「そう。これを聞いてもらえないとこのシステムを渡せない」

「わかった。聞こう」

祐一がうなずく。

その裏でこっちが年上なんだけどな、と留美が内心で嘆くがそれは表に出さない。

「名前と、起動アクションを設定して。音声と動作で認証するようにしてあなた以外に扱えないようにする」

「わかった」

そして祐一は考え始めた。

もう一度戦う自分に必要な名前、その力の意味。

答えなど、もう決まっていた。

「このシステムの名前は」


























アヴァター。

王都アーグにそれは存在していた。

『光幻影石店』

いつもならば光写真館として士らの旅を支えていたそれが転移先のリューココリネからアーグへと移動していた。因みに幻影石とはこの世界でのカメラに変わるものである。カメラが存在しない世界であるために、このような形となったと思われる。

そして、その前に立つ6人。言わずもがな、翔矢、七海、士、大樹、ユウスケ、夏海である。

「あったよ」

ややげんなりしたように言葉を吐くユウスケ。本人としては無くなった、と騒いでいたあの時間を返せ、といったところである。無論、翔矢と七海を除いた面々としては当然の思考だろう。

そこに白い蝙蝠のような何かが飛び出してきた。

「おかえりなさ〜い」

喋った。

無論、異形の存在が言葉を喋ったところで驚きもしない翔矢だが、七海は違う。ビシャスは決して言葉を喋らなかった。そういう意味ではこの蝙蝠は驚嘆に値している。

「キバーラ、これどうなってるんですか? 」

そして、常識人だと思っていた夏海が真っ先にそれに声をかけたことで七海は自分の味方がいなくなったことを痛感した。そもそも、この6人のうち、彼女を除いた全員が仮面ライダーである時点で何か察するべきだ。

「ねえ、夏海ちゃん。遮るようで悪いんだけど、それ、何? 」

「ああ、キバーラですか? 一応、旅の仲間です。それと、私は変身させてくれる心強い存在です。多分、腹黒ですけど」

「ひっどーい。腹黒って。こんなにキュートな私を捕まえて言うことがそれなんて」

本当に異質な光景だ、と七海は思う。人と手乗りサイズの蝙蝠みたいな何かが漫才のようにやりとりしているのだ。

「慣れろ。そもそも、こんなファンタジー小説を焼きなおしたような世界で今までの常識が通用するほうがおかしい」

翔矢にしては長い台詞だったが、言っていることはひどい。本当に七海に味方はいないのだった。しかし、言われている七海にしても自分がファンタジーの住人に近いものがあると分かっているので納得はしている。それでも、目の前の光景には一言物申したい気分だった。

「取り敢えず、俺たちはここにいる。何かあったら声をかけに来い」

「そうさせてもらおう」

そう言って翔矢は士らと別れた。

しばらくアーグのメインストリートを歩いていた翔矢と七海は荷運びをしている青年に気づいた。それは、学園内で大河とつるんでいる青年、セルビウム・ボルトだった。

「たしか、学園の子だよね」

七海の問いに首肯で返す翔矢。そして、彼らが知らずとも彼らはこのアヴァター、ひいては王都アーグにおいては有名人である。当然、セルビウム――セルは彼らを知っていた。

「あっ、救世主候補クラス分室のお2人っすね」

「そうだけど」

「俺、傭兵科のセルビウム・ボルトっていいます。綺麗ですね」

自己紹介と同時に七海の容姿を褒め称えるセル。背が低いことで幼く見られがちだった七海だが、25歳にもなったことでそれなりに見られるようになっていた。ただし、身長は低いままである。

「私は雪代七海。褒めてもらって嬉しいけど、誰にでも言ってるようじゃ素直に受け取れないなぁ」

「そっすか。で、そっちのはいいぜ。大河から散々聞かされたからな。悪党だって」

悪党、とは言うがその顔はどこかおどけている。

「信じていないことを言うな」

「あ、ばれるか。あんた、大河とは違う理由で仲良くなれそうな気がするぜ。ってわけで、俺のことはセルって呼んでくれよ、翔矢」

「……お前に名前で呼ばれる理由がない。天原と呼べ。俺もボルト、と呼ぶ」

「あちゃ。ま、いいさ。じゃ、よろしく翔矢。俺、まだバイト中だから戻るわ」

そう言い残し、セルは元の荷運びに戻っていった。

「無理やり押し通したね、彼」

翔矢は何も言わない。だが、見る人が見れば彼の口元が僅かに綻んでいるのに気づいただろう。

(祐一とは違った意味で仲間になれそうだ)

僅かな期待を胸に、翔矢は七海と共にフローリア学園に向かった。


























翔矢らの帰還をミュリエルは信じられない思いで出迎えていた。

決して、任務に失敗すると思っていたわけではない。寧ろ、成功する確信があった。この実績を元に王室に分室ではなく、遊撃班として売り込むつもりでいたのだから。では、なぜ信じられないと思うのか。それは、彼らがこのフローリア学園を不在にした期間である。

彼らが向かったツルバギア州リューココリネ村は馬車で1日かかる距離にある。移動と対処などを考えて4日から7日を見越していたが、3日目の昼過ぎに戻ってきたのだ。いくらなんでも早すぎる。

加えて、アーグの警備兵からアーグ方面に向かってくる高速移動体4つを確認したとの報告もあがっている。目の前にいるのが2人だけであるにもかかわらず、4つだ。馬に代わる何かしらの手段を持っていたとしても今更驚きはしない。だが、信じるとはまた別のものだ。

「ミュリエル・シアフィールド学園長。我々の早期帰還に何か不満でも? 」

「いえ。提出された報告内容にも不備はありません。ですが、それ以外の面で辻褄が合わない点があるのです。できれば、その説明をお願いしたいところではあるのですが」

「辻褄が合わない? では、こちらも救世主伝説と破滅の軍勢出現サイクルについて腑に落ちない点があるので説明をしていただきたい」

初日の悪夢、再来。少なくとも、七海はそう思っていた。

「それをなぜ私に訊くのでしょうか」

「あなたは全て知っているはずだ。だから、そろそろ腹の探りあいはやめて、イーブンとしておこう、という提案なんだが」

それを聞いてミュリエルはしばし考え込む。少なくとも、ミュリエルに厳密な意味での味方はいない。計画と言えるほどのものでもない。だが、ミュリエルはそれを成す必要があり、理由がある。

少なくとも、このように歪んだアヴァターではミュリエルの願いは実現しない。

「そういうわけだ。雪代、今すぐ変身して外にいるダリアを取り押さえろ」

「えっ」

それは2重の意味での驚きだった。慌てたのか音を立てて走り出したダリアと、何がなんだか分からぬまま追いかける七海。

「クリスタライズ」

そもそも、生身の人間を取り押さえるのに変身が必要だったのかはわからないが、七海はサークルジュエルでダリアを破裂させないように気をつけて飛び掛った。

「ブレイズノン」

その正面にダリアが放った魔法の火球が飛び掛るがそれはサークルジュエルで打ち払い、一歩を踏み込む。仮に魔法を撃たれ慣れている大河であったとしても、この一歩には躊躇しただろう。救世主候補は召還器の恩恵を受けて身体能力が上昇しているが、傷つかないわけではない。だが、仮面ライダーやクリスタルスノウなどはさらにわけが違う。生半可な武器では武器のほうが負ける。

事実、

「はっ」

突き出されたクリスタルスノウの掌打はダリアが構えていたナイフをあっさりとへし折ってしまっていた。

「降参、してください。加減できないと殺しかねないので」

「わかったわよ」

ナイフを捨て、両手を挙げたダリアの口調は普段とは変わってごくまじめなものだった。

七海がダリアを連れて戻ってくると、まずミュリエルが口を開いた。

「ダリア先生、あなたは誰の命で動いていたのですか。凡その予想はついていますが、一応聞かせていただけると助かります」

「はぁ……スパイ失格、かしら。殿下の命ですよ。私は殿下の部下ですから」

「なるほど。殿下も疑問は持っていた、と」

話が明らかにこの部屋だけで終わらない方向に進んでいるのを七海は確信した。

そして、翔矢がこの展開を望んでいたことも。

「では、殿下とやらも交えて話をさせてもらいたい。内容如何によっては敵にも味方にもなるだろうが」

(ほら、やっぱり)


























リコ・リスは聡い。

まして、主を得た書の精である。もうその行動に自らのページを消費する必要もない。

そんな今だからこそ、疑問、懸念は解消するべきだろうと考えた。

白の書の精は既に主を得たと言った。それが誰なのかはよくわからないが、なんとなく見当をつけてもいる。

天原翔矢。あまりに強大な力を持つ者。それ故に、既に契約をしているのではないか。

だが、その考えが危険であることも自覚している。

今の赤の主は優しい。誰も救世主にしないと決めていた自身が、状況の故もあったとしても、絆されてしまうほどには。

天原翔矢という男の情報が当麻大河、未亜からしか齎されていないという点においては危惧すべきだが、それを差し引いても彼は危険であると判断できた。

破壊に特化した力、契約前とはいえ救世主候補たる大河を反撃しないままに圧倒せしめたその実力。その時点で彼が契約を終えており、その召還は白の書の精が行ったとも考えられる。

だが、その考えを止める者がいる。

リリィ・シアフィールドだった。彼女は言う。

『救世主とは英雄であり、英雄は殺戮の汚名を受けてでも大切なものを守り抜いた者のことよ。だから、何も壊さない。だけど守るなんてことを言うような人は救世主になんてなれはしないわ』

それまでの彼女を知るのなら、毒でも食ったかと疑うだろう。救世主になるという目的を完全に手段としてしまい、本来の目的を見失っていたのだから。

その彼女が救世主という言葉の意味を正しく理解し、説いたのだ。だが、それまでの訓練内容の故か、心情と実力は乖離を見せ、禁書庫での戦いでは途中で離脱を余儀なくされていた。

それでもリコは確信する。

リリィは化ける、変わる。この世界での救世主にならずとも、その言葉の持つ役割、意味を全うする英雄になる。

そしてリコは推測する。この変化を与えたのは彼ではないか、と。決して自分の主ではないだろう。主である大河は、禁書庫での戦いを経て連携することの大切さを学んだ。自分たちのしていることが欲望の発露などではなく、たった一つの命をかけた戦いであることを知った。

そんな彼が禁書庫に赴く前か、リコに合流するまでの間に犬猿の仲とも言えたリリィとそのような話をできるはずがない。

リリィの在り方を変えられるのは救世主そのものか、破滅、母であるミュリエルぐらいだろうと誰もが思ってきた。それも、救世主になるという点に関しては誰も変えられないと思われていた。そんな彼女に多大な影響を与えた者。それは間違いなく天原翔矢であると思うべきだ。

雪代七海ではない。彼女はその存在そのものがあまりにも美しすぎた。気高く、美しい。それでも、手を伸ばしたとしても誰も触れられないほどに高みに位置している。それ故に、リリィでは最終的に骨抜きにされてしまうだろう。嘗て戦った赤井奏がそうであったように。

ここまで考えたリコは思考を中断する。これ以上はどうしようもない。彼らは同じ救世主候補であるが、救世主クラスの生徒ではない。聞くところによると、彼らは救世主クラス分室として既に実戦に投入されているようだ。

主を選んだ今、彼らを試す必要がなくなったとはいえど、彼らの力は知っておくに越したことはない。どの程度の力を持っているかも分からない相手をいざという時に止めるのは難しいだろう。特に、ゴーレムを手加減しつつ一撃で粉砕し、契約前だったとはいえ救世主候補の大河を軽くあしらう実力は持っていることだけがわかっている相手だ。仮に敵だった場合などは目も当てられない。

しかし、その機会は与えられないだろうとも思っていた。


























クレシーダ・バーンフリートはここアヴァターに君臨するバーンフリート王家唯一の後継者である。現在は年少であることを理由に政治に関しての多くの面を大臣などに任せているが、こと救世主に関することに関してはすべて自分の力で行っている。自分の代に破滅の出現を迎えること、自身が抱いている疑問などの問題もある。

彼女が救世主に関して何かしらの手を打つために行うことは大きく2種類に分けられる。1つは自力で調べること。これは禁書庫の書物を読み漁ることで解決している。しかし、禁書庫の書物はそれ自体が罠として機能していることから信頼できる実力者が必要である。

そして、もう1つの方法が学園に送り込んだスパイからの報告である。彼女から見て、ミュリエル・シアフィールド学園長には多くの疑問が生じる。意図的に知っていることを知らないように装っていると見ることができるのだ。

彼女が私室にてそのような思案に耽っていると、控えめに扉が叩かれた。それと一緒にある意味ではありえないような何かが揺れる音も聞こえていることからやってきたのが学園に送り込んだスパイであるダリアであるとわかった。

(いつかもいでやるべきだろう)

そのような決意をしつつ、入室を促す。

許可を得て入ってきた面々を見て、彼女は驚きを隠せなかった。

「……殿下、ばれました」

落ち込んでいるはずであるのに、落ち込んでいるように見えないダリアと、自身が疑っていたミュリエル、そして新たな救世主候補として活動していると報告されていた翔矢と七海だった。

「よい。ならばその前提で動くだけのこと」

彼女は切り替える。為政者として、民を守る者として。こちらが疑っていることが露見したならば、こちらのカードを提示して引き込めばいい。

「ダリアが失礼をした。こちらも名乗っておくべきだろう。我が名はクレシーダ・バーンフリート。この国の王女にして今のところ唯一の王位後継者でもある。そして、そこのダリアの本来の雇い主だ」

「天原翔矢。そちらとはファーストネームとファミリーネームが入れ替わっている。呼ぶときに気をつけてくれればいい」

「私、雪代七海。呼び方は翔矢君と一緒だから気をつけてもらえると助かるかな」

紹介が必要な者だけが自己紹介をし、重たい沈黙が場を包んだ。

「クレシーダ・バーンフリート殿下」

その沈黙を破ったのは翔矢だった。

「お前は、誰の味方として立つ? お前の守るべきものは何だ? 」

この問いが非常に愚かなものであることを、問いを発した翔矢ですら分かっている。目の前にいる少女が為政者であるという現実を鑑みても返ってくる答えは決まりきっている。

だが、この場にいる全員がその言葉の真偽を判断できるだけの能力は有している。

翔矢はクレシーダ・バーンフリートというこの国の頂点に立つ者を試しているのだ。

「私はこの国の味方だ。この世界の、この国に生き、未来を希うすべての民の味方だ。そのようにしか生きられないし、それが私の誇りでもある」

そして、当の彼女もその期待に応えた。その意図に報いた。

「逆に私からも問おう。まず、ミュリエル。そなたは何のために動く? 」

「この場において隠し事は不可能でしょう」

問われたミュリエルはため息ひとつ吐いて口を開いた。

「私は救世主を誕生させずに破滅を退けるためにここにおります」

「理由は後で聞く。次は七海だな。そなたは何を砕く? 」

「私は私の前に立ちふさがるすべての悪意を砕くよ。それが私の戦いだから」

次いで問われた七海は迷うこともなく自身の決意を述べる。

「では最後に問おう。翔矢。そなたは何を守るのだ? 」

「俺は、愛した者が愛した世界を、愛する者が待つ世界を、愛する者が生きる世界を守る。愛する者や友が憂いなく生きることのできる世界を取り戻す」

























カノン、と名付けられたライダーシステムは祐一に託された。

実際問題、祐一以外には現状でそれを必要とする者はいない。強いて名を挙げるとするならば梓がそうであろうが、彼女は待ち人であり続けることを決めている。それ故に翔矢と並び立つ力を求めはしない。

それ故、カノンは祐一のためだけに存在する。

カノンを携えた祐一はものみの丘に立った。その理由は数日前に遡る。

『ビーストの生き残り? 』

カノンを得て美汐の元へと戻った祐一はそのことを美汐の口から聞かされた。

『はい。封印されたままのはずです。付け加えるなら、理性を有さない下級種だけが大量に、ですが』

一瞬何も言えなくなる祐一ではあったが、やることは決まっていた。

翔矢がこの世界の解放を宣言したからには、もうビーストも反信徒も必要ない。このような残党狩りのような戦いがまずはすべきことなのだと納得した。

そして、今に至る。

カノンシステムはEマタータイプゼロとEマタータイプミストの複合型である。単体ではこの世界への干渉力を有さないゼロと、世界への干渉力を有するも固体スペックでトライナル以下のミストを複合することで輝石に匹敵するスペックの力を有し、世界に干渉することが可能となっている。

祐一はそのバックルを自身の下腹部に押し当てる。微細なエネルギー粒子が放出、固着しベルトとなる。この時点でバックルにロックされていたタイプミストをコアとするキーユニットのロックが解除される。

キーユニットを引き抜き、祐一は天高く放り投げた。

「変身ッ!」

落ちてきたキーユニットを右手でつかみ、そのまま右方へと腕を振りぬく。手の中でキーユニットを回転させ、再度つかむとキーユニットの先端部を下方へ向け、顔の前へと移動させる。

そして、ゼロに突き刺し、左手で押し込む。

この一連の動作が祐一が設定した解除シークエンスだった。

これにより、量子変換が実行される。全身を光が包み、光が晴れたときには黒のボディースーツに純白の重厚な装甲をまとったライダーがいた。

仮面ライダーカノン、誕生の瞬間である。


























to be continued…





















the next episode



6.首なし少女


























後書き

セナ「書こうと思えば意外とあっさり書けるものだ」

リリィ「そうね。意外と書けてたわね」

セナ「しかし、DS勢のメインキャラがリコ以外登場してない」

リリィ「しかも喋ってないわよ」

セナ「本当だ。喋ってない」

リリィ「それにしても、クレア殿下を巻き込むのね」

セナ「彼女を巻き込んでおくとやっぱり、後々楽だから」

リリィ「で、次回が首なし少女?」

セナ「ここはやっておかないと、遺跡に行ったときにやり辛くて」

リリィ「あいつら、遺跡に連れてくるの?」

セナ「そのつもりでやってます。そこから物語としては本編に合流させるつもりです」

リリィ「で、地球側でも動きがあったわけだけど」

セナ「カノンについてはそのままカブト、特にガタックあたりを想像していただけるといいかな、と。何故というのは想像は簡単でしょうけど、説明は次回で」

リリィ「デザインはイクサそのものみたいだけど」

セナ「その辺は仕方ない」

リリィ「じゃ、次回で。そろそろDSやり直しておくべきじゃないかしら」

セナ「そうしとく」









サカナクション「sakanaction」