仲間、という形で士らを迎えた翔矢はそのままリューココリネ村の調査を開始した。
かつて、救世主候補の試験に用いられたゴーレム。同種の事象が起きているとの報告もある。
破滅。
その兆しは確かに存在した。
DUEL RIDER
4.破滅の兆候
調査に与えられた時間はそう多くはない。移動に一日費やすことを考えればあと二日以内に証拠を確保し、提出できる形にしなければならない。
「そういえば、どんなことが報告されてるんだっけ?」
「…猟犬が主を食い殺したらしい。それも、しっかり訓練されたものだ。ある日唐突に主を襲い、他の住人を襲った。今は檻に閉じ込めているそうだが」
何を証拠とするというのか、と翔矢は内心で思う。
「そんなことを判断するのが仕事なのか?」
とは士の言葉。行き場のない彼らは取り合えずという形ではあったが翔矢らに協力することになった。この世界での役割を探すこともかねて。
「そうだな。とはいえ…猟犬なら駐留している兵士で十分だと思うが」
そこまで言ったときだった。
村の中で悲鳴が上がった。
「何です?」
夏海が声の方向を探す。しかし、探すまでもなかった。
「あれ…犬ですか?」
「かもね。だけど…俺の目には首が三つあるように見えるよ」
呆然とする夏海と、やや乾いた口調で言葉を洩らすユウスケ。
「これ…どうやって証拠を用意するの?」
「それ以前の問題だろう。被害が出るのをほうっておけるのか、正義の味方が」
「できない…よね」
三つ首の犬――ケルベロスと相対し、その巨体を翔矢と七海は見上げる。七海は自らを正義の味方とした。それは、翔矢がそれとはある程度だけ離れたところにいることもある。
「犬か…狼との違いを見せてやる」
その言葉は「独りで十分」と言っているようでもあった。
事実、翔矢はそのつもりでいた。
「後ろの三人も今回はそこで見ていろ。俺がやる。被害が出ないか、他に何もないか確認してくれ」
「律儀、だな」
煩い、と翔矢は続け四人から距離をとった。
「テンペスト…」
右腕を左上方へ突き上げる。左腕を腰へとひきつけ、力をこめる。
右腕を半円を描くように右上方へと移動させる。
「変身ッ!」
ひきつけていた左腕を右上方へと突き上げ、右腕を腰にひきつける。それがトリガーとなる。
光に包まれた翔矢の体は戦うものの姿となる。
破壊を司る青い輝石の守護者、獰猛なる狼の化身、仮面ライダーテンペスト。
「あれが…奴か」
その姿を見た士はある違和感に気付く。
(カードが、無いんじゃないのか、あいつ)
士の変身するディケイドは他の仮面ライダーに変身し、その能力を使うことが出来る。また、他のライダーを自分の武器に変えることも出来る。だが、テンペストに対応するようなカードが存在しない。
(…仮面ライダーテンペスト。あいつはいったい何なんだ)
士の疑念を余所に、テンペストは一息でケルベロスに接近した。
「…ッ!」
短く息を吐き、勢いのままに跳躍。ケルベロスの真上から槌を下ろすようにして蹴りを振り抜く。ミノタウロスぐらいであればこの一撃で胴と足が分離していただろう。
だが、このケルベロスは少し違った。地面に叩きつけられ、多少ふらついているものの立ち上がった。
「タフだな」
着地したテンペストが少しだけ距離を開けて呟く。
「翔矢君。あれ、破滅だけが原因じゃなさそうだよ」
駆け寄ってきた七海が耳打ちする。
「どういう意味だ?」
「あの犬から“悪意”を感じるんだ。私が戦っていたビシャスは悪意の塊だから」
言われて、テンペストはケルベロスを見据える。破滅由来のモンスターとそうでないものの区別など、ビーストと反信徒でもない限りわかるわけもない。だが、かつて戦ったゴーレム、ミノタウロスが破滅由来だとするのなら。
(…悪意の集合体か)
多少は納得できる。
「そうだとして。やることは変わらない」
「まあね。提出証拠と報告はこっちで適当に考えておくね」
「頼む」
短く答えると、テンペストはもう一度ケルベロスへと向かっていった。
「仮面ライダーテンペスト。ライダーカードの存在しないライダーか」
テンペストの戦いを離れた建物の上から見ている男がいた。
飄々と、つかみどころのない男だった。
「彼そのものがひとつのお宝、かな」
彼はそう言って、腰から“銃”を抜いた。
「黙って僕のものになりたまえ」
“銃”にカードを装填し、天に向けた。
「変身」
《Kamenride DIDIDI DIEND!》
直後、その姿はシアンの装甲を纏う戦士のそれへと変貌を遂げる。世界を股にかける怪盗、仮面ライダーディエンドだった。
「まずは…試させてもらおうかな」
ディエンドは2枚のライダーカードを取り出すと、“銃”――ディエンドライバーに装填する。
《Kamenride ZAZAZAZANNKI! TOTOTOTODOROKI!》
「師弟関係のギタリストだ。君に音楽の教養があるかは知らないが…是非とも踊ってくれたまえ」
ディエンドライバーはディケイドライバーに近い性質を持つが、決定的に違うのはカードが自身に作用するか、呼び出すか、という点である。ディエンドライバーは呼び出すほうである。
それにより、カードに封じられた存在であった斬鬼、轟鬼の2人の仮面ライダーがアヴァターに解き放たれた。
「…っ!」
テンペストは自身に迫る2人のライダーに気付き、ケルベロスから一瞬で距離をとる。直後、それまでいた地点に斬鬼と轟鬼がそれぞれの音撃弦を突き立てる。
「…ライダー、なのか?」
自身に対し向き直る2人のライダーに対し、テンペストは警備隊の装備品である剣を引き抜いてみせた。
「…剣なら勝てるとでも思っているのか」
それは一瞬だった。まず、轟鬼が衝撃波を受け消滅した。
続けざまに、接近してきていたテンペストに斬鬼が一刀の元に切り捨てられていた。
「…転身、フェンサー」
邪魔者がいなくなったことをしっかりと確認し、テンペストフェンサーはケルベロスに再度向き直る。
ゲイルフォーム以上にスピードに重きを置いたフォームであるが故、その動作をケルベロスが知覚することはかなわなかった。気付いたときには3つ首が2つに減っていた。
「一撃だ…」
ケルベロスの真ん中の首の上に立っていたテンペストフェンサーがそこから天へと跳躍する。
直後、ケルベロスに対してのみブリザードが吹いた。それにより、凍りつき、動作を止められてしまう。たとえ、それがすぐに溶けてしまうものだとしても。
一瞬で十分だった。
凍りついた瞬間だけでよかった。
「ブリザード、クロス」
あとは切り刻むだけなのだから。手数など必要ない。ただ、十字に裂く。それだけのこと。
「風に巻かれて散れ…!」
切り裂かれたケルベロスは光の粒子に分解され、地に降り注いだ。後には原型となったであろう猟犬だけが残されていた。
ただし、相手が狼なのを理解したのか、服従のポーズを見せていたが。
「凄いね、実に凄い。君というお宝に、ますます興味が湧いてきたよ」
ケルベロスが撃破されると同時にディエンドが手を叩きながらテンペストフェンサーの前に姿を現した。
「ディケイド…?いや、違う。あれが成り代わるものならば、こちらは操る者か」
それだけで先に襲い掛かってきた2人のライダーが何だったのかが説明できる。
ディケイドはそれぞれの世界を司るライダーの力を自身の力として使うことが出来る。そして、ディエンドはカードを持っているライダーを世界に解き放つことが出来る。
それは、どちらにしても世界の本来の姿を破綻させるには十分な力だった。しかし、ディケイドはかつてスーパーショッカーとの戦いの折に、あらゆる世界の物語に入り込んで世界を破壊する存在から、さまざまな世界を巡り、新たな物語を紡ぐことを選択した。それはディエンドも同様のはずだった。
「僕は…それでもお宝を否定できない。お宝のためなら命を懸けるし、狙った獲物は逃したくは無い」
「狙いは…この輝石か、俺か」
「君自身さ。ライダーカードの存在しないイレギュラー。君という存在を僕は手に入れたい」
「やれるものならやってみるといい。ただし、お前の後ろで銃を向けている奴を何とかできるのならな」
その言葉を受け、ディエンドは肩を竦めてみせた。
背後でディケイドがライドブッカーガンモードを後頭部に突きつけていた。
「海東。どういうつもりだ?」
「士か。いくら君でも、僕のお宝の横取りは許さないよ」
「…この世界はイレギュラーすぎる。これからも旅を続けるためにも余計なことはしないのが一番だ」
ディケイドの言葉にディエンドは諦めたように両手を挙げてみせた。
「そうだね。僕も君たちと旅をすると決めたんだ。だったら、このイレギュラーな状況の改善に努めるべきかな」
そう言ってディエンドが変身をといたのを確認しディケイド、テンペストも変身を解いた。
「じゃあ、自己紹介ぐらいしておこうか。僕は海東大樹。仮面ライダーディエンドに変身する」
「有体に言えば、こそ泥だ」
「こそ泥とは心外だ。せめて、世界を股にかける大怪盗と言って欲しいね」
士の紹介に不満を述べる大樹だったが、次に言葉を発した七海によって沈黙させられることになる。
「でも、結局は泥棒なんでしょ」
「……」
事実であるがゆえに、否定する言葉も無い。
結局、このやり取りを無かったことにするかのように大樹は話を始めた。
「この世界で、僕がお宝を欲しいという点に関しては否定しない。君たちと旅を続けても尚、僕は電王の世界でお宝を欲していたのと同じだ。でも、この世界は士がいるということとは関係なしに破壊の兆候が顕著すぎる。
たとえ、ライダーが世界存亡の危機に立ち向かう宿命のある世界だとしても」
大樹の言う破壊の兆候というのはアヴァターの住人からしてみれば破滅そのものに他ならないわけなのだが。
「海東さん。このまま協力していただくわけにはいきませんか?自由でいたいのかもしれませんが…全ての世界を守るためにも、この世界を滅ぼすわけにはいかないんです」
それまでは一切話に加わらなかった夏海が口を開く。ある意味でこれでもかというぐらいに常識人でしかないが故に苦労を背負い込んでしまう性格ではあるが、彼女がこういう立場であるが故に大樹もはっきりとNOとは言えない。
「僕が協力してあげるんだ。光栄に思いたまえ」
「…奇襲を仕掛けるこそ泥に言われる筋合いじゃない」
胸を張る大樹を一蹴する翔矢。
「その奇襲を気にも留めなかった君に言われる筋合いもない」
「不毛だから、止めといたら?」
放っておけばどこまでも言葉の応酬が続きそうだったので、七海が間に入り強制終了となった。
「それにしても…仮面ライダーってこんなにたくさんいるんだね」
「そうだな…俺たちが旅してきた世界、それ以外にも存在する世界について説明するか」
七海の疑問に対して、士が説明を始めた。
かつて、9つの世界が生まれた。そして、9つの仮面ライダーの物語が生まれた。
しかし、その世界は融合、破滅の危機を迎えようとしていた。その世界の破壊者がディケイドだった。ディケイドの役割は、世界を破壊し新たな世界を創造する下地を作ることだった。そのためにディケイドはクウガの世界、アギトの世界、龍騎の世界、ファイズの世界、ブレイドの世界、響鬼の世界、カブトの世界、電王の世界、キバの世界、この9つの世界を巡り、それぞれのライダーとの絆を紡いだ。
その後、ダークライダーの支配するネガの世界、ライダーの存在しないシンケンジャーの世界、当初は巡らないはずだったアマゾンの世界、BLACK RXの世界、BLACKの世界、更に大ショッカーと士の失われた記憶と対峙した士の世界、大樹の過去と因縁を巡るディエンドの世界を巡っていった。
だが、ディケイドが全ての世界を救うにはオリジナルから外れた『リ・イマジネーション』のライダーを全て破壊することが必要だった。
しかし、全てのライダーを仲間としてしまったが故に世界の融合は加速し、夏海が避けたいと願っていたライダー大戦が発生し、ディケイドは全てのライダーを殲滅、後に仮面ライダーキバーラとなった夏海により一時は倒されるも、夏海、大樹、ユウスケらの記憶から再生し、今に至る。
今では自分で自分の物語を紡ぐために旅を続けている。
「荒唐無稽にもほどがあるんじゃない?」
「何がですか?」
七海の言葉に夏海が反応する。
「いや、だってあなたが彼を殺したんでしょう?」
「そうです」
「記憶から再生ってどういうことよ」
当たり前のように殺害を肯定した夏海だったが、記憶から再生というあたりが一番気に入らない七海。
実際、そのあたりは翔矢が一番気に入らないことでもある。
「俺は、本来なら物語を持たない存在らしい。だから、俺を認知するものがいればどこにでも現れる。あの時は夏みかんにユウスケに海東がいたからな。そのおかげでスーパーショッカーとの戦いにも間に合った」
「…もう何も言わないで」
頭を抱える七海。わからない、というよりは聞きたくないのだろう。
(仮面ライダーって何人いるの?)
「では、よろしく頼みます」
その後、村の宿に一泊し、村長と会談しケルベロスについての話を終えた後に翔矢らは士たちを伴い王都アーグへと帰還することとなった。
「…ていうか、この世界でバイクが3台も並んでるのは変な気分ね」
村の外れまで出てきたところで翔矢のスレイプニル、士のマシンディケイダー、ユウスケのTRC-2000『トライチェイサー2000』。これもこれでおかしい。科学よりも魔法技術のほうが発展しているここアヴァターに科学の産物(一部違うものの産物も混ざっているが)が集結している。
そこで七海はあることに気付いた。
「あのさ」
「あぁ」
「夏海ちゃんは士君のだっていうのはわかるんだけど…泥棒さんは?」
まさかユウスケと二人乗りするわけでもないだろう。
「海東だ。いい加減にその呼び方はやめてもらいたいな」
「それもそれでどうでもいい」
七海はばっさりと切って捨てた。
「…僕にはこれがある」
ディエンドライバーから一枚のカードを抜き取る。
アタックライド『マシンゼクトロン』
「それは?」
「カブトの世界のライダーが使っていた汎用型のバイクだ。専用機を持つカブト、ガタック以外のライダーに与えられていたマシンだ。専用機ではないし、クロックアップ機能も与えられていないからね。他のライダーが扱っても問題はないはずだ」
過去、ディケイドがマシンディケイダーをオートバジンやサイドバッシャーに変化させたように、成り代わるのではなく、呼び出すのならば。他のライダーマシンを召喚することも可能だった。それ故の選択が専用マシンではないマシンゼクトロンなのだった。
「因みに、一応説明しておこうか。トライチェイサーとビートチェイサーは本来の使用者がそこにいるからね。あとはマシントルネイダーとギルスレイダーは本人でなければ使えなさそうだし…」
「もういい。何か…キリがなさそうだし」
「そうかい?」
七海は諦め交じりで翔矢の後ろに跨った。
「とりあえず帰ろうよ。この先のことと、あなたたちの本当の使命っていうのも探さないといけないんでしょ?」
「それもそうだな」
「見られると面倒だからな、街道は避けるぞ」
敢えて整備されていない荒野へと走り出すバイク。
目指すは、王都アーグ。
相沢祐一はセイバーを前に苦悩していた。試験装着員の仮登録は済ませた。だが、前回の出動でその不便さも思い知った。
安全性、モーションダイナモの活性化などの面を考慮し、銃器を用いない機構となっているのだが、すべての装備がエクスディバイダーに搭載されており、本体だけで運用できないのは問題だった。さすがに非力だった。
「相沢君。君が今の装着員だ。君の意見であれば受け付けるよ。実際の運用にどれだけ耐えられるかも確認したいからね」
と、衛次。
「固定武器って作れませんか?装備に頼るっていうのはちょっと違うんですけど…」
「いや、わかるよ。改造人間でも輝石持ちでもない存在が彼らと対等に並ぶには多彩な戦術を用いることにあるからね。そして、装備の充実はその選択肢を増やすことでもある。
まぁ、銃器はつけられないけどね。スマッシャー、マグナカノン、オービターオーカーで作る側が懲りてしまったからね」
人のもつ力としては強大すぎた。衛次が言わんとしているのはそういう部分だった。トライナルでなければ扱えない特殊徹甲弾ライフル『スマッシャー』、エクステンドチェイサーに装着する高出力光子砲型エクステンドアームズ『マグナカノン』、脚部に装着されたグレネードランチャーを至近距離から叩き込む必殺シークエンス『オービターオーカー』。これらすべては明らかに敵を倒すことに特化していた。
しかし、元々のデフィートの開発系譜を考えるとそうでもない。暴徒鎮圧及び災害救助などの為の特殊装甲服だった。それがビースト、反信徒に対抗するために兵器へと変わっていった。だが、いつまでもそうであるわけにはいかない。トライナルは人には過ぎた力なのだ。
それでも、と祐一は思う。翔矢と肩を並べて戦うにはトライナルと同等かそれ以上の力が必要になる。この世界の科学技術がそれを満たせないことは明らかだった。
「……相沢君。僕が君にしてあげられることはあまりなさそうだ。でも、手伝えることがあったらいつでも言ってくれ。いざとなったら命令を無視してでもトライナルを持ち出してみせるから」
「ありがとうございます。前回みたいなこともありそうですし、セイバーの試験装着員は続けますよ。
取り敢えず、今日はこれで失礼します」
「うん。滞在先は決まってるのかい?」
「はい。知人がいるので、そこに」
今度こそ祐一が出て行った。
残された衛次は専用ロッカーに納められたセイバーとデフィートに視線を向けた。
「これで、足りないんだ」
衛次からすれば、この2体でも十分すぎるほどの力だ。両方とも、人間を相手するための試作モデルでしかなかったが、持てる技術を可能な限りつぎ込んだ。人間を相手にするにはどちらも強力すぎるほどだ。
そして、トライナルの存在に思いを馳せる。
「あれは正真正銘の規格外モデルだったな」
そもそもの開発経緯が、クロス、テンペストに追従できないことや、強力なビースト、反信徒への対抗手段だった。その必要が無いのなら封印されてしかるべきなのだ。
だが、祐一はそのトライナルを超えた力を求めている。
「そこまでしなきゃいけない相手、か」
翔矢が示唆し、その一部を先日垣間見た。
衛次は思考を中断した。考え出せばきりが無い。だったら、今確実にできることを進める必要がある。
セイバーの強化プラン。既に案はできている。後は神埼と相談するだけの状態である。
「僕は僕にできることで君達の助けになるとするよ」
祐一の知人とは、浩平のことだった。
この日、訪問した理由は一つ。Eマター利用の目処がついた、と連絡があったからだった。
「折原、どういう具合に使えるEマターが手に入ったんだ?」
「取り敢えず、順を追って説明する」
祐一は浩平と向かい合って座った。そして、ケースに入った赤い球状結晶体が置かれた。
「これは?」
「Eマター、タイプゼロ。完全型の代物だが、完全すぎてEマター以外の存在に対して一切の干渉が出来ないんだ」
それは、嘗てONEと対峙したゼロが持っていたものだった。ついで、深緑色の球状結晶体が隣に置かれた。
「これがEマター、タイプミスト。ライダータイプの尖兵仕様の代物だ。世界への干渉を前提に作られているものだ。お前が、戦うためにこの2つのEマターを併用する。機構は手伝ってやるから自前で用意しろ」
最強のEマターではあるがEマター以外に干渉できないゼロ。ありふれたEマターではあるが世界に干渉できるミスト。その2つを組み合わせることで問題は解決すると浩平は語った。
語ったところで、浩平はミストを手に入れた経緯を思い返す。
元々、ミストの所有者を知っていた。知っていたというのはあまり正しくはない。それを倒したのは他ならぬ浩平自身だった。だが、変身能力を失ったミスト――司がどうなったかは知らなかった。まさか、里村茜の最初の待ち人であったなど。そして、茜を捨てたはずの司が最期の時に彼女に縋ったことなど。
あの日。祐一から戦う力を求められた日。疎遠になっていた浩平と茜の関係は改善された。
浩平が戦っていたこと、そのために周囲の人の記憶を使っていたこと。それを聞いた茜はミストのEマターを浩平に託すことを決めた。それは、新しい絆としては十分すぎるほどだった。たとえ、そこに犠牲があったのだとしても。
そして、その犠牲が祐一の求めた力になる。戦い続けた、力をなくした今も戦い続ける男の力になる。何より、彼を信じる男の力になる。浩平はそのことを知っている。
「俺も手伝えることは手伝う。さしあたっては機械関係なら七瀬のところだな」
「わかった。案内してくれると助かる」
言われて浩平は一枚の名刺を取り出した。
「一応、こいつに話を通せばいい。この前の、ケビウンを装着してたやつがこいつだ。で、責任者が親父さん。今は出向扱いで東京に来てるから会えるはずだ」
「同席はしてもらえるんだろうな?」
「伝手がないのは知ってる。だから一緒にいてやる。というか、今のお前じゃゼロに触ることすらできないからな」
それきり、浩平は何も言わなかった。浩平も地元を離れてきているので会ったのは個室の飲食店だった。あとは帰るだけ。そう目が訴えていた。
「折原はホテルか?」
「お前は宿無しか」
お互い、現状を理解するにはそれだけで十分だった。
「ま、昨日と一緒でネットカフェにでも泊まるよ。最近のはシャワーもあるから心配ないし。洗濯もコインランドリー使ってるから何とかなってるしな」
「そうか。なら、明日の9時に駅前のコンビニで落ち合おう」
「そこで泊めてやる、なんて言葉は出てこないんだな」
祐一の言葉に、浩平はあきれた表情になって続けた。
「気持ち悪いんだよ。そういうのは瑞佳にだけ言われたいんだよ」
「そうかよ」
to be continued…
the next episode
5.カノン
後書き
セナ「言い訳はしないし出来ない」
リリィ「そうね。このタイプの後書きもしなくなって久しいじゃない。なのにやるんだ」
セナ「・・・・・・二次くらいならやっててもいいかなって思うんだ」
リリィ「そう。で、ずいぶん空いたわね」
セナ「そうなんです。前の話の保存日を見たら3年前だったんです」
リリィ「放置しすぎじゃない?」
セナ「やる気が無いわけじゃなくて、環境の変化と二次創作への限界を感じてたからかな」
リリィ「そうなの?」
セナ「でも、今ある作品群は何とかしていきたい。何とかしたい。で、一番何とか出来そうなのがこれ」
リリィ「ふぅん。でも、私たちどこにいるの?今回、純粋に二次と呼べるのはディケイド勢くらいでしょう?」
セナ「今頃大河が契約してるんじゃないかな?」
リリィ「へぇ」
セナ「というか、漸く祐一が変身できる目処が立った。これで何とかなりそう。実際にはもう一つサプライズを仕込んでおく必要があるんだけど」
リリィ「そこまで書けるといいわね」
セナ「返す言葉も無い」