夕暮れの中、翔矢と七海はミュリエルの前に立っていた。
知らず、七海は学園時代、居眠りした後のことを思い出していた。
あれは酷かった。無言の圧力がどれほど苦しいかを知ったのもあのときだ。
そこは、学園長室だった。
DUEL RIDER
2.救世主クラス、実戦待機チーム発足
「あれを召還器と言い張るのですね?」
「えぇ。あなた方はあれを他にどのように表現するというんですか?」
翔矢とミュリエルの言葉の応酬を聞きながら、七海は思う。これがかの有名なハブとマングースか、と。だが、更に思う。
(絶対、ハブとマングースのほうがまだ穏やかだよね)
そこそこに失礼な考えではあるが的を得ている。
翔矢にしてもミュリエルにしても多くを語る人物ではない。言葉にせずとも、態度や雰囲気で大まかな感情ぐらい伝えられる人間だ。
そんな二人が態度で感情を表しつつ、言葉の応酬までしているのだ。聞いている方は気が気でならない。当事者なのに蚊帳の外なのもその一因なのかもしれないが。
「百歩譲って、あれを召還器としましょう。では、あなたがたは扱い方をどのように知ったのですか?あまりに当たり前すぎます。
特に、天原君。あなたは大河君や未亜さんと同じ世界の出身ということでしたが、彼らの世界に破滅は現れていなかったはずです」
「破滅でなくても、世界は危機に陥ることはある。俺はその為にこの力を手に入れたんだ」
「私も似たようなものです」
揃いも揃って嘘だ。
翔矢にとって、テンペストは当初は復讐の道具だったし、七海にとって聖痕は家族や友達から引き離されるものでしかなかった。
マイナス方向でしかなく、世界を守るなど考えてもいなかった。
もっとも、それは決して悟られないように気をつけている。そうでもしなければ余計な手がかりを与えてしまうことになる。
「これ以上は無駄なようですね。国民の前で新たな救世主候補として紹介してしまった以上、今更撤回も出来ません。あなた方を救世主候補として認め、その力も召還器と認めます」
先に折れたのはミュリエルだった。
その言葉を聞いて、七海はほっと、胸を撫で下ろした。やはり、不安が大きかったようだ。
「ですが、あなた方は救世主クラスへと編入はさせません」
「何故、と訊いても?」
翔矢は何となく予想がついている答えが来るだろうと確信しながら訊いた。
「既に、破滅の兆候は確認されています。あなた方が戦ったゴーレムもそうでした。あのゴーレムですら王国軍一個中隊で漸く捕縛したものです。
現時点である程度以上に完成された力を持ち、それが救世主候補に匹敵するのであれば態々座学をさせるより、実地で対処に当たってもらうほうがいい。そう思いませんか?」
「否定はしません」
事実、嘗ての翔矢も七海もそんなものだった。
警察官でも軍人でもない彼らが戦うのは完成された力があったからに他ならない。だからこそ、力を見せない程度に戦ったのだが、救世主候補相手に攻撃もしないままに圧倒したのが拙かったようだ。
「只今を以って、救世主クラス分室、特別実戦待機チームの発足を宣言します。あなた方に与える任務はクレシーダ殿下からの要請を経て与えられます」
ここに来て、翔矢はミュリエルが先に折れた理由を理解した。
初めからこの結果に持っていこうとしていたのだ。だが、初めからこの結果を提示しては間違いなく翔矢が拒否する。それを理解したうえで翔矢との言葉の応酬に応じたのだ。
(相手のほうが上手だったようだな…)
もともとアンフェアもいいところだったのだ。下手に本来の目的にまで踏み込まれるよりはいいのかもしれない。そう自分を納得させて、翔矢はミュリエルの要請を受けることにした。
ただ授業を聞いているよりも実地に出たほうが情報は探れるかもしれない。そんな打算もある。
「…お受けします」
実戦待機チーム発足の瞬間だった。
「では、最初の任務は…住居の確保です」
「それを…任務に計上するんですか?」
呆れ半分の七海の言葉だった。
「えぇ。基本的に学生寮は満室ですから」
もっとも、2人は学生ではないことになるのでその表現は適当ではないのだが。
「あぁ…七海さんに関しては救世主クラスの寮に入れますから大丈夫ですよ」
元々、女性しかいないはずの救世主候補なのだから、基本的には部屋は若干余るのだ。
しかし、問題児がいる。
それこそが当真大河だった。初の男性救世主候補。当然、部屋などなかった。結果は、救世主クラスの寮の屋根裏部屋に住むことになったのだ。
「つまり、それは俺にだけ与えられたものだと認識しても?」
「結構です」
ふぅ、と溜息一つついて翔矢は踵を返した。
「わかりました。探すなり作るなりしてみましょう。可能であれば、この学園内で」
それきり、翔矢は学園長室を出て行った。
「…では、七海さんを寮の方へとご案内します。ダリア先生を呼んでおきますので、後はダリア先生の案内でお願いします」
「はぁ…」
その場に残される形になった七海は何をするでもなく姿勢を崩し、窓の外を眺めた。
(私、流されてる)
今までにないことだった。
気付けば、自分で周りを引っ張っていた自分が年下の少年の行動に流されている。それもそれで異質なことなのかもしれないが、それ以上に、妙な居心地の悪さを感じていた。
常に誰かに見られているような、それでいて睨まれているような気もする感覚。
(私は…いや、多分…彼もイレギュラー、なの?)
そもそも、召喚の手順そのものが七海たちがこの世界に来るそれとまるで違う。
(状況を整理するよ。まず、ビシャスが関与したと思われる不可思議な空間の歪を確認、調査依頼が来る。調査中、歪に引っ張られる感覚と共に気を失い、気付けばこの世界にいた……か。実際、これが異世界である確証はないのかな。これが、歪が見せた幻覚である可能性もあるし…)
そこまで考えて思考を中断する。
「全然、整理になってない」
何一つとしてわからないどころか、疑問が増えた。
だが、更に考える。
(そういえば、彼は…ここが異世界であることに確信を持っていた)
彼…翔矢はここが異世界であることを知っている。自分の意思で飛び込み、ここにやってきたのだから。能動か受動の違いでしかないが、そういう部分では翔矢の方がこの世界を理解している。
「気になったのなら、聞けばいい。それだけのこと」
翔矢の新居は直ぐに決定した。
学園の庭園には管理用の小屋が存在している。そこを塒にし、風呂などは他の男子寮のものを借りる。それで決定した。
(ミュリエル・シアフィールドに報告は必要だろうか)
考えるが、どこにいるかを知らない。
そもそも、この学園の構造もあまり理解できていない。
(…歩くか)
散歩も悪くはないだろう。
庭園を離れ、歩き出す。多少広いとはいえ、たかが知れている。
歩いていると当然のことだが学生を目にする。既に時間は夜になっているため校外に出ることは出来ないが、それでも傭兵科クラスの者が体力を作るために走っていたり、鍛錬で剣を振っている姿を見ることも出来れば、ただ散歩をしているだけの者もいる。
(皆、活き活きしているが…)
それが全て戦うための訓練や授業を受けているのかもしれないと思うと、少し悔しくもなる。
あの神がいるが故にこの世界は破滅の脅威に怯えなくてはならない。
「……」
ふと、ある方向に人の気配を感じた。
この時間では人などいるはずもない、学園内の森。暗くて、周りなど見えるはずもないそこに、誰かがいる。
自然と翔矢はそちらに足を向けていた。
そして、そこでは一心不乱に魔術の訓練に励む少女がいた。
赤い髪の少女だった。
「あ…」
少女が、リリィ・シアフィールドが翔矢に気付いた。
「な、何か用?」
自分の努力している姿を人に見られることは殆どないが故に、こうして見られてしまったことに慌ててしまった。
「訓練か?」
「えぇ。悪い?」
翔矢の言葉はただの問いかけに過ぎなかっただろう。だが、リリィはそれに過敏に反応してしまった。
「悪くないさ。高みを目指すことが悪いというのなら、真面目に頑張る奴は全員駄目なことになる」
「そう」
早くここから立ち去って欲しい。
リリィはそう考えていた。
だが、その願いに反し、翔矢は周囲をじっくりと見回した。
目を凝らしてみれば、焦げ付いた路面や、枝の落ちた木が見える。
「攻撃、か」
ただ只管に攻撃魔術のみの訓練をしていたことが容易に見て取れた。
「悪い?」
「あぁ。それだけっていうのは悪いな。性格からして、攻撃しか考えてないだろう?一人で全て片付けることしか考えていないだろう?」
「そうよ。私は救世主になるの。救世主になって破滅を滅ぼすのよ」
穏やかではない。
だが、それは破滅を許せないという感情と、恐怖とが混ざり合った不安定な心情の吐露でもあった。
「お前は、独りなのか」
「!」
翔矢の言葉に、リリィは視線を逸らした。
「邪魔なだけよ、みんな」
「邪魔…か?なら、お前はたった一人で生きているつもりか?だとすれば、おめでたい頭をしているな。俺は救世主になどなりたくはない。だが、俺のいた世界に生きている、大事な奴は守り抜きたい。
そのつもりで戦う者全てが、邪魔だというのなら。お前に救世主の資格はない」
「力があれば、守れる。滅ぼすことが出来れば、誰も傷付かない…」
「……過ぎた力が産むのは恐怖だ。守るっていうのは、そこにある笑顔も、心も守り抜くことだ。滅ぼすことは、守ることに直結などしない。
戦う力を持つ者は、護る者でなければならない。それは、暴走しないために、決して、殺戮など、心を否定するあり方をしないために」
リリィは何も言えなくなった。
目の前の男が言っていることは正しい。自分の反論できる余地はない。
「力そのものに罪はない。扱う心次第なんだ」
翔矢にとって、テンペストとしての罪は怯える少女を無視したあの日のことだろう。ただ復讐に燃えていたあの日。その日から復讐とは決別していたが、それでもあれは彼にとっては罪ではあった。
人でない、怪物と呼ばれても文句は言えなかった。だが、必要以上に怯えさせない戦いは出来たはずだった。それだけの能力と余力はあったはずだった。
なのに、それをしなかった。だからこそ、翔矢は力の在り方を考えた。戦う以上、護る者なのだと。それが、大きな世界を守るという意味でも、ただ大切な人を守りたいという意味でも、根本的なものは変わらない。
「…一応、覚えておいてあげるわ。それと、名前…教えなさいよ。明日から一緒に授業受けるんでしょう?」
「天原翔矢。それから、授業は受けない」
「は?…あっと……私はリリィ・シアフィールド。で、授業を受けないってどういうことなの?」
一瞬、翔矢の言葉に呆気に取られたリリィだったが、自己紹介と訊いておきたいことをきちんということが出来たのは幸いだった。
「俺ともう一人、雪代七海は救世主クラス分室らしい」
「分室?」
「実戦に出るらしい」
「戦うの?」
リリィの問いに、翔矢は首肯で返した。
実際に戦うかどうかはわからない。だが、そういう場面も出てくるだろう。
「救世主になりたくないって言ったけど、それでも戦う意味はあるの?」
「さっきも言ったが、俺にとって大事な人が生きる世界を守り抜きたい。それだけだ」
リリィは考える。
自分は今まで何を思い、訓練に励んできたのか。ただ破滅を打ち倒すこと。過去の恐怖を払拭し、無念を晴らす。その一心だった。
守りたいものはあっただろうか。全てを失ったあの日から、臆病になっていたのではないか。
今は……
(認めたくないけど、仲間がいる。仲間は…守るもの、よね)
手に入れているものがある。それを守る。
リリィの顔つきが変わったことを確認した翔矢は少しだけ安堵の表情を見せた。
一人だけでもいい。彼らの中に、救世主を志す者たちの中に少しだけ枠の外にいる存在が欲しかった。“救世主”というフィルターを外すことの出来る存在が。
それが人一倍救世主に拘っていたリリィであるのは不思議なことではあるかもしれない。だが、孤独であるが故の危うさがいくらか和らいでいる。
(それでいい)
嘗ての自分のように壊れることなど、あっては欲しくない。
それを思い、翔矢は踵を返した。夜も更け、いくらか風も冷たくなってきていた。
夜が明ければ、翔矢の新たな戦いが幕を開けることになる。
奪われたものは必ず取り戻すと、翔矢は改めて誓った。
相沢祐一は、いつか翔矢が必要とする瞬間の為に、東京にいる葉塚衛次に会いに行った。
「意外と、再会はすぐだったね」
「ですね」
分かれてから数日と経っていない。
「今日は、どういう用件かな?」
現在、衛次はトライナルシステムの封印とエコノミータイプの試験を主要業務としていた。
それを知っていて、祐一は衛次の元を尋ねた。
「俺に、力をくれませんか?」
「力?」
「はい。あいつが、翔矢が俺を必要とする瞬間の為に、俺はあいつと並べる力が必要なんです」
今の祐一は改造人間ではない。
故に、人間のままで戦い続けた衛次を頼ってここまで来たのだ。
「トライナルは持ち出し禁止だからね。一応…エコノミーのプロトタイプは完成してるんだけどね」
「それでも構いません。少し、見せてもらえませんか?」
「本当はそれも駄目だけどね。でも、あの戦いを戦った君に、見てもらいたいのも事実だ」
それは了解の言葉だった。
「ありがとうございます」
だが、エコノミーという時点で祐一は期待していなかった。トライナルよりは下という事になる。その時点でクロス以下だ。最低限クロスを超えていなければならない。
つまり、トライナルと同等かそれ以上でなければならない。
それでも、ここから何かにつながるかもしれない。祐一はそう考えて、衛次について行った。
そこはデフィートの評価試験を行っていた場所だった。勿論、祐一がそんなことを知っているはずもない。
とにかく、そこにそれはあった。
白銀に染まる装甲服と対峙するメタリックブルーの装甲。
「葉塚さん。相手のあれは?」
「あぁ…ヴァルキリーシステムは知ってる?」
祐一は記憶の中から、ONEに関する事件を引っ張り出し、そこにそういう名前の装甲服があったことを思い出した。
「たしか、デフィートの後継システムでしたっけ?個人認証を実行するっていう」
「うん。それの発展……というか、試験使用者専用の強化システム、ケビウン」
この時点で、当然ながらそれを身に纏っているのは七瀬留美以外にいるわけもなかった。
ケビウンは背中に翼が装着されているようにも見えるが、それが何なのか、祐一には見当がつかなかった。
クロス∞のような用途…余剰エネルギーの発露ではないのは確かだ。
だが、すぐにその用途は判明することとなる。
『アートエクステンダー、ブースト』
その声と共に、ケビウンの背中から火が吹いた。直後、爆発的な加速と共にメタリックブルーの装甲の脇を掠めていく。
翼とブースターは一体化しており、翼は刃だった。
つまり、ブースターによる爆発的加速と共に擦れ違いざまに斬り付けるという荒業なのだ。
だが、それをよけるあの装甲服も並ではない。
「葉塚さん。あっちが…」
「そう、あれがトライナルエコノミー、セイバーだよ」
「あれが…セイバー」
祐一の視線の先で、セイバーはファイティングポーズを取った。
ケビウンの爆発的加速による一撃を紙一重でよけきったことから実力の高さを窺い知ることが出来る。だが、トライナルの関係者であれをここまで使いこなせる人間が衛次以外にいただろうかと祐一は思案した。
実際のところ、いないはずだった。
パワーアクセラレーターにより強化された身体能力を扱いこなすには専用の訓練を受けるか、その力を当然のように行使できる存在でなければならない。
(…そういえば、一人いた)
警察関係者でないが故に、祐一は候補者から除外していたが、自分と翔矢、衛次を除いてもあれを使いこなせる人間が一人だけ残っていた。
全ての人に思い出してもらえたことで世界への干渉力を取り戻した男がいた。
「折原、浩平…」
「何だ。知っていたのか。向こうの紹介でね、実力は折り紙つきの職員がいるからって紹介されて」
衛次だけが知らない。浩平が、仮面ライダーであることを。それがいいことか悪いことかはわからないが、祐一は何も言わないことにした。
あの戦いに衛次だけが関与していない。今更過ぎたことをいっても何にもならないのだから。
だが、予感があった。
必ず、知るときが来る。それは確信めいた予感だった。
何より、その予感は祐一が自分で考えていた以上に早く、唐突に訪れる。
「葉塚さんっ!!」
試験場に柚月が駆け込んできた。
「本庁に入電です。正体不明の怪生物が都内に出現、破壊活動を開始した模様です」
「わかった。トライナルは?」
「封印指定、解除されていません」
衛次の元に連絡を入れたにも関わらず、彼の使用するトライナルは使用してはならないという。その矛盾を感じつつ、選択肢が自然と試験中のケビウンとセイバーに限られることになった。
「セイバーは試験用の一機しか用意されていない。今、主任はここにはいないから運用上の指揮は僕が執る。ケビウンとセイバーはそのまま出動、相沢君は…」
「俺は行きますよ。戦えなくても、見届けるくらいしますよ。一応、この世界を任されてるのは俺達ですからね」
祐一はそれだけ言うと飛び出していった。
「いいねえ、若いって」
それを見送った衛次はそれだけ言うと自分も現場に向かうために動き出した。既に、試験場の2体は行動を開始している。
「あまり、役には立たないかもしれないけどね」
言いながら、慣れ親しんだそれを取り出した。
それをどう表現すればよかったのだろうか。
見た目だけならば反信徒に近い。だが、行動はビーストに近い。どちらでもない存在がそこにいた。
「折原。どうするのよ、これ」
「どうするもこうするもない。やるしかないだろ」
鎧を着込み、盾と剣を構えた爬虫類がいた。
槍を構えた猪顔の獣人がいた。
「…ファンタジーか」
呆れ半分だったが、セイバーは拳を構えた。
みっともないことこの上なかったが、ここまではエクスチェイサー(予備)の2人乗りだった。その為、本来専用の武装などが用意されているはずのセイバーは武装無しでの戦闘を余儀なくされていた。
そういう意味では、ケビウンなどは非常に有利だろう。
彼女の装備は機体に一体化しているからだ。
「アートエクステンダー、ツインブレードモード」
その言葉と共に、背面の翼が分離、結合をし2振りの剣になった。
「アートエクステンダー、デュアルカリバー」
1本は前に、もう1本は後ろに。攻防一体の型をとり、猪顔の獣人…オークマンに向かっていくケビウン。
槍での一撃を1本目の剣でいなし、その隙にもう1本で切り裂く。
浅かった。致命傷には至っていない。
剣を振りぬいた所為か、オークマンとの間合いが広がっていた。この間合いは、槍の間合いだった。繰り出される突きを剣を交差させ、下から上へと突き上げることで槍の一撃を無力化する。
「アートエクステンダー、シザースモード」
交差した状態の剣の柄が外側に向けて広がる。そのまま大きな鋏となった剣で槍を切断した。
「アートエクステンダー、ファイナルモード。ブレードダイバー」
鋏を天に放り投げる。その間に鋏は分離結合を繰返し、1本の巨大な剣となった。
「はっ」
その剣に飛び乗り、ケビウンはオークマンに向かって突撃する。
一撃目は剣での突撃。
それによって弾き飛ばされた相手に対し、二撃目が発生する。
「スタン、ブレイク!」
足裏に仕込まれた電極が相手に接触した瞬間高圧電流を流し込むという技である。この時点でブレードダイバーでの勢いと、相手のダメージがなければ必殺とはなり得ない技ではあるが、オービターオーカーよりは使用者に優しい仕様ではある。
ブレードダイバーにより抉られた部分に電流を流し込み、オークマンを絶命させる。
そして、着地と同時にアートエクステンダーは元の状態、ケビウンの背面にブースターユニットとして装着された。
「一つ!」
ケビウンは次の標的へと飛び掛った。
セイバーは戦いの最中、傍観に徹している祐一に気付いた。
「戦わないのか?」
「今の俺には、無理だ」
否定する祐一だが、その声には目の前にある脅威に対し、何も出来ないことへの悔しさが滲んでいた。
「だったら、これ。使えよ」
言って、セイバーは自分を指差した。
要は、自分の代わりにセイバーを装着しろということである。
「お前はどうするんだ?」
「俺は、ONEだからな」
あまりに単純な答えだった。
折原浩平という人物はセイバーの試験装着員である前に仮面ライダーだった。
「わかった。俺がそれで戦う」
それが、祐一の新たな戦いの幕開けとなった。
to be continued…
the next episode
3.青の剣
後書き
セナ「第2話でした」
リリィ「私、何してるの?」
セナ「訓練」
リリィ「いや、その後の話なんだけど」
セナ「あぁ…性格変更?」
リリィ「そうよ。今から変えてどうするのよ」
セナ「いや…今度の禁書庫で自分の力が及ばないことで思いっきり後悔してもらおうかと」
リリィ「?」
セナ「それは兎も角、祐一登場」
リリィ「…あー私の知らない男達がいる」
セナ「まぁ、それは当然として。祐一が翔矢が求めているラインへと至る答えに辿り着くのは結構早いです。でも、適度に間を埋めていかないと祐一が長期間放置されることになるから気をつけていかないと」
リリィ「……」
セナ「因みに、セイバーです。セイヴァーではありませんよ、今回の装甲服」