先日、商業区で時の界王神は、悟飯に言伝を頼んでいた。
いよいよ黒幕が動き出しそうだから、明日からトキトキ都で
待機していてほしいと。
相手は勿論、ドラゴンボールの物語ではなくてはならない主人公。
絶対に負けないために修行を重ね、強さを極め続ける戦いバカ。
今、その戦いバカとラグナ達が、ラストバトルに挑む。
善と悪の決戦 最終話
『悪からの警告』
「わりぃな、ちょっと来るのが遅れちまった」
振り返らず、ロックに視線を向けたまま背中で語る、やまぶき色の
道着をきた男。
特徴的なヘアスタイルは、サイヤ人ならではと言ったところだろうか。
ぐっと腕に力をこめて構える姿は、さすが歴戦の戦士だけあり、
とてもきまっていた。
「んっ……ハァッ!」
ボウッ!
瞬間、はじけ飛ぶとてつもない気。
黒髪だった男の頭髪は金になり、その長さも腰まで届くという
ありえない姿に変貌していた。
黄金のオーラに稲妻、そして頭髪の異常にのびたその姿は、
ラグナもアルファも見覚えがあった……超サイヤ人3である。
「ご……悟空?」
どこかの歴史の、その時のものではない。
今現在、時の界王神に呼ばれてかけつけた、正真正銘の生きた英雄。
「パワーダウンしてるとはいえ、相手はゴッドには違ぇねぇ……油断するなよ」
孫悟空、その人である。
「は、はいですっ!」
「おう!」
ボウッ!
アルファは界王拳で倍化、ラグナは超サイヤ人2で強化して
それぞれ左右に展開する。
悟空を中心に、三人の戦士がロックへと戦いを挑むのだ。
「ち、ちっ……厄介な事になりやがったか」
肩でしていた息は、いつの間にか落ち着いている。
身体中からゴッドのオーラを放ち、今できるフルパワーをもってして
悟空たちの相手をするつもりのようだった。
いよいよ、最後の戦いが始まる。
「いきますですっ!」
バンッ!
超スピードで突っ込んでいくのは、アルファ。
すぐさま迎撃の構えをとるロックだが、アルファはそれを見越した上で。
「20倍界王拳です!」
ギャウンッ!
そのパワーを、ほんの一瞬で究極まで引き出した。
「なっ!?」
バコォッ!
防いだ腕と一緒に、身体ごと後方に弾き飛ばされるロック。
追撃するアルファが、今度は地面に叩きつけるように蹴りを放つが、
それは執念で急降下でかわされてしまった。
「もらったぁ!」
必至に避けているその隙を、ラグナは見逃さない。
既に準備していた両腕を真っ直ぐ突き出し、ロックの着地点目がけてそれをぶっ放す。
「ファイナルフラッシュ!」
ドウウゥッ!
完全にロックは、ラグナの方へと注意を向けていなかった。
これは避けられないし、今のロックならば大ダメージは必至だろう。
だというのに。
「んのっ!」
ガアアァッ!
両腕を突き出し、受け止めた。
バチバチと両手を痺れさせながら、それでもどうにか弾き飛ばそうと
懸命にファイナルフラッシュの軌道をそらそうとしていた。
「ぎぎっ……く、くそおおぉ!」
更に気をこめて押しつぶしにかかるが、負けてなるものかとロックも力を爆発させる。
お互いに高め合う力は拮抗上体で、どちらが勝ってもおかしくなかった。
そんなやりとりが、三十秒ほども続いた頃。
「ダアアァッ!」
ボォン!
ファイナルフラッシュが負けた。
打ち上げられたファイナルフラッシュが、空へ向かってのびていく。
舌打ちするラグナだったが、同時に時間も稼げたと小さく笑う。
「はぁっ、はぁっ……なに?」
悟空の姿が無い。
直後、後方から凄まじい気を感じて振り返ると。
「かめはめ……!」
三十秒だけとはいえ、気をためる時間を与えてしまった事を悔やむロック。
「波ァー!」
ドォオオォ……!
超サイヤ人3で、ためるだけためた気による本場のかめはめ波が
ロックに向かってのびていく。
「く、くそっ」
回避しようにも、先程のファイナルフラッシュとの消耗戦で
とても避けられるものではなかった。
かといって、受け止めて弾き飛ばせるほど生易しいものでもない。
となれば、選択肢は一つ。
「ぐっ!」
ドガアアアァン!
まともに受けて、こらえきるしかないのだ。
直撃の直前、腕をクロスして防御の姿勢をとったロックは、そのまま
まともにかめはめ波を受けてしまった。
「どうですかっ?」
上空から、アルファが様子を確認する。
かめはめ波の爆煙がはれてきた先では……ガードの構えのまま、
どうにかこらえきったロックの姿が。
「ちっ、しぶてぇヤツだ」
ボンッ!
悟空がそれを確認するなり、追撃とばかりに突撃していく。
「グ、ハッ……んの」
迎撃にかかるロックだが、もうまともに打ち合うほどの力は
残されていないようだった。
ドゴッ!
悟空渾身の右ストレートは、ロックの顎を正確に打ち抜く。
続いての左足による蹴り上げは、なすすべなくロックを上空へと打ち上げた。
「アルファ!」
「はいですっ!」
下から飛んでくるロックを、今度はアルファが真横へと蹴りつける。
バキッ!
再び吹き飛ぶロックの、その先。
「今です! ラグナさん!」
「よしっ!」
迫りくるロックに、久しぶりに『あの』構えをとるラグナ。
「か……め……」
ベジータを師に持ちながら、やはり最後の決め技はこれしかないとも思っていた。
「は……め……」
もとよりこの技は、神龍に呼ばれる前から会得していた、ラグナの得意技である。
これがトドメじゃない、なんてことはありえなかったのだ。
「波アアァー!」
ドゴオオンッ!
かなり距離をつめた状態からの、超かめはめ波。
とんでもない衝撃と気を周囲にまき散らしながら、大爆発を引き起こした。
あまりに強烈な一発に、光が弾けて視界が奪われる程である。
悟空に続いて、ラグナのフルパワーのかめはめ波。
これは絶対に決まったと、誰もが思っていたのだが……。
「は……ぁ……はぁ……」
ラグナのすぐ目の前に、息も絶え絶えな様子のロック。
超サイヤ人ゴッドもとけておらず、殆ど瀕死状態ながら、まだ
戦えそうな様子だった。
「ちっ!」
どこまでしつこいんだと舌打ちしながら、もう一発かめはめ波を撃とうと
構えをとるラグナ。
だが、そんなラグナに向かってロックの右手が突き出された。
「え……?」
気功波の類を撃つ構えではない。
その右手は、待て、と言っているようだった。
「いいか……ラグナ、よく聞け」
喋れるほどに落ち着いたのか、殆ど開いているのかわからない目を、
ラグナに向けるロック。
ポツポツと、ダメージからくる苦痛に口調を歪めながら、それでも
話し出した。
「お前には……お前には、確かにサイヤ人の血が流れている……そして、
サイヤ人なんてものは、所詮野蛮な戦闘種族……たとえ正しい心を
持っていたとしても、いつ悪に染まるかなんてわからないのだ」
気付くと、ロックの身体が、足元から光の粒子となって
サラサラと消えていくのがわかる。
もう限界なのだ。
「強さを知れば、更にその上に挑みたくなる……勝てぬ敵がいたら、
それに勝つためにあらゆる手段を取る……そういうものだ、サイヤ人ってのは」
消えていく姿は、どこか儚い。
悪行を重ね、過去の自分すら喰らおうとしていた目の前の黒幕は、
今になって、まるで昔の善人だった時のような表情をしており。
「だからな……だからこそ、ラグナ……覚えておけ」
やがて光の粒子は、ロックの顔まで届き、ラストスパートとばかりに
彼そのものを霧散させてゆき。
『絶対に……ゴッドになろうなんて、思うなよ』
その言葉を最後に、砂のように風に流されるロックの光。
完全に、さっきまでいた彼が幻であったかのように消滅しており、
勝利の後だというのに、何故かラグナの胸にあったのは、
大きな喪失感だった。
「……まさか」
ポツリと呟くラグナのもとに、アルファと悟空がやってくる。
「オレは……あの、未来のオレは……」
「後悔してたんでしょうね、今の自分に」
界王神界から戻ってきて、場所はトキトキ都、時の巣。
刻倉庫だと味気ないから、などというよくわからない理由で、
ラグナを始めとした五人は外に出ていた。
「そうかもしれませんね。超サイヤ人ゴッドになれた事で、
悪のサイヤ人になってしまい、強さを求めて歴史に手を出す自分に、
あのロックさんは、後悔していたんだと思います」
時の界王神とトランクスの言葉に、やっぱりそうかと確信するラグナ。
あの時、消滅していくロックから感じられた気持ちは、安堵感。
ようやく終われると、安心しきった表情に見えていたからだ。
「じゃあ、後悔さんしてたのに、どうしてやめなかったんでしょうね〜」
「ん〜……オラはなんとなく、あいつの気持ちがわかる気がするなぁ」
ガシガシと頭をかきながら、悟空が苦笑しながら口をはさむ。
「強くなりてぇって気持ちは、いつもあるからな。強くなれるってんなら、
オラも必死になって追いかけたかもしれねぇ……悪になるってのが
よくわからねぇけど、もしそうなっちまったら、手段を選ばなく
なるんじゃねぇかな。ベジータの時みたいに」
ベジータの時とは、魔人ブウ復活の際に、ベジータがわざと
バビディの術にはまった時の事を言っているのだろう。
確かに、あの時のベジータは、プライドを捨てて強さを求めたのだ。
もしあれが悪になるという意味だったのならば、ロックが
強さを求めるのをやめられなかったのも、頷けてしまうかもしれない。
「まあ、悟空くんならそんな事にはならないと思うけど、一応
純粋なサイヤ人だからね。注意しておいて」
「へへっ、わかってるって。オラはオラなりに強くなってやっからさ」
それはそれでどこか心配だ、と時の界王神は思うものの、
この男ならばどんな事があっても乗り越えてくれるだろうという
安心感も同時に覚えていた。
本当に、孫悟空という存在はよくわからないヒーローである。
「それで、なんだけどさ」
と、今まで黙って聞いていたラグナが、すっと手を上げる。
「一応、今回の事件は解決したわけだけど……オレはどうすればいい?」
ラグナは、今回の事件を解決するために神龍に呼ばれた戦士である。
今にして思えば、ロックの力を消滅させることができるただ一人の存在として
呼ばれたのだとわかるのだが、彼はこの後の身の振り方を考えていなかった。
「そんなの決まってるでしょ」
と、ぴょんとラグナの前に出た時の界王神が、子供っぽい笑みを向けてくる、
ちなみに年齢は間違いなく彼女の方が上だ。
「ここまで首を突っ込んだ以上、ラグナくんには最後まで、タイムパトローラーとして
働いてもらうわよ。アルファちゃんと一緒にね」
「わ、ホントですか〜っ!?」
途端、パァッと輝くアルファの笑顔。
ヤバイと思った時には、やっぱり遅かった。
ガシッ
掴まれるラグナの腕、女の子な感触のアルファ、この構図ももう何度目だろうか。
「私、ず〜っとラグナさんとお仕事してたいですっ! これからも、
いっぱいいっぱい一緒にいましょうですよ〜!」
「だぁ〜もぉ〜だからくっつくなってば! 色々恥ずかしいだろうがっ! こらっ!」
「や〜で〜す〜♪」
さすがは格闘バカと言ったところか、ラグナがどれだけ力をこめても振りほどけない。
ぎゃ〜ぎゃ〜二人がわめいている側で、残された三人はこんな会話をしている。
「これでようやく、オレの荷も降りた感じですかね」
「なんだトランクス、アルファと組んで仕事するの大変だったのか?」
「そりゃあ、楽しかったりもしましたけど……アルファさんの話をするたびに、
父さんが不機嫌になるので」
「あ〜わかるわ。ベジータくんにとっては最悪の相手だからね。
じゃあ、ラグナくんがアルファちゃんを引き取ったから、もうアルファちゃんの
話をする事はないわけ?」
「そうなると思います。いやぁ、本当に安心しました」
「ん〜……でもそうなると、トランクスくんまた一人で仕事する事になるけど?」
「あ……」
「そんじゃあ、また新しい仲間を探さねぇとな。今度、神龍に頼んでみたらどうだ?」
「う……またアルファさんみたいな人だったら、どうしよう」
「楽しくていいじゃない。ねぇ悟空くん?」
「だな。ベジータも喜ぶぜきっと」
「か、勘弁してくださいよ〜」
こうして、今回の歴史改変から始まった事件は無事に解決した。
この後、トキトキ都での仕事がどうなったかは、ここには記されていない。
あえて推測するとしたら、また時の界王神が調子に乗って、
トランクスというツテを使ってカプセルコーポレーションの技術と
食べ物をかき集めて、トキトキ都というよりトキトキ祭みたいな
毎日お祭り三昧をしたかもしれないが、一応相手は神様なので、
威厳を損なわないためにも、あくまで推測ですと言っておこう。
だが、真面目な話、今回の事件は本当に勉強になった。
正しい心を持った者にしかなれないはずの、超サイヤ人ゴッド。
だがそれすら、サイヤ人という土台から生まれた者であり、
いつ悪に染まるかわからないというのだ。
その先に待っているのは、己への後悔だけとは限らない。
ロックはどうにか自分を清算できたが、いつまたとんでもないヤツが
現れて、宇宙を脅かすか知れたものではないだろう、破壊神ビルスを筆頭に。
そんな時、それをなんとかできるだけの凄いヤツがいないといけない。
例え一人ではどうにかならなくても、仲間がいれば、きっと乗り越えられる。
だから、一人だけ強さを極める必要はないのだ。
もしかしたら、そんな事をロックは最後に伝えていたのかもしれない。
〜あとがき〜
お疲れ様です、鷹山孝洋です。
これにて、ドラゴンボールゼノバースをベースにした物語、
善と悪の決戦はお終いとなります。
思ったより短かったのですが、それだけにちょっとやり残した部分もあったので、
少しここに反省として書き残しておきたいと思います。
一番のやり残しは、なんといってもドラゴンボールキャラの登場回数です。
もっともっと出して、キャラクター同士の会話とかも沢山やりたかったのですが、
シナリオを絞って執筆した結果、この体たらくになってしまいました。
ああ……やってみたかった。アルファを弟子に持つ悟空さんと、ラグナくんを
弟子にもつベジータさんの、お互いの苦労話と、そこから発展する二人のバトルとか。
続いて二点目は、迫力あるバトルです。
文字という媒体と私の実力不足でしょうがないのかもしれませんが、やはり
マンガやアニメと違って、スピード感のあるバトルのイメージがなかなか出せませんでした。
おかしいなぁ、サンプルでちらっと書いた時はスムーズにできたのに、
と思いつつも、これはもっと精進しろという天の啓示だと思い、更に努力したいと思いました。
でも、言い訳させてください……文字だけのこの媒体で、複数人のバトルは本当に難しいんですってば。
こんな所になります。
改めまして、善と悪の決戦、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
ほぼ自己満足のみで構成されている今回の作品ですが、ちょっとでも楽しんで
もらえていましたら嬉しいです。
それでは、失礼します。