前回のほほんとした雰囲気だったが、いきなり本題に入らせてもらおう。
ラグナに似た何者かが、ついに本性を現すのである。
果たして、ヤツの目的はなんなのか。
あれは本当に、超サイヤ人ゴッドではないのか。
どうして、この事件を解決するのに、ラグナが呼ばれたのか。
最後の事件が、今動き出す。
善と悪の決戦 第十話
『戦闘種族の末路』
三組のデートカップルとトランクスのロリコン疑惑があがった、その翌日。
「終わりと始まりの書に変化があったって!?」
最後に刻倉庫に駆け込んできたラグナが、テーブルの上に
広げられている巻物にかぶりつく。
既に他の三人も来ており、改変された歴史を見ていた。
「ええ……ですが、これを」
トランクスに言われて、映っている悟空たちを観察してみると。
「これって……魔人ブウ?」
「わ、ラグナさん知ってましたですか?」
「ああ、魔人はオレの時代にも地球にいたから、それで」
なるほどです、とアルファが一人頷いていた。
巻物の中に映っているのは、界王神界。
ラグナが伝え聞いている伝説の中で、純粋な魔人ブウと悟空たちが
決着をつけた聖域であるという、神聖な場所だった。
そこでは今まさに、超サイヤ人3の悟空と、魔人ブウが戦っている最中。
これから、あの凶悪化が発動して、圧倒的パワーで悟空を
殺しにかかるのかと思われたが……そうではなかった。
「え?」
その姿に、ラグナは目を丸くする。
二人が戦っている光景の、手前。
カメラのアングルで言うと、目の前と言ってもいいぐらいに近い距離。
そこからぬっと顔を出したのは、ブロリーの歴史改変の際に見つけ出した、
あのラグナに似た今回の黒幕だった。
そいつが、じっと巻物を通してこちらを見ている。
「誘ってるわね、間違いなく」
時の界王神の言葉に、トランクスが難しい顔をした。
「オレ達に来いと……なめやがって」
「待ちなさいトランクス」
すぐに向かおうとするトランクスを、界王神が引き留めた。
どういう事かと視線を向けると、彼女は軽く溜息をついて言う。
「ハッキリ言って、今のトランクスが現場に向かっても、
役に立たないと思うわ。偽物疑惑があるとはいえ、超サイヤ人ゴッド
かもしれない、あんなの相手じゃ」
「で、ですが、今回アイツは歴史に直接介入していません。
この条件なら、オレも戦いに赴くことができるのに!」
そんな制約があったのか、と今更になって驚くラグナ。
「よく考えてみなさい。あのよくわからない敵は、今まで増幅させてきた
邪悪なエネルギーを持っていると見て間違いないわ。ラグナとアルファの
二人がかりでやっとの相手の力だって持ってるのよ。トランクスは
通信に徹しなさい」
「で、ですがそれじゃあ、ラグナさん達でも勝てないのでは!」
「そこはわたしが手を打ってるから、なんとかなると思う」
は、と三人が首を傾げる横で、巻物をラグナに突き出す時の界王神。
「時間稼ぎでいいから、二人で行ってきて。魔人ブウの気が更に
大きくなったら、今の悟空くん達と三人がかりでやっても無理だろうから」
「わ、わかった……アルファ」
「はいですっ!」
いつものように、二人の手が巻物に重なる。
静かに目を閉じて、意識を集中したその先。
キュイイィィ……
まばゆい光に包まれて……二人は、最後の戦場へと赴くのだった。
キュイイィィ……
界王神界に降り立った、ラグナとアルファ。
だが、その位置があまりにも予想外だったため、目を開いた二人は
その光景に言葉が出なかった。
「よう、ちゃんとタイムトラベルできたようだな」
お互いに舞空術で浮いた状態。
ラグナとアルファの目の前にいるのは、今までずっと暗躍していた、
ラグナによく似た何者かだった。
「どうした、そんなに驚いた顔をして? オレを倒すことが、
お前達二人の目的なんだろ?」
はっとして、ラグナが周囲の状況を確認する。
悟空と魔人ブウは、相当離れた場所で激闘を繰り広げているようで、
気は感じられても目で確認できる距離にはいないようだった。
つまり、今回はあの歴史に介入するつもりはまるでなく。
「最初から、オレとアルファを誘い出すのが目的だったってわけか」
「いいや、違うな」
フッと、口元を小さく釣り上げる目の前の黒幕。
それからその視線を……ラグナへと固定して。
「お前が成長するのを待ってたんだよ……過去のオレ」
「っ!?」
過去のオレ。
その言葉に、何か色々なものが納得できてしまうラグナだったが、
今はそれについて考えを巡らせている状況ではない。
「もう今のオレなら知ってるんだろ? こいつはな、超サイヤ人ゴッドといって、
あの破壊神ビルスともある程度わたりあえる程の実力を発揮できるんだ」
両手を広げて、ニタリと邪悪な笑顔を浮かべる、目の前の青年。
「だがな、この力をもってしても、ビルスにはかなわない……仲間達の
力を借りて、究極の力を得たというのに……戦闘種族が、聞いてあきれるぜ。だからな」
広げた手をおろして、キッとラグナを見据える。
「更なる力が必要だった……いや、欲しくなった……オレはなラグナ、
正しい心でゴッドになった後、悪の道に堕ちた、お前のなれの果てなんだよ」
「それで、邪悪な気を集めてたのか……その、破壊神を超えるために」
くくっ、と口の中で気味悪い笑みを浮かべる。
「悪のエネルギーは、悪人の中でしか育たない……苦労したぞ、アルファ一人で
どうにか歴史修正ができる場面のみで、これだけの力を蓄えるのは」
「だが……途中でオレが現れた」
「ご名答。おかげでエネルギーを回収する幅が広がった……礼を言うぜ」
その言葉に、ついに頭にきたラグナが構えをとる。
アルファもその横で、既に突撃する体勢をとっていた。
「ああそうそう、オレもラグナで、お前もラグナじゃややこしいだろ。
だから、こっちはこう名乗らせてもらう」
静かに言うそいつは、直後、身体中にゆらりとゆらめく炎のようなオーラを
まとったかと思うと。
「オレの名は、ロック。やがて破壊神ビルスを倒し、宇宙最強になる男だ」
「行くぞ!」
「はいですっ!」
ボッ!
それぞれ、超サイヤ人と界王拳状態になった二人が、距離をあけ、距離をつめる。
突撃したアルファは、その勢いのままとび蹴りを放つが、最小限の動きで
あっさりとかわされる。
だが、そのぐらいアルファとて予想できていた。
避けられた直後、急停止して逆の足で後ろ回し蹴り。
パシッ
「くっ!?」
あっさりと左手で受け止められると、ぐっとロックの懐まで引きずり込まれた。
その位置から、アルファの頭部にひじ打ちがきまる。
地面に叩き落とされたアルファ。
されどそれを確認したラグナからのファイナルフラッシュが、ロックに
直撃しようとしていた。
ドゴオオォン!
まともに喰らった、ダメージはあったはず。
「ちっ!」
だというのに、爆煙から現れたロックは涼しい顔でラグナを見上げていた。
「くそっ……やるしかないのか」
正直、使いこなせるかどうかまだ自信がない。
だが、今の自分達では全く相手にならないのもよくわかった。
ジリ貧でやられるより、全力を出せるうちに勝負をかけた方が良いに決まっている。
そう確信したラグナは、ぐっと気をためる構えをとると、更に目を鋭くさせた。
「ハアアァッ!」
ボウッ!
まとっていた黄金のオーラが、更に激しさを増す。
逆立っていた金髪がさらに迫力を増し、ラグナの周囲にバチバチと
稲妻のようなものが発生していた。
超サイヤ人2。
ベジータとの修行で開花した、ラグナの切り札である。
「うおおおぉぉ!」
振り上げた腕に、ありったけの気をこめる。
涼しい顔をして見上げるロックに、その気を一気にぶつけはじめた。
ズドドドドオォォ!
連続エネルギー弾である。
これもベジータ師匠から会得した技で、休みなく、ただ相手を
力押しで倒すためにのみ特化した攻撃方法だった。
いくら相手がゴッドとはいえ、全くダメージが無いとは思えない。
ならば、ちりも積もれば山となる。
ラグナもひたすらに、攻撃を繰り返してロックにダメージを蓄積させれば
いけるのではないかと、そう思っていたのだ。
だが。
「それを待っていた」
「っ!?」
撃ち込み続けているエネルギー波の中、それも目の前にぬっと顔を出すロック。
あれだけの猛攻を受けながら、至近距離までいつの間にか近づかれていたのだ。
しまった、そう思ったが離脱するより早く、ロックの手が動く。
ガッ!
「アッ……ガ、ァ……!?」
ロックの右手が、ラグナの首をしっかりと掴む。
アルファはまだ動けないようで、地面でうずくまって脳震盪と戦っていた。
「オレはな、ラグナ、悪のエネルギーしか受け付けない身体になってたが、
例外が一つあってな」
涼しげな声で語るロックは、されどとても嬉しそうである。
「オレが、オレ自身のエネルギーを吸収するのは、たとえ善であろうと
可能なんだよ……だから、それを待っていたんだ」
「(こ、こいつ……オレが超サイヤ人2になるのを見計らってたのか!?)」
それと同時に、納得もしてしまった。
最初にラグナが歴史改変の修正をしてから、次の事件が発生するまでに
三ヶ月も間があいていた。
あれは、ただ隠れていたわけではなかったのである。
ラグナが成長し、自分がエネルギーを吸収するに足る戦士になるのを待っていたのだ。
「さぁラグナ、そのエネルギー全てをもらうぞ。そうしてオレは、
新たなる名、ラグナロクとなって、破壊神を今度こそ倒して最強になる」
ラグナの首を掴む手から、黒い光が放たれる。
光は徐々にラグナの身体を覆い尽くしていき、その中から、超サイヤ人の黄金の
オーラを吸い上げて、ロックの体内へと吸収しているようだった。
「グッ……ク、アァ……!?」
同時に、身体中から力が抜けていく感覚。
間違いない、ラグナの気がロックに奪われているのだ。
「(くそっ……くそっ、そんな事……!)」
気力を振り絞って首をとるロックの右手を掴むが、離れる様子は全くない。
このままでは、全てのエネルギーを吸収されてしまうが、援護にくるはずの
アルファも動けないようだし、何故かトランクスからの通信も援護もない。
「ァ……カ……!」
ならば、誰がこの窮地を救ってくれるのか。
そんなの、言うまでもない。
周りの誰もが助けにこないのならば、じゃあどうすればいい。
簡単な話だ。
己を助けるのは……己一人。
「ま、け……る……!」
「ん?」
最後まであきらめなければ、きっと活路が見いだせると信じて。
「負けるかぁ!」
ギュイイィィン!
掴んでいた手に、光が宿る。
ラグナを覆っていた黒いオーラが、徐々に白く染め上げられていった。
「な……なにっ!?」
「ウアアアアァァ!」
白の光は、やがて黄金の、超サイヤ人のオーラへと変化していく。
それはラグナだけでなく、ロックの身体すら覆ってしまい、逆に
悪のエネルギーを浄化しているようだった。
「なっ!? く、くそっ! なんだその正反対の力は!?」
首を掴んでいた右手を離すが、今度はラグナがその手を離さない。
必死に距離をとろうともがくロックだが、それでもラグナは離さなかった。
「ハアアァァ!」
「グッ! ち、力が……溜めこんできた、今までの力が……このっ!」
振りほどけないとようやく理解したロックが、左手をラグナの顔面に向ける。
ドウッ!
ゼロ距離からのエネルギー弾に、とうとうラグナも手を離してしまった。
「ガハッ!? ……ち、っくしょう」
「ラグナさぁ〜ん!」
バッ
距離を置いた所で、ようやく復帰したアルファがラグナの隣に並ぶ。
「アルファお前な! タイミングが遅いんだよ!」
「だ、だって〜です〜! すっごく痛かったんですよ〜!」
「はぁ……まあいい。それより」
その言葉と共に、ラグナとアルファが正面を見据える。
「ち、ちくしょう……あの短期間で、これほどパワーを失うとは」
肩で息をしながら、憎々しげに二人を見つめるロックがいた。
超サイヤ人ゴッドの特徴はそのままで、気も全く感じる事ができないが、
先程よりも大幅にパワーダウンしているのは目に見えていた。
「いけそうだな、これなら」
「はいですっ」
ザッと、二人が構えをとった、その直後。
『間に合いましたよ、二人とも!』
トランクスの通信が入り、どういう事かと疑問符を浮かべていると。
ピシュン
「おっす!」
目の前に、ついに伝説が舞い降りた。
〜あとがき〜
どうもです、鷹山孝洋です。
がんばれ私……あと、あとちょっとなんだ。
本編だけでは説明がよくわからないと思いますので、ここで補足したいと思います。
今回の黒幕は、この物語の主人公でもあるラグナくんの未来の姿で、
ここではロックと名乗っています。
彼は未来で、超サイヤ人ゴッドという力に興味を持って、どうにかその姿に
なれたのですが、その力をもってしても、破壊神ビルス様と戦う事ができませんでした。
そんな時、ラグナくんは自分の時代において最強だったため、最強でありたいという
気持ちに火がついたのです。
もっとエネルギーを集めて、ビルス様を超えたい。
その瞬間、正しい心が邪悪に染まり、超サイヤ人ゴッドはいわゆるバグ状態になってしまい、
時間経過でも変身がとけることはなくなりました。
ゴッドの状態であるため気配も感じられず、そのまま、悪人を使って
邪悪なエネルギーを増幅させ、充分に増幅したエネルギーを回収して強くなる。
それを繰り返してきて、最後に過去の自分のフルパワーを吸収して完成するはずでした。
ですが逆に、過去の自分、ラグナくんに今までかき集めたエネルギーごと消滅させられ、
超サイヤ人ゴッドでありながらパワーが激減、というわけですね。
さぁ、次回がいよいよラストバトルで、最終話の予定です。
新たに現れた、ドラゴンボールの主人公と共に、ロックを打ち破り、
この事件に幕をおろせるでしょうか……おろさなかったらバッドエンドだから
まず勝つんですけどね。
それでは〜っ。