次に歴史の改変が起きたら、ラグナは犯人の特定を優先する。
アルファ一人に凶悪化した敵の相手をしてもらわなければならないが、
なに、早めに見つけてパパッとそいつごと片付けてしまえば
問題はないだろう。
そんな軽い気持ちで、ラグナはまた日常に戻っていった。
そして……今再び、歴史の改変が始まる。
善と悪の決戦 第八話
『VS伝説の超サイヤ人』
「だぁっ……!」
もう限界とばかりに、その場に大の字になって倒れこむラグナ。
ここはいつもの岩場であり、今日もベジータ師匠の元、
厳しい修行に明け暮れていた。
丁度今、その総仕上げが終わった所である。
「よぉし、もうキサマなら使いこなせるだろう」
この時になると、さすがのベジータも疲労の色が見え、
お互いに相当厳しい修行をしていたというのが伺えた。
「あ、ああ……でも、こいつは凄い……使いどころも難しそうだけど」
「まあ、アルファよりはマシだ。キサマの判断で、いざという時に使え」
「そうする……でも疲れたぁ〜」
もう動きたくありませんとばかりにぐったりしているラグナに、
情けないヤツだとは言うものの、その成長ぶりに多少は
喜びを感じるベジータだった。
と、二人がそうやって修業後の休息を楽しんでいると。
「ああっ、ここにいましたか!」
休んでいる二人の元に、トランクスが駆け込んできた。
「どうした? 何か事件でもあったのか?」
「あ、父さん。そうなんですよ! とにかくラグナさん、早く!」
「え……まさか、歴史改変が起きたとか?」
「そのまさかですよ」
このタイミングで来るとは、ちょっと間が悪い。
「う、うそだろ? オレ今、修行を終えたばっかりでヘロヘロなのに」
「ケッ、情けないヤロウだぜ」
言いながら、何かをポイッと投げつけるベジータ。
「え? うわっ?」
いきなり現れたそれをどうにか起き上がってキャッチすると、
それがなんであるかを確認した。
「ええっと……豆?」
「仙豆も知らねぇのか、バカ」
「せんず?」
「いいから食え! お前には仕事があるんだろうが」
「あ、ああ……」
よくわからないままに、たった今ベジータに投げつけられた
仙豆とやらを食べてみるラグナ。
味はなんの変哲もない、というか味もなにもあったもんじゃない
かなり味気ない豆である。
だが、それを全て胃の中へ流し込むと。
「お……おぉ?」
限界まで酷使してボロボロだった身体が、急に軽くなる。
体調が一気に良くなり、修行中に負った傷などもいつの間にか
キレイさっぱり無くなっていた。
「これって、一瞬でキズが……それに」
満腹である。
食べたのは豆一粒だというのに、まるで後先考えずに
食事をしたかのように満腹になっていた。
「父さん、仙豆なんて持ってたんですか?」
「便利なんでな。まさか、オレじゃなくラグナに使うとは思わなかったが」
「あ、ありがと、ベジータ」
「礼なんかいい。さっさと行け」
ぷいっと横を向くなり、その場にいると足止めになるとでも思ったのか、
さっさと飛び去ってしまうベジータ。
それを見送ったラグナは、迎えにきてくれたトランクスにこっそり呟く。
「ツンデレ?」
「父さんに言ったらタダじゃすまないですよ、それ」
だよな、と苦笑するラグナだった。
場所は変わって、トキトキ都の時の巣、刻倉庫。
ラグナ、アルファ、トランクス、時の界王神といつもの四人で集まると、
その巻物の中を見ていた。
相変わらず気味悪いオーラを発するその巻物の中で暴れていたのは……。
「わ……ブロリーさん」
あのアルファが絶句していた。
巻物の中で暴れているのは、伝説の超サイヤ人として戦士たちの間では
記憶されている巨大なサイヤ人、ブロリー。
膨れ上がった身体からの圧倒的なパワーで、悟空やトランクス達を
始めとして、次々と知った顔の戦士を薙ぎ払っていた。
「ここ、地球なのか?」
「いえ、これはパラガスが父さんを騙して連れてきた、新惑星ベジータです」
そんな事もあったんだ、なんて感心しつつ。
「これ、明らかに全滅するよな?」
「そうよね……これは、最初から戦いに参加しないと、アルファちゃん一人じゃもたないわ」
「あぅ……力不足さんですみませんです」
無理もないと思いつつ、トランクスがその巻物を二人に託した。
「今回の凶悪化で、ブロリーは更にとんでもないパワーを持っています。
くれぐれも、無茶をしないでくださいね」
「ああ、なるべく急いで黒幕を引きずり出してやる」
「任せてくださいですよ〜」
ラグナとアルファ、それぞれが巻物を持って目を閉じ、意識を集中する。
キュイイィィ……
おそらく、今までで最難関の戦いに向かうのだった。
キュイイィィ……
目を開くと、そこは先程まで見ていた、新惑星ベジータ。
少し離れた場所で、駆け付けたピッコロの仙豆によって持ち直した
悟空たちが、ブロリーを囲んで戦闘態勢に入っていた。
「オレは周囲の気を探る! アルファ!」
「お任せくださいですよ〜!」
ボッ!
いきなり界王拳を爆発させると、悟空たちの元へと飛び立つアルファ。
「さて……くそっ、そう簡単にはいかないか」
周囲に自分の気を張り巡らせるラグナ。
だが、やはりすぐに黒幕の尻尾を掴むことはできないようだった。
「だああぁぁっ!」
「とああぁぁっ!」
一方、こちらはブロリーと戦う戦士たち。
悟空とピッコロが突貫しているが、どれだけ攻撃を加えてもまるで
効いている様子が無い。
「ハァッ!」
バンッ!
やがて、二人を弾き飛ばしたブロリー目がけて、少年の悟飯と
青年トランクスによる魔閃光が撃ちこまれる……はずだったのだが。
ボウッ!
「ハッハアアァァー!」
その気迫に、全員の動きがとまる。
「な、なんだ?」
吹き飛ばされた悟空が、ブロリーの変化に目を見開いた。
まとっていた黄金のオーラが、黒いような紫のような気味悪いものとなり、
おまけに白目をむいていたそれが真っ赤に光っている。
先程までと、様子が一変したブロリーがそこにいた。
「やっぱり変化しましたですか……皆さん、援護しますです〜!」
「え、あ、あのっ!?」
悟飯の真横を通り過ぎ、正面からブロリーに殴りかかるアルファ。
ガッ!
腹に一発、だが、手応えからして全く効いていない事がよくわかった。
「くっ!?」
見上げると、ブロリーの赤い瞳がアルファを見下ろしている。
まずいと思った瞬間、アルファも急いで離脱行動をとった。
「3倍界王拳!」
ボウッ!
先程よりもスピードをあげて、真上へと離脱。
『魔閃光!』
それを確認してからの、悟飯とトランクスによるダブル魔閃光が直撃した。
ドンッ!
「悟飯!」
とっさに悟空が叫ぶが、間に合わない。
着弾直後から飛び出したブロリーが、悟飯目がけてラリアットを繰り出したのだ。
見事にその一撃を首にもらった悟飯は、数十メートル後方へと吹き飛ばされる。
「このっ!」
近くにいたトランクスがブロリーの背中に蹴りを叩き込むが、揺らぎはするがダメージが無い。
「ハッハハハハハァ!」
ギュルンと凄い勢いで振り返り様、その蹴ってきた足を掴む。
それからまた大砲にように飛び出すと、近くにいたピッコロ目がけて
トランクスの身体を叩き付けた。
必死にそれを受けるピッコロだが、攻撃はそれで終わらなかった。
キュイィン!
トランクスを受け止めたピッコロの目の前に、エネルギーが収束する気配。
まずいと気付いた時には、既に遅かった。
ドゴオォンッ!
ほぼゼロ距離からの、イレイザーキャノン。
ブロリーが得意とするエネルギー弾で、打撃も痛ければ気功波も痛い、
弱点どこだよって存在からの一発だった。
イレイザーキャノンに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるトランクスとピッコロ。
「こ、こんちくしょぉー!」
「やあぁ〜っ!」
背後と真上、悟空とアルファの同時攻撃。
それぞれが渾身の力を込めて拳を打ち込むが、やはりダメージになっていなかった。
「ハアアッ!」
バンッ!
それどころか、ほんの少しブロリーが気を爆発させると、二人とも
あっさりと吹き飛ばされる始末である。
「ち、ちくしょう……オラたちの攻撃が、てんで通じねぇ」
悟空が次の一手を決めあぐねている間、アルファもアルファで今回の一件を考えていた。
「(やっぱり、ブロリーさんの戦闘力が凄く上がってます……歴史修正さんするには、
倒すよりも耐えた方がいいのかもですけど……)」
生憎と、防御に徹した所で寿命が数十秒のびるのが精々だろう。
今回のブロリーは、いつにも間して無茶苦茶すぎる。
そうこうしているうちに、吹き飛ばされた悟飯や、大ダメージを負ったピッコロと
トランクスもブロリーの周りに集まる。
ベジータがまだ戦意喪失しているが、人数で勝るこちらは、果たしてあと
どれだけ耐えきる事ができるだろうか。
「くそっ、なんで気配を感じないんだ!」
一方、こちらは離れた場所で黒幕の気配を探っているラグナ。
ブロリーの出鱈目な気は嫌というほど感じているというのに、肝心の
黒幕らしき気がどこにもないのだ。
勘違いではないはず、絶対にこの戦いでブロリーに邪悪なエネルギーを
植え付けて、高みの見物を決め込んでいる黒幕がいるはずなのだ。
「どこだ、どこにいる……早くしないと」
あんなバケモノ相手では、いくらアルファが加勢したところで
長くはもたないだろう。
自分が見つけだし、解決する事が残された希望だ。
そう信じて、必死に周囲に気を張り巡らせるラグナだった。
そして、ついに。
「っ!? これは!」
向こうでブロリーが、悟空の顔面を掴みながら地面を滑っている時。
そのブロリーの気の流れによく似た、気味悪い気をついにとらえた。
「下だ!」
ギュンッ!
凄い勢いをもって、廃墟と化した地面におりるラグナ。
そんなに遠くではない、むしろ近い。
叩きつけられるのと同じような勢いで、地面に着地したラグナが見たものは。
「え……?」
信じられない光景だった。
「なんだ……もう見つかったか」
瓦礫の中、外からでは見ただけでは発見が難しい場所に、隠れるようにして
立っているそいつ。
冷ややかな口調、冷ややかな瞳。
まとっているオーラは無く、されどかすかに感じる邪悪な気は、
セルや人造人間がまとっていたそれと全く変わらない。
目の前のこいつが、今回の歴史改変の黒幕なのは間違いなかった。
だが。
『そ、そんな、まさか!?』
通信のトランクスも、驚かずにはいられない。
何しろ、目の前にいたのは。
「お……オレ?」
ラグナと同じ服装、されど少しやせ形の身体の戦士。
髪は黒でも金でもなく、赤い。
それを確認した時、通信のトランクスが、こんな言葉をもらしていた。
『す……超サイヤ人、ゴッドだって!?』
「え、ゴッド?」
なんだそりゃ、とラグナが首をかしげていると。
「まあいい、さすがにあれ以上やると、悟空たちもアルファも死ぬだろうからな」
「え?」
悟空たちはともかく、アルファを知っている?
ザッと格闘の構えをとりながら、慎重に言葉を発した。
「誰だ、お前?」
「見てわからないか? オレだよ、オレ」
「サッパリわからん。説明を要求するぞ」
「まあ説明してもいいが、ネタバレするにはまだ早いし、それに
悠長に説明している時間もないだろう」
その言葉に、二人とも自然とブロリーが暴れている方へと視線を向ける。
ベジータが参戦したようだが、全く相手にならず、これでは最後に
全員のパワーをかきあつめたとしても、悟空たちに勝ち目はないだろう。
「ふんっ」
突き出した腕を、強引に内側へと振り抜く仕草。
目の前の、ラグナに似た誰かがそんなアクションをした途端、
気の流れが一変した。
バシュゥッ……
遠くで、ブロリーのまとっていた気味悪いエネルギーが消失しており、
代わりに、目の前の誰かがそのエネルギーをまとっていた。
「さすがは伝説の超サイヤ人、こんな短時間で、ここまで悪の
エネルギーを増幅させるとはな」
やはりこいつが、悪人を利用してエネルギーを集めている元凶だ。
「に、逃がすか!」
ボッ!
すぐに超サイヤ人化して、目の前の自分に似た何者かに突撃するラグナ。
だが。
パシッ
「ぬるいぞ、オレ」
「くっ……!?」
振り抜いた拳を、軽々と受け止められる。
すぐに距離をとって、いきなり切り札を発動しようかと
更に気を高めるラグナだったが。
「じゃあな。次に会う時が楽しみだぜ」
「え?」
言うなり、額に右手を持っていく目の前の何者か。
ピシュン
次の瞬間、その姿は跡形もなく消え去っていた。
「え……あの時と同じ」
『瞬間移動……あっ、ブロリーの方に動きがありました!』
見ると、アルファが戦線離脱しており、他の戦士たちだけでやりあっている。
もう凶悪化した気が充満していないので、このまま介入せずに戦えば
歴史は修正されると判断したのだろう。
『とにかくお疲れ様です。話を整理したいので、お二人とも戻ってきてください』
「あ、ああ……わかった」
通信はアルファにも聞こえていたようで、遠い場所で光に包まれているのが見える。
ラグナもすぐに、刻倉庫へと戻るのだった。
〜あとがき〜
どうもです、鷹山孝洋です。
思ったより早い段階で、正体が見えてきましたね。
マニアックな人ならば、気配を感じない、などの部分から
どういう存在かは予想できていたでしょうが、今回の黒幕は、
ラグナくんに似た誰かで、超サイヤ人ゴッドのような姿をしています。
それが何を意味するのか、ここから先はオリジナル設定なので
推理も難しいでしょうが、考えてみると面白いかもしれないですね。
それにしても……一対一のバトルシーンでも大変だというのに、
こんなに複数のバトルシーンをしっかり書くのは、私には
まだ早いというのがよくわかりました。
うえぇん、集団を相手できるブロリーなんて嫌いだよぉ。
それでは〜っ。