歴史改変の修正は、とりあえず成功した。
またも黒幕の特定はできなかったが、今回はそちら方面でも
少ないながら収穫があったと見るべきだろう。
ラグナが感じた、妙な気配。
それは、本当に妙なものだった。
善と悪の決戦 第七話
『それは神か?』
トキトキ都、時の巣にある時の界王神の家にて。
「ねえねえ、これって尻尾から食べるの? それとも頭?」
「私は尻尾さんから食べますです〜♪」
女性陣は大層気に入ったようで、トランクスの自腹で買ってきた
たいやきを、わいのわいの言いながら頬張っている。
ちなみに男性陣はといえば、そんな女性陣を見ているだけで、
手に持っているたいやきに手を付けていなかった。
別に甘いものが苦手とか、某奇跡の少年のような理由ではない。
この二人だけは、真面目な話をしようとしていたからだ。
「ヘンですね……オレも時の界王神様も、そんな存在確認できなかった」
「そうなのか? かなり近い場所にいたと思うんだが」
人造人間による歴史改変を修正した、その直後の事。
ラグナが感じ取った気配は、刻倉庫で見ていたトランクス達では
確認できなかったらしいのだ。
「姿が見えない、という意味だったらわかるのですが、こちらからは
その気配、気すらも感じられませんでした」
「おっかしぃなぁ。確かにオレは気も感じたんだが」
「ちなみに、どんな気でしたか?」
「トランクス、もう一個頂戴」
どうぞ、と視線も向けずにたいやきを渡すトランクス。
「どんなって……すっごい悪そうな気だったな。あの時、
人造人間達が発していた気と、殆ど同じみたいな」
「う〜ん……ということは……?」
何かの結論に辿り着きそうなのか、トランクスがようやく自分の
たいやきにかじりつきながら考え込む。
ラグナもたいやきを食べてみるが、思ったより甘い餡に
ちょっとだけびっくりした。
「なんかこのたいやき、甘すぎないか?」
「もともと、時の界王神様の趣味で持ってきた食べ物ですから」
トランクスの補足に、納得のラグナ。
やはり神様といえど、女性は甘いものが好きらしい。
「って、そうじゃなかった。ええっと、人造人間達が発していたような気を、
ラグナさんが見たという妙な気配も発していた……という事は」
「簡単よ」
と、二匹目のたいやきを平らげた時の界王神が、ピッと三匹目を
要求するように手を出しながら口を開く。
「その何者かが、悪の力を培養してるんじゃないかしら」
「ばいよう?」
手渡しながら、どういう事かと問いかけるトランクス。
「妙だと思ってたのよね。前の事件の凶悪化の時と違って、
今回の凶悪化は、最後の最後でそれが解除されてた。
つまり、巨大になった邪悪な気を、誰かが持ち逃げしてるんじゃないかって」
「あっ!? なるほど!」
「特殊な方法だけど、悪人の気を苗床にして、巨大なエネルギーを
培養する方法は確かにあるわ。セルや人造人間の時、時間がたつ程
あいつらの気が大きくなってたでしょ」
「そういえば、そうでしたね〜」
食べ終えてご満悦なアルファが、のんびりと口をはさむ。
真面目な話の時に、アルファの相槌は間違いなく場違いの部類だろう。
「アルファ、はい追加のたいやき」
「わ〜いです〜♪」
というわけで、ラグナがたいやきを渡して黙らせた。
「つまり、今回の歴史の改変は、悪人を使って巨大なエネルギーを生み出し、
それを自分のものにしているやつがいると」
「まだ推測だけどね、かなり的を射てると思うわよ」
トランクスの結論に、合格とでも言わんばかりな笑顔になる時の界王神。
「なるほど……って、じゃあもしかして」
ラグナは一つの結論に達したようで、会話に参加している二人(=アルファを除く)
に思いついた事を口にする。
「オレ達、タイムパトローラーは、利用されてるってわけか?」
「え?」
「だってそうだろトランクス。邪悪なエネルギーを育てて奪う、
これだけしたいなら、歴史を改変する意味は無い。だけど、
邪悪なエネルギーを育てる以上、どうしてもその場で歴史は変わる。だから」
「あっ……オレ達は、そのエネルギー回収の尻拭いをしてるって事に?」
「そうなるわよね。卑劣なヤツ」
言葉にトゲはあるものの、両手でたいやきを持ちながらなので
なんとも威厳に欠ける神様である。
「という事は、これから先も歴史の改変があった場合、後手のオレ達は
そいつにまんまとエネルギーを回収されるだけという事に……くそっ、なんて奴だ」
タイムパトローラー歴の長いトランクスでも、今回のようなケースは初めてらしく、
どうしたら良いのか解決策が無いらしい。
ラグナも、たいやきをかじりながら考え込んでいた。
敵は、タイムパトローラーがかけつけて歴史を修正してくれる事を考慮して、
悪人に植え付けた邪悪なエネルギーを回収している。
ならばラグナ達が動かなければいいかと言われれば、そうもいかない。
もしそんな事をしようものなら、正しい歴史からはずれてしまい、
いるべき人物の消滅、起きなかったはずの最悪の結末、そして
タイムパラドクスからくる宇宙の消滅と、様々な問題が考えられる。
そう、ラグナ達が動かないわけにはいかないのだ。
「となると……オレがなんとか見つけるしかないか」
「え? どういう事ですか?」
ラグナの呟きに、トランクスだけでなく時の界王神も反応する。
「トランクスや界王神様も見つけられない、現場にいたアルファも気付かなかった。
となれば、その気配を見つけられるのって、今の所オレだけって事だろ?」
「そうなるわね……じゃあ、また歴史の改変が起きたら、ラグナは
歴史の修正じゃなくて、黒幕探索を優先してもらえばいいのかしら?」
「でも、それだとアルファさんの負担が」
「あぅ?」
自分の名前に反応したようで、かじりついたポーズのまま視線を
トランクスへと向けるアルファ、行儀が悪いったらない。
「まあ、アルファちゃんの場合は本気になればどうとでもなるでしょ」
「そ、そうは言いますけど、彼女が本気になるって、かなり危険じゃないですか」
「なんだトランクス? アルファが本気になると問題があるのか?」
ラグナの問いかけに、難しい顔をしてトランクスが口を開く。
「アルファさんは、界王拳をメインに戦うんですが、彼女はどんどん
無茶を重ねるタイプなので、自分の身体の限界以上の界王拳を
平気で使おうとするんですよ」
「ん? 界王拳ってそんなにまずいものなのか? 超サイヤ人はそうでもないが」
「肉体への負担がとんでもないわ。正直、あんまりやらせたくないのだけど」
時の界王神の言葉に、一応納得しておくラグナ。
まだその現場を見たわけではないが、どうも界王拳というのは
ハイリスクな技らしい。
「でも実際、そうでもしないと今回の一件、解決しそうにないのよねぇ……トランクス」
「はい」
悩みながらも、甘いものは別腹らしい。
トランクスも流れるような動作で時の界王神にたいやきを渡している。
「まあ、次の改変が起きたら、一回それでやってみましょ。いいわねラグナ?」
「オレは構わないが、アルファは?」
「聞くだけ無駄よ」
それはつまり、無茶を承知で頷くからだろうかと思うラグナ。
「ええ、無駄ですね。彼女は大抵の事には適当に頷きますから」
「そっちかよ」
訂正、アルファは話を聞かずに承諾するアホの子だからだった。
なんて、会議なのかたいやきを食す会なのかわからない、ここ時の巣にある
時の界王神の家だったのだが。
「あ、やっぱりここにいたわ」
「ん?」
ふと聞きなれない声に、ラグナが入り口を振り返る。
そこには、女子高生ぐらいの年齢の、活発そうな少女がいた。
「び、ビーデルさんまずいですよ! 勝手に入っちゃダメですって」
遅れて入ってきたのは、ビーデルと呼ばれた少女の彼氏か何かだろうか、
妙に弱腰になって入り口から顔を出している。
「えっと……誰?」
首を傾げるラグナに、トランクスが説明した。
「孫悟飯さんと、ビーデルさんです。悟飯さんは悟空さんの、ビーデルさんは
ミスターサタンの子供ですよ」
「え……あ、ああっ!」
悟空にミスターサタン、どちらも聞き覚えのある名前である。
悟空は言うまでもないが、ミスターサタンもまた、世界の救世主として
伝説に名を残している有名人なのだから。
「え、って事はこの二人、デート中?」
何気ないラグナの問いかけに、あははと苦笑する悟飯。
「ええそうよ。それで、久しぶりに大きいトランクスの顔を見に来たら
どこにもいないから、こっちかなって思って」
「大きいトランクス?」
何のことやらと首を傾げるラグナ。
「あ、あんまり深く考えないでください、ややこしいので」
「そうなのか?」
そうです、と半ば頼み込むかのように言うトランクスだった。
「ねえトランクス、最近なんか商業区に食べ物屋が増えてきたけど、
いつからお祭り好きになったの?」
「いや、別にお祭りをするために増設したわけじゃなくてですね」
「わたしが頼んだからよ」
と、最後の一口を頬張りながら、時の界王神がニヒヒ笑いで
ビーデルの前に立つ。
「む、またこの神様の我儘? 苦労してるのねアンタも」
「我儘じゃないわよ。これも他のタイムパトローラー達への
労いなんだからね。あ〜やだやだ、神様の善意を理解できない
今時の若者って」
「む……その善意も、結局は本人の私利私欲が元なんでしょ?
そんなの後付けの言い訳じゃない、くだらない」
「それで結果が出てるんだから、わたしはオッケーだと思うけどねぇ〜」
「そうかもしれないわねぇ。ホント、神様ってずるい生き物だわぁ〜」
あれ、何やら空気がおかしな方向に。
いつの間にか、ビーデルと時の界王神の間でビシバシと火花が散っており、
わずかながらお互いの気が膨れ上がっているのを全員が感じ取っていた。
「ちょ、ちょっとビーデルさん!」
「ああっ! か、界王神様! ここはどうか冷静に」
『ちょっと黙ってて!』
二人に言われて、条件反射で正座する悟飯とトランクス。
「え……もしかしてこの二人、仲が悪い?」
「みたいですよ〜? いっつも会うたびにこうやって騒いでますです〜」
食べるものを食べて本当に満足したようで、今はラグナの腕に抱き付いて
ご満悦な様子のアルファ。
で、そんな二人の目の前では、火花を散らす女子高生と神様、その隣で
正座をしている彼氏に従者だろうか。
「……カオスな現場だな、こりゃ」
「あぅ〜?」
まあ思う所は色々あるかもしれないが、今日のトキトキ都は
総じて穏やかだった。
〜あとがき〜
どうもです、鷹山孝洋です。
ようやくここまできました……地味に長いですね、この物語。
黒幕の特徴と動きが、少しだけ見えてきました。
ただ、まだ謎は残っています、気配を感じられない所とかですね。
このあたりがどういう理由なのかは、やっぱり終盤あたりにならないと
わからないかと思いますので、もうちょっと辛抱してなりゆきを見守っていてください。
ちなみに現段階での次回予告ですが……ドラゴンボールシリーズでは
人気のあの人のエピソードに行きたいと思っています。
さぁ、ラグナよがんばれ、アルファでもあれは真面目にしんどいぞ。
それでは〜っ。