それから更に、月日が流れた。
もう三ヶ月は前になろうとしている、ラグナの初任務であった歴史改変事件。
本当にこのまま何事も無いのだろうかと思う人間が半分、
そうじゃないと思う人間が半分と言ったところだろうか。
そして、いよいよその半信半疑な現状に終止符が打たれる。
歴史の改変は、やはり何者かの仕業のようだった。
善と悪の決戦 第六話
『二対二の激闘』
「この巻物です!」
トランクスによって刻倉庫に集められたのは、ラグナにアルファ、
そして時の界王神で合計四人。
広げられた巻物の中では、三ヶ月前に歴史の修正をしたタイミングよりも
前の戦いが映し出されていた。
「これは、いつのお話ですか〜?」
アルファの問いかけに、時の界王神が答える。
「人造人間たちが動き出したばかりの時期ね。こっちの二人が、17号と18号よ」
見ると、その二人がベジータやトランクス、ピッコロや天津飯を殺害し、
最後にクリリンにトドメを刺そうとしている。
「おかしい! この時代の人造人間達は、無闇に殺戮をしないはずなのに」
「そういうパターンもあるのか?」
ラグナの問いかけに、小さく頷くトランクス。
「あの二人は、好き勝手に暴れる事はあっても、いたずらに人の命を
奪う事はしなかった……だというのに、この二人はオレがいた未来の
人造人間となんら変わらない」
どうやら、このトランクスが実際にいた時代の人造人間は、凶悪な
性格をしていたようだった。
「この巻物から入って、人造人間たちを追い払ってちょうだい。いけるわね?」
時の界王神の言葉に、ラグナとアルファが揃って頷く。
託された巻物にそれぞれの手を重ねて、強く念じた。
キュイイィィ……
そして、間違った歴史を正すべく、二人は過去へと飛んでいく。
二人が現れた先では、既にベジータが人造人間18号と接戦を繰り広げていた。
否、接戦ではない。
「まずい、押されてる」
この人造人間たちは、永久式エネルギーを装備しているため、いくら動いても
疲れないという反則みたいな利点がある。
徐々に超サイヤ人ベジータが押されているのがわかり、とうとうこの時代の
トランクスが加勢に入ってしまった。
本来ならここで17号も参戦し、全員を瀕死状態にまで追い込むはず。
だが、さっき巻物から見た様子だと、そうではなかった。
「急ぐぞ、アルファ!」
「はいですっ!」
ボッ!
ラグナは超サイヤ人に、アルファは界王拳を発動してベジータ達に参戦していく。
「む?」
いちはやく気付いたのは、ここまでただ戦いを諦観していた16号だった。
大きな巨体は、やはり新たな介入者がいても動く様子は無い。
「(話に聞いてた通り、本当に悟空の抹殺しか興味が無いんだな)」
そんな事を思いながら、ラグナが16号の前を通り過ぎて行く。
背後からトランクスを一撃のもとに倒した17号の、更に後ろからの不意打ち。
ガスッ!
「がっ!?」
予想外の一撃に、17号がよろめいた。
「こっちはオレが引き受ける!」
蹴り上げて、17号との距離を一旦あける。
見るとアルファは、ピッコロと天津飯を返り討ちにした18号に空中戦を持ちかけていた。
「ったく、なんだよお前等?」
蹴り上げられた脇腹をさすりながら、少々苛立ち気味に言う17号。
「ベジータ達の仲間だ。説明はそれで充分だろ?」
厳密にはベジータの弟子なのだが、細かい事だし言ってもわからないだろうから
ザックリな説明のラグナだった。
「ったく、ドクターゲロのデータバンクは欠陥だらけだな。ベジータ達の戦闘能力は
全然違うし、見た事も無いやつがこんなにいやがって……」
と、すっと目を閉じる17号。
何か仕掛けてくるのかと、両手に気功波のエネルギーをためていると。
ブァッ!
「ガアアァァ……!」
「え……こ、これは!?」
セルの時と同じである。
気味の悪いオーラが吹き出し、言葉もなく目を赤く光らせる17号。
はっとしてアルファの方を見ると、18号も同じ影響を受けているようで、しかも、
今回はもっとおかしな事がおきていた。
「気を感じる……?」
「あれ? 人造人間さん達って、気がなかったはずですよね?」
そう、気を感じるのだ。
膨大なオーラの中に、確かに感じる邪悪な気。
その気がどんどん膨れ上がり、とどまる所を知らないようなのだ。
「これは」
「短期決戦、さんですね!」
言いながら、それぞれがそれぞれ対当している人造人間に改めて構える。
「ハアァッ!」
突っ込んでくる17号目がけて、ラグナは両手を腰にためた状態で待ち伏せた。
撃つなら必中のタイミングで、より確実なカウンターになるように。
やがて、充分に距離をつめてきたのを見計らって、両手を前にぐっと突き出す。
「かめはめ波ァー!」
ドガァッ!
まともにかめはめ波を受ける17号、だが。
ボンッ!
「くっ!?」
ダメージがあったはずなのに、全く気にせず突撃してくる。
すぐさま急上昇で距離をとると、ほぼ真下にいる17号目がけて
連続エネルギー弾を放った。
ベジータ師匠直伝の、相手に休む隙を与えない容赦の無い連撃である。
ズドドドドォォ……!
撃ち込む一発はそれほど威力は無いものの、連続であてればとてつもないダメージになる。
このまま押し切れば、そう思っていたラグナだったが。
ブゥンッ
「な、なに?」
撃ち込んでいた下から、円形に広がるエネルギーが確認できる。
バリヤーだ、そう気付いたラグナは、舌打ちしつつ片手を17号に突き出した。
「ビックバンアタック!」
ドゴォッ!
やはりバリヤーにかき消されるが、ほんの少し17号の動きを封じる事はできたはず。
急いで真上から真横までポジションを変えると、ありったけの気を両手にこめて、
それを身体の前にもってきて突き出した。
師匠のベジータ曰く、これは地球上で放ったら地球ごと吹っ飛ぶから注意とのこと。
だから、地球に直撃しないこの角度ならば、フルパワーで放てるというものだ。
「ガウゥゥ……」
明らかに正気を保っていない17号。
そんな、異常な人造人間に向かって、バリヤーで防がれても良いクラスの
大技をぶっ放した。
「ファイナルフラーッシュ!」
ドウウゥー!
完全体のセルすら貫通する、超強力な必殺技。
いくら異常な気を放っている17号とはいえ、バリヤーで完全に防げるとは思えなかった。
バキィン!
案の定、バリヤーをあっさりと打ち破る。
ファイナルフラッシュの直撃を受けた17号は、普通だったら粉々に吹き飛んでいただろう。
「はぁっ、はぁっ……くそっ」
だが、爆煙の向こうに、未だ健在な黒い影が一つ。
「ハアアァァ……?」
相当なダメージはあったのだろう、ガクガクと肩をゆらしているが、狂気に満ちた
赤い瞳でラグナを見つめる17号がそこにいた。
「あぅっ!?」
ふとそこで、アルファの小さな悲鳴。
見ると、界王拳状態のアルファが吹き飛ばされて、空中で急停止をした所だった。
それを見上げる形で、地上にいる18号が蹴り上げた体勢で固まっている。
「ハハッ、ハハハハハハ……!」
やはり18号もおかしい。
高笑いするその姿は狂気に満ちており、そうしている間にもどんどんと感じないはずの
気が高まっているようだった。
「こいつら……時間の経過と共に、どんどん強くなってやがるのか」
『ダメです。今回も、どの座標にも黒幕らしき気配が感じられません』
やっと届いたトランクスの通信にも、事態の改善が見られない。
どうしたものかと思案したいところだが、どうやらそんな暇はくれないようだった。
「ヒャアァッ!」
直線で飛び掛かってくる17号。
18号もアルファに飛び掛かっており、それぞれが受けの構えをとってカウンターを狙う。
だが、アルファはともかくラグナは肉弾戦に持ち込まれたら勝ち目がない。
「く、くそっ!」
どう来る、どうやってさばく?
そんな事を考えていた、直後の事だった。
バシュゥ……
「は?」
またである。
突撃してきた人造人間達をまとっていた、あの気味悪いオーラが弾け飛ぶ。
赤い瞳も元に戻り、急停止した二人はきょとんとした顔でお互いを見つめ合っていた。
「……オレ達」
「どうしたっていうんだい?」
どうやら、記憶にないようだ。
セルの時もそうだったようだし、同一犯の仕業でほぼ間違いないだろう。
だが、
「ん?」
ふと、ラグナが違和感を感じて上空を見上げる。
ピシュン
その直後、何かが瞬間移動したような気配を感じた。
「……今の」
「おい、お前等」
17号に声をかけられ、慌てて振り返るラグナとアルファ。
「どういう状況かサッパリわからないが、オレ達とやりたいってのか?」
「え? ……あ、いや」
「なぁんだ、ただの腰抜けかよ」
18号に言われて、むすっと頬を膨らませるアルファだった。
そのまま二人は、ラグナとアルファに興味を失くしたようで、
さっさと16号のいる道路へと戻っていく。
「あ……忘れてた」
歴史改変の修正にきたのだ、ラグナ達は。
見ると、クリリンが人造人間達に駆け寄って何か言っている。
「本来の歴史さんに戻りましたです」
アルファに言われて、そうなのかとトランクスの通信を待つ。
『ええ、これで人造人間達はこの場を去ります。ラグナさん達も引き上げてください』
「了解ですよ〜っ」
「りょ、了解」
先に刻倉庫へと戻っていくアルファを見届けながら、ふと人造人間達を見つめるラグナ。
「お前たち、先程の事、本当に覚えていないのか?」
「だから知らないっての。無駄口は叩いて妙に頑固なやつだな、お前も」
どうやらあの現象は、16号にも異常事態として見えたらしい。
「(しかし……さっき空にいたと思う、アイツは)」
姿は見えなかった。
だが、確かに誰かがいた。
そんな確信を抱きながら、ラグナもようやく刻倉庫へと戻っていくのだった。
〜あとがき〜
どうもです、鷹山孝洋です。
もっと長々とバトルシーンを執筆したいのですが、文章で二組のバトルを
同時になんて私のスキルでは無理でした、ごめんなさい。
今回は、黒幕についてちょっとだけ進展がありました。
感じなかったのに、今回はラグナくんが気付いた黒幕らしき人の気配。
歴史の修正はできたものの、この先もこやつが事件を起こしそうな予感です。
というか絶対起こします、そうじゃないと物語にならないので。
それでは〜っ。