ラグナが、ベジータのもとで修行をするようになって、一ヶ月になろうとしていた。
 奇跡的に生還を続けているラグナは、気のコントロールは勿論の事、
 全体的な戦闘力アップも目覚ましいものがある。
 特に、得意分野である気功波の類を重点的に修行しているため、遠距離からの
 気功波攻撃はかなりの熟練度と言ってもいいだろう。
 さて、それはそれとして……この二人には、少々気になる事があるようだった。





     善と悪の決戦  第五話
       『黒幕について』





「おっちゃ〜ん! 次このマグロの握り!」
 トキトキ都商業区、屋台の寿司屋にて。
 今日も時の界王神が、嬉しそうに下界の食事に舌鼓をうっていた。
 意外と下界の食事が好きな神様というものは多いらしい、ビルスを始めとして。
「あの……なんでトキトキ都にこんな屋台が?」
 付き合いで無理矢理隣に座らされていたトランクスが、コップを傾けながら
 苦笑をしている、ちなみにお酒だ。
「え、だってウイス様がとっても美味しそうに食べてたから、つい」
「ああ……そういえばそうでしたね」
 何しろあの事件の際に、持ち帰りまでしていた食べ物である、寿司というものは。
 フォークではなく、素手でモックモックと頬張る姿は、界王神というよりは
 女の子と言ったほうがしっくりくる、しかもかなり年下な考え方で。
「ああもう、ご飯粒ついてますよ」
「ん? とって」
 完全にお子様だった。
 笑顔をひきつらせたまま、時の界王神様の口元を拭く、タイムパトローラートランクス。
 なんだこの絵は、と誰もが思う事だろう。
「ああもう、そんなだから、皆さんにからかわれるんですよ」
「もぉ、トキトキみたいにわたしがなめられてると思ってるわけ? 大丈夫よ」
 ちなみにトキトキとは、このトキトキ都にいるとっても凄い鳥なのだが、
 今回の物語には何の関係も無いのでスルーしてほしい。
「ところで、界王神様」
 また一つコップを傾けて、手元に視線を落とすトランクス。
「前回の歴史の改変から、もう一ヶ月になろうとしていますね」
「そうね〜……おかしいわ」
 言いながら、マグロの握りをぱくっと一口、幸せそうな笑みを浮かべる。
「でもまあいいじゃない。このまま終わってくれれば楽な仕事ですむんだし」
「そう思ってないんじゃないですか?」
 トランクスの指摘に、バレたか、みたいな苦笑いをする時の界王神。
 それから、目が少しだけ真剣味をおびた。
「確かに妙なのよね……トランクスだけじゃなく、わたしも終わりと始まりの書を
 ずっと見てたのに、あの事件を引き起こしていた黒幕の気配がどこにもなかった」
「別の時代から、遠隔操作をしているとか?」
「可能性としては無くは無いでしょうけど、微妙ね。それだったら、痕跡が残ってるはずだもの」
 なるほど、と呟きながらまたお酒を一口。
「もしかしたら、今回の歴史の改変は、何らかの異常現象で?」
「そっちの可能性の方が高いかしらねぇ……前にアルファちゃんと悟空くんで
 派手に暴れてたから、そのせいでどこかの時空が歪んじゃったとか」
 前回の事件の、ラストバトルの事を言っているのだろう。
 だが、それでも時の界王神は納得いってないようだった。
「何か、気になる事でも?」
「いやね、異常現象だとしたら、その対象が限定的だなって……ほら、皆フリーザとか
 セルとか、悪人だけだったじゃない。現象だったら見境なしな事が多いんだけど」
「……そっか。となると」
「お手上げね」
 言いながら、ピッと少女らしく右手を高く掲げる時の界王神。
「次はウニの軍艦巻き!」
 これもウイスの好みだからである。
「もう、界王神様、真面目に話をしてください」
「え〜だってここで真面目に話してたって、解決する問題じゃないでしょ?
 だったら今は忘れて、食事を楽しまないと、ね?」
 言いながら、はぐはぐとお寿司にかぶりつくお子様、もとい神様。
「はぁ……ラグナさんはあんなに必死だっていうのに」
「んぐ? そういえばラグナくん、ベジータくんに弟子入りしたけど、生きてる?」
 生きてますよ、と念押ししてからトランクスが改めて現状を説明する。
「今は父さんと実戦形式で修行をしています。父さんも、対戦の方がお互いに
 実力が伸びやすいからと好んでそうしているようで、凄まじい進歩ですよ」
「へぇ……いつか本気で、ベジータくんが悟空くんを超える事があるかもね」
「そうなってくれると、オレも少し嬉しいです」
「少しなのかなぁ〜?」
 言いながら、肘で小突いて来るお子様、本当にこれが時を管理する界王神なのだろうか。
「コホン……じゃあ、オレはちょっと刻倉庫を見てきますので」
 わざとらしく咳払いをして、席から立つと時の巣へと歩き出すトランクス。
「けち〜。女の子との付き合いが悪いと、この先一生独身なんだからね〜」
 と、独身女性(神様)が申しております。
「今度から気を付けます。それじゃあ」
 そんな嫌味など意に介さず、今度こそトランクスは商業区を去ってしまった。
「うぅ〜……まあ、トランクスやカプセルコーポレーションの人達のおかげで、
 下界のものが沢山トキトキ都に入ってきて楽しくなったのは、感謝してるけどさ、もぐっ」
 言いながら、最後の大トロ握りを一口でご馳走様。
「ふぅ、美味しかった。さてっと……あ」
 立ち去ろうとして、ふと気付く。
 そもそもなんで、トランクスに屋台に付き合ってもらったのかの理由に、だ。
「お金……わたしが払わないといけなくなっちゃった」
 そう、トランクスはサイフだったのだ、酷い神様もいたものである。
 ギギギと音をたてて振り返ると、代金を請求する屋台の主の姿が。
 あははははと乾いた笑みを浮かべた時の界王神は、その後、何の意図があったのか不明だが
 元気にVサインをすると。
「タイムパトローラー、トランクスにつけといて!」
 本当に、酷い神様もいたものである。

 さて、場所は変わって下界の岩場。
 ベジータとラグナ、互いの距離は三十メートル以上は離れているだろうか。
「だああぁぁ!」
 その距離から、連続エネルギー弾を繰り出すのはベジータ。
 離れているとはいえ、エネルギー弾の速度はかなりのものであり、ちょっとでも
 気を抜いたら連続で被弾はまぬがれないだろう。
 だが、その動きをラグナも読めている。
ギュンッ!
 高速で急降下、地面に着地と同時に斜め横に急上昇、そして三角跳びのように岩を蹴って
 反対方向へ。
 信じられない回避行動で、ベジータの攻撃をことごとくかわしていた。
 そして、少しでも隙が生まれたと思ったら、その右手に気をためて。
「波ァ!」
ドウゥッ!
 連射ではないが、強烈なエネルギー波を一発。
 ベジータがそれを避けながらカウンターでエネルギー波を連射するが、気付くと
 その場所にラグナがいない。
「むっ!?」
 直後、ほぼ真上からラグナの気が。
 あの一瞬で、かなり急接近されていたようだった。
「ビックバンアタック!」
 ベジータではなく、ラグナの一発。
 片腕から放たれたビックバンアタックは、真下にいるベジータ目がけて
 一直線に撃ち落される。
 どうにかこうにか回避するが、地面に着弾した後の爆発が凄まじく、少しの間
 視界が奪われてしまった。
「ちぃっ、小細工なんぞ通用するか!」
 目で見るから、戦士達の動きにはついていけない。
 気の大きさや動きを読み解く事が、相手の状況を把握するのに大切な事なのだ。
 戸惑ったのはほんの一瞬で、すぐに真後ろにラグナの気を感じ取ると、手のひらを上に向けた。
ブゥンッ!
 気円斬が、ラグナ目がけてとんでいく。
「うわぁっ!?」
 まさかこんなものが飛んでくるとは思っていなかったようで、想定以上に大きな
 回避行動をとってしまい、大きく隙を作ってしまうラグナ。
「あ、あっぶな〜」
 どうにかこうにか、横の岩場に着地した、そのラグナの目の前に。
「じゃあ次はどうかな?」
「へ?」
 ほぼゼロ距離で、両手でラグナに照準をあわせているベジータの姿がある。
「し、しまっ!?」
「ファイナルフラーッシュ!」
ドゴオォォォッ!
 またこれである。

「うぐぅ……」
 一分後、岩場の隅でボロクズのように横たわるラグナの姿があった。
「大分マシにはなってきたが、キサマは油断すると無駄な動きが多い」
「わかりました」
 敬語なのは、それだけベジータを尊敬している証だろう。
「いやぁ参った……さすが伝説の戦士……レベルが違い過ぎる」
「当たり前だ。テメェみたいな青臭いガキが、オレと対等に戦うなんざ百年早い」
 寿命終わっちゃうよ、と思いながら上半身だけ持ち上げるラグナ。
「その戦いのセンス、羨ましいぜ。オレも随分戦い慣れたとはいえ、
 まだ実践じゃ役にたたないんだろうなぁ」
「だろうな。アルファの足を引っ張るのが目に見えている」
 その名前が自然と出てきた事に、違和感を感じるラグナ。
「なあ、ベジータってアルファのなんなの?」
「元師匠だ。今はあいつは免許皆伝してやがる」
「ウソ!?」
 つまりは、ベジータが教える事は、もう全てアルファは伝授されたという意味である。
 今の段階の修行でさえひいこら言っているラグナにとっては、
 その言葉はかなりの衝撃だった。
「それにあいつは、カカロットの戦い方が性に合ってるみたいでな。
 今はそっちで修行してるだろうぜ」
「ああ……そういえばアルファ、最初にそう言ってたっけ」
 カカロットというのは悟空の事である、というのは初期の頃に教えてもらったラグナ。
「でもま、アルファはアルファだよな」
「ん?」
 よっこいせ、と起き上がりながら、パンパンと服の汚れを払うラグナ。
「オレは正直、パンチにキックで肉弾戦を挑むより、外から狙い撃ったり、
 大技で相手を追い込むのが性に合ってるから、師匠がベジータで良かったよ」
 それは、向き不向きの問題だろう。
 ラグナはそういう戦い方が好きなのであり、別にアルファのやり方が悪いわけではない。
 個性とも言えるだろうし、ならばそれを伸ばしてこその成長と言える。
「ほう、どうやらまだ余力がありそうだな」
 ニヤリと笑うベジータに、お返しとばかりに爽やかに笑うラグナ。
「もう一回お願いできるか? 次はオレのかめはめ波をお見舞いするぜ」
「フン、カカロットの技なんぞ、オレには通用しないぞ」
 お互いに譲る気なし、完全に勝つ気満々な様子。
 暫くそうしていたかと思うと、ほぼ同時に、ラグナとベジータの気が急激に高まり。
バッ!
 二人の修行は、もうしばらく続いたのだった。





〜あとがき〜

どうもです、鷹山孝洋です。
今回はちょっとした説明と、ラグナくんの現状についてのお話でしたね。

黒幕についてはまだ不明ですが、判断材料は揃っております。
それでも断定しないのは、やはり慎重だからでしょうね。
ちなみにアルファについてですが、これはノンフィクションだったりします。
勿論ゲーム内でのことですが、あの性格のアルファを弟子にしていたと思うと、
実はベジータさんって凄い器の広い人なのかもしれませんね、さすが王子様ですっ。

さて……次はたいやきかにくまんあたりを出してみようかな(ボソッ)。
それでは〜っ。