とりあえず、ラグナの最初の仕事は無事に終わった。
だが、お世辞にも活躍したとは言えない結果とも言えよう。
殆どアルファだけで解決した、今回の仕事。
まず、ラグナに必要なのは、基礎的な戦闘技術のようだった。
善と悪の決戦 第四話
『ラグナの師匠』
「オレに師匠をつける?」
セルを利用した歴史改変の修正を終わらせて、しばらく後。
ラグナとアルファ、二人の体力が回復した頃に、トランクスが
そう言ってきた、ちなみに時の界王神は商業区で一人ラーメンである。
「ええ。見た所ラグナさんは、力は持っていても、その使い方が
まるでできていないと思いまして」
「そ、そうか? オレはよくわからないが」
「私もそう思いますですっ。ラグナさん、超サイヤ人さんになれるのに、
その力をただ振り回してるだけに見えますですよ〜」
アルファにも言われて、頭をかくラグナ、ちなみに三人はまだ
刻倉庫内にいる。
「これから二人で仕事をしてもらうわけですから……そうですね、
アルファさんは確か、格闘戦が得意なんですよね」
「ですですっ。近づいて殴る、ですよ〜っ♪」
能天気な声と雰囲気からは想像もつかないぐらいイノシシな少女らしい。
だが実際、セルとの戦いでその片鱗を見たラグナからすれば、
納得するしかない話でもあるわけだが。
「それに対して、ラグナさんは気功波を使った戦いが得意と見ましたが」
「ああ……かめはめ波に憧れて、同じような技とかかなり練習してたから」
「では、ラグナさんにはそちらを伸ばす修行をしてもらいましょう」
言いながら、腕を組んで考え込むトランクス。
暫くして、良い師匠が思い浮かんだのか、じっと目をつぶると。
「可哀想に、ラグナさん」
「トランクスの中でオレはどうなってんだよ」
嫌な予感に、嫌な汗が流れるラグナだった。
「い、いえ、師匠としては頼りになるんですが……その……一つ間違うと
死んでしまう可能性もありまして」
「それのどこが頼りになるって?」
「だ、大丈夫ですよラグナさん! ほら、サイヤ人は死の淵から復活すると
急激に戦闘力が上がりますから」
それはつまり、そのぐらいの事は平気でやってくる師匠という事だろうか。
「トランクス……オレに死んでほしいのか?」
「ち、違いますって! とにかく、オレちょっと行ってきて確認してきますから」
「あ、おいこら」
ラグナの制止もきかず、さっさと外へと飛び出してしまうトランクス。
やれやれと肩をすぼめながら、改めて刻倉庫の中を見回すラグナだった。
「こんな沢山の巻物の中から、異変を見つけて解決か……」
「探すのも一苦労さんなんですよ〜」
後ろで、同じく見上げているであろうアルファが楽しそうに言う。
いずれ自分も、探すところから仕事をするのだろうと思うと、給料いくらかなとか
下世話な事を考えずにはいられないのだった。
「そういえばアルファ」
「あぅ?」
振り返ると、出会った時と同じ、きょとんとした可愛らしい少女の顔をしたアルファが。
「お前も、誰かに弟子入りしてたりしたのか?」
「はいです。今もしてますですよ〜」
「誰だそれ?」
「悟空さんです」
しばしの沈黙、およそ三十秒。
「……誰だって?」
絞り出すように聞いたラグナに、やはりきょとんとした様子でアルファが言う。
「だから、孫悟空さんですよ〜っ」
「……ウソ?」
「本当ですってば〜」
孫悟空。
ドラゴンボールをめぐる伝説を語るためには、絶対にはずせない主人公的存在。
数々の強敵を打ち破ってきた、地球育ちのサイヤ人だ。
「え……お、お前の師匠ってあの悟空!?」
「ですです。あと、多分ですけど」
そう前置きしてから、アルファはサラリと呟く。
「ラグナさんの師匠になる人、きっとベジータさんですよ〜」
「はぁ!?」
これまた伝説を語るにはずせない戦士の名前。
惑星ベジータの王子、サイヤ人の中でも超エリートと言われた天才である。
そのぐらいの知識はさすがに持っていたラグナは、いやいやまさかと頭の中で
必死に否定するのだが。
「あれがラグナさんです。よろしくお願いします、父さん」
「フン……えらくひ弱なヤツだな」
必死の否定が、即座に否定返しされてしまう。
「あ、お帰りなさいです〜」
戻ってきたトランクスは、ラグナの師匠になるであろう男を一人連れていた。
小柄で特徴的な逆立ったヘアスタイル、だがその威圧感はさすがサイヤ人といったところか。
「あ……あなたが」
「いらん世事は抜きだ。タメ口でこい」
元悪人で、世界の救世主でもある伝説の戦士の一人、ベジータ。
そんな素敵すぎる人物が、刻倉庫へと入ってきていた。
「いやいやいやいや! マジ!? マジでベジータがオレの師匠!?」
「そういう事だ。感謝しろよ。トランクスの紹介だから、仕方なくなってやるんだ」
相変わらずの親バカらしいが、それにしたって言葉を選ばないのはさすがといったところだろう。
「ベジータさん、お久しぶりですよ〜」
ブンブンと手を振るアルファに、ピクッと一瞬だけまゆが吊り上るベジータ。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか、アルファに。
「まあ、この女よりはマシな弟子みたいだからな。その点は認めてやる」
「むぅ〜。私だってしっかりしてますですよぉ〜」
「いいからその口調を直せバカ」
「あぅ〜」
「ああ……なるほど」
ラグナの呟きに、こそこそと隣に並んできたトランクスが口を開く。
「アルファさん、父さんと相性最悪で……」
だろうな、と腕を組んでこめかみをひくつかせるベジータを見ながら頷くラグナ。
あのぽややんとした口調は、ベジータからすればストレスの塊以外のなにものでもあるまい。
早々に話を切り上げるべきだと判断したラグナは、ずいっとアルファを向こうへ押しのけると。
「あぅ〜?」
「よろしく頼む。徹底的に鍛えてくれ」
強引に、そう切り出した。
「……フン」
返事は無いが、アルファから解放された安堵感か、機嫌はそれほど悪くないらしい。
「じゃ、じゃあオレとアルファさんは、また改変が起きるかもしれないので留守番ですね」
「え〜? トランクスさん、私も界王神様と一緒にご飯食べたいです〜」
「ああもう、後でオレがテイクアウトしてきますから、お願いですからここにいてください」
「あ、私トマトクリームパスタさんがいいです〜♪」
それをどうやって持ち帰るんだろう、と思いながら刻倉庫から出て行くラグナとベジータ。
「(さて……一体どんな修行をさせられるのやら)」
超エリートの修行とは、果たしてどんなものだろうか。
タイムマシンでやってきたのは、ベジータが最初に悟空と戦った場所、いわゆる岩場。
そこに降り立った二人は、まずある程度距離をおいて。
「まずは、お前の全力を見せてみろ」
「いきなり実践かよ」
「バカ、そうじゃない」
え、と首を傾げるラグナだった。
「お前ごときが、いきなりオレとまともにやりあえるとは思わん。まずは気を
目一杯高めてみせろと言ってるんだ」
「き? なんだそれ?」
「なに?」
聞きなれない言葉に、首を傾げるラグナ。
少し考えたベジータは、まさかと思い問いかけてきた。
「キサマ、相手の気を感じる事はできるか?」
「なんだそれ? 気って気配の一種か?」
似ているが違う。
「なんてこった……アルファ以下かよ」
「あの天然よりも下なのかオレ!? いや、確かに実力は下だけどさ!」
あのぽややん娘より下と言われるのは、相当に不本意らしいラグナ。
「やり方を変える」
バサッと切り捨てたベジータは、自分でまず気をためる構えをとると。
「今からオレが気を高める。キサマはそれを感じ取れ。気配ではなく、
その気配の巨大さを感じ取るんだ」
「え、えっ? どうやるんだよそれ?」
「そんなことイチイチ説明してられるか! 身体で覚えろ」
本当にこれが師匠として最適なのかと疑いたくなるラグナである。
「いくぞ」
ボッ!
言うなり、いきなり超サイヤ人になるベジータ。
「うわっ……金髪、オレ以外にもなれるやついたんだ」
「超サイヤ人の事すら知らないとは……とんだ救世主だぜ。
いいからさっさと気を感じ取れ」
「って言ったって……ん〜」
無我の境地がうんたらかんたら、とかだろうか。
とりあえずベジータに意識を集中させてみるが、伝わってくるのは気迫のみで、
皆が言う所の気は感じられない。
「ん〜……ん〜……!」
「ヘンなところで力むな! もっと集中しろ!」
「んなこと言ったって、その気がなんだかわからないんだから」
「お前も気功波は撃てるんだろ、あんなもんだ」
「ああっ」
それならわかるかもしれない。
とっかかりを見つけたラグナは、かめはめ波などを撃つ時の集中を意識して、
それをベジータに向けてみる。
「……ん」
「どうだ?」
今の反応に、手ごたえを感じるベジータだったが。
「ごめん、サッパリ」
ピキッ
ラグナの言葉に、嫌な亀裂音が岩場に響く。
「ほう……キサマ……このベジータ様をなめてるな……」
ボウッ!
「え!?」
ベジータがまとっているオーラが変わった。
パッと見では先程までと同じ超サイヤ人なのだが、そのオーラの周囲に
稲妻のようなものがバチバチと走っている。
明らかに違う、絶対に一段階上の何かだこれは。
厳密には超サイヤ人2というのだが、超サイヤ人すらつい先程知ったラグナに
そんなものがわかるはずもなく。
「やめだぜ! こんなチマチマしたやり方、オレの性に合わん!
こうなったら実戦で無理矢理叩き込んでやるぜ!」
「いや無理! なんかよくわからないけど今のベジータ相手だったらオレ死ぬ自信がある!」
情けない事を必死に叫ぶラグナだが、どうかわかってほしい。
今のキレてるベジータがそのまま実践形式で殴り掛かってきたら、大抵の相手は
閻魔様送りになるのは必至なのだから。
そのぐらいの殺気を、この王子様はまとっている。
「あ、今感じた! 物凄いバケモノみたいな気! これでしょ!? うんわかった!
わかったからもっと穏やかに!」
「ほう……ようやくわかったか」
半分出鱈目だが、とてつもなくヤバイ力を感じたのは間違いないラグナ。
でまかせで言ったのだが、これで許してもらえただろうか。
「じゃあ、このまま実践でいくぞ」
訂正、怒りは収まっていないようだった。
「いや、あの……ごめんなさい」
「本気でこい! ラグナ!」
「うわああぁ〜!?」
ボッ!
一瞬で超サイヤ人化して応戦するラグナだが、相手が悪すぎる。
全てにおいて上回るベジータが、手加減無用で怒りのままに殴りかかってくるそれは、
恐怖というよりホラーと表現すべきだろう。
着々と迫りくる、死というホラーエンド。
死にたくないとあがきながら戦うラグナは、その雑草精神が奇跡を呼んだらしい。
こうして、ベジータ師匠との最初の修行は、半殺しの刑で幕をおろすのだった。
〜あとがき〜
どうもです、鷹山孝洋です。
ゼノバースといえばこれ、弟子入りして親交を深める要素ですね。
仲良くなっていくにつれて修行の難易度が上がり、免許皆伝で
その師匠からもらえる技が全部手に入ります……でもビルス様、
最初にデコピンしか教えてくれないのはわかっていても異議ありでしたよ。
お話を戻しまして、ラグナくんの師匠になったのは、ベジータさんでした。
アルファが近接、ラグナが遠距離、みたいな役割になるので、ベジータさんに
徹底的に中・長距離からの戦い方を学ぶのですが……地味な教え方は嫌いなようで。
一応ラグナくんが主人公のこのSSですから、死にはしないですが、
ちょっと不安に思うのは親心なのか出来心なのか、微妙なラインですね。
それでは〜っ。