人造人間編、とも呼ばれているその時代。
伝説の戦士、超サイヤ人を超える人造人間が現れ、
それぞれがさらに上を目指して修行をした、そんな時代だ。
その時代に現れたラスボスの名前は、セル。
最初は脱皮をしたばかりで、それほど強くはなかったはずなのだが……。
善と悪の決戦 第三話
『パトローラーVSセル』
キュイイィィ……
光が溢れ、それはピッコロの後で人の形を作っていく。
「な、なに?」
突然の事に、ピッコロは元より、セルも驚愕の表情でそれを見守っていた。
光はやがておさまり、現れた二人、ラグナとアルファはようやく目を開くと。
「まだおかしな事にはなってないですね」
言いながら、素早くピッコロの前にアルファが立った。
「な、なんだお前ら?」
「説明は後です、ピッコロさん」
説明なんてする気無いくせに、と思いながらラグナもアルファの隣に並ぶ。
「お前がセルか」
ラグナでも知っている、伝説上の敵。
レッドリボンの科学者、ドクターゲロが生み出した人造人間なのだが、
ラグナにとっては、とんでもない強敵としか伝わっていない存在だった。
「ほう……ワタシを知っている者達がいるとは、これは驚きだ」
ザッと一歩後退しながら、セルが呟く。
「(逃げるつもりか……?)」
ならば、別にラグナ達が出る幕はないはず。
そうこうしているうちに、先程の巻物通り、異変を察知して飛んできた
トランクスとクリリンが下りてくる。
「ば、バケモノだ……こいつが、ジンジャータウンの皆を?」
「そうだ。尾に気をつけろ」
クリリンとピッコロの会話、ここまでは歴史の通りだ。
「……ヘンですね」
ポツリとアルファが、ラグナにだけ聞こえるような声で呟く。
「なにがだ?」
「前の歴史改変さんの時は、元凶さんが近くにいたんですけど……今回は
どこにも感じられません」
どうやら過去にも、似たような事があったらしい。
だが、その元凶がいないというのはどういう事だろう。
「くわしくは後で話す。こいつを片付けるのが先だ」
言いながら、ピッコロが再び構えをとった。
それを見たセルが、くっと小さく笑い。
「ハアアァァ!」
ブオオォッ!
いきなり、とてつもない気を身体中から放出しだした。
それと同時に感じる、巻物の時から溢れていた気味悪いオーラ。
『変わった!?』
「うわびっくりした!」
目の前のセルのいきなりの変化と、突然聞こえてきたトランクスの声で
二重に驚くラグナである。
「ラグナさん、三人を避難させてください!」
言いながら、アルファがザッと構えをとる。
「あ、ああっ」
ここは自分が出しゃばらず、自分よりも強いアルファに任せるべきだろう。
そう判断したラグナは、急いでピッコロ、クリリン、トランクスに向かって声を張り上げた。
「ヤバイことになってる! 一旦退いてくれ!」
「な、なんだと?」
「早く!」
ピッコロは納得いっていないようだったが、神の知恵があるおかげか、
状況判断をしてとりあえず距離をとってくれる。
トランクスとクリリンもそれに続き、それを確認してから
ようやくラグナが視線をアルファとセルへと持っていく。
ガッ
「くっ!?」
アルファの拳が、真正面でセルの手で受け止められている。
するりと流れるように体勢を落として、そのまま足払いを試みるが、軽く飛び上がられてしまった。
バコッ
それどころか、飛び上がりざまにあごを蹴り上げられ、アルファが軽く浮かされる。
そのまま尻尾による追い打ちが入り、数メートル後ろへと滑るように吹き飛ばされた。
「あ、あぅ……このっ」
『どうなってるんだ。前の改変の時、アルファさんは完全体のセルと互角に戦えてたのに』
「おい、この通信みたいなのはなんだよ?」
ようやくの問いかけに、取り乱していたトランクスの声が説明してくれる。
『オレは通信で、お二人をサポートさせてもらいます。状況把握は任せてください』
「それはありがたいが……やばくないか、あれ?」
見ると、アルファが再び突撃しているが、今度は背後にまわられて背中を強打されている。
それでも空中で体勢を立て直し、足から着地したアルファは三度突撃。
あのアルファが押されている。
明らかに負けているアルファに、ラグナもいよいよ動かざるをえないようだった。
「援護する! 倒すつもりでやっていいな!?」
『ええ、お願いします』
ボッ!
トランクスの返答を受けて、超サイヤ人になるラグナ。
背中を見せているセル目がけて、フルパワーでかめはめ波を放った。
が。
バッ!
直撃して爆発した、その直後。
まるで爆煙があがるのを待っていたかのように、セルがラグナ目がけて飛び掛かってきたのである。
「なっ!?」
急いで飛び上がって回避を試みるが、紙一重で足を掴まれた。
そのまま地面に一度叩きつけられ、一瞬意識が飛ぶ。
「このぉ〜!」
アルファが救出に向かうが、そのアルファに向かって掴んでいたラグナを放り投げる。
「わ、わわっ?」
自分よりも大きな身体のラグナを受け止めた、その直後。
ドゴォッ!
セルによる追撃の拳が、二人を更に吹き飛ばした。
ドサッと地面に倒れると、ラグナは横に転がってなんとかアルファの上からどく。
「ゴホッ……く、そっ!」
起き上がるが、かなりのダメージがある。
重心が定まらず、このままではまともな打ち合いすら難しいと舌打ちをうつ。
「つあぁっ!」
その向こうでは、加勢したピッコロが不意打ちを試みたが、見透かされていたようで
カウンターをもらっている。
「させるかっ!」
このままでは、間違いなく歴史修正できない。
なんとしてでも三人の殺害を阻止し、セルには逃げてもらわなくてはならないのだ。
と、
「もう……しょうがないですねぇ〜」
「は?」
なんか、最初の方でも聞いたような能天気な声が聞こえる。
振り向くと、ゆっくりと起き上がったアルファが、ぐるんぐるんと右腕をまわしながら
無表情で立っていた。
その無表情が、どこか怖い。
いや、怖いというより、凄いというべきだろうか。
あの笑顔と無垢の塊みたいなアルファでも、こんな表情ができるのだなと。
そのアルファが、一通り準備運動のような動作を終えると、腰を一つ落として。
『い、いけませんアルファさん! それは!』
通信のトランクスの声が、何やら慌ただしい。
どういう事だと、ラグナが問いかけるより前に。
「ちょっとだけですから、大丈夫さんです」
言うなり、キッとアルファの目が鋭くなったかと思うと。
「界王拳!」
ボウッ!
真っ赤なオーラを、その少女はまとった。
その途端、ピッコロに追撃しようとしていたセルの動きがとまり、グルンと
凄い勢いでアルファへと振り返る。
「アアアァァ……!?」
言葉にはなっていないが、おそらく驚愕しているのだろう。
「な……なんだって」
戦いを見守っていたクリリンが、いきなり現れたわけのわからない少女の変貌に目を見張る。
界王拳。
身体能力を倍化させる技であり、扱える者は、クリリンの知っているところ孫悟空のみ。
その界王拳のオーラをまとったアルファの気は、文字通り倍に跳ね上がっていた。
「行きますですっ!」
ボンッ!
そして、猛攻が始まる。
「うわっ!?」
目の前で大砲のように飛び出したアルファの突風にあおられながらも、どうにか
視線だけははずさないラグナ。
凄まじいスピードで突っ込んでくるアルファに、セルは真正面から迎え撃った。
「ハァッ!」
拳を振り抜き、正面からのカウンター……だったはずが。
ゴスッ!
紙一重で、セルの拳は避けられた。
懐に潜り込んだアルファの右ストレートが、セルの腹に見事に突き刺さる。
あまりに重たい一撃に、しばし動きが停止する。
「ォ……オオォォ……!」
やがて腹を押さえてうずくまり、ジリジリと後退。
「な……なんてやつだ」
ピッコロの言う通り、今のアルファは、ピッコロの知る誰よりも強い。
他の人造人間と同等か、それ以上に強くなった自分ですら驚愕する、謎の少女。
一体何者なのかと疑問は浮かぶが、今はそんな事よりチャンスだ。
「はあぁぁ……!」
動きが鈍い今なら、当たる。
右手の指を額に持っていき、即座に気をためた。
それを確認したアルファは、飛び上がってその場を離脱。
ほぼ同時にチャージが終わり、必殺の一発をピッコロが叫んだ。
「魔貫光殺砲!」
ビシュウゥッ!
渦を巻く気を乗せた、ピッコロの必殺技。
「グッ!?」
どうにか動こうとするセルだが、アルファの一発を受けた直後では避けきれない。
これは決まった、誰もがそう思っていたのだが。
バチィッ!
「え……?」
ラグナが目を見張る。
確かに、魔貫光殺す砲はセルの胸部に届いたはずだ。
だというのに、貫通しない。
それだけの勢いがあったはずなのに、セルに直撃した瞬間、まるでかき消されたかのように
消えてしまったのだ。
否、まるでではない。
「ば……バカ、な」
ピッコロが撃った体勢のまま、身体を震わせる。
「ハアアァァ……」
かき消したのだ、実際に。
「ウソだろ!? 今のピッコロの一発は、絶対にきまってたのに!」
「おかしい……なにが……なにがどうなってるんだ」
戦いについてこれないクリリンとトランクスも、あまりのセルの豹変ぶりに頭が追いつかない。
自分達の気を持つ新手が現れたと思ったら、そいつはとんでもなく強く不気味だった。
こんな現実をいきなりつきつけられて、冷静でいられる人間はそうはいないだろう。
「このっ!」
ギャウッ!
決め手にならなかったと判断したアルファが、地面に着地するなり再び正面から攻撃にかかる。
打ち込む拳は、先程よりも力を乗せた強烈な一発にした、はずだったのに。
ガッ!
「え?」
受け止められた。
ガチガチと震える手で、アルファの拳をしっかりと受け止めるセル。
はっとして見上げると、セルの表情、というか目は赤く光り輝いていた。
「(これは……前の事件と似てます……けど)」
今回の黒幕がわからない。
それ以前に、もっとおかしいのは、今のセルの豹変具合だ。
「あいつ……もしかして」
気を感じる事ができないラグナでもわかった。
「あのセル……戦ってるうちに、どんどん強くなってるんじゃ」
バンッ!
アルファの腕を払いのけ、距離をとるセル。
休憩とばかりに守りの構えをとったアルファは、セルの後ろにいるピッコロ達も
手をこまねいているのを確認して、さて次はどうしようかと考えていた。
「もっと界王拳さんを……でも、加減を間違えたら、今のセルさんでも間違いなく……」
このアルファ、実は手加減がとても下手なのである。
なるべくなら、制御が難しい界王拳は使いたくないし、だからトランクスも使わせたくなかった。
だが、事態が予想以上に悪くなっている今、そうも言ってられないのかもしれない。
「こうなったら、ラグナさんと二人がかりでなんとか」
などと、アルファが腹をくくった直後だった。
バシュゥ……
『え?』
全員が、セルの変化に目を丸くする。
「あ……あ、はぁっ……?」
先程まで発していた、気味の悪いオーラが消失している。
目の光も失われており、圧倒的に膨れ上がっていた気も急激にしぼんでしまった。
「ど、どうして……ワタシは、どうしてしまったのだ……?」
元のセルに戻っている。
それを見届けた時、ようやくトランクスから通信が入った。
『おそらく、何らかの理由で元に戻されたのでしょう。これなら、元の歴史に戻るはずです。
お二人とも帰ってきてください』
「あ、ああ」
「了解しましたです」
若干納得はいかなかったが、とりあえず頷くラグナとアルファ。
キュイイィィ……
光に包まれ、刻倉庫へと戻る直前。
二人が見たのは、ピッコロ達に太陽拳をあびせるセルの姿だった。
〜あとがき〜
どうもです、鷹山孝洋です。
歴史修正、になりますが、ちょっと奇妙な結末になりました。
黒幕の目的が目的のため、今回の最後の『ん?』な結末は、
後々、というか終盤あたりで明らかになると思います。
あと、黒幕の所在がわからないのが、実はヒントになっていたりします。
ドラゴンボール通の人は、考えてみると面白いかもしれませんね。
それでは〜っ。