時の流れを管理する場所、トキトキ都。
 そこでは常に、ある神様の元で働く戦士達がいて、
 はずれてしまった歴史や、異なる事実を修正していた。
 そんな凄い場所だが、最近は色々と手が加えられている。
 具体的には、トランクスとその母親たちの恩恵だろうか。





     善と悪の決戦  第二話
       『呼ばれた理由』





「ええっと……」
 先程戦っていた広場から、トランクスから説明された、
 タイムマシン発着場へと移動する三人。
 タイムマシンの使用受付などが並ぶそこには、ラグナ達以外にも
 様々な戦士がいるのだった。
 種族はバラバラだが、談笑している所を見るに仲は良いらしい。
 だが、そんな事は些細な問題だった。
 今のラグナは、とても恐ろしい事態に陥っているのである。
「あのさ、アルファ」
「あぅ?」
 ラグナの左腕に、やわらかい感触。
 道着でよくわからなかったが、意外にある女の子らしいやわらかいソレ。
 ついでに言うと、戦ったばかりだというのにいい匂いもしてきた。
 今現在、あのアルファという少女がラグナの左腕にギュッと
 抱き付いているのである。
 さて、最初に説明したように、周りには他の戦士の姿もある。
 これで注目されない方がどうかしているだろう。
 現にあちこちから聞こえる声はといえば。

「おい、あの男アルファとくっついてるぜ」
「ちっくしょぉ、またトランクスと組むパトローラーかよ。リア充爆発しろ」
「さっき神龍に呼ばれてたみたいだから、あの男強ぇんだろうなぁ……クソッ」

 前言撤回したくなるぐらい、発着場の空気はピリピリしていた。
「な、なあトランクス?」
「すみません、もうすぐだと思いますから……まったく」
 で、二人を案内しているトランクスはといえば、そういう空気を全く
 感じてないのか無視してるのか、先程から誰かを探している様子。
 あははと苦笑しながら、左側にべったりくっついているアルファを見下ろすと。
「あぅ?」
 仔猫か何かだろうか、とラグナは思った。
「とてもオレより強いとは思えない」
「人間、見かけによりませんですよ〜っ」
 そう言われては何も言い返せないのである。
「あれぇ? 界王神様ここにもいない……まさか、商業区でまた食べ歩きしてるのかな」
「かいおうしん?」
 誰だそれ、と首を傾げるラグナに、アルファが補足する。
「偉い人ですよ〜」
 補足になっていなかった。
「ええっと、その界王神ってヤツを探してるのか?」
「はい。最近トキトキ都も人が増えてきたので、設備を増やしたのですが」
 それで食べ歩きなのか、と思う反面。
「なあ、そのトキトキ都ってなんだ? ここの事か?」
 グルリとあたりを見回すと、カプセルコーポレーションのマークの入った建物が目立つ広場である。
 よく見ればタイムマシンもカプセルコーポレーションのマークが入っており、未来からきたと
 思われるラグナでも、老舗の手が入っているのだなとよくわかった。
「そうですね……探しながらでも、少しだけ説明しておきますか」
 言いながら、商業区の方へと足を向けるトランクス。
 それにラグナが続き、アルファがくっついて行く中、説明が入った。
「ここは、宇宙の時の流れを管理する、時の界王神様が住んでいる、トキトキ都という場所です。
 様々な時代に行ったり、パラレルワールドに飛んだりと、時に関するあらゆる仕事がされますね」
「時代に行って、なにするんだ?」
「間違った歴史を正しますですよ〜」
 アルファの言葉に、なんのことやらと首を傾げるラグナ。
「もう、アルファさんは……つまりですね、偶然、あるいは何者かの手によって、本来とは
 違う歴史が生まれた場合、それを修正する役割を持っているんです」
「それが、トランクスやアルファがやってる事か?」
 そうです、と言いながら商業区へと入っていくトランクス。
「歴史修正が終わったら、それを時の界王神様がまとめてくださるのですが……あっ、いた」
 どうやらトランクスの予想通り、商業区に目的の神様はいたようだ。
 トランクスの足が速くなったのを見て、ゴクリとノドをならすラグナ。
 界王神という名前は、ラグナも聞き覚えがある。
 主に魔人が現れた時代に、伝説の戦士たちと共に戦った神様で、詳細は残されていないが、
 とてつもなく偉い人物であることは伝わっていた。
「果たして、どんなじい様か」
「じいさま、さん?」
 アルファがきょとんと首を傾げるが、それに構わず歩き出すラグナ。
 そして、トランクスが足を止めて……見下ろすその少女は。
「もう、あんまり勝手に出歩かないでくださいよ」
「え〜? だってこのたこやきっていうのクセになっちゃって。食べる?」
「は?」
 ラグナは知らないが、ポタラが耳に輝く少女。
 アルファよりも小柄、というかお子様のような外見のその少女は、どうやら先程から
 トランクスが説明していた、時の界王神なのだろう。
「やっほ〜です〜」
 ひらひらと手を振るアルファに、気付いた時の界王神が元気に手を振りかえす。
 まんま、姉と妹のやりとりに酷似していた、どっちがどっちとはあえて言わないが。
「およ? その男の子が、今回神龍に呼び出された子?」
 と、その視線がいよいよラグナに向けられる。
「あ、えっと……そう、らしい」
「ふぅ〜ん」
 言いながら、トコトコと近寄ってくると、ぐるぐるとラグナの周りをまわりだす時の界王神、
 ちなみにたこやきもモグモグ頬張りながらである。
「ん……面白いじゃない、トランクスもう一個買ってきて」
「話題は一つにしぼってください」
 ちぇ、と可愛く舌を出す少女神様。
「……なあ、アルファ」
「なんですか〜ラグナさん?」
「これが……時の界王神様?」
「ですですっ。とっても偉い人なんですよ〜」
 偉いのかもしれないが、威厳も何もあったものではない。
「あ、キミわたしの凄さがぜんっぜんわかってないね〜? わたしってばかなり
 重要な役職にいるんだから。キミ達が安全に自分の時代で暮らせてるのも、
 このわ・た・し・のおかげなんだからねっ」
 言いつつ、パクリとたこやきを一つ、本当に威厳も何もあったものではない。
「あ、ああ……えっと、すまん」
 とりあえず謝るべきだと思い、心にもない謝罪をするラグナだった。
「って、そういえば名前聞いてなかったね。キミの名前は?」
「あ、オレはラグナだ。地球人……なんだけど」
「実はラグナさん、超サイヤ人さんになれますですよ〜!」
 アルファの言葉に、え、と軽く驚いた表情になる時の界王神。
「ホントなのトランクス?」
「ええ。先程アルファさんが試験をした時に、あっさりと」
「うっわ〜凄いわねぇ……でもって地球人って事は、もしかしてトランクスの
 子孫とかじゃないの?」
 またその話題になって、なんだかこそばゆいラグナである。
 伝説として聞かされてきた、あの戦士達の子孫だなんて言われて、
 嬉しいやらくすぐったいやら、難しいお年頃なのである。
「んじゃあ、当然試験もパスしたわけよね。いいわ、ついてきなさい」
 言いながら、商業区の奥へと歩いて行く時の界王神。
「え? どこ行くんだ?」
「時の巣よ。さっきラグナくんが呼ばれた広場の、少し奥にあるから」
「トキトキ都は、ぐるっと一周できる作りになってるんですよ」
 トランクスの補足に、なるほどと頷くラグナだった。

 で、商業区の奥から最初に呼ばれた広場へと出て、更に道を一本はずれる。
 近代的だった雰囲気から一変して、草の緑と最低限舗装された石畳の道が続く、
 どこかのどかな場所に出て、そのうちの一つ、奥にある巨大な建物へと案内された。
「なんだここ?」
「刻倉庫(こくそうこ)よ」
 言いながら、振り返る時の界王神。
 天井もかなり高く作られており、よくは見えないが、巻物のようなものが無数に
 おさめられているようだった。
「ここに、宇宙のあらゆる時代を記した巻物が保管されてるの。異常があったら
 その巻物を使って、その時代に行って歴史を修正するのが、トランクスとアルファの仕事ね」
「え? 他にもいっぱいいたみたいだけど?」
「一応、他の人もやってるけど、ちょっと実力不足でね……わかるでしょ?」
 時の界王神の言葉に、首をひねってしまうラグナだったが、トランクスが補足する。
「オレ達や悟空さん達が戦ってきた相手は、一筋縄ではいかない相手ばかりです。
 なので、生半可な実力で歴史修正に挑みますと、かえって悪化させたり、最悪死んでしまう
 事もありますから」
「ああ……なるほどな」
 確かに、伝説の戦士の時代の歴史修正とかになったら、そんじょそこらの戦士では
 全く話にならないだろう。
「って……待て、トランクス」
「どうしました?」
 ふと思い当ってしまい、ラグナが思わず問いかける。
「オレ……なんで呼ばれたんだ?」
「あれ、また説明してなかったの〜?」
 言葉を発したのは、トランクスではなく時の界王神。
 やれやれと、あからさまに肩をすくめてみせた彼女は、ニコッと見た目相応で
 年齢不相応の笑顔を向けると、教えてくれた。
「ラグナくんには、アルファちゃんとタッグで歴史修正にのぞんでもらいたいの」
「よろしくお願いしますです〜♪」
 パッと手を離して、トテテとラグナの前にやってきて、ペコッと一礼。
 よく出来たお子様だ、とでも思えばいいのだろうが、そうも言ってられなかった。
「ええっ!? お、オレが孫悟空とかベジータとかがいる時代に行くのか!?」
「今の所、その可能性が高いわね。歴史の改変が集中してるのが、その時代だし」
 時の界王神に言われて、驚きを隠せないラグナである。
「それって、かなりヤバイ敵と戦ったり?」
「そうですね。アルファさん一人では、もう手が回りきらなくて」
「じゃあトランクスは?」
「オレの実力では、もうアルファさんについていくのも……」
 どんだけ強いんだよこの天然少女は、とラグナが心の中で突っ込んでいた。
「で、早速なんだけどぉ」
 ふと視線を戻すと、時の界王神が刻倉庫の奥へと歩を進めており、そこから
 一つの巻物を持ってきた。
「な、なんだそれ?」
 一見するとただの巻物なのだが、先程の説明から察するに、そこには
 どこかしらの歴史が記されているのだろう。
 ついでに言うなら、巻物そのものがかなり怪しい。
 黒いというか紫というか、まがまがしいオーラをその巻物は発しており、
 気という名称に馴染みのないラグナでも、気味悪さを感じる程だった。
「早速起きたようよ、歴史の改変」
 気付けば、時の界王神の口調が少し大人びている。
 持ってきた巻物を、中央のテーブルの上に広げて全員に見えるようにする。
 中は文字が書かれているのではなく、映像が浮かび上がっていた。
 緑色の誰かと誰かが相対しており、その横には更に二人、一人はトランクスのようだ。
「これは?」
 ラグナの問いかけに、トランクスが説明する。
「白いマントを身に着けている人が、ピッコロさんです。これは、地球の
 神様と融合した直後のようですね」
「ピッコロ!?」
 これまた、伝説に出てくる戦士の名前だ。
「じゃあ、横にいる二人は?」
「天津飯さんと、トランクスさんですね〜」
 アルファが能天気に説明してくれる。
「相手はセルか……え?」
 時の界王神が、巻物の中で起こっている現象に目を見張る。
「ど、どうしたんだ?」
 詳しい歴史なんか知らないラグナは、ただ巻物の中の出来事を見ているしかできない。
 本来の歴史ならば、追い詰められたセルが太陽拳で離脱するシーンなのだが、
 この巻物のセルは離脱行動をとらなかった。
 突如、巻物から感じ取っていた気味悪いオーラのようなものをまとうと、
 言葉も無くピッコロ達に突撃していったのである。
 不意打ちに近かったが、今のピッコロは神と融合しており、理屈上ではセルを上回るはず。
 だというのに。

バコッ
「がぁっ!?」
 打ち込まれた一撃は、先程までの比ではない。
 頬にくらったパンチで背後の建物まで吹き飛ばされたピッコロは、すぐに反撃しようと
 立ち上がるが、一瞬足がふらついた。
「ば、バカな……こいつ、さっきとパワーが段違いだ……オレの生態エキスをいくらか
 吸ったとはいえ、こんな」
「ハアアァァ!」
 やはり言葉はなく、今度はすぐ近くのクリリンとトランクスに攻撃を開始するセル。
 纏っているオーラは、明らかに尋常ではない。
「に、逃げろぉ!」
 ピッコロの叫びもむなしく、目の前で二人は殺されていった。

「バカな……やはり、今回も誰かが歴史の改変を」
 トランクスがキッと歯を食いしばり、その視線をラグナとアルファへと向けた。
「お願いできますか? お二人には、なんとかセルを弱らせて逃がしてほしいのですが」
「了解ですよ〜っ」
 アルファは快く承諾しているが、ラグナは正直頷きかねていた。
「弱らせて逃がすって……倒すより難しくないか?」
「大丈夫よ。どうせ二人がかりでも倒すの難しいだろうし」
「え?」
 時の界王神の言葉に、どういう事かと首を傾げるラグナ。
「そっか、ラグナくんは気を感じる事はできないのね……これは師匠が必要か」
「し、師匠?」
「いいからほら、この巻物」
 言いながら、今まで見ていた巻物『終わりと始まりの書』をぐいっとラグナに押し付ける。
 無理矢理受け取ったラグナだったが、直後にその手に重ねられる、もう一つの手があった。
「アルファ?」
「触れてないと、一緒に同じ時代に行けませんですよ」
 よくわからないが、そういう理屈らしい。
「じゃあ、行きますですよ〜」
 言いながら、アルファがすっと静かに目を閉じた。
 ラグナもそれにならって、目を閉じて意識を集中する。
 手の中の巻物に、その中へと溶け込むように、自然にそんな集中ができていた。
 そして、直後。
キュイイイィィ……
 光に包まれ、二人はセルとピッコロが戦っていた時代へと飛んで行った。





〜あとがき〜

どうもです、鷹山孝洋です。
ゼノバースの基本、歴史修正のお話になります。
わからない人のために補足しますと、ゲームの方は、ドラゴンボールの
名場面的なバトルへとオリジナルキャラが飛んでいき、バッドエンドに
なってしまった歴史を修正する作業がございます。
今回はそれの、SSオリジナルシーンになりますね。
ただし、先に言っておきますと、今回のこのSSは、黒幕は別にいます。
むしろゲームの時の黒幕は倒した後のお話になりますので、
新たな敵の登場が今回のきもになっております。
さて……それまでにどれだけ、時の界王神様をグルメにさせようかと、
今から別の意味で楽しみな作者でした。
蛇足ですが、ゲームでのトキトキ都に食事処なんてございません。
それでは〜っ。