歴史の改変事件が落ち着いた、ドラゴンボールの世界。
 物語の舞台、トキトキ都は歴史と共に平穏を取り戻し、のんびりとした
 時間が流れていた……はずだった。
 しかし、また戦士が必要とされる時がくる。
 この事態を解決できるだろう人物は……一人の青年だった。





     善と悪の決戦  第一話
     『神龍に呼ばれた救世主』





 こことは別の世界にある、聖域と呼んでも良い区域。
 トキトキ都、時の巣前の広場。
 ドラゴンボールを置く台座には、七つのドラゴンボールが
 しっかりとはめこまれていた。
 ついでに言うと、既に空は暗く、神龍が呼び出されていたりする。
 更に言うと、もう願いも言った後だった。
キュイイィィ……
 神龍の前に収束する光は、ゆっくりと地面へとのびて形と作っていく。
 それは人型であり、今回も人間に近い種族が呼び出されるだというのがわかった。
 やがて、光が薄まっていき、その人物が浮かび上がると……。
『願いは叶えてやった……さらばだ』
 その言葉と共に、神龍が光り輝き。
ピシュウゥン!
 ドラゴンボールの散らばりと共に、消え去ってしまった。
 空はいつものように青を取り戻し、ようやくいつものトキトキ都の様相を見せる。
 そんな中、神龍に呼び出されたと思われる人物はといえば。
「……え?」
 まあ言までもないが、わけがわからないようだった。
 目の前には見知らぬ建物、振り返れば見知らぬ建造物、そして見渡せば
 やっぱり見た事のない建築物。
 要するに、いきなり召喚されてどこだろう状態なのだ。
「今回は、男性が呼ばれたのですね」
 不意に、横から聞こえてきた声に少年は顔を向ける。
 そこにはいつからいたのか、黒いコートに身を包み、背中に剣をさげた青年の姿が。
「あ、あんた誰だ?」
 自分を呼び出した張本人だろうか。
「オレの名はトランクス。あなたの名前は?」
「……ラグナ」
 言いながら、信じられないという顔をする少年、ラグナ。
 服装こそ見慣れないものだったが、トランクスという名前には聞き覚えがある。
 大昔、地球で育ったサイヤ人、孫悟空と共に世界を救った、そんな英雄譚。
 ラグナの時代では完全に伝説となっているその中に、トランクスという名前が
 しっかりと記憶さていたのである。
 目の前の人物は、そのトランクスなのだろうか。
 だが、あれはもう数百年も昔の話であり、生きている戦士なんていないはず。
「ラグナさんですか。でしたら、少しお願いがあります」
「ちょ、ちょっと待て。その前に説明を」
 ラグナが慌てて状況説明を要求するが、トランクスは首を横に振る。
「神龍が呼び出したのですから、間違いはないのでしょうが……やはり、あなたの
 実力を試してからでないと、全てをお話するわけにはいきません」
「す、全て? オレが、その神龍ってやつに呼ばれた事に、何か意味が?」
「それも含めてですよ。では」
 言いながら、トランクスがすっと後ろを振り返ると。
「試験、よろしくお願いしますね」
「は〜いです〜♪」
「は?」
 なんか今、すっごいぽわぽわした声が聞こえた。
 驚いてトランクスの背後に視線を向けると、やまぶき色の道着に身を包んだ、
 少し小柄な青い長髪の少女がいた。
 見た感じ、ラグナと同じ地球人のようだが、どことなく雰囲気が違う。
 トコトコと歩いてきた少女は、トランクスの前までやってくると、
 ラグナに向かってペコッと頭を下げた、子供っぽかった。
「手合せさん、よろしくお願いしますですっ」
「て、てあわせ……さん?」
「ああ、気にしないでください。彼女の癖なので」
 トランクスの補足に、なるほどと強引に頷くラグナ。
「じゃあ……えっと、オレはラグナ、よろしく」
 何やら状況をまるで把握できないラグナだったが、どうやらこれから何か
 試験というものをするらしい。
 それだけは理解できたようで、殆ど絞り出すみたいに挨拶するラグナだった。
「私は、アルファっていいますですよ〜」
 言いながら、ニコッと笑顔を見せてくれるアルファ、滅茶苦茶可愛い。
 一瞬ドキッとする健全な男の子だったが、どうやら今は
 そういう状況ではないらしい。
「ではっ」
 ザッと、右足を引いて上体を低く落とすアルファ。
 左腕を前に、右手を腰のあたりに落とすそれは、格闘の構えだった。
「え、えっ?」
 いきなりの状況に、同時にまさかと思うラグナ。
 まさかオレ、目の前のアルファっていう女の子と戦うの?
 そう思った直後。
「いきますですっ!」
バッ!
 いきなり突っ込んできた。
「うわっ!?」
 慌ててアルファのパンチを受けるが、少女とは思えないほどに一発が重たい。
 ただ受けただけだというのに、地面を少し滑った事実に恐怖を覚えるラグナ。
「つ、強っ!?」
「いっきますですよ〜!」
 今度は回し蹴り、パンチであの威力なら、キックはもっと凄いだろう。
「ちぃっ!」
 飛び上がって回避すると、そのまま回転しながらアルファの背後に着地。
 やるしかないと腹をくくったラグナは、そこから更に距離を置くように飛び退いた。
「あ、あれ?」
 てっきりカウンターがくると思っていたアルファが、きょとんと首を傾げる。
 だが、アルファのその勘は、大まかには間違いではない。
「かめはめ……!」
 充分に距離をとってから、両手をザッと引くラグナ。
「波ァ!」
ドウゥッ!
 高速で飛んでくるかめはめ波に、驚いた顔をするアルファだったが。
ドゴォンッ!
 着弾点に、アルファがいない。
 必中の距離、必中のタイミングで放ったはずだったので、ラグナにとっては
 完全に予想外だった。
「せぇのっ」
「え?」
 で、直後真上からアルファの声。
 顔をあげると、両手を組んで振り下ろす姿勢の彼女がいて。
「うわぁ!?」
ドゴッ!
 打ち下ろされた、頭をドカッと。
 地面に叩きつけられたラグナは、それでも追撃を警戒して飛び上がると
 更にアルファから距離を置く。
「い、いってぇ〜……なんつ〜パワーだ」
「でも、ラグナさんも見事なかめはめ波さんでしたよ〜」
 それをアッサリ避けるアルファは、じゃあなんなのだろうか。
 首を振って意識をハッキリさせたラグナは、チッと小さく舌打ちしてから
 両手を腰の位置にもっていく。
「しょうがない……マジで状況がよくわからないが」
「あぅ?」
 こちらも本気でやるしかない。
 そう判断したラグナは、今まで溜めていた気を一気に解放するように目を見開くと。
「ハァッ!」
ボッ!
 その黒髪を、金色に逆立てた。
 目はエメラルドグリーンに変化しており、纏っている黄金のオーラは、
 戦闘力が爆発的にあがった事を証明しているかのよう。
 それを見た時、トランクスがギョッとした顔になる。
「いっ!? す、超サイヤ人?」
「なんだそりゃ?」
 ラグナの問いかけに、え、と言葉につまるトランクス。
「わぁ……なんだか物凄い人がきましたですね〜」
 言いながら、ガチッと空中で構えをとるアルファ。
「行くぜ!」
ボンッ!
 そして、ラグナの全力の戦いが始まった。
 一気に間合いをつめると、まずは拳を一発打ち込む。
 超サイヤ人化した事で、全ての能力が爆発的に上がっている。
 よくわからない目の前のアルファといえど、これは避けられないし
 受けたらひとたまりもないはずだ。
 ……そう、はずだったのである。
ぱしっ
「な……!?」
「おっかない一撃さんですね〜」
 受け止められた。
 否、掴まれた。
 高速の一発を、手首をぱしっと簡単に掴まれてしまっている。
 ありえない事だと、ラグナは思った。
 この状態のラグナに勝てる戦士なんて、ラグナがいた地球には存在しなかった。
 この状態でいる限り、圧倒的勝利は約束されていたはず。
 そのラグナの一撃が、今簡単に受け止められたのである。
「せぇの〜」
 掴んだ手を、両手でつかみ直してグルグル振り回すアルファ。
 そして、思いっきり壁目がけて放り投げるが。
「ぎっ!?」
キイィッ!
 激突する寸前、急停止をかけてどうにか追加ダメージから逃れる。
「このっ……じゃあ」
 両手を引いて、それぞれに気をためる。
「これでどうだぁ〜!」
ドヒュゥー!
 両手から放たれた光線のエネルギー波は、先程のかめはめ波よりも
 はるかに威力が高いのは言うまでも無かった。
 だというのに。
ピシュン
「あんなに隙を作って撃っても当たらないですよ」
 真横からの、そんなアルファの声。
 もう言葉すら発する事ができなかった。
「(うそだろ……な、なんなんだこのアルファ?)」
 桁違いに強い、それだけはわかる。
 今まで無双だった自分が、こうも圧倒的に負けているなんて、
 とてもではないが信じられない。
 このままでは、どうやってもやられてしまう。
 真横で人差し指を頬にあてて考えているアルファに、隙すら見つけられずに
 次の一手を考えるラグナだったが。
「そこまでです!」
 トランクスのその言葉に、二人の視線がそちらを向いた。
「もう充分ですアルファさん。これは文句なく合格ですよ」
「ですか〜?」
「ええ、また以前みたいにやりすぎて、ラグナさんに泣かれても困りますからね」
 どうやらアルファは、男の子を泣かせた事があるらしい。
 ほぼ一緒に地面に降り立った二人に、トランクスが近づいてくる。
「素晴らしい実力です、ラグナさん。アルファさん相手に、あそこまで戦えるなんて」
「そ、そうなのか?」
 言いながら、超サイヤ人を解除するラグナ。
 ラグナとしては、自分の力がまるで通じない相手が現れて、
 ショック以外の何物でもないのだが。
「それにしても、ちょっといいですか?」
「え? なんだよ」
 トランクスが、考える仕草をしながら問いかける。
「先程あなたは、超サイヤ人という言葉を聞いた時、それを知らないような事を
 おっしゃってましたよね」
「あ、ああ……サイヤ人っていう種族がいたのは知ってるけど、
 その超サイヤ人ってなんだ?」
「さっきの金髪さんになるやつですよ〜」
 アルファのぽわわんとした口調に、必要以上に力が抜けそうになるラグナ。
 見た目は可愛いのだが、中身は幼いというかズレてるというか、
 一緒にいると疲れそうな人種なのだなと思った。
「超サイヤ人を知らない……ですが、地球人でありながら、超サイヤ人になれる。
 となりますと……ラグナさんはオレ達の誰かの子孫という可能性が」
「え?」
「どういう事ですか〜?」
 アルファの問いかけに、トランクスがポツポツと呟く。
「おそらく、ラグナさんが元居た時代は、オレ達よりもはるか未来なのでしょう。
 そこでは、オレ達の戦いの歴史はとても薄れていて、超サイヤ人などを
 はじめとした、様々な情報が失われている……ということかもしれませんです」
 そういうものなのか、と納得しかけるラグナ。
「あぅ〜?」
 で、全然話をわかっていないであろうアルファ。
「……なあ、アルファ」
「あぅ?」
 きょとんと首を傾げるそれは、少女というより小動物のそれ。
「お前、アホだろ?」
「違いますですっ、ハードボイルドさんですよ〜」
 一番似合わないな、と思いながら視線をトランクスへと戻すラグナ。
「じゃあ、オレがやってたあの金髪化って、伝説では、超サイヤ人っていうのか?」
「ええ、その通りです。これは地球人にはなれない技ですから、
 ほぼ間違いなく、ラグナさんは父さんか悟空さん、どちらかの血が流れているはずです」
「オレに……あの伝説の戦士の血が?」
「戦い方を見るに、父さん、あ、ベジータさんの血の可能性がありますが」
「ベジータ……そんな」
 伝説の中でも、とりわけ目立った存在の一人である。
 自分の生まれなんて特に考えていなかったラグナは、ただただ混乱するのみ……であったが。
ひしっ
「ん?」
 ふと、右腕になにやら柔らかい感触。
 見てみると、先程まで自分を圧倒していた、可憐な少女が自分の腕をとっていて。
「ってうわっ!?」
「もぉ、そういう難しいお話さんはなしです〜っ」
「ああもう……アルファさんは相変わらずなんですから」
 ぷぅ〜と、子供のように頬を膨らませるアルファに苦笑するトランクス。
 どうやら、こんなやりとりはいつもの事らしいと、ラグナが悟った所で。
「ラグナさん」
「おう?」
「ちょっと外に出ましょう。そこで、あなたが呼ばれたわけをお話します」
 いよいよ、物語は動き出すのだった。





〜あとがき〜

皆様初めまして。
ネットの片隅でちょこちょこ執筆活動をしています、鷹山孝洋というものです。
今回、異色も異色なドラゴンボール、しかもゲームのゼノバースの世界観を
ベースにしたものということで、マニアックにも程があるだろうという
ツッコミもものともせず、気の向くままに執筆していきたいと思います。

ドラゴンボールゼノバースというゲームを知っている人ならわかると思いますが、
このゲームはオリジナルキャラを作ってストーリーを進めるため、今回のSSも
オリジナルキャラがメインになってきます。
ですが徐々に、いきなり出てきているトランクスくんを始め、有名キャラたちが
わらわら出てきますので、どういう絡み方をしてくるか、楽しみにしながら
読んでもらえますと嬉しいです。
それでは〜っ。