「なんでこんなことになってるんですかね、凪さん」
「そんなこと俺が聞きたいですな、相沢さん」
「元はと言えばですね〜相沢さんがはっきりしないのがいけなんですよ〜」
「確かに。これは相沢さんのせいだと俺は確信しますが」
「む。そもそもお前が皆に火をつけたようなもんだろ、凪!」
「人のせいにするなよ、相沢!」
「ちょっと待ってくださいよ〜相沢さんと龍ちゃんまで争っていたら収拾つきませんよ〜」
「お、良い事言うな、桐子」
「北川さんに言われても嬉しくありませんよ〜」
「……ねぇ。俺の扱い酷くない?」
「そんなこと無いぞ」 「妥当だと思う」 「そんなもんですよ〜」
「さいですか……」
3人同時攻撃を受け、静かに涙をこぼす北川。
「しっかし、こりゃ派手にやりすぎじゃないか?」
「ああ。いつもの5割り増しぐらいに暴れてると思う」
「随分冷静ですね〜相沢さん。この騒動の中心は〜相沢さんなんですよ〜?」
「いやさ、もうなんと言うか……諦め? 胸の内は涙で一杯だよ……
25mプールぐらい作れるんじゃないかってぐらい」
「で、どうすんだよ。いくらなんでもこれは修復不可能だと思うんだが」
「……あ。また壊れた」
「「「はぁ〜……」」」
彼らが現在居座っている場所は『百花屋』である。いや、精確には「であった」場所だ。
見るも無残な残骸となっている元『百花屋』。
惨劇の実行犯たちは既に場所を変えつつ、破壊活動の範囲を広げている。
残された4人はその瓦礫のなかで、戦況を見守っていたりする。
「さっさと止めないと、雪羽全体がこの状況に為りかねんな……」
「じゃ〜逝きますか〜」
「「「うぃ〜」」」
実行犯を止めるべく、若者4人は破壊活動の中心へと足を踏み入れる。
――――――――――――――――正しくそこは戦場だった。
D
第七話 前半
時間軸を逆行すること30分前。
桐子と龍平、そして栞は目的地である『百花屋』に到着した。
途中、再び栞が暴走するなどして、既に時刻は12時に迫ろうかというぐらい。
昼食を取りましょう、ということで喫茶店であるここに来たのだった。
「さ、入りましょう!」
「なんか、栞ちゃんやたら乗り気だな」
「はい! なんていったってここのヴァニラアイスは美味しいですから!」
「なるほどね……うん」
『百花屋』を目の前にして龍平が尻込みしていた。
それを不思議そうに見つめる二人。
「あれ〜どうしたんですか〜龍ちゃん?」
「いや、な……なんというか、これから良くないことが起こりそうな予感がしてな。
あと、この店全体が嫌なオーラを発生してるし、何より……」
「何より、なんですか?」
「いや、気のせいだと信じたい」
「はぁ。それならいいんですけど。じゃ、入りますよ!」
怪訝そうな顔をするも、これから訪れるであろうアイスとの邂逅に心躍らせる栞。
それを横目で見つつ、龍平がボソリと「相沢が居そうだな……」とため息を吐く。
「自己紹介でもするか」
「そうね。じゃ、北川君が最後で良いとして、私から時計回りでいきましょう」
「美坂ーなんで、俺が最後なんだ?」
「あら? オチとして最後にしてあげたんだけど、不満だったかしら?」
「いや、別にいいよ。美坂の愛を感じ」
めきょ
香里のアイアンクローが北川の顔面に炸裂していた。
周囲は何事もなかったの様に、自己紹介を始めていく。
『百花屋』に入ると、そこには龍平の懸念通り、相沢+美少女5人+北川が鎮座していた。
この光景を見た龍平がまたため息を吐いたり、栞の目の色が変わったり、
桐子がそんな様子を見て「さもありなん」といった顔をしていたり。
なし崩し的に、というか、栞がずんずんその一団に突き進んでしまったせいで
そこに加わらざるを得なかったというのが事実。
そうして自己紹介が始まったと言うわけだ。自己紹介は長いので省略。
祐一が一々自己紹介に突っ込んでいたので、「うぐぅ」やら「えぅ〜」やら「あぅ〜」やら
「だお〜」やら「言葉通りよ」やら「そんな酷な事は無いでしょー」といったそれぞれの鳴き声(?)も紹介されたり。
「つまりだ、まとめると。三回生は美坂が『武:A-』水瀬が『魔:A』。
二回生は天野だけで『武具:B-』『武:C+』だっけ?」
「はい、そうです」
「ふむ。で水瀬妹が」
「真琴よ〜」
「『武:C-』で一回生ね。で、あゆあゆが無ランクか」
「そうだよ。今年中に『魔』『魔具』のランク取りたいけど」
ふむ、と納得した表情を見せる。しばし、悩んだ後、龍平が一同を見渡す。
そして、何を思ったのか、にやりと口を歪めて口を開いた。
後に北川がこの時の龍平を見て「あいつが一瞬悪魔に見えた」と言ったとか言わなかったとか。
そして、惨劇の開幕となる一言が紡ぎだされる……
「……で、誰が相沢の彼女なわけ?」
瞬間。周りの空気は一変する。
今までの雰囲気が嘘のように、冷却されていく周囲。
周りに居た客がその余りの激変振りに恐れを抱いて立ち去っていく。
周囲が冷えていくにもかかわらず、中心に居る者たちの間で弾けるは火花。
もうここに存在するのは、6人の乙女ではなく、6体の阿修羅、正しく人外であった。
龍平他、正常な4人にとっては何時間にも思えるような時間が過ぎた。
精確にはまだ秒単位にしか時は刻んでいないのだが。
目線のみで行われる戦争の均衡は薄氷の上を歩くが如く、今にも決壊しそうで
しかしそれ以上には進んでいなかった。
だが、天然娘の自分勝手な発言で均衡は脆くも崩れる。
「そんなの決まってるんだよ! 私が祐一の彼女なんだよ!」
「名雪? 冗談は程ほどにしておいた方がいいわよ。もしくは寝言は寝て言いなさい」
「そうですよ、名雪さん! 祐一さんは私のですっ!」
「栞っ!! あんたは黙ってなさい!」
「そんながさつでは相沢さんは振り向いてくれないと思うのですが」
「あら? そんな『オバサンくさい』女の子にも興味は無いと思うけど?」
「……何か仰いましたか?」
ヒートアップしてくる口論。祐一以外に『オバサンくさい』と言われて、
あの物静かな美汐も既に臨界点を突破してしまっている。
まだ、口論に加わっていなかったあゆ・真琴両名も
その後「こんなお子様では」とか「あーぱー娘」とか言われたお陰で既に殺る気も十分。
そこに……
「「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」」
偶々真琴が振り回した手にコーヒーカップが当たり、カップが放物線を描く。
結果として、カップの中身が飛び出していき、勢い良く香里の顔へ。
そして―――――――――――
瓦礫の中を四人が行く。
対して破壊は為されていないといっても、百花屋一軒が崩壊しているので
そこそこの瓦礫がそこここに散乱しているのだ。
この瓦礫の中、突っ伏している人間を発見。「発作的勃発相沢祐一争奪戦」の敗者となった
月宮あゆ&美坂栞の二人であった。
「まぁ、最初にやられるとしたらこの二人だよな」
「まぁな。というわけで残り4人。一人一殺と逝きますか?」
北川の提案する「一人一殺」はランクの違いやらそもそもの戦闘能力の違いとかで
構造的に欠陥がありそうなのだが
「それでいくか」「異存なし」「お〜け〜ですよ〜」
と乗ってしまう三人。冷静な判断が出来そうな香里・美汐が戦闘の真っ最中かつ
今回は目標と言うことで、作戦の欠陥を指摘できるわけもなく。
「じゃ、俺は一番殺傷性の高い香里に」
「じゃ〜俺は水瀬さんか。桐子と凪はどうするよ?」
「そうだな……天野は説得すれば冷静になってくれそうだからなー。桐子、悪いが
天野の説得に向かってくれないか?」
「了解ですよ〜」
「凪は真琴か。じゃ、止めることが出来たら、元百花屋に集合。健闘を祈る」
「「「らじゃ」」」
こうして、4人はそれぞれの標的に向かっていった。
To be continued...