その金色に光輝く毛色は彼に異を唱えるものを組み伏す程の威圧を放ち

その銀色の流線型を描くが如きしなやかさは見る者に畏怖の念を与えた。

何者にも屈せず、何者にも与さない。

その姿は『隠』然とではなく、『王』に相応しかった。

―――――『山中異聞』金之隠之項より











雪が舞い落ちるホームに黒き列車が滑り込んでくる。

長距離列車なのであろう、列車のエネルギ効率を上げるために仕込まれた魔動機が

大きなため息を吐くかのように白い蒸気を上げる。


蛇足ではあるが短・中距離列車では魔動機が組み込まれることは殆ど無い。

確かに魔動機を付ければ効率は上がるものの、列車用の魔動機は高い。

電気だけで動かした方が経済的には助かるのである。


列車のドアが開くと、一斉に人々が列車から躍り出てくる。

長距離の列車の旅は、相当に体を酷使するものなのか、それとも内外の気温差が激しいせいなのか

列車の外に出た人々は顔を顰めていた。

その中で一人、「俺は元気だぞ」と主張するように、その場で飛び跳ねたり、屈伸している青年がいた。

別に彼がマサイ族だから飛び跳ねているわけではなく

どうやら旅で縮みきった体を解す体操をしているようだった。


「寒ぃ……」


一頻りの体操が終わった彼はそう呟き、荷物を抱えて出口を目指した。

凪龍平、東に移っていった少年の八年後の姿である。





D

第1話





暦は3月。季節は冬。

一部を除いて、この国の殆どの地域では暖かな春の兆しを見せている時期。

駅を出るとそこは一面の銀世界であった。


「3月かよ、本当に……」


つまりは、この地域が先の「一部」に含まれるのである。

4月、遅ければ5月まで雪が降る少し異常な地域、名を「雪羽」という

それを示すかのように、駅には『雪羽駅』とあるし

否が応にも駅前の巨大モニュメント『せっちゃん』が『雪羽にようこそ』と看板を背負っていた。


『せっちゃん』とは、大きさが8mもある人型モニュメントであり、なぜか三つ網を付けているあたりが

評判となって、待ち合わせ場所のシンボルとしても有名である。

看板を背負っているあたり、この地域を一手に背負っているというか

無言で背中で語っているというか、まぁ一種異様なオーラを発しているものである。


ここで、この『雪羽』について語っておこう。(そうでないと話が進まない)

名前の由来は特にひねりも無く、ただ雪が多く、その降る様が空から舞い落ちる羽のようであることから。

一時期、地域合併問題などで名前が変更されそうになったのだが、この話は割愛する。

雪が多く降る地域の特権とも言うべき、スキー・スノボのゲレンデを武器として

一大観光都市として栄えている。

また、この地域・都市を語る上で外せないのが、都市の中央に控える『国立雪羽総合養成施設』

あまりこの名前で呼ばれることは無く、俗称『雪羽学園』と呼ばれている。

その先進的なカリキュラム・施設とその結果としてのOB・OGの活躍もあり

絶大なる人気を誇る『学園』なのである。国立なので授業料安いし。

そのため、『雪羽』は学園都市としても有名であるのだ。


『雪羽』に来る人々の大半がこの「観光」か「学園」を目的としている。

ご他聞に漏れず、凪龍平もこの学園に用があってきたのだ。

ただし、新入生としてではなく、編入生として。



龍平は、『せっちゃん』を一瞥すると、懐から一通の封筒を取り出した。

渡した相手は龍平の前の学校「東都学園」の学長。

いや、正確に言えば、今は無き(……・)「東都学園」の元学長である。

先月、この「東都学園」は爆破してしまった。その方法も不明な上、その動機も不明。

一切の人的被害は無く、ただ施設のみが粉々に破壊されたのだった。

かなりの大型学園だった「東都学園」は、何とかして生徒を他の教育施設に送り込んだり

卒業生には早めに進路を取ってもらっていた。

龍平も、その被害を被った一人であり、成績優秀だった彼は

この国一の最優秀教育機関に預けられることになった。

そして、今の状況に至る。


龍平が封筒を開けると、そこには3枚の紙が。

とりあえず一番最初に取れるであろう紙を広げると……



『せっちゃんを見なさい。見たら、この紙の裏をよく見ること。』



と達筆で書かれている。指示通り、『せっちゃん』を見た後、裏を凝視。そこには



『でかくない?』



と達筆で書かれていた。ちゃんと疑問符も小筆で書かれていた。

学長、かなりお茶目であった。


「……」


無言で、紙を縦に切り裂く。と、突然の発火。


「な!!!あんにゃろ〜!……次……あったらヤル……ヤッテヤル……


訂正。学長、底抜けにお茶目であった。

魔道の応用として、紙に対し「発火」の因子を付属。発動条件を「割かれる」としたのであろう。

流石、腐っても学長である。


校長の暗殺を脳内の「そのうちやらねばならぬ事」リストに付け加え

気を取り直して2、3枚目の紙を開く。『雪羽学園』編入許可書と与えられる住居についての書類であった。

住居に関しての書類に書かれた地図を眺め、「地図に沿って、歩くことにするかな」と次の行動を定める。

雪の感触を確かめつつ次の目標地『商店街』へと足を向けた……


のだが。


「たーーーーすーーーーーけーーーーーろーーーーー!!」


と地響きと共に、絶叫のドップラー効果を従えた男が一人猛然とやってくる。


「なぜ、命令形!?」


と無意識に男の絶叫に対して、ツッコンでしまう龍平。実は芸人体質であったことを自覚してなかった……

絶叫を挙げていた男は思わずツッコミを入れてしまった龍平に気付き、

こちらに突っ込んでくる模様。

咄嗟に周りを見渡して人身御供を探してみるも誰もいない。

いや、居たことには居たのだが、男の絶叫を耳にして近くの店に入り込んでしまっていた。

店には常識としてかなり強力な護符(魔道具)が張ってあり、そこいらにいる魔獣では触れることすら叶わない。


「しょうがねぇ。助けてやんなきゃ漢が廃るってか」


凪龍平、トラブル吸引体質も持っている漢であった……





To be continued...