8年前、一つの事件が起きた



例年に比べて寒さの厳しかった冬を越え

暖かな春を迎えた喜びをかみ締めていた頃




一つの村が“消えた”

村そのものが消えたわけではない

「村」を構成するはずの村人が消えた

……幼き少年と少女を残して




「人が消えてしまう」ことはさして珍しいことではなかった

自ら姿を消す蒸発(ミッシング)

他人による殺人・誘拐(クライム)

魔道実験による消去(デリート)

獣に食われる(ヴィクティム)

そして

明確にならない時の不明(アンノウン)




何時の世にも顕在する自己保身

何時の世も変わらない権謀術数

何時の世も消え去ることの無い飽くなき欲求

何時の世にも絶えることの無い悲劇

そして

何時の世にも理解されない人の為す業




“何時の世にも”あるがために

“他と代わり映えのしない”村であったがために

“あまりに起こりえる”話であったがために

何よりこの事件を凌駕する“大量殺戮”が同時期に発生したために

人々の記憶に留まる事は無かった




記憶に留まらなかった事に対する人の対応は冷たかった

当事者にとってはその行為が酷く

残酷に

冷徹に

辛辣に

胸に突き刺さる

特に子供であるなら殊更に




なぜ誰も聞いてくれない

なぜ誰も耳を傾けない

なぜ誰も真相を探そうとしない

なぜ誰も見ようとしない

ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ

ナゼダレモカタキヲトロウトシナイ!!!




子供たちはしっかりとした自我を持っていた

明確な記憶を持っていた

それに事件の“原因”を見ていた

「もし」があるとするのなら

今の“平穏”な時期に事件が起きていたのなら

この惨劇を可及的速やかに

“原因”に対して対応し終わらせていたことであろう

ただ

時間のベクトルは常に一方方向である

遡る事は、また改める事は

「不可能」である

果して

子供たちを無視する形で

事件を無視して

時間軸は精確に刻まれていった




残された二人の子供は

その胸に百万の「ナゼ」を抱えこむ

かくして

片方は“原因”を殲滅する、仇をとることを魂に刻みつけ

東へ

片方は百万の「ナゼ」にその小さき心を刻まれ、自我を手放し

西へ

離されることになる







8年の月日は

流れた

二人が出会うことは

既に決定付けられていたことなのか

「運命」だけが忠実に

その物語を綴っていく









D

プロローグ




To be continued...