ナルトが里を出てから二年半ほどだったある暑い日だった・・・。

―波の国・近郊―

「白、今度はこの国で一仕事だ。」

「僕は再不斬さんの行く所ならばどこでもいいんですけど・・・。」

「ガトーって野郎が話を持ちかけてきやがった。身を隠すのを手伝うかわりに仕事を手伝えだと。」

「気に入りませんか?」

「胸くそ悪りぃ話だ。ぶっ殺してやりてぇのは山々だが・・・。」

「最近追っ手の数が増えてきてますから・・・ですか?」

「・・・ちっ。」

先ほどから会話しているこの二人。

背中に大刀を背負った男、再不斬と、

その隣で先程から話を先に先に回りこんで会話している少年、白である。

「とりあえず行きましょうか?」

「ああ・・・。」


―同時刻・波の国―

うずまきナルトは久しぶりに手傷を負っていた。

近頃暗部の追っ手がほとんど来なくなっていた油断もあったのかもしれないとナルトは思う。

だが、それだけではない。

「いつものとは強さの次元が違いやがる・・・くそっ。」

大技を出そうにも相手の動きが一瞬でも止まらなければ意味はない。

並外れた感覚で常時相手の動きは掴んでいるのだが、相手が立ち止まらない上にかなりの抜き足なのである。

「火遁・豪火球の術。」

ナルトの豪火球。普通の忍者が使うならば一発なのだが、ナルトが使用する場合は複数の球が飛来する。

連続で放たれた火球は何本かの木を灰に帰すが、そうして燻り出そうにもこうも木が多い森の中ではあまり効果もない。

「今度の相手は俺の強さをよく分かった上ってわけか・・・。」

全部纏めて焼き払ったっていいのだが、あまり目立つとまずい事になる恐れもある。

刹那―

「水遁・水流弾。」

幾多もの水弾が襲い掛かってくる。

「ぐっ!!」

(やばいな、一個もろに貰っちまった。)

【もうあきらめろ・・・お前はここで死ぬ。】

追っ手が木の陰に姿を隠しながら宣言する。

「へっ・・・。お前如きには殺されないさ。」

【強がっても無駄だ・・・。】

「無駄かどうかは・・・これでも喰らえっ!」

クナイを連投するナルト。

追っ手の傍の木に突き刺さる。

「爆。」

その瞬間クナイの起爆札が発動する。

【何っ!?】

わざとクナイを少し離れた所に投げ、自分特製の強力な起爆札で爆発に巻き込ませその隙に一気に決めると考えたのだが・・・。

「火遁・火龍炎弾。」

体勢を崩して木の陰から出てきた追っ手にナルトの放った火龍が迫る。

決まったと思われたその瞬間――

追っ手の姿が龍に当たる前に掻き消えた。

【やはり死ぬのはお前だ。】

「影分身!?しまっ――」

【俺のオリジナル忍術、雷切。お前の未来は・・・死だ。】

ナルトの背後から現れた追っ手のチャクラを纏った抜き手がナルトの体を貫通した。

「ゲホッ・・・。」

【終わりだ・・・。】

追っ手が勝利を確信した瞬間一瞬であるが隙が出来た。

それだけで十分なのである。

「騙し合いは俺の勝ちみたいだな。」

瞬間、ナルトの姿が掻き消えた。

【何っ!?影分身だと。】

「気づくのが遅い。燃えろ、火遁・爆円陣。」

【馬鹿な・・・写輪眼で見抜けないはずが。】

「いくら血経限界だろうと、絶対じゃないって事だ。」

その言葉を最後に追っ手は業火の中に消えていった。

「ったく・・・生意気な事言ってくれたお礼だ。」

あれの直撃を受けてはさすがに生きていられないだろう。

「さっさと行くとしますか・・・人が来るかもしれないしな。」

だが、いきなり目の前が歪み始めた。

「ちっ・・・さっきの奴の手裏剣に毒でも塗ってあったか・・・。」

ふらふらする体を必死に支えながら木陰に倒れこむ。

「毒なんかじゃ死ぬわけもないんだけど・・・やっぱちょっとキツイか。」

そう言ってナルトは深い眠りに落ちていった。


白がその少年を見つけたのは常備薬の為の薬草摘みに来た時だった。

あの胸くそ悪いガトーと話をした後、忍具の点検中に薬が少なくなっているのに気づいて再不斬に断って出てきたのだ。

「再不斬さんなんて思わず手が出そうでしたしね・・・。」

あまり忍耐強くないあの人が抑えている姿を見ると不謹慎ながらも少し面白く思ってしまった。

「ん?あの木の陰・・・誰かいる?」

日に透けて半透明のようになっている金髪が微妙に見えている。

回り込んでみるとそこには年のころが自分と同じぐらいの少年が寝ているではないか。

その姿があまりにも綺麗なので思わず見とれてしまう。

「・・・なんで男の子に見とれてるんでしょうか。」

ちょっと自分で自分に苦笑してしまう。

とりあえず寝かせておいて風邪でも引かれるのは寝覚めも悪いというものなので起こす事にした。

「君・・・こんな所で寝ていると風邪引きますよ?」

ゆさゆさ・・・。

「んぅぅ・・・。」

ゆさゆさ・・・。

「んぁぁ・・・。」

ゆさゆさ・・・。

「寝つきがいい人ですねぇ・・・。」

何度揺らしてもちっとも起きない。

「帰る時にもう一度起こせばいいですね・・・。」

あまりのんびりしている時間もないのである。

そして30分後・・・。

「君、起きないと風邪引きますよ?」

ゆさゆさ・・・。

「ん〜?もう朝か・・・ふぁ〜ぁ。」

「ふぅ・・・やっと起きてくれましたか。」

「ってここは・・・そうか昨日毒喰らってそのまま・・・。」

未だに半分寝ぼけている。まだ自分の目の前に人がいることも気づいていないようだ。

「あの〜、それで君はなんでこんなところに?ちょっと離れた所なんて焼け焦げてたんですけど、あれは君が?」

「あ?ってアンタ誰?」

気づくのが遅いのはご愛嬌である。

「僕は通りすがりの薬屋でここに薬草を取りにきたんですけど・・・。」

(この状況・・・あん時と似てるな。なんか思い出しちまうぜ。)

ふと昔幸せだった時のことを思い出してしまう。

「あの〜?」

ほっておかれた方はたまったものではないのだが。

「ああ、あれは俺がやったんだけどさ・・・。」

(って何正直に説明してんだよ、俺。)

自分の目の前にいる少女(少年なのだが)の言葉に思わず素直に反応してしまうナルト。

「すごいですね、忍術ってやつですか?」

いきなり言い当てた少女に違和感を感じる。

(何だ、この感じ。それに薬の匂いで分かりにくいけどこれは・・・。)

とんだ人間に起こされてしまったと悪態をつく。

「そういう姉ちゃんこそ忍者か?」

ナルトは殺気を持って問い掛けてみるのだが、少女はにこにこと笑みを崩さない。

「僕が忍者?まさか・・・僕はただの薬師ですよ?」

「別に隠さなくてもいいって。その様子みるとアンタも何かに追われてるみたいだし、ここで俺と会ったのもただの偶然みたいだしな。」

「はぁ・・・何を言ってるか分からないんですけど。」

演技ではあろうが、少女は本当に分からないと言う風に首をかしげる。

「んじゃ言わせて貰うけどさ。いくら薬の匂いで誤魔化したって、血の匂いは簡単に消えない。」

「・・・君、何者ですか?」

いきなり臨戦体制に入ろうとする。

「まぁ待てって、俺昨日毒喰らってまだ本調子じゃないしさ。アンタとやり合う気なんてない。」

それでもやり合えば負ける気はしないけど・・・と心の中で付け足すのだが。

「・・・まぁ僕も関係ない忍者とやり合ったっていいことないですし。」

そういって少女は構えを解く。

「それと、僕は男ですよ?」

「嘘。」

「本当です。」

不覚にもちょっとの間固まってしまったナルトであった。



「つーことでまぁ、俺もいろいろあって追っ手に追われてるのさ。」

最後に溜息をついてナルトが簡単な説明を終える。

「なるほど・・・火影の里の人だったんですか。」

相槌を打つ少年の名は白、ナルトと同じく暗部に追われている身で命の恩人である男の仕事を手伝いながら生活しているらしい。

「白こそまさか男だったなんてなぁ・・・どうみても女の子にしか見えない。」

「はは・・・よく言われるんですけどね。」

ナルトは未だにびっくりしているようで、それを聞いて白は苦笑している。

この二人最初こそ警戒しているようで固かったが、話してみると随分と気が合うようだ。

人と話して楽しい気分になったのは本当に久しぶりだとナルトは思う。

対する白も再不斬以外と会話して温かい感じになったのは初めてのようで知らず知らずのうちに顔に笑みが浮かんでいる。

それから十分ほど談笑していたのだが、一羽の鳥がナルト達の上空を旋回し始めると急に白が立ち上がった。

「あっと・・・ちょっとここに居すぎましたか。それじゃあナルト君。またどこかで会えるといいですね。」

「今の鳥、伝令か?」

「ええ・・・大切な人からの呼び出しです。」

「そっか、んじゃ。また何処かで・・・な。」

「ええ、また何処かで。」

二人は少し名残惜しそうに握手をする。


「ふぅ・・・行ったか。」

そう呟くナルトの顔は少し寂しそうだ。

白と会話している間も昔の事を思い出していた。

(ヒナタ・・・。)

自分の為に犠牲になった少女。

生きているのかさえも分からない彼女。

今思えばすごく幸せだったと思える時間。

ナルトが里を出て初めて帰りたいと思った瞬間であった・・・。


―波の国・郊外の森―

今ここで二人の忍者が睨みあっていた。

「正直お前の相手をしている暇はないんだがな・・・再不斬。」

「まぁそう言うな。出合ったらやり合わなくちゃ損てもんだろう?コピー忍者のはたけカカシよ。」

(ちっ・・・こっちはまだ傷が癒えてないっていうのに。ツイテないねこりゃあ。)

「傷の分を差し引いても楽しめそうなんでなぁ・・・ククク。」

「ふん・・・あんまり人の事を舐めてると痛い目に会うかもよ?」

「出来るもんならやってみな、その傷でな!」

その再不斬の声がきっかけとなって二人が同時に飛ぶ。

「水遁・霧隠れの術。」

霧隠れの術・・・無音殺人術に長けた再不斬にもっとも適した術の一つで、霧によって自分の身を隠す。

それをみたカカシはすぐさま写輪眼を発動させ、クナイを逆手に構える。

【それが噂の写輪眼か・・・せいぜい俺を楽しませてくれよ・・・ククク。】

(まずいねこりゃ・・・写輪眼と言っても万能じゃない、何とか再不斬を捕まえないと。)

【いくぜ・・・。】

辺りが静かになる・・・。聞こえるのは自分の呼吸のみと言っても過言では無いほどだ。

刹那、カカシの背後から多数の手裏剣が迫る。

(クク・・・死にな。)

「ちいっ!」

だが、ギリギリで振り向いたカカシはそれらすべてを叩き落す。

【・・・さすがは写輪眼のカカシ。だがいつまで持つかな?】

そして再び辺りは静寂に包まれる。


一方、戦いの場から少し離れた場所。

「これは・・・再不斬さんの霧隠れの術。」

薬草摘みから帰ってきた白だったがアジトに再不斬の姿が見えなかった為、探しに来たのだ。

「くっ・・・急がなくては。」


そして再び戦いの場。

【ほらほら・・・どうしたんだ。動きが鈍っているぞ?】

「くっ・・・。」

最初は何とかすべての手裏剣を叩き落していたカカシであったが、時間が経つにつれて徐々にかわしきれなくなってきていた。

ナルトとの戦闘で負った傷が思いのほか重傷であったようだ。かなり息が荒くなってきている。

【ここまでのようだな、カカシよ。決めさせて貰うぞ。】

そしてカカシの目の前にいきなり再不斬が出現する。

「くっ・・・。」

カカシに向かって振り下ろされる大刀。

決まったかのように見えた。

だが・・・。

「水分身だと!?」

「悪いが再不斬、この状況を利用させて貰った。」

「クク・・・湿度の高い場の特性を利用して水分身とはな。やってくれるじゃねぇか?」

逆に再不斬の首筋にカカシのクナイが突きつけられていた。

「お前が止めを刺しに向かってくる瞬間が最初で最後のチャンスだったようなんでな・・・ま、利用させて貰ったってわけだ。」

「そして再不斬。お前の未来は・・・死だ。」

「クク・・・その予言は外れるぜ?」

「何?」

瞬間、再不斬の体が水になる。

「水分身か!!」

「そういう事だ・・・。」

ザシュ―

ガードの間に合わなかったカカシの腕を再不斬の大刀が深く切り裂く。

「くっ、火遁・豪火球の術!」

カウンターでカカシが火球を繰り出すが再不斬は再度霧の中に潜って身を隠す。

【危ない、危ない・・・。やはり油断できないな、じっくりと料理させてもらう事にするか。】

「その余裕が命取りだ。もう一度言う、お前の未来は・・・死だ!」

【ククク・・・やってもらおうじゃねぇか。】

「口寄せの術。」

カカシが印を結び終わるのと同時に何匹もの忍犬が召還される。

そして・・・。

【何っ!これは・・・。】

徐々に霧が晴れていく。

そこには忍犬に噛み付かれて身動きの取れない再不斬が居た。

「ぐぁ・・・カカシ貴様。わざと斬られたというのか・・・。」

血の匂いで追跡する為にわざと斬らせて、再不斬の大刀に血を付けたのだ。

「言っただろう?貴様の未来は死だと・・・。見せてやろう、俺のオリジナル忍術をな。」

『雷切。』

カカシの右手に膨大なチャクラが集まっている。

「具現化するほどのチャクラだと・・・。」

「終わりだ、再不斬。」

そしてカカシが再不斬の心臓目掛けて雷切を放つ。

《ズシュッ!!》

「クク・・・やっぱり外れたじゃねぇかカカシよ。」

「ゴホッ・・・再不斬さん。」

「まさか・・・一体何処から・・・。」

カカシの放った雷切は見事に白の『わき腹』を抉っていた。

(それに昨日の傷のせいで狙いが狂ったか・・・。)

「その隙が命取りだぜぇ!!カカシぃ!!」

そして運命の一太刀が振り下ろされた・・・。


その匂いにナルトが気づいたのは次は何処へ行こうか思案しながら歩いている途中であった。

「なんだ・・・?強烈な血の匂い・・・。」

ナルトの嗅覚はかなり良い。数キロ先でも血のような強烈な匂いなら嗅ぎ分けられるほどだ。

「こっちか。」

そしてそこでナルトが見たものは、血を流して倒れている白の姿だった。

「白!?」

「ゴフッ・・・その声は・・・ナルト君ですか?」

「お前目が・・・。」

「再不斬さんは・・・再不斬さんは無事ですか?」

そう言われてよく見ると近くの木に背を預けて息絶えている一人の男が居た。顔に白い布を巻いている男だ。

「・・・こいつが再不斬だって言うなら死んでる。」

「!!そうですか・・・。」

「もしかしてコイツが・・・。」

「そう、僕の大切な人、命を賭けても守りたい人・・・ゲホッ。」

「一体何が、それよりも手当てを。」

「いえ、僕の事は放っておいてください・・・。」

「何を!?」

「戦闘の音が消えてから何となく分かってはいたんです・・・でも信じたくなくて。何で・・・どうして僕の命一つじゃ足りなかったっていうのか・・・。」

このときナルトは思った、白は悔しいのだと。痛みよりも何よりも、自分の命を投げ出してまで守りたい人が守れなかったという事実が。

「白、死ぬなよ。お前はこのままでいいのかよ?」

「ゴフッ・・・何を?」

「自分の一番大切な人殺されて、それでいいのかよ?」

「僕はいつまでも再不斬さんと共に・・・。」

「お前はまだ生きてるのに、そいつだってお前に生きてて欲しいって思うんじゃないのかよ?」

「そんなことはないです、僕は再不斬さんの道具ですから・・・。役目を果たせなかった道具は消えるべきなんですよ・・・。」

それっきり白は気を失った。このまま放って置けば出血多量で死ぬだろう。

「だけど、それでも・・・。」

みすみす死なす事なんて出来ない、自分に久しぶりに暖かい気持ちをくれた人を。

どれだけ白に恨まれようとも・・・。

ナルトの正直な気持ちである。

そしてナルトは白の傷に手を当てる。

「妖仙術・回気功。」

白の顔色がみるみるよくなっていき、傷が塞がっていく。

そして、ナルトは白を背負い何処かへと消えていった。



―火影の里・近郊―

「・・・ルト君、ナルト君。」

ぼーっと考え事をしているようでナルトは呼ばれているのに気づいていない。

「ふぅ・・・ナルト君。もうすぐ着きますけど。」

「へ?」

「だからもう里に着くんですけど・・・。」

ちょっと、いやかなり白は呆れ顔になっている。

「あ、ああ・・・わりぃわりぃ。」

「何を考えてたんですか?」

「・・・白と初めて会った時の事をな。」

その言葉を聞いて白の顔が微妙に曇る。

しかしすぐに明るい顔になる。

「そうですよ、僕を再不斬さんの所へ行かせてくれなかったんですからせめて手伝ってもらいますからね?」

無理をしているのがバレバレであるが、ナルトはあえて気づかない振りをする。

「ああ、あの時のお前の傷は間違いなく雷切によるものだ。だとしたら・・・。」

「僕の討つべき敵はナルト君の戦った火影の暗部以外ありえない・・・でしょ?」

「ああ、だからこそ俺はここに戻ってきた・・・。」

「いきなり現れて手伝ってほしいですからねぇ、向こうもつくづく勝手だとは思うんですけど・・・。」

そう、半月程前に三代目火影から正式に要請が来ていたのだ。

それは白の敵を確実に討つ為に修行していた時であった・・・。


―半月前

「何だと・・・。もう一度言ってみろ。」

「何度でも言おう、今火影の里には貴様の力が必要なのだ。」

「一度は殺そうとまでした化け物に今更とは思わないか?」

「三代目火影様直々に帰ってきてよいと言っておられるのだ。ありがたいと思え。」

【ナルト君・・・僕我慢できないんですけど・・・。】

【当人の俺がここまで我慢してるのにお前がキレてどうするんだ、白。】

【それはそうなんですけど・・・事情を知っている身としてはですねぇ。】

【ちょっと変わったな、白。】

【それって誉め言葉ですか?】

以上、ナルトと白のヒソヒソ会話でした。

「まあいいさ、それよりも条件があるんだが。」

「何、条件だと?」

「ああ、まず一つ。俺を忍者アカデミーに入学させること。」

「そして二つ、俺はお前達の下で使われるわけじゃない、協力してやるって事だ。」

「何だと!」

「まぁまぁ、アナタも失敗しました・・・ってのじゃあ帰れないでしょう?とりあえずナルト君の言葉をそのまま伝えてみたらどうですかねぇ?それに、僕は結構頭に来てるんですよ。死にたくなければさっさと帰ってくださいませんか?」

ものすごい殺気が白から叩きつけられる。

「うっ・・・。わ、分かった。お前の言葉をそのまま伝えよう。」

そう言って消える暗部の人間。

「はぁ・・・白。」

「なんですか、ナルト君?」

ものすごくにこにこしている白がナルトの方へ向く。

「あれ以上アイツが何か言ってたら本当に殺すつもりだったろ?」

「バレました?」

「んなことしたら本末転倒だろうが。頼むからこっちの身にもなってくれ・・・。」

その言葉を聞いた白が何故かちょっと怒ったような表情になる。

「友達が馬鹿にされてるのに怒るなって言うんですか、ナルト君は!」

「その怒り方がマズイんだって・・・。」

すっかり人間味が出てきて白は変わったなぁ・・・と思っているナルトであるが。

その反面ちょっといきすぎだろと思う部分も多いので良かったのか悪かったのか微妙な所である。


そして話は今に戻り・・・。

「ここが火影の里ですか・・・。」

「ああ、三年ぶりだけどあんまり変わってねぇなぁ・・・。」

二人とも門をちょっと入ったところで立ち止まって町並みを眺めている。

そしてそんな二人の前に案内役の人間が現れる。

「おいお前ら、こちらだついて来い。」

「ああ、にしてもなんか静かじゃないか?」

「今日はアカデミー入学の日なのだ。そちらに出払っているせいだろう。」

「んじゃ火影のじっちゃんも?」

「ああ、少し遅れるので待つようにとのことだ。」

「呼びつけておいてそれですか・・・。」

白があからさまな溜息をつく。

「・・・とにかく今からお前らを集会場へ連れて行く。」

「集会場って何ですか、ナルト君?」

「お偉いさんとか上忍とか集まって会議するとこだろ、多分。」

ナルトもそんなところに縁があったわけではにのでいまいち分からない様子だ。


一方アカデミーでは・・・。

「え〜皆さん、入学おめでとう。」

担任の中忍が延々と忍びの心得がどうだなんだと話をしていた。

「忍びとは・・・。」

【ねぇヒナタ・・・。】

【どうしたのいのちゃん?】

【周り見てみなよ。】

【え?】

【やっぱり強そうなのっていないよね?】

【で、でも・・・見た目じゃ分からない事もあるし。】

【でもさ、この中で一番になったって全然届かないんだしさ。】

【目標は大きく?】

【そーゆーことよ。】

偶然(強制的とも言うが)席が隣になったヒナタといのがひそひそと周りについて話をしていた。

「こらっ!そこの二人。え〜と・・・山中さんと日向さんね。先生が話をしている時に喋らない!」

「は〜いすみません先生。でも、時間が押してるんで話は短くしたほうがいいですよ?」

いのに痛い所を指摘されて途端に黙り込む担任。

そんな姿を見てクラス中が笑いに包まれる。

「真っ赤になっちゃったよ〜、おっもしろ〜い。」「キャハハハ。」

「静かに、静かになさい!」

必死に場を沈めようとするが時既に遅し。

事態が収集するまで実に10分の時間を要したのであった・・・。


「はい、では今日の所はこれで終わります。」

「「さよ〜なら〜。」」

初日なので簡単なオリエンテーリングのみの半日授業なのである。

「ヒナタ〜。この後あそこ行くの?」

「うん、そのつもりだけど・・・。」

「んじゃ私も行くよ。お弁当も持ってきたしさ。」

あそことは言わずもがな秘密の練習場である。

そんな時歩き出そうとした二人の前に立ちふさがる影が三つ。

「ちょっと待ちなさいよ。」

「ん?何か用?」

ずいっと身を乗り出してくる三人。

「あんた達生意気なのよ。」

「そーよそーよ。」

「私よりも目立つなんていい度胸じゃない?」

いのは相手のレベルの低さに溜息を付きたくなった。

この三人は自分達が優位に立っていないと気がすまないタイプのようだ。

何もかも思い通りにいくとでも勘違いしているのだろう。

「あのねぇ・・・ガキ大将ごっこだったら他所でやってくれない?私達今から忙しいんんだけど?」

「な、何ですって!?」

「い、いのちゃん・・・。」

ヒナタが心配そうに声を掛けてくる。

だがこんなやつら相手にする必要も無い。

「だからさ、聞こえなかった?さっさと消えろって言ってるんだけど?」

「キー!!」「何よこの女!」

三人が怒りをあらわにする。

「ふ、ふん・・・お父さんが言ってたわよ?所詮廃棄処分された子だってさ。」

本人は苦し紛れに意味も知らず使った言葉だったのかも知れない。けれど・・・後ろでヒナタの体がビクッと反応した。

きっと傷付いたんだろう。でもヒナタはそれを表に出す事はしない。

優しすぎる子なのだ。

だからこそ・・・許せない。

だからこそ・・・ヒナタの変わりに自分が怒る。

「アンタ・・・。」

そう言ってその女の顔を殴り飛ばす・・・筈だった。

だが出来なかった。

ヒナタがいのの腕を掴んで離さないのだ。

「駄目だよいのちゃん。」

「離しなさいよ・・・ヒナタは怒れないから私が変わりにこいつらを殴るの。だから離して・・・。」

「私は大丈夫だから、ね?」

「ふ、ふん・・・どうしたのよ殴るんじゃないの?」

こいつはまだ分かっていないらしい。

ヒナタが止めなければ自分の体が今頃数十メートル先に転がっていたであろうという事を。

「分かった・・・もう殴るなんてしないから離してよヒナタ。」

「本当?」

「本当だってば、ね?だからさっさと行きましょ。」

「うん・・・。」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

後ろから声が聞こえるが無視無視。

「ふん!そんな変な男物の上着なんて着ちゃってさ、センスおかしいんじゃないの!?」

《バシッ!》

今度はいのがヒナタの腕を止めた。

「はい、ストップ。気持ちは分かるけどさっきと逆になってどうするのよ。」

ヒナタは白眼を発動させて相手にありったけの重圧を叩き込んでいる。

「ごめんなさい、でもこのジャンパーは・・・。」

ヒナタの着ている大きめのジャンパー、それは三年前にナルトが残した唯一の物なのである。

「そうね・・・ナルトが残したものだもんね。」

「ごめんね。」

「いいのよ、別に。それよりも今度授業であの三人に恥でもかかせようか?」

「だ、駄目だよいのちゃん・・・。」

「何よぉ、ヒナタだって腹立つでしょ〜?」

「だけど・・・。」

そんな会話をしながら去っていくいのとヒナタ。

「う、嘘でしょ・・・。」「こ、殺されたかと思った・・・。」

ちなみに残った三人は重圧から脱するのに一時間ほどかかったという・・・。



ナルトと白が案内されたのは里が一望できるほどの高いところにある建物であった。

「ここだ。」

「ここが集会場ですか。」

「う〜ん、俺も初めて来る場所だな。」

「ここに入れ。すでに上忍の方々は集まっている。粗相のないようにな。」

「・・・もうちょっと気の効いた喋り方は出来ないんですかねぇ。」

いいかげん高圧的な態度に嫌気がさしてきているようだ。

「そんな事を言ったってまあ、所詮化け物扱いってとこだろうな。まぁ少しはいい奴もいるんだけどな。」

「それが三代目火影・・・ですか?」

「そんなところだ。」

「さっさと入らないか!・・・まったくだからこの里に狐を呼び戻すなんて嫌だったんだ。」

二人が中に入ろうとせず会話しているのをみて案内役も大分いらついているようだ。

もっともそれだけが理由ではあるまいが。

「聞こえてるんですけどね・・・。」

「だから、お前が率先してキレてどうするんだよ。俺の事ならもう慣れてるから心配すんな。それよりも行くぞ。」

「ナルト君がいいなら僕はいいんですけどね・・・。」

そういいながらもまだ納得できない様子の白。


「来たか・・・。」

中に入った二人を待っていたのは里の上忍など約10名ほどであった。

「久しぶり・・・それとも初めましてかな?俺がうずまきナルト。んで、こっちが相棒の白だ。」

「どうも。」

ナルトは余裕の表情で笑みすら浮かべながら挨拶をするが、向こうはそうはいかないようだ。

「お前が九尾の・・・。」

特に一段高いところに座っている二人の老人は顔が険しい。

「で、俺に何の用なんだ?使いの奴は俺の力を借りたいって言ってたけど?」

「・・・お前には里の護衛をしてもらいたい。」

老人の一人・・・男の方がそう切り出す。

「護衛だと?」

「この里はいろんなものから狙われているということじゃよ。」

そうナルト達の後ろから入ってきた老人が説明を付け足す。

「火影のじっちゃん・・・。」

「久しぶりじゃのう、ナルトよ。」

「あれが三代目火影・・・。」

見た目隙だらけそうに見えるのだが、その実まったく隙が無い。いまここで飛び掛ったとしても数%の勝機もないということに白は戦慄すら覚える。

「そっちの少年は・・・。」

「お初にお目にかかります、白と申します。」

「そうか、ここからはワシから説明しよう。」

「今各国には同盟があるとはいえ、あまりいい状況とは言えんのじゃ。そして、里の皆を守りきるには人手が足りない事も事実。だからこそ・・・。」

「俺に里の奴らを守れって言うのか?」

途端にナルトの顔が険しくなる。

「そうではない、里を侵略しようとする強敵と戦う事も結果的には里を守ることになるじゃろう?」

「露払いをしろってことか・・・。」

「そうじゃ、ただこれは一番負担が大きくなってしまうからのう・・・。」

その時、仮面を付けた男・・・おそらく暗部の人間であろう男が話しに割り込んできた。

「まってください火影様!やはりこんな奴に里の一番重要な守りを任せるなど・・・。」

そんな男を見て火影はふぅと一つ溜息を付いてから・・・。

「では聞くが、このナルトはカカシですらも退けるほどの実力者じゃ。今の暗部にカカシに勝てる者がおるかの?」

「そ、それは・・・。」

そしてまた違う男が口を開く。

「しかし!こんな奴の力など借りずとも我らだけで里を守りきって見せます!!」

「いいかげん馬鹿らしくなってきましたね・・・。」

「ああ・・・俺としてはどっちでもいいんだけどな。」

白とナルトが顔を見合わせてあきれ返る。

「・・・それじゃあ僕は住む所でも探してきますね。」

「お、おいっ白!!」

三十六計逃げるが勝ちというやつのようだ。

「ったくあいつは・・・。」

ナルトがそんな白に呆れていると不意に肩を掴まれた。

「ん?」

「久しぶり・・・ナルト。」

「アンコ姉・・・。」

三年ぶりにあった人にちょっとぴり感動気味である。

「今日はウチに来るんでしょ?」

「ぇ。」

アンコの事を忘れていたとはいえるわけもないのでちょっと言葉に詰まる。

「来ないの?アンタの部屋残してあるんだけど・・・。」

「あ、いや・・・白が住むとこ探しにいってるから。」

「へぇ・・・あの子って里の地理分かるんだ。」

「あ。」

やはり白の発言は逃げる為の方便だったようだ。

「まぁとにかく、ここをどうにかしないと。」

集会場は未だに数人の男と火影がいい争っている有様である。

一瞬間を置いてから・・・。

底冷えするような重圧が集会場全体を包み込む。

「おいお前ら・・・。協力して欲しいのかして欲しくないのかどっちだ?」

「き、貴様っ!!」

「それとも・・・ここで全員死ぬか?」

暗部の一人がナルトに突っかかろうとするがその気迫に動きが止まる。

冗談ではないというようにナルトの全身から禍禍しいほどのチャクラが漏れ出す。

そんな時、一触即発のその場に似合わない程の陽気な声が響いた。

「まあまあ、両人ともそこらへんにしたらどうだい?」

「カ、カカシ・・・。」

「それとも・・・火影様の決定には従えないとでも?」

カカシが眼を細めて男を睨む。

「ぐっ・・・分かった。」

「よし、それではナルトには協力してもらうということで皆の者異存はないな?」

『はっ!!』


―アンコの家―

「やっと終わったぜ。」

「まぁ、あういうよく分かってない人間もいるのよ。」

一応事態は収拾したのでとりあえずアンコの家で一休みすることにしたナルト。

「実際、今の戦力じゃ有事の時にはかなりキツイっていうのに・・・。」

「まあ引き受けたからにはやることはやるからさ。」

心配すんなといいたげなナルトの顔。

「にしてもアンタのところにカカシが行ったって時は驚いたわよ・・・。」

「それっていつの話だ?」

「半年ぐらい前の話かな、波の国でやり合ったんでしょ?」

「ああ、あいつか・・・。」

(ってことはさっきの間に入ってきた奴が・・・。)

「ナルト、アンタは今更この里に帰ってきた理由。他にもあるんじゃないの?」

内心ギョッとするが少しでも顔に出そうものならバレること間違い無しなのであくまでも冷静に受け返す。

「・・・ただ呼ばれたから帰ってきただけさ。それにアンコ姉にも会いたかったしな。」

その言葉を聞いてちょっとアンコが赤くなる。

「嬉しいこと言ってくれるじゃない?」

微妙にアンコがすり足でナルトに近づいていく。

「でもね・・・そんな言葉でアンコ姉さんを騙そうなんて百年早いのよっ!」

そしてナルトの首根っこを抑えてぎりぎりと締め上げる。

「いてててて!嘘じゃないって!」

その責めは10分ほど続いてやっと開放されたという・・・。


―秘密の練習場―

変な三人組に絡まれた後、ヒナタといのはまっすぐ練習場に向かってきていた。

「ふぅ・・・やっと着いたわね。」

結界が張ってある分多少時間がかかってしまうのだ。

と、一休みしつつお昼を食べようとした二人の前に人影が見える。

「ん〜?ねえ、ヒナタ。あそこに誰かいない?」

「え?でもここの結界は破られたような感じはなかったけど・・・。」

「あれ見てよ、あそこ・・・。」

いのの指差す先には確かに人影がある。

ということは必然的にその人影は『ヒナタに結界を破った事を気づかせないほどの実力者』ということになる。

自然と二人の顔が引き締まる。

そしてヒナタがその人影に向かって歩き出そうとした瞬間・・・人影が消えた。

「あの〜、ここってどこらへんなんですか?」

瞬間後ろから声を掛けられる。

思わず動きの固まる二人。

(み、見えなかった・・・。)

(何なのよこいつ・・・。)

「あの?僕初めてこの里に来てですね、それで迷ってしまったようなんですけど・・・。」

そんな二人を尻目に淡々と問い掛けてくる。

何とか平静を保っているヒナタが言葉を紡ぎだす。

「あなたは・・・?」

「あ、すみませんいきなりでしたね。僕は白と言います。この里には・・・そうですね、仕事で来たって感じですね。」

あくまでもそんな感じな白に苛立ちを隠せないいのが迫る。

「ちょっとあんた!さっきの抜き足、どうみても一般人じゃないでしょ?」

「はい・・・?えっと何の事だか僕には・・・。」

ヒナタがとぼける白に対して白眼を発動させる。

(これは・・・深い悲しみ。けど、優しい感じもする。)

「あの・・・この森をあっちの方向に抜ければ里に出られますよ。」

「ちょっ、ヒナタ!?」

「ああ、そうですか。ありがとうございました。それでは僕はこれで・・・。」

そういってそそくさと立ち去る白。

「ちょっとヒナタ、何で何も聞かずに行かせたのよ?」

いののジト目がヒナタに突き刺さる。

「悪そうな人じゃなかったから・・・。それにちょっと感じがナルト君に・・・。」

「ふぅ・・・そっか。ヒナタの人を見る目は確かだもんね。それじゃさっさとご飯食べて修行しよっか?」

ヒナタの言う事は曖昧ではあるがいのはそれで納得したようだ。

「うん、今日は結構うまく出来たんだよ。」

そういってお互いの弁当を見せ合う二人。

そしてその二人を木の上から見つめる人影が一つ。

去った筈の白である。

「結界が張ってあるから何かと思えば・・・あれが噂の白眼ですか。でも・・・僕から言わせて貰えばまだまだですけどね。」

ニヤリと笑みを浮かべながら白の姿が消えていく。


「・・・そういえば僕は何処に行けばいいんでしょうか。」

そして白がアンコの家が分からずに一晩中彷徨ったのは言うまでも無い・・・。


そしてナルトと白が里に来てから一ヶ月の時が過ぎようとしていた・・・。

アカデミーの授業の方も講習だけではなく大分演習も含まれるようになってきていた。

そして・・・今日は初の男女の合同演習の日。

「きゃあー!!サスケ君よ!」

くの一にとってのアイドルとまでいわれているうちはサスケ。

今日も大人気のようである。

「おい、どうしたんだよナルト。そろそろお前の番だぜ?」

「・・・ほっといてくれ。ちょっと調子が悪いんだ。」

そしてそんな集団から離れたところにいるナルト。

そして自分の番を終わらせてナルトの所にやってきたのは奈良シカマル。

いわゆる頭脳明晰の天才とでも言うべき人物なのだが、極度のめんどくさがり屋なのでその実力が発揮される事はないと言っても過言ではない。

「何言ってんだよ。どこも悪そうにゃ見えねーぜ。」

そう言ってナルトを強制的に引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと待て。マズイんだって・・・。」

「ほらさっさと行って来い。」

そう言ってナルトの背を押すシカマル。

「おわぁ!!」

思わず大きな声になってしまうナルト。

そして嬌声が止み、ナルトに視線が集中する。

「誰あれ?」「ああ、なんかちょっと遅れてアカデミーに入って来たって人よ。」

女子の興味が集中する。

「おい、そこのドベ。お前の番だぞ。」

そしてナルトが視線を受けて固まっているとサスケが呼びに来た。

「俺はドベじゃねぇ、ちゃんとした名前があるんだ。」

目立たないほうがいいと言うことで普段は実力を隠しているナルト。

「ドベだからドベって言ったまでだ・・・。」

「何ぃ!!」

そして睨みあう二人。

「そこらへんでやめとけよ二人とも、それでなくても演習なんてめんどくせーってのによ。」

一応止めに入るシカマル。まったく止めようと言う気が感じられないが・・・。

(ったく、なんでナルトの奴はこうサスケと相性悪いかね・・・。)

「フン・・・とにかくお前の番なんだよ。早くしろ。」

そう言ってサスケはスタスタを歩いていってしまう。

「ったく・・・なんで俺がこんな真似。」

「あ、何か言ったかナルト?」

ナルトがぶつくさ言いながら地面を睨みつけているがイルカに呼ばれる。

「おいナルト!お前の番だぞ早く来い!!」

「は〜い・・・。」

「まあ、適当に頑張れ。」

「ああ・・・。」

そしてイルカの元に駆け寄るナルト。

「ナルト、後はお前だけだぞ。」

「へ〜い、んじゃ・・・変化の術!!」

煙が晴れて出てきた姿はイルカに化けそこなった変な人間であった・・・。


一方白はそのころ・・・。

別の場所で演習を受けていた。

「最初はナルト君だけって話だったのに、なんで僕までアカデミーに・・・。」

背中に哀愁が漂っている白。

まだ忍者にもなれない駆け出しのアカデミー生と一緒のレベルで授業を受けるのは結構ストレスが溜まるようだ。

「次、白!!」

そんなとりとめの無い事を考えていると白の名前が呼ばれる。

「はい。」

「いいか、手裏剣は五枚。すべてあの的に命中させろ。」

「分かりました。」

そう言って先生から手裏剣が渡される。

(ふぅ・・・ただ普通に投げるのもおもしろくないですし。どうしましょうか・・・。)

白の実力は抑えていると言ってもアカデミーでサスケとトップを争う程である。

周囲の目は期待に満ちている。

「はぁっ!!」

そして白が手裏剣を的に向かって投げつける。

五枚同時に・・・。

「なっ!?」

一瞬担任の驚いた顔が目に入ったが、白の投げた手裏剣は同時に連投したにもかかわらず的の中央に重なるようにして刺さっている。

「どうでしょうか?」

「・・・合格だ。下がっていいぞ。」

「はい、ありがとうございます。」

そして周囲から嬌声が上がる。

「きゃー!!」「かっこいい・・・。」

別に女子が苦手というわけではないのだが、さすがの白もこれには一歩引いてしまう。

(な、何で僕がこんな目に・・・。)

彼の前途はナルト以上に多難なようだ・・・。



いのがその金髪を見つけたのは偶然であった。

初めての男女合同演習。

予感がしたのだ。

何かがあるようなそんな予感が。

大勢の女子が見ている前で男の方の演習が進んでいく。

科目は忍術でも初歩の初歩。変化の術である。

もちろんいのもヒナタも完璧にこなして休憩に入っているのだが。

男の方の担任・・・あれはイルカ先生と言ったか。彼が一人の少年に向かって怒鳴りつけている光景が偶然目に入ってきた。

「こらぁ!なんでお前は未だに変化一つもまともに出来ないんだ!」

怒られている事が問題なのではない。問題なのは怒られている少年の顔だ。

「似てる・・・まさか。」

自分の目を疑った。まさかナルトがこんなところにいるわけが無いのである。

「いのちゃんまさかあの人・・・。」

隣にいたヒナタも気づいたようだ。

そしてイルカの発した次の言葉。それが引き金となった。

「・・・はぁ。どうしてお前はそうなんだ、ナルト。」

「俺だって一生懸命やってるさ。」

「だからといってなぁ・・・。」

ナルト・・・イルカは確かにそう言った。

「ナルト君・・・。」

思わずヒナタが駆け寄っていきそうになる。

だがその手をいのが掴んで離さない。

「いのちゃん?どうしたの・・・ナルト君だよ。ナルト君なんだよ?」

少々・・・いやかなり興奮気味のヒナタがどうして行かせてくれないのかという顔をする。

「ちょっと落ち着きなさいってば。どうしてナルトが変化の術なんかを失敗するの?」

「え?でも・・・。」

「何か理由があるかもしれないでしょ?だったら今ここじゃなくてアカデミーが終わってからでも行くべきよ。」

「どうしてそんなに冷静でいられるの?私なんて・・・。」

いのにだってすぐにでも駆け寄って行きたいヒナタの気持ちはよく分かる。自分だってそうなのだ。だけど・・・。

「もうあの時と同じことを繰り返すわけにはいかないから・・・。」

震えの止まらなかった情けない自分。そして自分の目の前で消えてしまった少年。

「そう・・・だね。」

「うん・・・だからさ。」

ごにょごにょ・・・。

「これでどうかな?」

「本当にうまくいくかな?」

「大丈夫よ。」

何やら怪しげな会話をする二人。どうやらナルトを誘き出してじっくり話でもするつもりのようだ。


そして・・・。

「やっと終わったか・・・。」

「おつかれさまです、ナルト君。」

教室でナルトと白が帰り支度をしている。

「お前なぁ・・・いつも先生にどやされる身にもなってみろよ。」

「いやぁ・・・僕は遠慮しておきますよ。」

「ちっ・・・敵の正体が分かってるってのに近づけないなんてな。」

「機会はかならず来ますよ。それに・・・。」

そういって白が凄惨な笑みを浮かべる。

「それに?」

「すぐにウマくいっちゃったら楽しみがないじゃないですか?」

だがその笑みはすぐに切り替わっていつものにこにこ顔に戻る。

「まぁ気長にやるか・・・。」

それ以上話を続けるとマズイ気がしたのかナルトが話を変えようとする。

「おい、ナルト。」

ふとシカマルが声を掛けてくる。

「シカマル。何か用か?」

ナルトは白以外ではシカマルと波長が合うようでよく話をしている。

「これ、教室のドアの所に落ちてたぜ。」

そういって封筒を手渡してくる。

「なんだこれ?」

「しらねーよ。後ろにお前の名前が書いてあったからな。お前宛の手紙だろ?」

「ふ〜ん、まあいいや。ありがとな、シカマル。」

「はぁ・・・まったくなんで俺が・・・。メンドクセー。」

何故かシカマルは溜息を付きながらその場を後にする。

そしてその封筒の中身を読んだ瞬間ナルトの顔つきが変わる。

「どうしました、ナルト君?」

「悪りぃ、白。先に帰っててくれ。」

「え、それはいいですけど・・・。」

「じゃっ!」

止める間もなくナルトの姿が小さくなってそして見えなくなる。


「・・・ま、その内帰ってきますよね。」

とりあえず気になるものの考えたって答えは出ないので思考を切り替えることにする。

「あ、今日の昼ご飯の当番。ナルト君なのに・・・。」

すっかり馴染んでいる白。苦労人の哀愁が背中に滲み出ているのは気のせいではないだろう・・・。


『お前の大切な物は預かった、返して欲しくば里外れの森まで来たれし。』

この手紙を読んだ時ナルトは妙に気になった。

いたずらという可能性ももちろんあるのだが、ある少女の顔が脳裏を掠めたのだ。

「ちっ・・・里外れって言っても一つじゃねーだろうが。」

焦っているせいか、自然に悪態が口をついて出る。

とりあえず落ち着いて気配を探るナルト。

その感覚に何かが引っかかったようだ。

「この感じ・・・。結界か。しかも里外れで森の中と来た。とにかく行ってみるしかないか・・・。」


―里外れの森・演習場―

森に入ったナルトは二つの気配を感じていた。

「出てこいよ・・・見てるのは分かってる。それともこっちから行って欲しいか?」

その時近くの茂みから物音がした。

「・・・久しぶり。ナルト君。」

「ヒナタ・・・か?」

出てきたのはヒナタであった。ナルトは懐かしいのと何故こんなことをして自分を呼び出したのか分からないので大分困惑している様子だ。

「あの手紙・・・まさかシカマルに頼んだのか?」

「うん、まともな方法で呼び出すのはマズイかも知れないから。」

「それは・・・まあ。マズイといえばマズイんだけどさ。」

そして会話が途切れる。

「どうして・・・帰ってきてたのに・・・。」

ヒナタは最後まで言い切らなかったがナルトには言いたい事がよく分かっていた。

だがナルトは・・・。

「俺は三年前ヒナタに大怪我をさせちまった・・・。会う資格なんてないと思ったんだ。」

「違うよ、資格とかそんなの関係ない。だって私は・・・。」

「里の内情を調べてて気づいちまったんだ。随分苦労したんだろ?俺の事恨んでるんじゃないかって思って。それにまた同じ事になったら。」

ナルトの瞳が悲しみに染まる。やはりうずまきナルトにとってヒナタは特別な存在のようだ。

だがヒナタは逆に瞳に怒りが灯る。

「そんなことないよ!私は恨んでなんかない。だってあの時私は自分の意志でナルト君を助けたんだから・・・あの時やっと私は自分の足で立って歩き始めたの・・・だから。」

「そうそう、同じ事を繰り返さないようにヒナタを守ればいいんじゃない?ナルトがさ・・・。」

ふと横を見るとそこにはいのが立っていた。

「いの・・・。」

「で・・・さ。再開ついでに誓いでもしない?」

「誓い?」

瞬間いのは自分の手にクナイを突き立てる。

「なっ!?」

「いのちゃん!!」

「っ・・・やっぱ結構痛いわね。」

「あたりまえだ!何を・・・。」

ナルトが手当ての為に駆け寄ろうとするが・・・。

「来ないで!」

いのの一括で動きが止まる。

「この傷に誓うわ・・・二度とアンタの中の九尾なんかにびびったりしない。今度暴走したらぶったたいても止めてやるんだから。」

「いの・・・。」

そんないのを見たヒナタも決意を固めたようだ。

「ナルト君・・・。」

おもむろに上着を脱ぎ始める。

「ってヒナタ!なななな、なんで脱いでるんだよ!?」

手で目を隠してみないようにするが指の間からちょっと見てしまっているのは男の性と言うものだろうか。

「見て、ナルト君。」

そしてナルトが驚愕する。その傷の大きさに。

「私もこの傷に誓う。今度こそアナタの隣に立って二度と途中で倒れたりなんてしない。」

正直ナルトは侮っていた。

自分はまた傷つけてしまうかも知れないということで二人を遠ざけようとしていたのも事実なのだ。

だが・・・。

「・・・俺も誓う。俺のすべてを賭けて二度と逃げたりなんかしない事を。」

この二人のパワーの前ではそんなこと些細な事だということである。

「さてと・・・誓いも終わった事だし三年ぶりにナルトのおごりで一楽でも行ってラーメン食べますか!!」

「何ィ!?」

「あ、それいいね。ナルト君・・・駄目かな?」

どこで覚えたのかヒナタの上目遣いがナルトに炸裂する。

「・・・分かったよ。だけどお代わり禁止だからな。」

赤い顔でそっぽを向いたってかわいらしいだけである・・・。

「そうと決まればしゅっぱ〜つ!」

「はぁ〜ぁ。今月の残り大丈夫かな・・・。」

「ナ、ナルト君やっぱり私払おうか・・・?」

「なぁ〜にいってんのよ。男なら一度いいって言った事は守り通す。でしょ?」

「・・・ったく、まってろよ味噌ラーメン!!」

急にナルトが走り出す。

そしてその後に二人とも続く。


一方その頃白は・・・。

「ふぅ・・・なんで僕が夜の買出しまで・・・。」

ナルトが当番だったので大分スネているようだ。

もちろんナルトの夕ご飯は量が少なかったのはご愛嬌である。