〜焔耶 Side〜

洛陽付近の集落から、撤退しつつ同道したい民と合流しながら長安を目指し移動しているが、思ったように距離を稼ぐことが出来ていない。月様や朔様達が前もって準備してきたこともあり、新安までは想定より早く撤退出来ていた。だが何事にも想定外の事態と云う物は付き物だ。出発直前になって老人が死に、その喪に服そうと邑を出立することに難色を示した者を説得したり、移動する車が壊れてそれを修理したりした為に、当初の予定より二日行程が遅れている。

先を急ぐ民達は、皆必死の形相を浮かべ、互いを励ましあいながら進んでいる。彼らが必死なのには訳がある。撤退する我らの後を袁紹軍が追ってきているが、彼らは平家を慕い、袁家を忌む民達を撃殺すると言って憚らないらしい。流石にそう公言している人間が追って来ていると知れば、あのような形相になるのだろう。

この情報が入る前に、一度朔様が月様に、民だけを置いて軍が撤退してはどうかと提案を行った。我らと同道することで民が危難に遇う恐れは高いが、我らと離れて行動すれば危難には遇わぬのではないか。詠様も伴っての献言だったが、その際は悩んだ末に民達の代表者を呼びだして話したところ、見捨てないで欲しいと云う意見が大勢を占めた為沙汰止みとなったようだ。現状では民を置いて撤退するという決断を、月様は決して下されないであろう。

月様の意図を汲み、かつ月様の安全を図るために何をすべきなのか、ワタシには分からない。月様の身辺の警護をより慎重に務め、迫りくる袁紹軍がどの程度距離を詰めてきたのかを確認していた。

一日、朔様から配下の兵たちに対し、いざと云う時に月様の為に働けるよう覚悟をしておけと云う訓示があった。要するに、死ぬつもりで居ろということだった。反董卓連合時から朔様に従ってきた者達は平然としていたが、匈奴の連中も月様の為に命を投げ出すことに躊躇いを覚えていないことに少々感心してしまった。華雄隊は、月様の為に己の命を投げ出さんと考えている朔様同様に月様の為に死のうと考えている者と、月様の為に死のうと考えている朔様の為に死のうと考えている者とが居るが、何れにせよ死を恐れていない者ばかりだ。だが彼らは違う。ご主人様から月様の下で働くように言われたに過ぎない。無理に付き合って無駄に死ぬことはないのではないかと尋ねて、彼らから引き出したのは彼らの月様に対する意外な誠心だった。

かつて月様が涼州に在った際、匈奴の民が困窮していた時に真っ先に手を差し伸べてくれ、また長が訪ねてきた際には耕馬を殺して持て成してくれた月様の恩は、現在分け隔てなく遇してくれるご主人様から受けている恩よりも深いものである。富貴の人からの施しは余分なものをくれただけであり礼を述べるだけで構わないと思うが、自分に余裕がないにも拘らず文字通り身を削って施しをしてくれた人の恩義をそれと同等に捉えるべきではない。
今、月様は危険な状況にある。差し迫っているわけではないが、それは自分たちでも理解できる。その状況で自分たちが出来る報恩は、月様が為したいことを為したいように助力をし続けることである。たとえその結果死ぬことになったとしても、それは彼らにとっては当たり前の報恩の形であり、厭う所ではない。

話を聞いた匈奴の者達は、皆好い顔をしていた。何を言おうと絶対にそれを枉(ま)げることはないだろう。そう思わせる強い意志を眉目に漂わせつつも悲壮感はなく、稀に『美少女の為なら何度でも死ねるッ!』等と騒いでは笑っていた。個々人の武勇はワタシの足元にも及ばないが、その在り方には学ぶべきところが多くあり、尊敬に値すると思う。

詠様は長安に向けて使者を発したり、ねね様と書簡を遣り取りしながら函谷関以東に展開している平家軍の状況を把握し、月様が安全に撤退できるように打てる手は全て打とうとしているようだ。それと同時に、新安で合流してきた民達の動静に不穏なものを感じたらしく、間諜が紛れ込んでいないかどうか内偵を進めているらしい。良くもそこまで頭が回るものだ。ワタシではそうはいかないだろう。まあ、比較すること自体が誤っている類の比較でしかないのは間違いない。

知恵が必要とされることについては、詠様に任せておくより他に選択肢はない。ワタシのような門外漢が口を差し挟んでも得るところは何もないだろう。ワタシに出来ることは、月様や朔様から命じられることを着実にこなすだけだ。





弘農を通り過ぎたあたりで、再び朔様から招集が掛けられた。あと二日以内に追いつかれることは間違いないという状況から考えて、今後の方針についてお話があるのだろう。逃げている最中に後背を衝かれると態勢を整えるのに精一杯となり、軍も、そして民も、大きな被害を受けることになる。それを避ける為に、こちらから敵に当ろうというのではないか。しかしその場合、撤退し続ける月様の警護を務める者と敵を足止めして時間を稼ぎ出す者とが必要であるが、人選はどうなされるお積りだろうか。

そんなことを考えながら陣屋へ向かう途上、匈奴の取りまとめを行っている去卑と行き逢ったのでそのまま同道することにした。どうやら彼も朔様に呼ばれているようだ。必然、会話はこの後のことについてのものになる。

「焔耶の姐さん、聞きやしたかい?」
「何をだ?」
「今回の招集は朔の姐さんが掛けたものですが、大元は月様から出たものらしいですぜ?」
「月様から?」
「ええ。ウチの連中の間じゃ専らの噂でして、誰が曲の代表として参加するかで揉めてまさぁ。流石に月様に直接お目にかかる機会ってのはそうは御座いやせんからねぇ」
「……程々にしておけよ。朔様から大目玉を喰らうことになるぞ?」
「そいつはいつものことでさぁ」
「ははっ、違いない」

去卑は口は悪いが繊細な心遣いが出来る人間で、取りまとめとして遣わされるだけの器量を有している。明るく騒ぐのが好きな奴ではあるが軽躁ではなく、噂話が好きだが口は軽くなく、約束事は滅多にしないがした約束は何があっても守る。匈奴の者達は皆彼に敬服しているようだった。

間違いなく袁紹軍とぶつかり合うことになる。それと分かっていて普段通りに振舞える去卑は、少なくとも益州で平家を向こうに回していた頃のワタシなどより遥かに将として優れている。『自分に何が出来て何が出来ないのか』が分かっている人間しか、こうは振舞えない。朔様からそう教わった。ワタシも、そう居られているのであろうか。出来れば、そうであって貰いたいものだ。

仮に設けられた陣屋に入ると、朔様が目を瞑って床几に腰かけておられた。少々厳しい顔をなさっている。その身に纏っている雰囲気は重苦しい。やはり想像通り、誰かをここに残して時間を稼ぐという話を為されるお積りなのだろう。要は、『ここで死ね』と命じる事になる。それは辛い役目だ。

その辛さを想って一瞬何と声を掛けたものかと躊躇っている間に、去卑が軽々と声を掛けた。

「朔の姐さん、話があると聞きやしたが、やっと月様親衛隊の設立を認めて下すった訳ですかい?」
「そんな訳が……はぁ、貴様はいつも通りだな。まあ委縮するより遥かにマシだ」
「でがしょう?自分でも驚くほど普段通りでして、逆に吃驚している処でさぁ」
「には見えんがな。……焔耶もよく来た。まだ各曲の主だった者達が集まっておらん。暫し待て」
「は、ハッ!」

指された辺りに用意された床几の一つに腰を掛ける。朔様は床几に腰かけられたまま、再び目を瞑られた。朔様の気に障らぬように気を付けながら、すぐ隣に座った去卑と話す。

「おい、去卑。良くあの朔様に気軽に話しかけられたな?」
「話しかけなきゃ始まらねぇじゃないですかぃ」
「そうは言っても朔様は『我らは生きるか死ぬかの瀬戸際にあるのだ』と言わんばかりの雰囲気を身に纏っていたではないか。流石にワタシは気軽には声を掛けられなかった」
「まあさいでしたがね、あっしとしては月様の為に死ぬのは本望でさぁ。今更生きるの死ぬのと言われても大したことは御座いやせん。覚悟ってぇのは、撤退すると聞かされた時にもう済ませちまいましたからねぇ。後は風の向くまま気の向くままに生きたり死んだりするだけでさぁ。どちらの目が出るにせよ、手前が出会う目をただ待ってりゃ良いだけですからねぇ」
「……ワタシはまだ覚悟が足りていない、ということか」
「そう云う物でも御座いやせんでしょう。あっしらは抑々月様の為に働きたいと考えている人間ですからねぇ。でも焔耶の姐さんは違うでしょう?死ぬならば月様のためではなく、もっと他の誰かの為に死にたいと考えてらっしゃるんじゃねえんですかい?」
「……そうだ。ワタシには、ワタシの命を以て報恩せねばならぬ人が居る」
「ならその違いでさぁ。あっしらは月様の為だから即決出来る。覚悟も出来る。きっと焔耶の姐さんも、その人の為なら即決出来るし、覚悟も出来まさぁ。大体死ぬことを厭わぬだけが覚悟とは言わねぇでしょうに。その人の為に死ぬ日を迎える為に、必ず生きて帰るってぇのも立派な覚悟でさぁ」
「……そうか、そうだな」

今の月様の立場に白連様が立たれた時、ワタシは去卑のように泰然自若として居られるのだろうか。

考え込んだワタシを見てもう一言言葉を継いでおこうと思ったのか、去卑が口を開こうとして周囲を見渡した。話をしていた時間は短いと感じていたが、思いの外時間が経っていた様で周囲に人だかりが出来ていた。

「皆集まったようだな。耳を澄まして、これから話すことを良く聞け」

頃合いと見て、朔様が話を始められた。

「今我々は袁紹軍の追撃を受けている。これは皆も知っている通りだ。このままの速度で進めば、二日後には追い付かれるだろう。その事が確実となった」

朔様が皆を見渡す。誰一人言葉を発する者はいない。皆ワタシと同じように、身を乗り出すようにして朔様の話を、全身で聞いているに違いない。

「すぐ後ろを追撃してきている3万。その後ろに更に2万の兵が続いている。月様に確実に、そして安全に撤退して頂く為には、どうしても誰かがどこかで時間を稼ぐ必要が出てきた、と云うことだ」
「朔の姐さん、勿体ぶらずにはっきり言いましょうや。何人此処で死ねば良いんです?あっしらぁ疾っくの疾うに覚悟は決めてんだ。朔の姐さんが決めてくれりゃあ今すぐにでも奔って行って死んで来まさぁ」

去卑の言葉に皆が一斉に頷く。躊躇する様は見られなかった。

こいつ等は手強い。間違いなく、死戦になる。今の様子からすると、誰も、一歩も譲らないだろう。本当に、最後の一人まで手向かって逝くだろう。ぞっとする。唯でさえ剽悍な匈奴の戦士が、此処を死に場所と定めて戦い続ける。これを抜くには、尋常ではない被害を覚悟しなければならない。

「貴様らだけ行かせるような真似をする訳があるまい。反董卓連合軍との戦からずっと、月様を守る為に生きてきた。今日またあの時と同じ袁紹軍が、同じように月様に追い縋っている。此れから月様を守れずして何が護衛か。これある時に月様を生かす為に私は生きてきたのだ。華雄隊は皆、此処で月様を逃がすための防壁となるつもりだ。
貴様らには、二手に分かれて貰いたい。一方は月様を護衛して函谷関へ移動せよ。もう一方は私と共に月様の為の防壁としてここで死ね。どちらも、それを率いる将は決めてある。月様を護衛する隊は焔耶、此処で死ぬ隊は去卑とする」

思わず聞き流しそうになったが、ワタシを護衛する隊の将に、と聞こえたのは気のせいではあるまい。それでは、ワタシが逃げるようではないか。確かに去卑たちに比べれば覚悟は不足しているのかも知れぬが、それなりの武勇を持っている私が居た方が楽に決まっているではないか。

「これは決定事項だ、嫌とは言わせぬ」

ワタシが言を継ぐ前に、朔様がワタシを見据えて宣言する。それでも、ある種の後ろめたさから反論をしようとしたワタシに、止めを刺すような一言を投げかけてきた。

「月様を、頼む。お前に頼みたい。今のお前であれば、月様を護る私の代わりが適うであろう」

ひどい言いぐさだ。そんなことを言われたら、断るようなことが言い出せなくなってしまうではないか。朔様は酷く優しげな表情でワタシを見ている。

「……分かりました」
「……良く聞き分けてくれた。去卑、匈奴隊を二手に分けるのは貴様に預ける。良いように分けろ。皆、異論はないな!?」

皆が静かに佇んでいたその時、陣屋の外から月様の入来を告げる声が聞こえてきた。















〜朔 Side〜

「皆さん、態々集まって頂いて有難う御座います」

月様からの言葉に、皆一様に頭を下げる。事前の衆議にて決したことを、皆を代表して私から月様に伝えるべく口を開いた。

「月様。皆には既に状況を説明してあります」
「そうですか」
「此度の撤退に当って、どうしても民が撤退する為の時間を稼ぎ出す必要があります。此れについては、我が華雄隊と匈奴隊の半数を以てその任に充てるつもりです。匈奴隊のもう半分は、月様と共に民を護りつつ函谷関を目指すことになっております。月様、どうか此処に残って足止めをする兵達にお言葉を掛けて頂けないでしょうか。そのことが兵達の励みになりましょう」

匈奴の兵達が色めきだっている。『やったねたえちゃん!』『ヒャッハー!』など、意味不明な言葉がひっきりなしに飛び交っている。……貴様ら、明日にも死のうと云う話をしている時に悲壮感も糞もない反応をするとはどういう了見だ。

他を見ると、去卑は苦笑していた。焔耶もそれを見て苦笑していたが、次に月様から発せられた言葉に私を含めて色を失った。

「その必要はありません」

ある者は目を見開き、ある者は思考が追い付かずに呆けた顔を見せている。前者の代表が去卑で、後者の代表が焔耶だ。私はは前者の仲間入りをしているだろう。

「月様、何を」
「朔さんこそ、何を言っているんですか。私は確かに皆さんを集めて欲しいと言いましたが、それは朔さんにこういう調整をして欲しいという意味ではないんです。本当に私から皆さんにお話したいことが有って集まるように伝えて貰ったんです」

思わず、月様の隣に立っている詠を見る。詠とは事前に話し合い、私が衆議を決した時機を見計らって月様を陣屋に導き、居残る兵達を励まして頂いた後に退去して頂く段取りであった。退去することを月様に因果を含めて納得させるのが詠の役割ではなかったか。月様大事の点で、私も詠も一致していたはずではなかったのか。詠は、何をやっているのか。

「……詠、どういうことだ?」
「……ボクは月のことを見損なって居たみたい。アンタも多分そうよ。今から月が話をするから、月の話を聞きなさい。ボクは月の望みを最善の形で叶える為に、ボクの智謀の全てを振り絞るわ」

どういう事かと訝しんでいると、月様が話し始めた。

「今私達は多くの民衆を連れて関西を目指していますが、袁紹軍に追い縋られ、明後日には捕捉されるという状況になっています。このままただ撤退を続けたのでは袁紹軍に追いつかれ、軍はまだしも民衆に多大な被害が出ることは疑いありません」

言葉を切り、少し俯き気味になりながら目を瞑って、再び言葉を紡ぎ始める。

「……嘗て私を討伐するために連合が組まれた時、私は私の命を守る為だけに、私の為に戦って、そして死んで下さいと配下の人にお願いすることが出来なかった人間です。それは、私の弱さに違いありません。私には覚悟がありませんでした。知らない誰かを殺し、そして知っている人が殺されるということに耐えられなかったんです。自分の理想を貫く為に、自分の命と他人の命とを懸けることが出来なかった。もしご主人様が居なかったら、私は今此処にこうして居られなかったでしょう。
そのご主人様の理想は、凡ての民が平凡な人生を送ることが出来る世の中を創り出すことです。私はご主人様のお蔭で今こうして生きています。だから私はご主人様の理想を叶えるお手伝いをしたいんです。……私は自分の理想を実現させる為に自分の命を懸けることが出来ず、私の為に私を慕ってくれる誰かに死んで下さいと言う事が出来なかった人間です。でもご主人様の理想を実現する為なら……いいえ、ご主人様の為なら命を懸けることが出来ます。
今民達を見捨てれば、ご主人様の理想を穢すことになります。民達は皆、ご主人様の理想は欺瞞に過ぎぬではないかと口を極めて非難することでしょう。ですから、私にはそれは出来ません」

眦を決して、話を続ける月様。

こんな月様は、見たことがない。月様に近侍するようになってからもう随分になるが、このような勁さを感じさせる表情をなさっている月様を、私は知らない。

───まさか、月様は手に入れられたのか。

───勢力の長であった頃、終に得ることがなかった英雄としての資格を。

───この乱世で、己の理想を貫く為に必要とされる覚悟を。

「だから、皆さんにお願いします。私と一緒に戦って下さい。皆さんの命を、私に預けて下さい。そしてそれが必要とされるなら―――」

次の言葉を発するまでに空いたその僅かな間に、期待と不安と緊張とをない交ぜにしたような感情が沸き起こってどうにも制御できない。私は、次に発せられるその言葉を、待ち焦がれていた。私がこれと定めた主に、いつの日にかその言葉を言って貰いたかった。そして、その日は来ないだろうと、勝手に諦めてしまっていたその言葉を、月様は口にされようとなさっているのではないか。

我知らず、唾を飲み込む。月様は、何と仰られるのか。
月様が我らに掛けるその言葉は───

「───私と一緒に死んで下さい」
「!」

この方を生涯の主として選んだ私の目に狂いはなかった……!この方はやはり英雄だったのだ!群雄として立った理由も、そして英雄として求められる覚悟を決めた理由も、他人の為であるという処が誠に月様らしいではないか!

詠の言った通りであった。私は、月様を見損なって居た。何かを誤ってこれ程嬉しかったことはないし、これからも二度とないだろう。

気付けば周囲の者達が、皆私を見ている。もはや事前に衆議で決めたことなどどこかに吹き飛んでしまったかのような面魂を見せている。月様の望みを叶えるために。それだけの為に我らは今此処に居る。

「皆、聞いたか!?月様が人主として、初めて犠牲にしようと心に決めたその命が、我々の物であったという今日のこの誉れをその心魂に刻み込め!月様と共に、己が身命を賭して、民を犠牲にせんとする敵兵と戦う事を誇りに思え!この一挙は、民を犠牲にし続ける乱世そのものを向こうに回すも同然である!月様をこの汚辱に満ちた乱世から護るのではなく、月様と共に乱世を断つ為に戦う事が出来る!敬愛して已まない主君に、共に死ねと命じられる!士としてこれに勝る慶びは有るまい!」

皆、感極まって顔を紅潮させている。我が隊の中には目に涙を溜めている者さえいる。

「月様の為に、私と共にその御前で死ね!」

陣屋の中で、異常な熱気と喊声が爆発した。

皆雨に打たれたかのように、その顔を濡らしていた。