〜教経 Side〜
帝位に就く、ということを宣言してから数日が経った。
月、碧、雪蓮、白蓮、華琳の5名は、俺に即位を要請する際の文章を考えて居るらしく、頻繁に書状を遣り取りしたり会合を持ったりしているようだ。
宛は、どこか浮ついた雰囲気に包まれている。恐らく誰も漏らしていないにも関わらず、将達の雰囲気に当てられたのか兵や民達は皆明るく躁がしい。民衆ってのは往々にして愚かだ。俺が生きていた時代でさえ、コントロールされた情報に思惑通りに流されて生きている人間ばかりだった。だが同時に、民衆は天意を読み取って時代の潮流を創り出しもする。それは歴史を振り返れば明らかだ。今の宛の雰囲気は、俺にとっては不吉な予感を感じさせないものであり、嫌な浮つき方じゃない。
その雰囲気の中を、魏越と歩いている。露天などで食い物を買って喰いながら、最近流入してきた民達が住み着いている区画を見回っているのだ。見回りがメインで、買い食いはサブだ。俺が言うんだから間違いない。そういうことにしておこう、うん。
ダンクーガとケ忠は、俺たちに先行して見回っている。何があるか分からないから、先に行って掃除をしておくンだそうだ。真面目だねぇ……余程のことがない限りは殺されないと思うがねぇ……まぁ、そうしたいと言っているのだからそうさせてやればいいだろう。
「御遣い様。何処にでも元気の良い若人は居るものですなぁ」
「元気が良すぎるのも考え物だと思うがな」
「いやいや。元気がなければ御遣い様の役に立てませんからな。先ずは元気が大事です」
「お前さんに付きまとわれて延々御遣い様とやらの偉大さについて語られ続けるのに耐えるには、確かに元気が必要だろうなぁ……その全てを失うことになりそうだが」
その区画に、暴れん坊将軍様達がいらっしゃった。本当に暇な奴らだ。もっと他のことにその力を使えよ。将軍様方の輪の中心には見知った人間が二人。
……何故地和は後手に捻り上げられているんだろうか。そして瑛、お前さん、その汚いひげ面の横で何をやってるンだ?
「……新手のプレイか?」
「御遣い様、ぷれいとは何ですかな?」
「性癖を満たす為の行動って事だ」
「……奇特な趣味をされておりますなぁ」
「あー、教経さまだぁー」
「お、天和か。どういう状況だ?これは」
「色々あってちぃちゃんがあの人を怒らせちゃったみたいだよ?」
いや、俺が聞きたいのはその『色々』あった部分の詳細なんだが。これが天然って奴か。
「……簡潔な説明、どうも有り難う」
「別に良いよー」
「いや、礼を言っている訳じゃ無いンだが」
「……天和姉さんに皮肉は通じません」
後から話しかけられて振り返ると、人和が目の前に居た。相変わらずの眼鏡っぷりだった。いやぁ、良い仕事してますねぇ。
「相変わらずかぁいいねぇ……人和、代わりに説明頼めるか?」
「そ、それ程でもない……私達もその場に居合わせたわけではないのですが、ちぃ姉さんがあの男の人とぶつかったらしいのです。かなり強くぶつかったようで思わず強く罵ってしまったらしく……偶々この界隈を視察していた瑛様が仲裁に入ったのですが、ちぃ姉さんも相手も譲らずに互いを罵り合って。その内に引っ込みが付かなくなった相手側が実力行使に出た、という訳です」
「成る程。次女は口が悪いモンなぁ……というか瑛と面識あったのな。そっちのが驚きだわ」
「御遣い様。止めなくても宜しいので?」
「あぁ、止めようとは思ったンだが放っておいても大丈夫だろう」
「はあ」
「先行しているダンクーガとケ忠が見逃すと思うか?奴らがこの辺に居ないって事は、何かしら考えて居るんだろう。どうするつもりなのか、お手並み拝見って所だな」
「そう言えばそうですな。では高みの見物と洒落込みますか」
「教経さま、ちぃ姉さんを助けて頂けませんか?」
「そうだよー、知らない仲じゃないんだし、助けてくれても良いと思うなー?」
「……助かるさ。ほれ、役者が揃ったみたいだぜ?」
そう言って屋根の上に顎をしゃくる。
「「え?」」
「待てぇい!」
周辺に声が響き渡る。周囲の人間は皆、声がした方を見やっている。
……まさか俺の真似をするとはねぇ、ダンクーガ。分かってるじゃないか。まぁ本人は蝶人・パピヨンが俺だとは気が付いて居ないだろうが。
「な、何だ!?」
「行く手に危険が待ち受けようと、心に守るもの在るならば
例え命尽きるとも、体を張って守り通す
……人、それを『漢』という……ッ!」
「き、貴様何者だ!?」
「平家軍親衛隊隊長、高順!此処に見参!」
槍を抱え、瑛を押さえつけていた髭面をぶっ飛ばす。
……馬鹿な奴め。最終回じゃないと名乗っちゃ駄目なんだぜ?剣狼的に考えて。
「こ、高順殿」
「……怪我ぁないか?」
「わ、私は大丈夫ですが地和が!」
「ちょっと!やだぁ!」
「テメェ!こ、これが見えねぇのか?」
地和を後手に捻り上げていた男は、剣を地和の首筋に突きつけてダンクーガを牽制している。
「……あ〜、ちょっと良いか」
「な、何だこの野郎!」
「人質抱えて凄む時は周囲、特に後に気を付けた方が良い。大将がそう言ってたよ」
「テメェ、何を……」
「おい」
「あぁ!?……ウボァ!」
後から近付いたケ忠が、男の後から声をかける。その声に反応して後に振り向いた男を、力一杯殴りつけた。……痛そうだな、あれ。
「口を利く前に動きなよオッサン」
「え?」
「もう大丈夫だ」
ケ忠が地和の体を引き寄せて声をかける。
流石の地和も普段通りには行かないようだ。端から見ている限りではしおらしい。その地和を後ろに庇う形でケ忠が立ちはだかる。
ダンクーガも瑛を後ろに庇いながら、暴れ者たちを牽制している。
「テメェら、何してくれてやがる!」
「やっちまえ!」
ダンクーガの登場に呆気にとられていた人間が正気を取り戻して次々に襲いかかる。彼らを殺しても構わない状況であれば容易く鎮圧できるだろうが、問答無用で殺すわけにもいかない。手加減をして鎮圧することが望ましいが、20人程度の荒くれ者達に一斉に掛かってこられたら捌ききれないだろう。
「……仕方がないか。オッサン、ちょっと頼むわ」
「は?あ、み、御遣い様!どちらへ!?」
……やっときたか…この日が……この1年の間何度となく風邪との戦いを思い出したぞ。
私のただ一度の敗北!ゴミのような細菌に神が敗れたのだ!1年の間この辱めに耐えてきた。だが今日でそれも終わる。此処で華麗に登場してあの敗北がエロールの仕組んだ罠だったと証明し、この僅かな瑕を拭い去って、完全な復活を遂げるのだ!
では、私の復活の舞台へ!
屋根の上に上がって下の様子を窺う。オッサンが加勢しているが、相手を抑えるには到っていない。それどころか、離れて成り行きを見守っていた天和と人和まで巻き込まれている。
……本当に仕方がない奴らだ。そう軽く思っただけだったが、違和感を感じて再度目をやる。何だ?何に違和感を覚えたんだ?俺は。まぁ良い、兎に角今は助けに出ようじゃないか。
「待てぇい!」
「またか!?」
「戦いの空しさを知らぬ愚かな者達よ。
戦いは愛する者を助けるためだけに許される。
その勝利のために我が身を捨てる勇気を持つ者……
……人、それを『英雄』と言う……!」
「な、何者だ貴様は!?」
「貴様らに名乗る名前などないッ!」
天和と人和ににじり寄っていた阿呆共を薙ぎ倒し、二人を後に庇うように暴れ者共との間に割り込む。
「大丈夫か?」
「え、あ、はい……」
「うん、大丈夫だよー」
「それは良かった」
「て、テメェ、パピヨン!何で此処に居やがる!?」
「チッチッ、『パピ☆ヨン☆』。もっと愛を込めて!」
「いいから答えやがれ!」
「やれやれ。もっと余裕を持った方が良いな、武藤カズキ。俺が此処に居ることを問い詰めるより前に、周囲にいる無粋な奴らを叩きのめすのが先なんじゃないのか?」
「チッ……パピヨン、手を貸せ!」
「力を貸してやろう。感謝して敬え」
「一気に行くぞ!」
ダンクーガ、ケ忠、オッサンが一斉に敵に掛かって行く。
こっちはこっちでやらせて貰う事にしよう。先ずは状況の確認だ。
天和を見る。酷い怪我をしている様子はない。頬をはたかれたのか、少々腫れている様に見えるが。
人和を見る。酷い怪我をしている様子はない。……怪我はしていない。そして、眼鏡もしていない。眼鏡!眼鏡をどうしたンだ!?
天和達が絡まれていた辺りに、眼鏡が転がっていた。レンズにヒビが入った、眼鏡が。先に感じていた違和感の正体はこれか!
……俺を本当に怒らせたな……?
「変態!思い知らせてやるぞ!」
「……思い知るのは貴様らの方だ。俺の大切なものを傷つけた貴様らには、それ相応の報いを呉れて遣る」
最初から全力だ。眼鏡の仇を取らせて貰おうか。
「思い知るが良い、天の怒りを!」
一気に距離を詰めて、鞘で殴る。兎に角殴る。思い切り。手当たり次第に。
一人。二人。三人。四人。
……俺の前で眼鏡を破壊した不届きな奴らを成敗していく。
「こっちも負けていられねえ!ケ忠、オッサン。分かってるだろうな!?」
「任せとけよ!」
「ガハハハッ!さっさと御遣い様に跪かんか!」
……あっちはあっちで順調らしいな。俺の周囲にいた馬鹿共は暫く起き上がることは出来ないだろうし、この辺りでおさらばするか。ダンクーガだけならまだしも、ケ忠とオッサンの三人で来られると面倒なことになるだろう。
そう思って移動しようとした俺の腕を、天和が掴む。
「凄いねー、わたし吃驚しちゃったよー」
「もうじき終わるから大人しく待っていろ」
「教経さまは何処に行くの?」
「ちょっとそこm……俺は蝶人・パピヨンだ」
「あの、教経さま。何故そのような格好を……?」
「……俺は蝶人・パピヨンだ」
「……分かりました。ではパピヨンさま、何処に行こうとされているのですか?」
「もうそろそろ終わりそうだし、俺の役目は終わっただろうと思ってな。平家の主も直に来るだろう。ここで待っていることだ」
「は、はあ……」
「ではさらばだ!」
危なかった。もう少しで正体がばれるところだった。気を付けないと拙い。
……にしても、完全に見抜いているかのような言動だったな。流石にそんな事はないだろう。普段着物を着ている俺と、この蝶・格好良いスーツを身に纏った俺とが結びつくことはないしな。それが結びつけられる奴は頭がおかしいに違いないのだ。
現場から一旦離脱して着物を着替えて再度合流する。
多くの暴れ者が後手に縛り上げられて連行されている。この後は魏越のオッサンの御遣いトークによって洗脳され、扱きに扱き抜かれることになるだろう。まぁ、ご愁傷様としか言いようがない。
ダンクーガ達はと捜してみると、心温まる交流をしているようだ。
「ったく前回といい、毎度騒動起こしてんじゃねえよ」
「ふ、ふんっ!ちぃが騒動起こしてる訳じゃ無いもんね!大体、助けるならもっと早く助けなさいよね!『もう大丈夫だ』じゃないわよこの馬鹿!死ぬかと思ったじゃないの!」
「うおっ……何しやがる!」
「アンタねえ!私が死んだらどうするのよ!『数え役萬☆姉妹』一の美少女であるこの地和ちゃんが死んでしまったら、アンタの上司も困る事になるんだからね!?」
「俺の上司ってことは……高順か。困ると思えないけどねえ……。第一、困っても別に構わないし」
「違うわよ!平教経よ!」
……呼び方については今更気にしないが、でかい声で俺の名前を叫ぶのは止めてくれないかね。
「……死なれたら困るのは間違いないが、『数え役萬☆姉妹』一の美少女ってのはどうかね?」
「お、兄貴。見てたのか」
「最初からな」
「大将、居たのか」
「途中からな」
「どっちよ!」
「どっちもだよ。ダンクーガ達のことは最初から見てた。お前さんと瑛が絡まれた後にここに来た。だから途中から居たと答えた。お分かり?」
「いちいちムカつくのよ!」
「ちぃ姉さん、落ち着いて」
「ちょっと人和、ちぃを止める前に其奴の物言いを注意しなさいよ!」
「駄目だよちぃちゃん。人和ちゃんは……ね?」
「て、天和姉さん!」
「……ふ〜ん?」
地和が何やらニヤついた顔でこっちを見てくる。取り敢えずスルーしておこう。面倒臭いから。
横を見ると、瑛がダンクーガに礼を述べていた。
「あ、あの、高順殿。有り難う御座いました」
「ああ?別に気にしなくて良い。怪我してないよな?」
「はい」
「なら良かった。折角助けに入ったのに、怪我してたってんじゃその甲斐がないからな。女の子だし、一生ものの怪我をしてたら一大事だしな。そんな事にならなくて良かったよ。そうなったらどう責任取った物か悩んだだろうしなあ……」
「せ、責任……ですか?」
「そう、責任。大将がよくそんな事を言ってるんだけど、俺には全然意味が分からないんだよ。アンタは分かるか?」
「い、いえ。分かりません」
「だよなぁ……」
「あの、高順殿。私の真名は瑛と申します」
「……真名、預けても良いのかよ、俺なんかに」
「貴方に受け取って貰いたいのです、高順殿」
「……そっか。なら有り難く預からせて貰うよ、瑛。これから宜しくな」
「は、はい……あの、高順殿。この後ご予定は?」
「ん?いつも通り大将の身辺警護だ。一応親衛隊関連の報告書類はケ忠から報告が上がると思うけど、何か心配事でもあるのか?」
「い、いえ。そういう訳ではありません。お忙しいのであれば、構わないのです」
「?はあ。構わないなら良いんだけどさ」
……ダンクーガよ。お前さん、鈍いにも程があると思うんだが。
ニヤニヤと瑛を見やると、少し照れくさそうに視線を外した。要するに、そういうことなんだな?OKOK、任せてくれ給え。
視線を元に戻すと、ケ忠と地和が何やら仲良く会話をしていた。
「べ、別に助けてくれなくても大丈夫だったわよ!」
「その割に泣きそうになってた癖に」
「五月蠅いわね!」
「ケッ、可愛げの無い奴だ。折角助けてやったっていうのに、礼の一つもまともに出来ないなんてねえ」
「う……」
「お前さんには望むべくも無いんだろうけど」
「……すかったわよ」
「はあ?」
「おかげで助かったわよ!ちぃ一人でも何とか出来たと思うけど、アンタが居たから助かったわ!……本当に一人でも大丈夫だったんだからね!?」
「……ほんっと、素直じゃないのな、お前」
「う、うるさい!一言多いのよ!黙って感謝されておきなさい!」
「成る程、感謝はしてるんだな」
「べ、別に私は……ッ!」
「はいはい、分かったっての。感謝されとくからさ」
「ふ、ふんっ。最初からそう言えばいいのよ」
あっちはまあ……よく分からんが、ケ忠は重度のシスコンだからしっかりし給え。
「ダンクーガ、ケ忠。瑛と地和達を送って行ってやれ」
「良いけど、大将の護衛はどうするんだよ」
「魏越のオッサンが居るだろ?」
「……まあ、大丈夫か」
「ガハハハッ。任せておけ!」
「マジかよ、兄貴」
「マジだよ、愚弟。送ってってやれ。強がってはいるが流石に命の危険を感じただろうし、今日ぐらいは面倒見てやれ」
「はぁ……メンドくせぇけど仕方ないか」
「この地和ちゃんに世話を焼けるなんて、アンタ幸せ者じゃない」
「……うわぁい、この世の幸せ独り占め出来て嬉しいなぁ〜」
「……文句あるの?」
「……兄貴、やっぱ止めて良い?」
「疲れるのはお前だけで十分だからお前な」
面倒見とけっての。俺は嫌だ。疲れそうだし。
地和も、何だかんだで助けてくれたケ忠が居た方が良いだろうしねぇ。
「じゃ、そういう訳で行ってこいや」
「了解」
「……了解ですよ」
「で、ではお願いしますね、高順殿」
「ほら、さっさと歩きなさいよ!」
わいわい騒がしく、それぞれが家に帰っていく。
視察に来たのに、全く視察できなかったな、おい。
「仲が良いねー。あんなちぃちゃん初めて見るかもー」
「……何故お前さん達は此処に居るんだね?」
「?」
「いや、『何を言っているか分かりません』とかありえないだろ?地和と一緒にケ忠に送られればいいじゃないか」
「えー。そんなの駄目だよー。瑛ちゃんは高順と、ちぃちゃんはケ忠と。なら私と人和ちゃんは教経さまと、だよね?」
「何がどうなってるンだ」
「ははあ、要するに、助けてくれた人が送っていくべきだ、と。そう言いたいわけですな?」
「そうそう。いいよね?ね?」
「あのなぁ……」
人和も何か言って呉れよ。
そう言おうとして人和を見ると、胸の前で両手を合わせてこっちを見つめてた。
……オーケイ。要するに送って欲しいのね……
「……仕方ない。送って行ってやるよ」
「本当?やったね!」
「あ、有り難う……」
送っていくってだけでこれだけ喜ぶとはねぇ……まあ、いいか。
「じゃ、これから何処行く?」
「は?家に送っていくに決まってるだろ?」
「えー。お腹すいちゃったよー」
「ね、姉さん、駄目だってば」
「人和ちゃんだってお腹すいてるでしょ?」
「そ、そんな事は『グゥゥゥゥ』……」
「……」
「……」
今の、人和の腹の虫だよな?
……気まずい。オッサンの顔を見て、顎をしゃくる。
「……ガ、ガハハハ……も、申し訳ありませんなあ御遣い様。儂は腹が減ってしまって仕方がないのです」
流石はオッサン。伊達に歳は取っていないな。空気読めるなんて貴重な存在だぜ、この場では。
「ははっ、仕方ない奴め。頑張ったことだし、俺の奢りで飯でも食いに行こうか。何なら天和と人和も付いてくると良い」
「あー、うん。それが良いよね、人和ちゃん」
「……う、うん」
その日は宛で有名な中華飯店で四人で食事をした。
何故か店内にダンクーガとケ忠も居た。それぞれが、二人ずつで。相手が誰かは言うまでもない。
ダンクーガは俺に気が付かなかった。料理に夢中になっていたが、瑛の事をちゃんと相手できているんだろうな?そっちのテーブルから聞こえてくる声に、教育係というか、上司として恥ずかしい思いをさせられた。『この肉うめぇ!良く分からねぇけど兎に角うめぇ!』って何だよお前。もっと言う事あるだろうが。彦麻呂みたいに訳分からんこと言えとは言わないがな、もっと他にあるだろ?ちゃんとそれなりの物を、俺と一緒に毎日喰ってるだろ?それとお前、一応女性と一緒に居るわけだから、エスコートしなきゃ駄目だからな?心配でしょうがない。今度しっかり教え込んでおかないと駄目だな。
ケ忠は俺たちに気付くなりこっちに趨って来たが、地和の横を通り過ぎる際に足を出されて転けていた。……ご愁傷様だな、忠。そのまま何やら言われて、致し方なく、といった面持ちで席に着いていた。まあ、お前さんには良い経験だろう。重度のシスコン、克服できると良いな?多分、お前の理想とはかけ離れた相手なんだろうけどなぁ、地和は。人生、何事も経験だよ明智君。頑張り給え。
俺の方は、というと。
天和が酒を飲んで酔っぱらい、俺の腕に抱きついて来たり。人和がそれを止めようとして天和に引っ張り込まれ、真正面から俺の頭を胸に抱えるような態勢になって絶叫したり。オッサンが酒に酔っぱらって如何に俺が素晴らしいかを二人に語ったり。
エラい目に遭った。
あぁ?……まぁ、そりゃ確かに愉しかったよ。天和も人和も美人だし、飯は旨かったしな。
じゃあ何が問題なんだって?
華琳にその光景をしっかり見られてたんだよ。明日はな、覚えておきなさい、とやられてから初めて華琳と一緒に過ごす日なんだよ。『この舞茸、もう要らないわよね?』とか言われて絶でカットされたらどうするんだよ……憂鬱だよ、憂鬱。
『平教経の憂鬱』ってやつか?
……およびでない?これまた失礼しました。