〜田豊 Side〜

「だから何度も言っているだろう!曹操が眼前に展開する我らを無視して烏巣を襲うなどあり得ぬ!」
「こちらも繰り言になるが、襲われて糧食を焼き払われた際の痛手を思えばより厳重にこれを警備しておく必要があるだろう。その事が分からぬ卿らではあるまい?」
「例え烏巣を襲って来たとて、この私が烏巣を守備して居るのだぞ!?まさかこの私が曹操に後れを取るなどと戯けたことを申すのではあるまいな!?」
「別に後れを取るなどとは申しては居らぬ。万全を期す為、もう少し兵をそちらに振り分けておくべきではないか、と言っているだけではないか。何故そこまで頑なに問題無いと言い張るのだ。別にこの提言によって曹操を撃退せしめたとて、その功績は私ではなく卿に帰するものであろうに」
「そんなことは当たり前だ!」
「……田豊、貴様、よもや決戦を前にして曹操に臆しているのではあるまいな?いや、そうか。臆しているのだな?それで起こるはずもない烏巣襲撃などを言い立てておるのだろうが?
麗羽様!このような惰弱者の言うことを聞く必要はありませぬ!今こそ、いつも通り我らにお命じ下さい!『華麗に勝て』と!」
「良く言いましたわ審配さん。私があのちんちくりんに負けるはずなど無いのです!」
「麗羽様、お待ち下さい。もし曹操が烏巣を襲って来た場合、淳于瓊殿が率いる10,000を下回る兵を率いてやってくることはありますまい。曹操の出鼻をへし折ってやる為にも、ここは密かに兵を増派しておいて曹操軍を待ち受け、これを叩くことこそ肝要と存じます」
「……田豊さん?貴方、同数の兵では勝てないと言うのですか?華麗なる袁家の兵が?」
「いえ、そうは言っておりません。確実な勝利を掴む為に準備を致しましょう、と言っているだけです」
「同じ事ではありませんか!貴方は後方で黙って見ていれば良いのですわ!」
「麗羽様!」
「お黙りなさい!」
「流石は麗羽様。明日は官渡城を必ず落として見せましょう!」
「当然ですわ!お〜ほっほっほ。お〜ほっほっほ」

官渡城周辺での戦闘により、全軍合わせて70,000強まで数を減らされたことで雲行きが怪しくなってきた。いや、怪しくなってきたどころの話ではなく、負けの目が出かけている。兵力の差は25,000。当初40,000程度あったはずの優位を此処まで縮められてしまった。
この状況で我が軍が糧食を失うことになれば、撤退せざるを得ないだろう。兵力差がある状況であれば例え糧食を失おうとも、追い込まれた状況を危機感に変え全軍で一気に官渡城へ押し寄せてこれを陥落させることも出来たかも知れないが、現状の兵力差ではその望みは薄い。
撤退するような事態を避けるべく糧食を集積している烏巣の守備を固め、時間を掛けて官渡攻略を行う為に献策したのだが。麗羽様のお気には召さなかったようだ。

曹操が袁家の内情を完璧に掴んでいるとは思わないが、それでも不和があることは分かっているはずだ。私が我慢比べとも言える状況に持ち込んで、勢力としての体力の差によって勝つ事を考えていることも知られていることだろう。
……もし私が曹操軍の軍師であれば。それをさせぬ為に烏巣を襲撃した上で糧食を焼き払う。郭図達短期決戦論者が後のない博打に打って出、官渡に攻め寄せるのを手ぐすね引いて待つだろう。そして現状、正にそうなろうとしている。それでは駄目だ。駄目なのだ。待っている曹操軍に攻撃を仕掛けて痛い目を見たではないか。何故その事が分からないのか。
麗羽様は仕方がない。麗羽様は生まれついてのご令嬢だ。こう育ってしまったことには我々家臣にも責任の一端があるだろう。だが、貴様らは分かっているのではないのか。危険を冒しても成功させれば問題無いなどと甘いことを考えているのではないのか。主家を危機に晒して平然としているとは何事だ。

ここで黙って引き下がるわけにはいかぬ。
そう思って更に抗弁しようとした私の腕を張コウ殿が引っ張り、私を陣屋から連れ出そうとした。腕を振り払おうとしたが振り払うことは出来ず、そのまま陣屋の外へ出てしまった。

「張コウ殿、離して貰おうか」
「止めておけ。二度忠言して分からぬ相手に三度忠言することはあるまい。英明な人は一度の忠言で改める。凡庸でも二度目の忠言で改める。三度目の忠言は、それを為す者を、そして受ける者をも不幸にするだけだ」
「しかし……!」
「まあ、この場は我慢した方が良い。軍権を剥奪されるぞ?今のところ優位に戦を進めることが出来たのは我らのみだ。余程のことがない限り軍権を剥奪されることはないだろう。だが此処で麗羽様の機嫌を損ねれば間違いなく剥奪される。……孔明殿の策、よもや忘れたわけではあるまいな?」
「忘れたわけではないが」
「では己の策を諦めることだ。俺の目から見て、田豊殿の策でも勝つのは難しかろう。戦は勝たねば意味がない。孔明殿の策を用いるのが最良であろうよ。どちら付かずで居ると全てを失うぞ?」
「……是非も無し、か」
「……我らは我らの役割を果たすのみだ。いずれ撤退することになる。備えておいた方が良いだろう」
「分かった」

撤退時の備え、か。
懐をまさぐった手に書状が触れる。どうしても麗羽様が撤退することを肯んじなかった時。その時に、この書状を劉備殿に渡す。それで撤退することになるでしょう。孔明殿はそう言っていたが、果たして本当にそうなるのだろうか。













〜秋蘭 Side〜

袁紹軍がほぼ全軍を挙げて官渡城に寄せてきた。昨日は烏巣を襲撃する華琳様達が城外へ出ていることを不審に思わせないために敢えて城外でぶつかり合ったが今日からは違う。城壁を盾にして抗戦し、敵を此処へ引きつけ続けてやるのだ。

「秋蘭、私は城外へ出るぞ!」
「姉者、城壁を立てに抗戦した方が良いだろう。その方が時間を稼げる」
「いや、私の隊くらいは外に出た方が良いだろう。昨日は外で迎撃したのに今日は一切出てこない、となれば勘付かれる可能性が出てくる。華琳様が率いて行った兵は10,000だ。あちらが20,000で迎え撃った場合、勿論華琳様が負けるとは思わないが、相当に苦戦されることになるだろう。それをさせぬ為に、今日も外で抗戦するのだ」
「しかしな姉者」
「……南側から寄せてくる敵だけ相手にするなら構わないわ」
「桂花?」
「但し、出来るだけ退路を確保しているように軍を動かしなさい。我が軍で一番の武勇を誇るアンタがそうしているのを目の当たりにすれば、華琳様が撤退を考えていると思わせることが出来るかも知れないわ。もしそう結論付けなくとも、相手を惑わせて時間を稼ぐことが出来る。
それで稼ぐことが出来た時間がごく僅かだとしても、その時間が得られるならばやる価値があるわ」
「……分かった。姉者、桂花の言ったように南側を頼む」
「あぁ、任せておけ」

姉者は勇んで部下の元へ歩いて行った。

「さて、では我らは予定通りに抗戦するぞ。兵の配置や移動については全て桂花がやってくれ。私達は桂花が立てた策の下行動する。桂花の命令に対して反抗することは許さない。いいな?」
「了解やで」
「分かりました」
「春蘭様大丈夫かな〜」
「季衣
「あ、分かりました」

精々官渡を落城させることにしがみつくが良い。華琳様が烏巣を陥落させ、撤退せざるを得なくなったらしっかり領国に送り届けてやる。行き過ぎて天に送り届けることになるかも知れぬが、この際それは許して貰おうか。




「弓隊、二列に分かれて矢を射掛け続けてやれ!真桜、まだか?」
「行けるで!」
「良し、撃て!」
「了解!」

巨石が空を飛び、門へ殺到していた袁紹軍へ降りかかる。押し潰され、血が周囲の飛び散る。周囲の者達は明らかに怖じ気付いている。

「敵は動けていないぞ!このまま弓を射掛け続けさせろ!私は兵を率いて敵を押し戻してくる!間違えて私達を射貫くなよ?」
「はっ!」

城門前に行くと、季衣が既に兵を取り纏めて待っていた。

「桂花から一旦外に出て蹴散らして来いって言われたんだけど」
「よし、私と共に城外へ一旦出て敵を蹴散らした後直ぐに戻るぞ」
「は〜い」

城門が開く。こちらから開くとは思って居なかったらしく、どうして良いか分からないようだ。

「騎馬隊を先頭に一気に駆け抜けるぞ!敵を押し戻してやるのだ!」

騎馬隊が一列縦隊で敵中を駆け抜ける。その後を徒が付いて行き、傷口をより大きく広げてやる。……少し脆すぎるな。寄せ手は顔良か。擬態と見た方が良いだろう。

「季衣、直ぐに戻るぞ」
「どうしたんですか、秋蘭様」
「誘いの罠だ。釣られて突出すれば退路を失うぞ?」
「じゃあ、適当に蹴散らしたら直ぐに帰りましょう」
「ああ、そうしよう」

顔良の隊に騎馬隊をぶつけ、前線を混乱させた上で兵を突入させる。そのまま大きく弧を描いて城門へ。その際に再度騎馬隊を縦列で突っ込ませて逆側へ弧を描いて抜けさせ、城門前で合流した。顔良の隊は大きく混乱はしていないが、こちらを追撃するだけの余裕もまた無くしているようだ。

そのまま入城して、一旦部隊を解散させる。
このままの調子で敵を引きつけ続けることが出来るだろう。
後は、華琳様次第だ。
















〜張コウ Side〜

「申し上げます!」
「何か」
「烏巣、烏巣が燃えて糧食が襲撃されました!」

伝令が混乱して全く意味の通らない事をまくし立てている。
……正気に戻すために、頬桁を張る。少々、力を込めて。

「落ち着け。滅茶苦茶な報告になって居るぞ」
「し、失礼しました!」
「烏巣が燃えたのは分かったが淳于瓊はどうしている?」
「討ち死になさった模様です」
「馬鹿めが。大言壮語して失敗しているようでは器が知れるぞ。……まあ、知れた上で殺されたのだから妥当か。ご苦労だった」
「はっ!」

漸く、始まったな。
孔明殿から言われた俺の戦の幕が漸く上がる。

「おい、誰か居ないのか」
「はっ」
「田豊殿の所へ行ってこい。麗羽様の陣屋に一緒に文句を垂れに行くぞ、とな」
「は、はぁ」
「さっさと行け」
「は、はっ!」

これで撤退しなければ袁家はお終いだ。どうせ郭図などがなんのかのと文句を付けてくるのだろうが、流石に麗羽様は負け犬の上に予測まで外した奴らの言うことを聞く程馬鹿ではないだろう。辛毘なり辛評なりが嵩に掛かってこちらを罵ったときに、『誤って』斬り殺してやれば黙るに違いない。最初からそうやって黙らせておけば良かったのだが、田豊殿では思いつかぬだろう。
ここまでは孔明殿の見通し通りの展開だ。偶々こうなったと言うよりは、田豊殿がどう動くかまで計算した上でこうなると見通していたのだろう。事前に、しかもこの場にいないでこうまで状況を正確に言い当てるとは。この俺を見込んで仲間に引き入れてくれたことに感謝したいものだ。

麗羽様の陣屋の前で田豊殿が待っていた。

「いよいよ始まったな」
「うむ。撤退して下さればよいが」
「仕込みは終えられたのか?」
「仕込みとは?」
「麗羽様が俺たちの話を聞いて下さるはずはない。劉備殿から何か言わせるのだろう?」
「……そうだ。内容は私にも分からぬが、孔明殿からの書状を渡してある。恐らく、上手く行くだろう」
「順調に事を運ぶためにも、先ず環境を整えないとならんだろうがな」
「……物騒なことをしようというのではないだろうな?」
「ああ。そんなことはしない。不幸な事故が起こるだけだ」
「……はあ。そういうところがなければ、もっと麗羽様は貴殿を重用なされるであろうに」
「さて、仮定の話をしても仕方があるまい」

話をしながら陣屋に入ると、負け犬共が威勢良く吼えていた。

「麗羽様、烏巣が焼き討ちされたようですがまだ我が軍には不屈の闘志を持った華麗なる兵が多く残されております!今こそ官渡城を落とすときです!」
「その通りです!麗羽様、ご命令を!」

今こそ、ね。この間も同じ事を言っていた気がするが。
相も変わらず阿呆な事ばかりを抜かしている奴らに、田豊殿が話しかける。言葉で理解させようというのだろう。無駄だと思うがね。

「待たれよ。現状兵力差はほぼ無くなったと言っても良い状況だ。この状況で官渡城を落とすのは無理だ。一旦領国へ帰還して捲土重来を図った方が良いだろう」
「黙れ!大体貴様達が敵を殲滅して居ればこんな事にはならなかったのだ!」
「そうだ!貴様らは自分たちが大した戦働きもして居らぬ癖に何を抜かしているのだ!」

流石に田豊殿もあんぐりと口を開けて返す言葉もないようだ。
それはそうだろう。敵を殲滅する機会を与えなかったのは奴らなのだから。戦働きが出来ぬように後方に回したのも奴らだ。まあ、奴らは一度死んでみないと分からぬ輩だったということだろう。田豊殿には悪いが、俺のやり方で収拾した方が話が早い。この際、時間は翡翠よりも貴重だからな。手早く済ますとしよう。

「おい、負け犬共」
「な、何だと!貴様、張コウ!誰のことを言っているのだ!」
「此処にいる田豊殿と張飛殿、劉備殿に俺以外の将全てのことだが、卿らには自覚がないと見える」
「き、貴様ぁ〜!」

郭図、辛毘、辛評が激発しそうだ。それに引き替え、審配と逢紀は俯いている。やつらは、目が醒めたということなのだろう。

「貴様とて負け犬ではないか!貴様は人のことを言えるような立場ではないだろう!下がれ!」
「麗羽様を負け犬扱いするとは!麗羽様!こ奴に処罰を!」

そう言い募ってまだ何か言おうとしているが、見るに堪えないし聞くに堪えない。ご退場願おうか。

「おい」
「何だ!」

辛毘と辛評を一呼吸で斬り殺す。辛毘の首筋から血が飛び散り、麗羽様の顔に付着している。突然のことに麗羽様は呆然としているようだ。顔良殿と文醜殿はそれぞれ得物に手を掛けてこちらを見るが、麗羽様に対する害意がないことを感じ取ったのか直ぐにその手を離した。

「き、貴様、張コウ、自分が何をやったのか、分かっているのか?」
「ん?たった今目の前を蠅が飛んでいてな。それが余りに五月蠅かったので斬り殺しただけだ。その際、余りにも俺に近付いていた為に巻き込まれてムシが二匹死んでしまうという不幸があったようだがな。
郭図殿、ひょっとして卿はそれ以外の何かを目撃したのか?もし目撃しているのなら洗い浚い此処で話して貰おうか。その内容次第で卿の寿命が変わる、そんな予感が俺にはあるのだ。これはきっと卿の人生に関わる重大事に違いない。俺が相談に乗ってやろう。さあ、遠慮無く話してくれ」

そう言ってやると顔面蒼白になりながら、何も見ていないと一言言い残して陣屋を出て行った。審配と逢紀は残っているが口出しするつもりはないようだ。
これで、やりやすくなっただろう。

「……あれ?どうしたの?今郭図さんが出ていったけど?」
「何。敗戦の責任を感じた辛毘と辛評が自殺したのです」
「え?……きゃあ!」
「おい!誰か遺体を丁重に葬ってやれ!」
「はっ!」

引き摺られていく辛毘と辛評の面を眺めながら、笑いがこみ上げてくる。これから俺の戦が始まると思えば愉快で仕方がない。

「劉備殿、劉備殿はこれからどうすべきだと思われますかな?」

早速田豊殿が話を振る。俺に何か言いたそうな顔をしていたが、兎に角さっさと済ませてしまおうというのだろう。それが得策だ。

「え?……あ〜、そっか。麗羽ちゃん、撤退した方が良いよ」

劉備殿が話しかけると、麗羽様も正気を取り戻したようだ。
……本当にこの二人は相性が良いのだろうな。

「……桃香さん。貴女までもが撤退しろと言うのですか?」
「うん。麗羽ちゃん。このままだと、名族袁家を麗羽ちゃんが滅亡させることになるよ?」
「袁家を、滅亡させる……?」
「そう。麗羽ちゃんが袁家を滅亡させる」

そういわれた麗羽様は、わなわなと体を震わせている。
怒ったのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「わ、私が、袁家を滅亡させる……」
「そうだよ。袁家が無くなるの。ご先祖様から代々伝わってきた由緒正しき袁家が、この地上から消え失せるの。麗羽ちゃんのせいで」

文醜殿が劉備殿に反論しようとしたが、顔良殿がそれを止めた。ある程度察しているのだろう。

「こうなったのは、全て私が至らなかったせいだ、と?」
「そうだよ、麗羽ちゃん。麗羽ちゃんが至らないせいで名門袁家が無くなるの」
「そ、そんな……私は、どうすれば……」

自分のせいで袁家が無くなるということについて、漸く実感が湧いたらしい。震えていたのはどうやら恐怖感からのようだ。遅すぎるが、まあ気が付かぬままに死んだ淳于瓊達に比べれば遙かにマシだろう。

「田豊さんの策に従って、撤退するのが良いと思うよ、麗羽ちゃん。きっと田豊さんが良いようにしてくれるから」
「……田豊さんが……?」
「お任せ下さい、麗羽様。殿を顔良殿と張飛殿に務めて頂ければ無事に撤退出来るはずです。その後のことは、全てこの田豊と張コウ殿にお任せ下さい。必ずやご期待に応えて見せます」
「……袁家が滅亡すること、回避出来ますか?」
「必ず」

田豊殿がそう言いきる。

「……分かりました。全て、貴方達に任せましょう。顔良さんは田豊さんの策に従って行動なさい。私は文醜さんと共に、兵を纏めて撤退します」
「それが宜しいでしょう。劉備殿、劉備殿も麗羽様の側に。張飛殿は拝借致します」
「うん。朱里ちゃんからの手紙にもそう書いてあったから。気をつけてね」
「はっ」
「……田豊殿、我らも田豊殿に従おう。何なりと命じて貰いたい」
「審配殿と逢紀殿には、麗羽様の側でその身の安全を図って頂きたい。それと、領国に帰還したら兎に角糧食と兵を集めておいて貰いたい」
「……何のために、と聞きたいが、それはやめておいた方が良いのだろうな」

審配が俺の方を見ながらそう言う。その審配に笑って頷き返してやる。

「……分かった。兎に角、生きて再会出来たらば改めて話をさせて貰いたい。これまでのことと、これからのことについて」
「それはこちらも望むところ。……宜しくお願い致しますぞ」
「任せて貰おう。身命を賭してやらせて貰う」

話をしている間に、麗羽様と劉備殿、文醜殿が陣屋を出て行った。
あの分なら、直ぐに撤退を始めるだろう。その後を審配と逢紀が追い掛けていくように出ていった。

「さて、田豊さん。策を聞かせて頂けますか?朱里ちゃんの策を」
「はっ。顔良殿と張飛殿には、普通に撤退戦を行って貰いたいのです。困難な戦になるでしょうが、全てお任せします」
「任せる?その間、田豊さんと張コウさんはどうしているのですか?」
「俺たちは先に撤退致します。但し、白馬へ」
「白馬?」
「そこに15,000の兵を伏せてあるのです。それを率いて決戦します」
「決戦と言っても、15,000程度では曹操軍を相手取るには不足でしょう」
「顔良殿。実は徐州から孔明殿と沮授、麹義殿が20,000の兵を率いてやってきます」
「朱里ちゃんが?」
「はい。我らが撤退している際に、曹操軍の後背を突くのです。曹操はそうはさせじと撤退していく本隊を捨て置いて、徐州からの軍に対応しようとするでしょう。その後背を私と張コウ殿で突きます」
「……成る程。では私達は朱里ちゃんが後背を突いたときに、本隊は捨て置いても問題無いと思わせる程度に負けておく必要がある訳ですね?」
「そうです。それを、お願いしたい」
「分かりました。恐らく普通に撤退してもそうなるでしょうから間違いなく上手く行くでしょう」
「宜しくお願い致します」

俺たちの兵は行軍の疲労があるだけで、曹操軍は心身共に疲労があるだろう。兵数がほぼ同数であれば、この差は大きいだろう。

これからが本当の戦だ。