〜教経 Side〜
ひでぇ目に遭った。まぁ、自業自得なんだろうが。
百合を抱えて萌えまくった後、陣屋に入ってきた愛紗達は、形相こそ笑ってにこやかにしているもののその背後には仁王様のスタンドが見えていた。大事なことだから言っておくが、専門用語では幽波紋って言うんだぜ?身の危険を感じて逃げだそうとしてあっけなく周囲を取り囲まれ、冥琳に足蹴にされた以外の記憶が全くない。倒れ込む俺を踏みつけた冥琳……アリだな、アリ。結構萌えた。眼鏡は偉大だ。
目を醒ました俺は致命的な怪我をしていなかったが、横で寝ていたケ忠は首の骨が折れていたらしい。何で生きているのか分からんが、その辺は凱が元気にしたらしいから問題無いんだろう。まぁ、ギャグパートだったしな。
宜都郡に侵攻した俺たちは、早々に霞達と合流して攻略を進めた。たったの10日で全域を制圧してやったが、抵抗してくる奴が連動していなかったから当然だろう。俺、愛紗、翠、霞、白蓮がそれぞれ分かれて一気に制圧した。俺には稟、愛紗には冥琳、翠にはホウ統、霞には亞莎、白蓮には百合がそれぞれ軍師として付いて行動した。これだけの人材で侵攻出来るのは俺たち以外にはあり得ないだろう。
特に霞の戦果が凄まじい。元々戦好きな上に、待機させられていた鬱憤と、自惚れでなければ逢って早々俺と致した事で気力が汪溢していた事もあって、蹂躙という言葉が相応しい戦果を挙げている。勿論、関係のない民を蹂躙するような真似はしていないが、止めるべく立ちはだかった敵をあっという間に打ち破って見せたようだ。軍師として従軍した亞莎が驚いていた。まあ、霞は戦をする為に生まれてきたような女だからねぇ。勢いに乗ったときは止められんだろうさ。
現在襄陽郡に攻め寄せているが、流石に劉表が居を構えている郡だけあって中々の抵抗を見せている。今のところ、中々の抵抗という程度でしかないが、ね。油断は禁物だ。今までの戦闘が油断を誘う為の罠だって事も考えられる。襄陽から軍が進発したという情報もあるし、先の戦のような醜態を晒す訳にはいかないンだ。
「教経、さっさと劉表を殺っちゃいましょう?」
殺気をまき散らしながら雪蓮が言う。
襄陽を攻める際に、雪蓮達も合流した。兵は20,000。孫呉の兵はお馬鹿と華琳がどう出るかが分からない為、南陽郡と南郷郡にそれぞれ待機させているらしい。星から華琳は心配ない旨伝えたらしいが、何が起こるか分からないし最悪な事態を想定すると兵を全て南下させるのは望ましくない、と風が主張してそうなったようだ。まぁ、風らしいがね。星と風、黄蓋、明命が残っているようだ。こっちに来たのは雪蓮と穏、琴だけらしい。
「雪蓮、そう焦るなよ。軍を率いている奴が誰なのか、従軍してきた奴らが誰なのか。その辺りを調べてからじゃないと策も立てられんだろう?」
「あら。これだけの将と軍師が揃っていて負ける訳が無いじゃない」
「負ける訳がないのは当たり前だ。勝つべくして勝ちに来ているんだからねぇ。だが、勝ち様というものがあるだろう。完膚無きまでに勝ってやるつもりで居るが、無駄に兵を損じるわけにはいかないンだよ。相手がカスだと思えばこそ、なぁ」
「滓、ね。まあ、劉表には相応しい言葉だと思うわ」
そう苦々しく吐き捨てる。そう言えば、孫堅は襄陽を攻めて戦死したんだっけか。
「お前さんの母親が殺されたんだったか、雪蓮」
「そうよ。母様は劉表に殺された。死んだ後も汚されたのよ」
「……どういうことだ」
「……死んだ母様の遺体を犯したのよ。そうと知っていれば、黄祖の奴を生かして返す事はなかったのに」
……死姦、ね。相当にアブノーマルなご趣味を有しておられるようだねぇ。
「……済まなかったな。嫌なことを思い出させちまって」
「良いわよ。貴方が悪い訳じゃ無い。劉表を捕らえて嬲り殺してやれば良いんだから」
「生きて捕らえたら必ずそうさせてやるよ」
「ええ。お願いするわ」
雪蓮は目をギラつかせてそう答えた。許せるわけがないだろうからな。世の中にゃ墓を掘り返して死体を鞭打つ奴だっているンだ。出来れば、生きている奴を捕らえて雪蓮に好きなようにさせてやりたい。
「まぁ、お願いされるまでもないンだよ。そういうカスが俺と同じ時を生きていること自体が耐え難い苦痛なンだからねぇ。出来ることなら俺がぶっ殺してやりたいがそれじゃ意味がないだろうからな。お前さんに呉れて遣るさ。一寸刻みに切り刻んで殺してやると良い。
他人はきっと『そんな惨いことをするモンじゃない』とか言いやがるンだろうがね。俺は惨いとは思わない。人非人にはそれに相応しい死に様ってのがあるはずなンだよ。聞いた限り、劉表は人非人のドカスだ。何度惨殺されても不足だろうさ。精々惨たらしく殺してやれ、雪蓮。犯した罪に相応しく、な」
そう言ってやると、雪蓮は不敵に嗤った。
「教経。貴方のそういうところ、好きよ?」
「へいへい。ありあとやんした〜」
「あら、わたし、本気なんだけどな〜?」
「分かった分かった。また今度聞いてやるよ」
「そう。じゃ、また今度ね。約束したからね?教経」
「はいはい」
全く。こんな時まで人をからかうなんてねぇ。雪蓮らしいが。
取り敢えずは、情報収集だな。
〜琴 Side〜
雪蓮達と一緒に、襄陽郡へ来た。お屋形様に逢うのは久し振りな気がする。
お屋形様は公孫賛を降してこちらに来た。きっといつも通り、凛々しく勇ましく『悪・即・斬』を貫かれたのだろう。そう思って断空我殿から話を詳しく聞いてみた。
お屋形様は敵の策の裏をかいたつもりが裏をかかれ、思わぬ窮地に陥ったらしい。断空我殿が日頃鍛え抜いた親衛隊も、随分数を減らしたらしい。親衛隊で無ければお屋形様は死んでいたかも知れない。そう言っていた。
「断空我殿、親衛隊の数を増やすわけにはいかないのでしょうか」
「……それを考えないでもないけど、俺の手に余るんだよ。俺が直接面倒見れるのは2,000までだろう。それ以上はちょっと無理だ」
成る程。前々から、私はお屋形様のお側に何とかいる事が出来ないか、その口実を捜していた。……これは、良い機会なのかも知れない。親衛隊とは別に、隊を新設する。前々から、その構想を温めてきた。
「それに、今後大将の側には姐さん方の中から必ず誰か一人が付くことになったから大丈夫だと思うけどな。……っておい、太史慈の姐さん、アンタ、俺の話聞いてんのか?」
断空我殿が何か言っている気がするが、そんなことはどうでも良い。お屋形様に提言して、認めて頂かなくてはならない。
「……何なんだよ、全く。俺は忙しいからもう行くからな?」
「あ、断空我殿、有り難う御座いました」
お屋形様を捜さなくては。
お屋形様を捜したが、何処にもいらっしゃらなかった。一体、どこにいらっしゃるのか。水を飲もうと一旦自分の陣屋に帰ってみると、お屋形様がいらっしゃった。
……お屋形様が、私の陣屋に。なにか、ご用なのだろうか。
「お、琴。やっと帰って来たのか」
「お屋形様、どうなさったのですか?」
「どうなさったもこうなさったも無いだろう。今日はお前さんの番なんだよ」
……忘れていた。
領地が広くなった為にお屋形様と一緒に居られなくなることが増えることが明白になったとき、皆で話し合って約束事を取り決めたのだった。
『お屋形様と逢えなかった人間の所へお屋形様が行く、若しくはお屋形様に逢いに来た場合、その時は逢えなかった人間が優先される』
それを忘れて、私はお屋形様を探し回っていた。……覚えておけば、もっとお屋形様と一緒に居られたはずなのに……我ながら情けなくて泣きそうになる。
「お、おい、琴。どうしたンだよ。何で泣いてるンだ」
「い、いえ。忘れていた自分が情けなくて……」
「焦らせないでくれよ。……琴、久し振りだな」
そう言って、お屋形様が私を抱きしめてくれる。……嬉しい。私はお屋形様に抱かれているときが一番幸せだ。その、そういうことをしているときも勿論幸せだけど。
「お久しぶりです、お屋形様。あの、お願いがあるのですが」
「口でも吸って貰いたいのかね?」
「いえ、違います。……あ、違いません!」
「……どっちだ。ははっ」
言い直してお屋形様にしがみついた私をお屋形様は笑って。
……私に口づけし、そのまま口を吸ってくれた。
「……ちゅ……ぷはっ」
「……ご満足頂けましたか?お姫様?」
「は、はい……それであの、お願いがあるんです」
「ん?何だね?」
お屋形様に抱き抱えられたまま、話をする。
「その、公孫賛との戦で、お屋形様がお命を落としそうになったと伺いました」
「あぁ。危なかったな」
「それで、親衛隊を増やしてはどうか、と断空我殿に訊いて見たのですが、断空我殿では2,000名が限界だと仰っておりました」
「そうか、断空我がねぇ」
「はい」
「で、琴は俺にどうしろと言うんだね?」
「隊を新設して貰いたいのです」
「……ふむ。それは構わんが、どういう名目で?」
「お屋形様と共に『悪・即・斬』を貫く為に。新撰組、でしたでしょうか。それを結成したいのです。要は親衛隊とは別に、お屋形様と共に在る隊を創設したいのです」
「それはまた何というか……どえらいことを考える物だな」
お屋形様は、ちょっと呆れたような顔をなさっておられた。……一緒に居たいから、という思いを見透かされて、呆れられてしまったのだろうか。
「駄目……でしょうか?」
お屋形様の顔を恐る恐る見上げると、お屋形様は苦笑していた。
「駄目じゃないさ。俺を心配してくれてのことだろうし、ね。で、敢えて訊くが、その新撰組の局長は誰だね?」
「局長?」
「あぁ。新撰組じゃ頭を張る人間のことをそう呼んでたんだよ。ついでに言うと、その下が副長。更にその下に1番隊隊長、2番隊隊長、という形で続く」
「では、局長はお屋形様ですね」
「おいおい。ンじゃ俺の呼び方変えるか?」
「……ちょっとしっくり来ないです」
「んじゃ、却下な。誰を局長にするンだ?」
「……僭越ながら私が務めます」
「副長は?」
「……当てがありません」
「まぁ、そこまで焦ることはないか。取り敢えずお前さんが局長ってことにして、厳しい人間を副長にしないとな。副長ってのは『鬼の』って言葉が枕詞になるンだからねぇ」
「そうなのですか?それなら愛紗が……」
「……そのまま伝えようか?」
「いえっ、止めて下さい」
「ははははっ」
お屋形様は愉快そうに笑った。
「……意地が悪いのですね、お屋形様は」
「琴が可愛いからちょっと虐めたくなっただけだよ。そう拗ねるな」
顔を逸らしていた私の顎を掴んで、また口づけされた。
「……これで機嫌を直す、と?」
「甘いかね?」
「甘いです。……もっとしっかり抱きしめて下さい」
「……甘えんぼだねぇ」
「……今頃気が付かれたのですか?」
「いや、そんなことはないがね。悪い気はしないさ」
そのままお屋形様に抱きしめられて、寝台へ移動して。
お屋形様に服を脱がされた。一枚ずつ。凄く恥ずかしかったけど、綺麗だとか、可愛いとか仰りながら私の体を触っていて。我慢出来なくて、その、お願いをさせられた。
恥ずかしくて泣きそうになって、『お願いします』としか、言えなかったけど。
ちゃんとしてくれたから、あれで良かったのかなと思う。
お屋形様は、ちょっと意地悪だけど、私のことをちゃんと好きでいてくれている。ちゃんと言ってくれたから。
『愛しているよ、琴』って。
恥ずかしくてその時は言えなかったけど。
私も、愛していますよ、お屋形様。