〜雛里 Side〜
荊州南部の攻略に当たっていた吉里から、その全域を制圧したとの報告を書状にて受けた。思っていたよりも早い。白蓮様と私、珂瑛、紫苑さん。この四人の風評が高かった事が大きく影響し、殆どの町が戦うことなく従ってくれた。元々荊南を治めていた豪族達が軍勢を率いて抵抗してきたけど、その悉くを打ち破ったのだ。
流石は吉里、そして珂瑛といったところだろう。荊南については周辺に強敵が居ないこともあり、領内を取り纏める間にまだ白蓮様に拝謁したことがないケ艾さんをこちらに寄越すそうだ。『知勇兼備の名将なり。以て上将に任ずべし』。吉里はそう言っている。逢うのが非常に愉しみだ。
これで後は東広漢を残すのみ、ということになった。
その東広漢の攻略に向かったのは焔耶と瑛。この二人であれば、間違いなく攻略出来るはず。益州南部を手中に収めるのも、時間の問題だと思う。
……でも問題はここからだ。
勢力を順調に伸張させてきたのは良いが、その速度が急速に過ぎる。東広漢を攻略した時点で一度矛を収め、私達の現状について把握する必要があるだろう。私達は隣国に強者を抱えることになるのだから。
平教経さん。
彼は益州北部と荊州北部をあっという間に攻略してみせた。私達とは違い抵抗された上で、それを排除するのにさほど時間を掛けなかった。反董卓連合の時に感じた通り、彼は軍事の天才である可能性が高い。勿論彼に付き従って居る軍師が有能である事もあるのだろうが、調べて貰った限りでは彼が大枠を提示して実務における詳細を軍師達が煮詰めていく、という形で戦略及び戦術の決定を行っているようだ。また、彼も彼らが提示する策を理解した上でそれを承認している節がある。本人に軍才がある事は間違いないだろう。反董卓連合の際の企謀の大きさから考えて、その軍才は計り知れぬ深みと広さを持ったものだろう。
今までの彼の戦歴を見ると、益州北部と荊州北部を攻略する戦以前の戦ではその殆どにおいて寡兵を以て多勢を撃破している。己の才能に慢心しても良い所だと思うが、彼はそれが兵法の常道から外れたものであることを理解しているようだ。だからこそ、敵である劉璋さんや孟達さんより多くの兵を揃えた上で侵攻したのだろう。
その領内は纏まりを見せており、漢中と南郷郡に必要最小限の軍勢を展開して不慮の事態に備えている。また、袁家を外から眺めて初めて分かった事だけど、袁家に物資面での戦を仕掛けているのは彼だ。糧食、鉄、馬、塩。いずれも欠かせないものだと思うが、それの値段をつり上げて国力を疲弊させようというのだ。将は有能で、任せられる仕事は丸ごと放り投げているようだ。こう言うと褒められた姿勢ではないように感じるが、有能な家臣に仕事を任せて決して口出しをしないということに他ならない。
要するに、彼は勝ちに至る五の道を知りそれを実践している者だ。『孟徳新書』という注釈書を書いた曹操さんと同様に、孫子について造詣が深いに違いない。ただ文字を覚えているのではなく、その内容を理解しているに違いないのだ。今の私達から見れば巨人と呼ぶに相応しい、非常に有能な君主とその勢力。それを隣人として抱え、接して行かなければならない。
どう付き合って行くのか、については白蓮様に方針を伺っておく必要がある。友好的な関係を築くべく交流を求めるのか?それとも、敵対するのか?
前者であれば良し。だが後者であれば敗亡を覚悟する必要がある。反董卓連合の折、彼の目的は反董卓連合軍を戦場で打ち破ることにはなく、董卓さんを救い出すことにあった。そうであればこそ、連合に参加した諸侯の多くがその命を戦場に散らすことが無かった。もし董卓さんを救い出すことが目的でなかったら、何人の諸侯が命を落とすことになっていたか分からないのだから。
「平教経と敵対するのか、だって?」
「はい。白蓮様はどうするおつもりでしょうか」
「私の方には積極的に平教経と敵対する理由はない。彼が攻めてくるなら兎も角、私から事を荒立てようとは思わない。彼の為人や平家の力というものもよく分からないし、先ずそれを調べる為の時間が必要だと思う」
ある日白蓮様を捕まえて話をする機会が出来たので、率直に伺ってみた。
『平教経さんと敵対することを考えていらっしゃいますか』、と。
その私に対し、白蓮様は考え考え答えて下さっている。
「雛里、どうしたんだ?いきなりそんなことを聞いてくるなんて」
「白蓮様が彼と事を構えることをお考えになっておられるなら、それなりの準備と覚悟が必要だ、とお伝えするつもりでした」
「理由もなく事を構えるような真似はしないよ。為人を調べて話が出来るようなら話をしようと思う」
「何の話をされます?」
「さあ。それは彼の為人次第だろうな。彼がどういう世の中を作ろうとしているのか。それに拠るよ。ただ、例え相容れぬ考え方をしていたとしても、時間を稼ぐ必要があるだろうな。私達はまだ起ったばかりで足元を固めていない。何をするにせよ、しっかりとした地盤を持たないことには話にならない。足下を気にしなければ成らない状況で空を眺めるような真似はしないものだ。鳥を射ようとして弓を引き絞ったは良いが、鳥ばかりを見て池に落ちてしまったのでは目も当てられないのだから」
「『螳螂蝉を窺い黄雀後に在り』、ですか」
「そうだ。地盤がしっかりしていれば、不測の事態があっても対応出来るとは思うが、それにしても周囲と私達が置かれている状況を把握していないと難しいだろう。稼いだ時間で周囲を窺い、最低でも後背を脅かされることがないことを確認した上で事を構えるべきだ。今よりも力を炊く割ることが出来れば猶望ましいけど」
「稼いだ時間で実力を蓄えることも出来たとして、勝てますか?」
「……言っておいて何だけど、まずそこまでの実力を蓄えることが出来るとは思えなけどな。そこまで甘い男ではないと思う。私が敵対する、と思ったら私の力を削ぐことを考えてそれを行ってくるだろう。反董卓連合参加後の諸侯の国元で彼が行った事を考えれば、私が力を蓄えることを指を咥えてみているような人間だとは思えないから」
「成る程」
「いずれにしても、彼と事を構えるような事態になれば、の話だ。董卓を救って見せた男だし、決して相容れぬ思想を抱く男とは思えないけどな、平教経は」
白蓮様がそういうつもりで居るならば問題はない。平教経さんに使者を送り、面語したい旨を伝えるべきだ。下手に接触してきた人間を無碍に扱うことはしないだろうから。
「申し上げます!」
「なんでしょうか?」
「魏延様、馬謖様、東広漢を攻略なさいました!」
「そうですか」
「良くやってくれたな」
「それで、焔耶と瑛は今どうしていますか?」
「東広漢から逃げ出した劉循を追撃中です。劉循はどうやら梓潼郡へ逃げようとしている模様です」
「……何としても東広漢の郡内で劉循さんを補足して下さい。もし梓潼郡へ逃げ込まれたら必ず追撃を中止すること、と伝えて下さい」
「はっ」
これで益州南部は私達のものになった。
念のため焔耶と瑛が劉循を捕らえる為に梓潼郡まで攻め入らないように通達を出したが、瑛ならちゃんと分かっているだろう。戦略上の目的は達成したのだ。これ以上は蛇足というものだ。それをきちんと見極めて自制することが出来る人間こそが名将の条件なのだということを、何度も口にして教えたのだから。
「これからが正念場だな。平教経とどうなるかが分からないが、必ず麗羽に思い知らせてやる。私の無念さを、死んでいった家族に対する想いがどれ程のものであるのかを、な」
厳しい目をして、白蓮様が仰る。
……朱里ちゃん。私が、目を醒ませてあげるよ。
〜愛紗 Side〜
教経様から命を受け、稟と共に漢中で公孫賛に備えている。
教経様は公孫賛が益州南部を攻略した勢いそのままに攻め掛かってくることはないだろうと言っていたが、状況が少し変わったようだ。
東広漢を攻略した公孫賛軍が、尋常でない速度で梓潼郡を目指している旨細作から連絡を受けた。最後まで公孫賛に抵抗を続けていた劉循が梓潼郡目指して敗走しており、それを逃すまいと軍を進めて来ているようだ。
「稟、念の為に国境に軍を展開させておく必要があると思うのだが」
「そうですね。桟道出口に軍を展開して半包囲陣を布きましょう」
「……攻め掛かってきた場合、敵を領内に引き摺り込んで完全に包囲した方が良いのではないか?その方が確実に敵を殲滅出来ると思うのだが」
「いえ。この状況でそれは悪手です。『囲師には必らず闕き、窮寇には迫ること勿かれ』、と言いますからね」
「孫子の兵法に書いてあった気がするが、どういう意味だ?」
「『囲師には必らず闕き、窮寇には迫ること勿かれ』とは、包囲している敵には必ず逃げ道を空けておき、窮鼠と化した敵と対峙してはならない。そういう意味です。兵数に劣る相手を地の利がある領内に引き摺り込み、これを重厚な陣を布いて包囲する。兵法の常道に則った必勝の形だと思いますが、それだけに相手も必死に戦うでしょう。勝利は疑いありませんが痛手を被る可能性が高いです。
桟道出口で待ち構えて出てくる敵を半包囲するに止め、相手に逃げ道を残しておくことで必死に攻め掛かってくることがない心理状況を創り出す。公孫賛と天下を争っていてこれが最後の決戦という状況ならばまだしも、今は降りかかる火の粉を最小限の労力で払うことを考えるべきです。これから先のことを考えると、此処で多くの兵を喪う訳にはいかないのです。それは教経殿が天下をその手中に収める時機を遠ざけるだけですから」
「成る程な。流石は稟だ」
「それ程でもありません。教経殿に比べれば、まだまだ不足でしょう。孫子についての理解において負けているとは思いませんが、相手を思うがままに行動させる、その一点において教経殿ほど長けた人を私は他に知りません。人の心の働きを論理を以て説明する教経殿ならではという策を、理解出来ても思いつくことが中々出来ないですから」
「そう卑下したものではないだろう。現に今、敵の心理を慮って策を考えたではないか」
「それは教経殿と話をした経験が大きいと思いますね。あの人と話をしていると本当に為になりますよ」
稟はそう言って微笑んだ。
教経様を想う心で負けるつもりはないが、稟のこういう在り方は微笑ましいと思う。最近、教経様が望むことが正しいかどうかを気にすることなく、その望むところを何とか叶えて差し上げたいと考える自分が居ることに気が付いた。教経様が人主として、人として好ましいから従っているというよりは、教経様だからこそ従っているという形になっている。教経様で在れば、何をしようと許せるだろう。例え他の人間が同じ事をすれば斬り捨てるであろうような事をしたとしても、教経様がそれをするのであれば悩みつつも結局受け入れるであろう自分が想像出来る。こういうのを、愛情というのであろうと思う。私も稟も、教経様をただ好いているのではなく愛しているのだ。
「稟。教経様の事、一体いつからそのように想うようになったのだ?星や風から、稟は一番最後に教経様に付き従うことを決めた、と聞いているのだが。その器量に惹かれての決定で、男女の仲としての感情はそれ程でもなかったはずだ、と言っていたし」
「さあ。私にも分かりません。気が付いたら、教経殿が居ない世界で生きる私が想像出来なくなっていたのです。あの人と共に在ることが出来るなら、私は何だってして見せます。あの人が例え変質してしまったとしても、私はあの人と共に生きて行きます。勿論、ただ変質するに任せるつもりはありませんが。こう有れかし、と思う教経殿で居て貰う為に、私は私の出来ることをしますよ。でもそれでもし変わってしまったとしても、出奔することはないでしょうね。
愛紗だって、同じ想いで居るのでしょう?」
「ああ。そうだ。今更教経様と道を違えることなど思いも寄らないことだ。私の人生はあの人と共に在る。それ以外の人生など願い下げだ」
「多分、星も風もそう言うと思いますよ」
そうだろうな。私より教経様と共に在った時間が長い三人は、皆そう言うだろう。
「だが稟、負けないからな?」
「それは私の台詞ですよ、愛紗。もう既に負けるも何もない関係になっている気がしますけどね。教経殿は皆の教経殿。本当に、言葉だけでなくそうなっている気がしますから。誰か一人が格別に愛されることは無いでしょう。それが少し寂しい気もしますが、逆に言えば皆を分け隔て無く愛して下さっていることに他なりませんから。
……まあ、この場にいない憎い人のことは置いておいて、この先起こるかも知れない事態に備えておくことにしましょう」
「そうだな」
教経様が誰を好きになろうと、誰とそういう関係になろうと。私を愛して下さっている限りそれは大した問題ではない。皆、そう思っているのだろうな。
公孫賛軍がどう動くのか。それは分からないがそれに備えることにしよう。
他でもない、教経様の為に。
〜瑛 Side〜
梓潼郡へ逃げ込もうとする劉循を猛追している。
このまま行けば、国境で何とか補足出来そうだ。
「馬謖様!」
「分かっています。ですが、今後に禍根を残す訳にはいかないのです。一時平家に誤解を受けようとも、こちらから戦端を開くような真似をしなければ大丈夫でしょう」
「そうだ!瑛の言う通りだ!ワタシも居るのだし、例え戦闘になっても問題はない!劉循を今此処で討ち果たすことこそ肝要だ」
劉循を捕捉すべく猛追しているが、この行軍を平家が脅威と見なして国境で軍を展開させる可能性が有る。いや、きっと準備をしているだろう。関雲長が抑えとして漢中に入っているとの情報は得ている。私達に対する備えであることは明白だ。
「急ぎなさい!劉循を何としても捉えるのです!生死は問いません!」
兵を叱咤して蜀の桟道を掛ける。細い足場に足を滑らせて谷へ転落する人間も居るが、こういう場所だけに劉循の行軍も捗らないでいるだろう。ここで差を詰めて何とか捕捉するのだ。無駄に兵を死なせることになるが、劉循を討ち果たすことが出来ればその死は無駄ではないだろう。
蜀の桟道を抜けるかどうかというところで劉循を捕捉した。
あと少しだが、その向こうに平家の軍兵が見える。あそこに駆け込まれたら、私達にはもう手を出すことが出来ない。それは避けたい。平家に真意を伝えている時間的な猶予があるとは思えない。少々無茶が過ぎる気がするが、一気に寄せて劉循の首を取ったほうが良いだろう。
「焔耶、何としても劉循の首を」
「分かっている!落とさず矛を収めるつもりはない!」
焔耶が先頭に立って劉循に追いすがる。
平家の軍が劉循を収容する為に道を開けているが、劉循に追いすがった焔耶が軍兵と共にそこに飛び込んで劉循を討とうとしている。平家は劉循を援護しようと動いている。
「兵を左右に展開し、劉循の収容を援護しようとしている平家の兵を抑えて下さい」
「馬謖様!既に梓潼郡に踏み込んでいるのです!これだけでもホウ統様の命令を無視していることになるのですぞ!?その上平家と直接戈を交えるなど、もってのほかです!」
「黙っていて下さい。孫子に曰く、『君命に受けざる所あり』。また、大夫は国外に出たら、国の利益の為に独断専行を行っても良い、と春秋にもあります。王平、貴方が言っていることは分かりますが、ここは国家の為に劉循を除くことを優先させるべきです」
「仰っていることは分かりますが、ホウ統様は梓潼郡へ攻め込んではならない、と仰ったのです。それはつまり、劉循の命を取ることより平家と敵対しないことを重視しているからに他なりません!お考え直し下さい!」
確かにそうかもしれない。
だが、雛里様は平家を過大評価しているとしか思えない。白蓮様、紫苑様、桔梗様。雛里様、姉上、焔耶、そして私。才在る人間ばかりが集結して公孫家を盛り立てようとしている。益州・荊州で加わった新たな人材も、皆粒ぞろいだ。平家には確かに優秀な将が居るだろうが、これ程に優秀な人間ばかり集まっている訳でもないだろう。巨大な勢力だが、巨大であるだけにその全ての力を一点に集結させることは難しい。腹背に袁紹と曹操を抱える彼らが私達に集中することは出来るはずがないのだ。
王平が言っていることは分かるが、彼は原則に拘りすぎている。ここは、劉循を討ち果たすことを優先させるべきなのだ。
「こういうやり方は余り好きになれませんが、致し方在りません。
……王平、軍権を与えられているのは私と焔耶です。その二人がそうすると言っているのですから、それにしたがって貰います。いいですね?」
「……分かりました。微力を尽くします」
まだ納得はしていないようだが、従うことを明言した。
学がないのが欠点だが、この男は手堅い用兵をする。彼に右翼を指揮させ、私が左翼を指揮する。それによって平家の軍兵を押し止め、その間に焔耶が劉循を討つ。これ以上の策はないだろう。
左翼を指揮し、平家の兵にぶつかる。
勢いよく攻め掛かると、前線が多少混乱して少し後退した。
何とも手応えの無い敵だ。私達を牽制することだけを目的として行軍していたのだろうか。牽制するなら、攻め掛かられることも念頭に置いておくものだ。右翼側を見ると、右翼も平家を抑えることに成功したようだ。これで、焔耶が劉循を討ち取れるだろう。
「敵将、劉循!この魏文長が討ち取ったり!」
戦場に名乗りが響き渡る。名乗りを上げならが焔耶が引き上げてくる。それに併せて、こちらも一旦桟道の出口付近に軍を集結させる。退いていく私達を執拗に追いかけるでもなく、ただ退くに任せている。
……平家も、存外大した事がないのかも知れない。私であれば事前に桟道の口を塞いで退路を断ち、包囲した上で殲滅するだろう。
整然と隊列を組んでゆっくりと迫ってきているが、それ程の威圧感は感じない。中央で覇権を争っている勢力の軍兵も、この程度のものであれば恐れるに値しない。
「瑛!やったぞ!」
「焔耶、お疲れ様でした。後は兵を退くだけですが、どうやら先程一当てされたことを根に持っているようで、簡単には退かせてくれないようです」
「そう言う割には余裕があるじゃないか、瑛」
「そう見えますか?」
「ああ。まあ、ワタシの方でも少々拍子抜けした感じだ。平家の兵は強いと聞いていたが、ワタシが撃ち掛かると算を乱して逃げ出したからな。噂など当てにならないものだ」
「そう思いますね」
「どうする?」
「一戦して公孫家の強さを思い知らせるのが良いでしょう。兵数的にはこちらが少ないですが、別に問題無いでしょう」
「そうだな。ワタシの強さを思い知らせてやるとしよう」
私の才も、ね。
ここで功績を立てれば、雛里様も私を認めて下さるだろう。
傍らで不満そうな顔をしている王平も、私の才がどれ程のものかが分かればそのような顔はしなくなるに違いないのだ。姉上と比較され、常に後一歩及ばないと言われてきたが、此処で勝てば漸くその呪縛から解放されるだろう。『馬家の五常』の一人として評価されるのではなく、馬幼常として評価して貰えるだろう。
平家には、その為の踏み台になって貰おう。