〜霞 Side〜
久し振りに平家の将が集まって、鍛錬をしている。
経ちゃんを筆頭として、平家の武人は皆腕が立つ。
星、愛紗、碧、翠、琴、そしてウチ。全員、戦うことが好きなんやと思う。仕合っとる時、ホンマにええ顔をしとるから。此処にはおらんけど、恋と朔、雪蓮も入れると、ようこれだけの人物が揃っとると思うでホンマに。ちょっと余所じゃ考えられへん位充実しとると思う。
実力やと、やっぱり経ちゃんと恋が頭一つ抜け出しとる。
恋と立ち合った時、あの恋が一方的に押されとった。一回目、瞬動を使ったとは言え恋に勝ったんやから。二回目は負けとったけど。悔しそうやったけど、ホンマ愉しそうに笑っとった。『追いかける立場にあるってのは本当に愉しいモンだねぇ』っちゅうて。……まだ満足してへんのか、アンタは。
恋も愉しそうやった。まあ、アイツは負けたことなんか無かったやろうしなぁ。
碧も強い。経ちゃんには及ばんけど、格が違うと言うか。
……勝率は三割程度。なかなか勝たれへんけど、経ちゃんとやる時より打ち合えるから愉しい。経ちゃんは躱しまくるからなぁ……当たらへんから欲求不満になんねん。
雪蓮も強い。勘で全部避けよる。アイツはどうなっとるんや。後で聞いたら、何となく嫌な予感がしたから、という全く納得いかへん理由で躱されとったことが判明した。まぁ、それでも戦績は何とか五分五分ちゅうてもええ位やけど。ちょっと負け越しとるけど次に勝つから五分五分や。覚えとれよ雪蓮。
そのほかで言うと、経ちゃんとずっと鍛錬しとった星と愛紗がちょっとだけウチより強いかも知れへん。ウチも恋とやりあっとったから互角に渡り合えとるし戦績も五分五分やけど、瞬動に反応出来る点を考えたらそうなる。
琴には勝ち越しとる。
ただ、経ちゃんに拠ればまだまだ伸び代があるらしい。経ちゃんが教えてやった『牙突』っちゅう業に、初見の際にやられてしもたことを考えても、そうやろうなと思う。しっかしアレはえぐい業やで。突きから薙ぎに変化してきよるから、なまかまな腕じゃ対応出来へんやろ。突き自体の疾さやキレが増したら、突きを躱すんで精一杯やろうしな。
朔については、董卓軍の時からの通算やと勝ち越しとるけど、最近引き分けばっかりや。
無理に攻めようとせず、ウチの攻撃を悉く防いでくる。月の身辺警護をするようになってから、攻めることより守ることを重視した戦い方になっとる。今までの経験が大きく影響しとるようで、朔の防御を抜くことが出来へん。守ることに関しては、平家で一番かも知れへん程の腕になっとると思う。星も愛紗も、朔とは引き分ける。元々体力があることもあって、全くバテへんからなぁ……。
最近平家の将になった蒲公英は、まだまだ実力不足や。
けどそれは、この面子を相手に五分にやり合うにはっちゅう意味であって、並の将など問題にしないくらい強い。馬一族っちゅうのは、皆こんなもんなんやろか。一族揃ってこれ程の武技を身につけとるんなら、尋常や無い一族やで。
皆最初はばらばらで鍛錬しとったんやけど、経ちゃんと鍛錬したがって収拾が付かへんから10日に一度の割合で全員集まってやるようにした。で、月に一度、鍛錬の成果を確認する意味で勝ち抜き戦をやる。経ちゃんと恋は不参加やけどな。あの二人は人外やから、人間のお祭りには参加したらアカンと思う。
ちなみに、勝ち抜き戦は皆本気でやる。当然武器は刃を潰してあるけど、それでも怪我をする。そやけど、平家には優秀なお抱え医師がおる。黒男と凱っちゅうらしい。凱は最近お抱えになった。なんでも、冥琳の病を治した凄腕の鍼師らしい。経ちゃんや黒男の話し方からすると、姓名が琵琶丸で、真名が凱っちゅうらしい。兎に角、二人がおるお陰でちょっとした怪我なら直ぐに治る。本気でやりあうことができるっちゅうのはホンマにええことやで。
「じゃぁ、籤引きするぞ。一人ずつ籤を引いていけ」
「では私からですな。……『1』、ですな」
「私は『2』です」
「ほう、琴が私の相手か」
「相手に不足はありません。お屋形様の前で鍛錬の成果を発揮して見せます」
「……いいだろう。泣かしてやるぞ?琴よ」
「そう易々とは行きませんよ?星」
経ちゃんの前でやるから、皆気合いが入っとる。個別に鍛錬しとる時に立ち合うけど、その時よりも勝ち抜き戦の時の方が遙かに強い。恋する乙女っちゅうのは凄いモンやで。まぁ、皆が目の色変えるんには理由もあるけどな。
皆次々に籤を引いていく。
「経ちゃん、ウチは7や」
「へぇ、霞がシードか」
「しーど?」
「いや、人数が奇数だからな。一回戦でどうしても一人余るだろ?」
「うん」
「だから、霞は二回戦から参戦ってことになるのさ」
「へぇ〜。ウチは一回戦からやりたかったのに」
「ま、籤は絶対だ。最初の取り決めだからな。変更は無しだぜ?」
「分かっとるよ」
籤を引いた結果、組み合わせはこうなった。
一回戦。
星と琴。
碧と愛紗。
翠と蒲公英。
二回戦。
星と琴の勝者と、碧と愛紗の勝者が戦う。
翠と蒲公英の勝者と、ウチが戦う。
最期に、それぞれの勝者が決勝で戦う。
あっちは誰が出てきてもおかしくないと思う。
実力的には碧やろうけど、碧は愛紗とやった後で星か琴とやることになる。かなり辛いだろう。
それを考えると、こっちは多少楽だ。といっても、翠が居るけどな。
「霞、負けないからな」
「お姉様、たんぽぽ、負けるつもり無いんだけどな〜」
「たんぽぽに負ける程腑抜けてないよ、あたしは」
「あ〜!絶対に後悔させてやるんだから!たんぽぽ、優勝してご主人様に色々して貰うんだ〜」
皆が目の色を変える理由。
それは、優勝者は経ちゃんに言うことを聞いて貰えることになっとるから。
星や愛紗達はその日一日一緒に居るっちゅう願いを叶えて貰うつもりらしい。まあ、蒲公英や雪蓮はあっち側へ参戦することを希望しとるみたいやけど。
……ウチはようわからへんから保留や。好ましいとは思っとるけど、それは戦友としてやと思うしなぁ。
「絶対に負けないからな、たんぽぽ。……場合によっては死んで貰う」
「ちょっと!?お姉様!?」
「……まぁ、今のは自分が悪いと思うで、蒲公英」
稟といい翠といい、ホンマ罪作りな男やで、経ちゃんは。
何で皆こないに夢中になるんやろうな。
「やっぱりアンタが勝ち上がってきたんだねぇ、霞」
「そらそうやで。翠ならまだしも、蒲公英に乱されるようなウチやないで」
蒲公英に勝って決勝に進むことになったウチに、碧がそう話しかけてきた。
翠は、蒲公英にあっけなく負けた。閨での睦言を実況されていつも通り一杯一杯になった翠を、蒲公英は簡単に打ち据えて勝ち上がった。……経ちゃん、凄いことしてんねんな、アンタら。『私の愛馬は凶暴です』ってどういう意味や?経ちゃんの愛馬の『兎論辺』は大人しいええ子やと思うで?
「じゃぁ、少し時間をおいてから決勝だ。二人とも体を休めておくと良い」
「必要無いで?経ちゃん」
「そういう訳にもいかんだろう。出来るだけ平等にな。そうでないと楽しめないだろ?」
そう言って紙の束を取り出した。
決勝は一部の兵や民にも開放される。希望者から抽選で観客を選び、その前で戦う事になっとる。
そこで、経ちゃんが胴元になって賭をやっとるんや。収益にもなるし、兵や民達の憂さ晴らしにもなるし、良いこと尽くめだろうが、と言っていた。まあ、酒代稼ぎに丁度ええから決勝に行かれへんかった時はウチも毎回賭けとるけどな。応援にも熱が入るし、ええ考えやとは思う。
「じゃ、また後でね、霞」
「ああ、ほなまた後でな」
控え室に戻る碧を見送りながら、経ちゃんに賭の具合を聞いてみる。
「賭けはどんな具合なん?」
「碧と霞で8:2位の賭けになってるな」
「……さよか。まあしゃーないかも知れへんけど」
「そうふて腐れるなよ、霞」
「将の間ではどうなっとるんや?」
どうせ皆碧に賭とるんやろなぁ。ここんとこウチは碧に負けっ放しやし。
「5:1で碧だな」
「……1って……そら最近の戦績なら仕方ないかも知れへんけども……」
テンション下がるわ。
「なンだなンだ、霞。お前さん、戦う前から負けてるじゃねぇか」
「そらそんな賭け率聞かされたら嫌になっても仕方ないやろ?」
「かもしれんが、期待してる人間だって居る訳だ。その期待に応えるのが名優の条件だぜ?」
「はぁ……まあ、その期待しとる奴の為に頑張ってみるけども……」
「そうそう。折角霞に賭けたンだ。勝って貰わなきゃ困るぜ?霞」
経ちゃんが片眼を瞑りながらウチの肩を叩く。
「なンや。経ちゃん、ウチに賭けたんかいな」
「そらそうだろうが」
「……勝ったら旨味があるもんなあ」
「それもあるが、そろそろ霞の本領発揮だろ?負けっ放しで終わるほど諦めがいい女じゃないンだからねぇ。張文遠の実力はこんなモンじゃないはずなんだから」
「ウチの実力、か。でも、碧に勝てる程強ないと思うで?」
「そりゃぁお前さんが勝利に執着していないからだろうよ」
「執着?」
「そ。勝っても負けても楽しめれば、と思ってないかね?」
「……まあ、否定はせえへんよ」
「それじゃ困るンだよ、霞。戦ン時にそれじゃ困る。負ければ死ぬンだ。楽しむのは良いが、死んじゃ元も子もない。戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って。そうやって戦って最期まで生き延びるのが真の戦好きさ。だから、ここぞという時は執着するモンだぜ?『勝つ』ことにねぇ」
「今がその時や、ちゅうんか?」
「そうだな。応援しているのが俺だけなンだ、配当はでかい。これで美味い酒が飲めそうだしな。……少々見くびってくれている皆に目にもの見せてやれ、霞。俺ぁお前さんを信じてるよ。俺の目が正しいってこと、証明して見せてくれよ」
経ちゃんはそう言って主催者席へ戻っていった。
勝てへんかも、とか考えとったの見抜いとったんやろな。ホンマ、よう気を遣う男やで。でもまぁ、折角経ちゃんが応援してくれとるんやし。
「一丁やったろやないかい」
今度こそ勝たせて貰うで、碧。
中庭中央で、碧と対峙する。
「碧、今日は勝たせて貰うで?」
「……エラくやる気になってるじゃないか、霞」
「経ちゃんだけがウチに賭けてくれとるみたいでな。信頼、裏切る訳にはいかんやろ?」
「……私に賭けないなんて、ご主人様、勝ったらお仕置きが必要だね」
こちらを見ていた経ちゃんが引きつった笑顔を浮かべていた。
おもろい顔するな、経ちゃんは。
勝負の判定をする役目を言い渡された愛紗が開始を宣言する。
「行くよ!霞!」
「掛かって来ぃ!」
いきなり剣で鳩尾を突いてくる。
そやけどそれは予測済みや。体の重心からして、前に突っ込んでくるつもりやな。後に躱すのは追い詰められるだけや。
「ほれっ!」
左へ避けながら体を捌いて偃月刀を碧の背後から頸目掛けて振り下ろす。
さて、避けてくれるか?
「……ちぃっ、危ないね!」
碧は身を屈めて躱した。狙い通りや。
往った偃月刀を再び返す。今度は、足下を狙って。
その偃月刀を飛び上がって躱した碧に体当たりをかまして碧を吹っ飛ばす。
「ぐっ……やってくれるじゃないか、霞」
体勢を直ぐに立て直し、碧が再び突っ込んでくる。
偃月刀を連続で薙ぐ。懐にはそう簡単には入らせへん。
薙ぎから突きへ。突きから薙ぎへ。思うがままに変化させて碧を攻める。致命傷は与えらてへんけど、しっかり碧の体力を奪っとる感触がある。
「このまま勝たせて貰うで!」
動きが鈍くなったからか、碧の持つ剣を跳ね上げる事が出来た。そこから碧に向かって突きを繰り出した。これで、勝てる。
「そうはいかないんだよ!霞!」
偃月刀の刃の付け根をしっかりと掴んで引き込まれる。剣を跳ね上げることが出来たのは、誘っとったからや。がら空きになった体を目の前にして、手っ取り早く勝負を付ける為に薙ぎではなく突きを選択したが、それすら碧の思い通りに誘導されただけや。それに気付かされた。刃が潰してあるから躊躇いなく出来たんやろうけど、それも全部計算に入れとったんやろう。
ここで偃月刀を離せばそれで終わりになってまう。抵抗せずに飛び込んだ方が得策やろ。剣は跳ね上げられとる状態のままや。それ程の痛手は受けんはずや。
そう思って懐に進んで飛び込んだんやけど。
「!」
……甘かった。剣の鞘で思いっきり鳩尾を突かれた。剣だけしか意識しとらんかった。
自分から飛び込んだ勢いも相まって、もの凄い衝撃が鳩尾に加わる。
余りの衝撃に一瞬目の前が暗くなるが、どうにか耐えた。けど、ウチはそのまま投げ飛ばされたようや。景色が廻って、浮遊感に包まれとる。そのまま、地面に叩き付けられた。
「かはっ」
息が詰まるが直ぐに横に転がる。さっきまでウチが寝取った地面に、剣が突きささっとった。
「……危ないやろ、碧。死んでまうで?」
「お返しだよ、霞」
碧が不敵に嗤う。
こりゃ、分が悪い。
「良いぞ碧!そのまま一気に決めてしまえ!」
会場は盛り上がっているようだ。
碧に賭けている星達が一層熱を入れて碧を応援している。
──今回はここまで、かなぁ。結構ええ所まで行ったと思うんやけどなぁ。
そう思っとったウチの耳に、経ちゃんの声が飛び込んでくる。
「霞!諦めてンじゃねぇ!俺の為に勝て!勝ってお前さんの実力を見せつけてやるンだ!……碧のお仕置きは御免なんだよ……」
……無茶言ってくれるで、ホンマ。
「……霞、ご主人様はああいっているけど、どうするんだい?」
「期待、裏切る訳にはいかんやろ?最期までやってみんと分からへんからな」
「まあ、これで終わりだと思うけどね……!」
そう言って剣を振り下ろしてくる。
でもな、碧。剣筋が素直すぎるで?アンタがウチの思い込みを利用したように、ウチもアンタの思い込みを利用させて貰うで。
碧が振り下ろす剣を、左腕で防ぐ。
「なっ!」
「……甘かったなぁ、碧!お返しや!」
偃月刀を短く持って思いっきり碧の脇腹目掛けて薙ぐ。
「がっ……くっ……」
十分な手応えがあった。そのまま偃月刀を振り抜く。
碧は、膝を着いて動けないようだ。
「碧、ウチの勝ちやな」
「まさか、腕で防ぐなんてね。実戦なら死んでるよ?アンタ」
「でも、これは実戦や無いからな」
「……一本とったつもりがとられてた、か。ふふ。やるじゃないか霞」
「当然や」
近づかへんで?碧。
「……ちっ、油断してないか。愛紗、降参だ」
「……勝者、霞!」
最期まで降参と言わず、逆転しようと狙っていた。
成る程、アレが勝利への執念ちゅうやつやな。
「やったじゃねぇか!霞!」
そう言って経ちゃんが走ってくる。満面の笑みを浮かべて。
「見とったか、経ちゃん!やってやったで!」
そう答えながら、嬉しくて経ちゃんに抱きついた。
「ちょちょっ、霞!?」
「ウチ、頑張ったやろ?」
「……あぁ、頑張ったと思うよ、霞。腕、大丈夫か?」
「ん?……まぁ、痛いけど何とかなるやろ」
「後でしっかり凱に見て貰っとけよ、霞」
「分かっとる」
「んんっ!霞?教経様?いつまでそうやっているのですか?」
「へ?」
そう言えば、ウチずっと抱きついとったんか。
「ああ、悪かったな愛紗。そう怒らんでもええやんか」
「人前だ、ということを忘れていませんか?霞」
そう琴に言われて、兵や民の前やったことに気が付いた。
「〜〜〜〜!」
「お、霞でも照れるんだな。なかなか可愛いモンだぜ?霞」
恥ずかしくなって急いで離れたウチに、経ちゃんがそう言った。
「う、うるさいわ!アンタは何で平気やねん!」
「……平気じゃないが、皆自重しないからなぁ……」
「……ああ、星とか風とか、言葉だけなら賈駆っちもよう自爆するしな……」
「失礼な。主、私は時も場所も弁えておりますぞ?……お望みなら自重するのを止めますが?」
「自重してくれ。頼むから」
「そうですな、今日主が一緒に居てくれる、ということで頼まれましょう」
「なっ……!お屋形様!私も自重しません!お望みなら此処でお屋形様と何でもして見せます!」
「教経様。その、私も自重するのを止めましょうか?」
「ご主人様、あたしだって自重するの止めるぞ!」
「……頼むよお前ら落ち着け……特に琴、暴走しすぎだ……頭が痛い……」
「ご主人様、私が慰めて上げるよ」
「あ〜叔母様だけずるい!たんぽぽも一緒に慰めて上げる!良いでしょ?」
あ〜、経ちゃんがプルプルしとるで。こりゃ爆発するな。
「お前ら兎に角落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
流石は経ちゃん。怒気というか殺気が尋常でない。
が、星は平然としとる。
「やれやれ、冗談の分からぬ主ですな」
「じょ!?……そうです、冗談ですよ、お屋形様」
「そうですね、冗談です」
「う、うんうんそうそう、冗談だよ」
「全く、冗談が分からない男は嫌われるよ?」
「だよね、叔母様」
「……俺か?俺が悪いのか?」
完全に良いようにされてるなぁ、経ちゃんは。
まぁ、それがおもろいんやけどな?
「……自業自得ではあると思うで、ウチは」
ホンマ、見とって飽きひんなぁ、経ちゃんは。
「そう言えば、霞。霞は主に何をお願いするのだ?」
「そうですね、気になります」
「う〜ん、何にしよか」
「霞、遠慮せずに言った方が良いと思うぞ?私は」
「何か無いのか?欲しくて気になってるものがあるとかさ」
気になってるもの、ねぇ。
「……強いて言うなら……」
「言うなら?」
「……何で皆経ちゃんに夢中になるんか気になるなぁ」
「はぁ?」
「そや!経ちゃん、今度一日休日の時に、ウチのこと情人(いいひと)やと思って一日一緒に過ごして貰おか。そしたら分かるかも知れへんからな」
「霞、お前さん、それ爆弾発言な」
「爆弾?」
「あ〜、上手く説明できん。兎に角、それはちょっと……」
「経ちゃんともあろう者が約束反故にするんか?」
「いや、しかしだな、俺の命って12個有る訳じゃ無くてだな?」
「主、別に良いではありませんか」
「星?」
「一日だけ、主のことを好いている女子と思うて過ごしてやりなされ。それで霞も主の魅力が分かろうというものです」
「……星、何を考えているのだ?……」
「……愛紗、霞は初心なのだ。きっとああやって言うのが精一杯なのではないかと思ってな……」
「……な、成る程。それはまたいじらしい……」
「……機会を作ってやっても良いだろう。そう思えぬか?……」
「……今回は見逃すことにしようか……」
「……よし、それでこそ、だ……」
「お前さん達、何をぼそぼそと話し合っているのかね?」
「主、良い女には秘密というものがあるのですぞ?」
「……さいですか」
「?ほな、ええんやな?」
「ああ、構わないぞ、霞」
「……俺の意志は……俺の意向は……?」
「在ってないようなものですからな、この場合」
よう分からんかったけど、兎に角今度の休みで一緒に過ごしてみることに決まった。まあこれで分かるやろ。皆が夢中になる理由も、ウチが経ちゃんのこと戦友として好きなだけかどうかも、な。