〜琴 Side〜
お屋形様に対する思いを如何にして遂げるか。
最近、私はその事をずっと考え続けている。
函谷関から長安に帰って直ぐに、そのことを星に相談した。
星は驚いていたようだが、直ぐに納得したような表情を見せていた。
「またか」
そう言って。
どうやって思いを遂げるのか。それについては助力するつもりはない、とはっきり言われた。けれど同時に、次の出征で私がお屋形様と共に出征出来るように稟に言っておいてやる、とも言ってくれた。要するに、機会は作ってやるから自力で想いを遂げて見せろ、ということなんだろう。
そう訊くと、その程度の事が出来ないで主の寵を受けようなどと思って貰っては困る、と真面目な顔をして言われた。勝手なことを、と思うが同時にそういうものだろうな、とも思ってしまう。私が星の立場なら同じ事を思うと思うから。
兎に角励むが良いさ。
そう言ってくれた。星が良い、と言ってくれるという事は、稟達も認めてくれるということだと思って良いだろう。お屋形様の女性関係については、星と風が主導権を握っているように見えるから。取り敢えず、本丸に攻め込むにそれを阻んでいた堀に、梯子を駆けることは出来たみたいだ。
後は、私次第。
……誘惑なんて、私に出来る訳はない。私は、剣しか知らないから。だから、素直にぶつけてみるしかないと思う。その機会をこの出征中につかめると良いんだけど。
武都郡の攻略を終えた。
テイ族の協力により、あっという間に武都郡を攻略したのだ。城内から門を開いたり、流言を飛ばしたりするのに大きく貢献してくれたようだ。それだけでなく軍に参加してくる者達が多くいた。併せて5,000程度のテイ族が軍に参加している。
お屋形様は、約束した褒賞については事前に全てを与えていらっしゃった。
事前に全て与えることに関して、冥琳だけでなくテイ族の族長も驚いていた。
『次にいつ会えるかなんて分からないだろうが。俺が死ぬかも知れんし、アンタが死ぬかも知れないンだ。俺が約束をしたのは今目の前に居るアンタだ。確実に約定を履行する事を考えるなら、今此処でアンタに与えるのが正しいやり方だろうさ。また後で、なんて、こんな時代じゃ当てにならないンだよ』
約定を履行しないという可能性についてはどうするのか、とテイ族の族長自身が訊いていたがお屋形様は歯牙にも掛けなかった。その程度の一族なら合力して貰う必要もない、交わした約定を守れない恥知らずな一族だと言ってやるだけのことだ。そう仰って。
そのお屋形様に、テイ族の族長は約定以上の馳走をしよう、と言い出したのだ。
訊けば、お屋形様の考え方は彼らの契約に関する考え方と同じなのだという。移動を繰り返す民である以上、次いつ会えるかが分からない。だから一旦交わした約束は絶対で、かつ褒賞があるのなら全額前払いが原則。それを自分から言い出した中華の君主は初めて見た。変わった人間だが、大いに気に入った。だから馳走をしてやるのだ、と言っていた。
その馳走が、5,000名近く軍に参加して戦っているテイ族達だ。私達だけでなく、新城郡攻略に向かっている雪蓮達の軍にも参陣させたようだ。
お屋形様はやはり凄い人だ。全てを飲み込んでいく。
現在、兵達に交代で休息が与えられている。将にも同様に休息が与えられており、自分に割り当てられて陣屋で一息ついていると星が声を掛けてきた。
「琴、ちょっと良いか」
「?星、どうかしたのですか?」
何か問題でもあったのだろうか。
「……今晩、主は暇だ。私が主を誘っても良いのだが、お前が何やら言っていたのを思い出してな」
「……そ、そうですか。」
いきなり言われても。
まだ、私は何も考えていない。どういう言葉で、どういう流れで話をするのか、全く考えていない。
「……どうしよう……」
「はぁ……何故私が助言しなければならぬのか……良いか琴、主はな、人主として優れ、必要なら己の感傷をばっさりと斬り捨てる事が出来る人だが重大な欠点がある人でな?こと男女の仲に関して、自分が憎からず思っている人間から寄せられる好意を断ることが出来ぬ人だ。お前が本当に主のことを好いていて、それが主にたどたどしくも伝わったなら、断るという選択をどうやっても出来ぬだろうよ」
「……そうでしょうか」
「そうでなくてどうして翠が想いを遂げることが出来るのだ。主は翠を憎からず思っていたのは間違いないが、男女の仲として好いていた訳では決してあるまい。好意を寄せられて、その想いに触れて初めてアレに好意を抱くに至ったに違いないのだ。だから、お前もそうすれば良いではないか。言いたくはないが、抱かれた者勝ちだよ、こと主に関してはな」
星がそう言って苦笑いをする。
「……分かりました。その、星。有り難う」
「……ふん。気に入らないがお前の想いは認めてやる。あと、お前の分の仕事は私がやっておいてやる。但し!後日必ず報いて貰うからな?」
「分かってます。必ず」
何だかんだで星は優しいと思う。この気遣いを無駄にしない様にしないと。
「お屋形様、宜しいでしょうか」
「琴か。珍しいな?」
「は、はい……お忙しいでしょうか」
「いンや、暇だったから構わんよ。まぁ適当に掛けてくれ。水でも出すからさ」
「はい」
お屋形様に割り当てられた陣屋は質素なものだ。こういうところも好ましく思える。君主として整えなければならない最低限の体裁は整えるがそれ以上のものは要らない、と言っていた。食事に関してはかなり五月蠅いようだけど。
「で、どうしたんだね?昼間なら、剣の稽古を付けてくれということなんだろうが」
どう言えばいいのか。
私はお屋形様のことが好きで、最初は殺そうとしていたけど過ちに気付かせてくれて、信念も牙もお屋形様に頂いて、お巫山戯が過ぎるところがあるけど真面目な時のお顔は凛々しくて、朔さんの件のように何より人の心を大切にして、救えるものは全部救おうとしていて、そんなお屋形様だから私は好きになって、だから……
「だ、抱いて下さい」
「ブーッ」
「きゃっ」
お屋形様が水を吹きだした。水を飲もうとしていた私も、吃驚して水を零してしまった。
……私の羽織が水浸しだ。
「す、済まん……いきなりだったから吃驚したンだ……」
「い、いえ」
取り敢えず、羽織を脱がないと。
そう思い、羽織を脱いでお屋形様の羽織掛けの空きを使わせて貰う。
羽織を掛けてお屋形様と再び向かい合った。
お屋形様は、私をじっと見つめて何も仰らない。
「……その、駄目でしょうか……」
何とかそれだけを絞り出して、お屋形様の反応を待つ。
どうなるんだろう。
〜教経 Side〜
目の前に、羽織を脱いだ琴が居る。
その、ねぇ。お前さん、サラシ巻いてないのか?純和装だからさ、その、ピンクのポッチがね、まぁ、その、うん、透けて見えるんだよねぇ……誘ってるのか!?あっちの世界でも絶対に見られない、年頃の女の子が和装して水に濡れて、体のラインやら胸のポッチやらを見せられるとこう、望郷の念と共に股間が……駄目でしょうかって言われてもだな……いじらしいねぇ。可愛い。
駄目だ、結構混乱してるな。仕切り直さないと。勢いでやっちまうなんてあり得ない。
「……琴、その、いきなり抱いてくれ、じゃよく分からんから質問しても良いか?」
「は、はい」
「その、俺の事が好きだってことでいいのか」
「は、はい。お慕い申し上げております……」
そう言って頬を染めてもじもじしている。
……やべぇ、可愛い。
「いつ、好きだって思ったンだ?」
「牙突を教えて頂いている時にお屋形様が私の体に触れた時、その、胸が高鳴ると言いますか、恥ずかしいけど嬉しかったと言いますか……はっきりしたのは、函谷関で寝ているお屋形様を膝枕している時です」
誰か様子を見に来た感じがしてたのは、間違いじゃなかったってことか。
「確かに誰か様子を見に来た気がしてたンだが、琴だったのか」
「はい……お屋形様は覚えていらっしゃらないようですが、その、寝ているお屋形様に口づけさせて頂きました」
「……なんて言って良いか分からんが、その、結構大胆だな、琴は」
「……お屋形様の方が、大胆だったと思います。その、私、舌を吸われました」
激鎚オンスロートならぬ激吸ディープスロートだったって……琴をピヨらせるのに成功したってか?
何やってるんだよ俺。何で覚えてないんだよ俺。
「その時に、お屋形様に訊いたんです。お屋形様は私のことを女として見てくれていますか?と」
「……まぁ、見てると思う。牙突教える時、こっちも結構大変だったから」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「そ、そうですか……嬉しいです……私は、ああ言って貰えるまで弟子か妹弟子程度にしか思われていないのかと思っていましたから」
そう言って心底嬉しそうに微笑む。
……ホント、いじらしくて可愛い。
でな、琴、そろそろその慎ましいけど綺麗な形をした胸とか隠した方が良いと思うンだよねぇ。
「あ〜、琴?前、隠した方が良い」
「え?」
「だからその、な。お前さん、白い服着てるんだぜ?サラシも巻いてないし……隠してくれないとさ、その……分かるだろ?」
「……お屋形様、その、私の体に欲情して下さっているのですか?」
欲情して下さっているとか感謝的な意味合いで言われるのは初めてだなオイ。
「……下さっているも何もないだろうが。兎に角、これで隠せ」
俺の羽織を脱いで、琴に着せてやろうと近寄った時、琴に抱きつかれた。
「こ、琴」
「……お嫌でしょうか?私はその、愛紗や雪蓮のように胸も大きくありませんし、星や風のように融通も利きませんが、お屋形様の寵を受けたいのです……」
俺の胸板のやや下辺りにこう、ふにふにした感触がある。もの凄く柔らかいねぇ……最近、我慢出来るラインが以前より低い気がする。まぁこの堤防、常に決壊してるからなぁ……俺は何なんだろうな本当に……はぁ……
「……駄目だなぁ俺ぁ」
「……駄目、ですか……」
琴が、泣き出しそうになった。
「いやいや、そういう意味じゃないんだって!その、自分の気の多さに呆れたというか何というか」
「……どういう、意味ですか?はっきり言って欲しいです……」
……どういう意味って、降参だよ、降参。
俺は無理だ。これ断るなんて無理だよ。
琴を寝台まで引っ張って行ってそのまま押し倒す。
「お、お屋形様……」
「……恥ずかしいから一回だけな。……俺は琴のこと、好きだよ。一人の女の子としてさ。可愛いと思う」
「……私も、好きですよ、お屋形様……私を、抱いて下さい……そうして欲しいです……」
「……そのつもりだから、さ」
「は、はい」
胸が小さいとか、お尻が小さいとか、色々言って恥ずかしそうにしてたけど、もの凄く相性が良かった。というか、剣やってるからなのか?その、もの凄く早かったンだが。耐えられなくて。自信が無くなりそうだ。
「……ん……お屋形様……」
疲れ果てて寝ちまった琴は、俺の腕の中で寝ている。
まぁ、こうなったんだから責任は取らないとなぁ……詠宜しく、そう言われたしねぇ。
『責任、取って下さい……ね?』
そう、上目遣いに、おずおずと抱きついてきながら言ってきた琴。
可愛すぎて、思わず口吸ってそのまま雪崩れ込んじまったンだよねぇ……
……俺も今日はちっと……疲れたし……このまま寝よう……か……ね……