〜教経 Side〜
あの会談の後、長安に帰還した俺を待っていたのは査問会だった。
被告は俺。査問官は、星、風、稟、愛紗、詠。
「お兄さん。聞きたい事があるのですが」
「ん?何だ?風」
「お兄さん、お兄さんは翠ちゃんを抱きましたね?」
「ブーッ」
松田優作ばりにお茶を吹いた。
翠が五人の後でもじもじしている。
……可愛いねぇ。
「教経殿、汚いですよ。全く」
そう言いながら、稟が甲斐甲斐しく俺の口元と机の上を拭く。
……あれ?怒ってないのか?
「……怒ってないのか?皆は」
「主、何度も何度も言わせないで頂きましょう。華に集うのは蝶の勝手なのです」
「仕方がないもの、と諦めています」
「英雄は色に狂うものなのです」
「教経殿が真剣に寄せられた想いを無碍にするような人だとは思っておりませんから」
「気が付かなかったボクが悪かったのよ。まさか戦陣の中でそうなるなんて」
こう言ってくれてるが、ねぇ。とてもじゃないが、儲けたとは思えない。
「……済まんな。なんというか、申し訳ない」
「お兄さん、それが問題なのではないのです」
……嫌な予感がするんだねぇ。
「問題なのは、お兄さんが翠ちゃんとどのように致したのか、何度致したのか、なのです」
「ななな何言ってるんだよ、風!」
「翠、そのように恥ずかしがる事はない。風や稟、詠は三人で主の相手を務めた事が何度もあるのだ。誰がどのように主に抱かれたのか、ということなど、別に隠し立てするような事ではない」
いや、星?隠そうな。それは隠しておこうな?
しかしこれは……
「……今までまさかと思ってたンだが、風、お前さん達が皆同じような要求をしてくるのは……」
「当然、情報交換した結果なのです」
「だぁ〜!お前ら!何やってるンだよ!こういうのはその、アレだろ!?二人だけの秘密、的な!そんなモンじゃないのかよ!?」
「教経様、皆平等にして頂かなくては困るのです」
「……まさか愛紗、愛紗まで積極的に情報交換を?」
「……その、恥ずかしいですが、負ける訳にはいかないですから」
お前さん、それは間違いなく風に誘導された結果だと思うんだが。
そう思って風を見ると、ニヤリと嗤っていた。
……風!恐ろしい娘!
「主が服を着せたままで愛紗と致したのが判明したので、その日から皆服を着たまま致したはずですが?」
そういえばそのような。
……アレか、俺にプライベートタイムはないのか?
「ライアンならあるのですよ」
「……風、俺の頭ン中覗くのはいい加減止めような?あと、名前だけだと『王宮の戦士達』とかいう第一章が始まってしまうから止めような」
「自然と見えるのですよ。むむむ、宝ャ、お兄さんが宇宙の塵と化したのです!ぜろしすてむなのです!」
「見える!見えるぞ!お前が死んでいく姿までもなぁ!……わかる奴居るのか?」
「さぁ。風には分からないのです」
最早様式美だな。いつもお勤めご苦労様です。
「教経殿。私達は教経殿のご要望に応えるために日夜努力をしているのです」
「……いや、稟?鼻血を垂れ流しながら言っても説得力がないというか。好きだから話を聞いて廻っているようにしか見えないんだが」
「わ、私はそのような破廉恥な女ではありません!」
「そうなのです。『超時空淫乱郭嘉』なのです」
「『アレ、おぼえていますか』とか『私の彼は平家の頭領』とか歌うのか」
「それは古いのです。時代はふろんてぃあなのです」
「……いつも思うがその電波はどこから……テレ東か?テレ東受信出来るのか?そのアンテナ」
「何を言っているのか全く分からないのです」
「と、兎に角!アンタが翠に何をして、その、何度したのか、全部話して貰うわよ!」
……それから先の羞恥プレイは言いたくないんだねぇ。
洗い浚い話を聞かれて、俺の羞恥心は大爆発だ。
……あとな、一つだけ言わせて欲しいンだ。
6人同時とか絶対に無理だから。
いや、だから無理だって言ってるだろ!?
引っ張るな!押し倒すんじゃない!誰か、助けてくれ!
だ、ダンクーガ!丁度良いところに!早く俺を助けやがれ!
テメェ!首振ってどっか行こうとするんじゃねぇ!
ちょっと待て、待ってて、ちょ、待っt
〜雪蓮 Side〜
袁術の旧領を平定した。平教経が期限を切った、一月以内に。
これで、平家と連携できる。孫家の血の保存と旧領の統治を、より確実な形で後世に残す事が出来ると思う。わたし達が独立自尊の道を歩む事も考えないではないけど、彼の器はわたしより大きな気がするのよね。
「しかし雪蓮、いきなり臣従するなどと言い出すとは思っても見なかったぞ?」
「そう?平家との連携はわたしに任せるって言ってたじゃない。てっきりそうなると見越してそう言ったのだと思ったんだけど、違ったの?」
「一時期従う事は必要だろうとは思ったが、ずっと従うつもりがあるとは思っていなかったさ」
「逢う前は当然そんな事考えてなかったわよ。でも、彼の思想を聞いたら従うのが一番孫家のためになると思ったのよ。多分だけど、お母様も従うと思うわよ?」
「まあ話し合った結果お前がそう思ったのなら私に異存はないがな」
「そんなこと言って、冥琳だって彼の事気に入ったんでしょ?」
『美周嬢』って言われた時、冥琳にしては珍しく面白い顔をしていたのよね〜。
「……まぁ、彼の器量は時代に冠たるものだろう。『覇者』と呼ぶに相応しい器量を有している。時代に望まれてこの世に顕れたとしか思えない程の、な」
「はぐらかされた気がするんだけど?ま、いいわ。
わたしの器量も優れたものだと思ってるけど、わたし個人としてはそれは飽くまでも孫家の主としてのものであって時代の覇者として彼を越えるものではないと思うのよね〜。勿論、わたしにだって覇者となるだけの器量があると思っているけど、ちょっと敵いそうにないかな。素直に認めてしまっているのが悔しいけどね」
「だが雪蓮、皆が居ないところで話を進めるのは感心しないな。特に、蓮華様に関しては肯んじるとは思えないのだが」
「ま、何とかなると思うわよ?あの娘が彼に何と言ったところで、その全てに対して明確な回答をしてくるでしょうしね。彼の覚悟に基づいた回答を、受け入れられぬものとして斬り捨てるだけの器量があの娘にはないわ。斬り捨てるようなものにもならないでしょうしね。
……ところで冥琳、頼んでいた事、きちんと調べてくれたの?」
「……調べはしたが、何のためにこれを調べさせたのだ」
あの後、平教経の身辺について、冥琳に調べて貰った。
女の影が見え隠れする。あの時あの場にいた賈駆。あれは間違いなく彼の女でしょうね。それ以外にも、複数の女が彼の周囲にいる。そんな気がするのよね。
「何のためにって、彼と縁戚になれば孫家の血は安泰でしょ?」
「はぁ……碌な事を考えないな、お前は」
「でも策としては最上のものでしょ?生まれてくる子が孫家だけでなく平家も継ぐ事だって考えられるのだから」
「そこまで考えての臣従か」
「あの場ではそこまで考えてないわよ。でも良い案でしょ?」
「それは認めるがな、蓮華様が彼に靡くとは思えないぞ?雪蓮」
「ばっかね〜冥琳。誰も蓮華を番わせるとは言ってないじゃない」
「……まさか、お前自身がか、雪蓮」
「私だけじゃないわよ。冥琳も勘定に入ってるわよ?」
「……何を言っているのだ、お前は」
「冥琳。彼は天の御使いなのよ?その才能や器量が大きいから殆どの人間が忘れていると思うけど。その神聖性というか神秘性というかを孫家に取り入れる事が出来れば、きっと国破れる事があっても孫家は重宝されると思うのよね」
「……勘か?」
「勘よ?」
「……相変わらず、勘だけで思考の森を突き抜けて真実の門の前に至るのが得意だな……」
「なにやさぐれてるのよ冥琳。冥琳にも、頑張って貰わなきゃならないんだからね?彼、『美周嬢』って言ってたじゃない。この際、一族の人間じゃなくても良いのよ。彼の血を継ぐものが孫家の中にいる事が重要なんだから。彼にしても、自分の血が繋がる人間が居る家を廃滅させようとは思わないでしょうしね」
「それは、今考えた後付の理由だろう、雪蓮」
「当たり前じゃない。どうして勘でそれが良いと思ったのかは後で考えるんだから」
「はぁ……まぁ、これが雪蓮か。仕方がないことだ」
いつも思うけど、冥琳って失礼よね。
でも冥琳、言質は取ったわよ?
「『仕方がない』、と言ったわね?冥琳」
「……諦めるさ。お前に仕えたのが私の運の尽きだろう」
「じゃ、早速籠絡してよね。良い体してるんだから、冥琳は」
「そう簡単にはいかないと思うがな。ほら、調査結果だ」
何々?
平教経とそういう関係にある人間は6人。趙雲、郭嘉、程c、関羽、賈駆、馬超。
平教経に懸想をしていると思われる人間は2人。馬騰、太史慈。
8人って……。
ただ、誰でも良いという訳ではないらしい。互いが好意を持った上でしか、そういう関係にはならない。調査結果にはそう書かれている。
「……ねぇ、冥琳。これ、どうやって調べたの?」
「……それがな、これを調べている事を程cに勘付かれ、細作が身柄を拘束されたらしいのだ」
「げ」
「何が『げ』だ、何が。……まぁ、その際にあらかじめ口を割っても良いと言っておいたから、洗い浚い話したら、程cがその辺りの情報を全て寄越してくれたらしい。ついでに、その程cから伝言がある」
「……何考えてるのよ、程cは」
「私には分からん……。程cの伝言、聞くか?私は聞いて頭が痛くなった」
「是非聞きたいわね、それ」
「知らんぞ私は……。
『お兄さんに興味を持って女性関係を調べるなんて、とんだメス豚なのです。
お兄さんに対する単純な憧れや、政治的な打算によってお兄さんを籠絡しようなど、風達が絶対にさせないのですよ。お兄さんの事を一人の女として、本当に愛するようになったのなら、お兄さんを共有する仲間にしてあげても良いのです。まぁ、もしそうなったら風が正妻で貴女達は妾なのですが。
そうでないのに誘惑したりする事は許さないのですよ、メス豚。分かったら諦めるのです。お兄さんは変態なので、貴女達のような無駄な脂肪を胸にぶら下げているような女はお呼びではないのです。愛紗ちゃんで間に合っているのですよ』
だそうだ」
……面白いじゃない。
「これは私に対する挑戦ね、冥琳」
「……雪蓮、私にはお前が言っている事が全く理解出来ない」
「好きになれば、やっちゃって良いわけでしょ?」
「雪蓮、それだとやっちゃうのが目的で好きになるのが手段になるのだが」
「細かい事は気にしないの」
「いや、細かい事じゃないと思うぞ?私は」
「そんな事どうでも良いのよ。これは私に対する挑戦なの。これから逃げるなんて、孫家の女として出来る訳無いでしょ?それにね、どうせ男を迎えて子を為すのなら、自分が認めた男が良いに決まってるじゃない」
「……それも後付だろうが」
「そうだけど、何か問題ある?」
冥琳が頭を振りながらこめかみを押さえている。
「兎に角長安へ行きましょう、冥琳。彼が待ってると思うから」
「はぁ……頭が痛い」
ま、英雄色を好むって言うし、問題無いでしょ。
冥琳、ちゃんと化粧して行きなさいよ?
わたし?わたしはこのままで綺麗だから大丈夫よ。
「ほう……少し話をする必要があるようだな?雪蓮」
あ、あははは。冗談、そう、冗談じゃない、冥琳。
ね、ね、冥琳はそのままで綺麗だけど、より一層綺麗になって平教経を籠絡して貰わないと困るのよ、ね、そういう意味で言ったのよ。本当よ、本当。うんうん、本当だから。ほんt