〜教経 Side〜
一日完全オフッ!の日。
愛紗が、街に買い物に行きたい、と言いだした。
最近、日中に愛紗と一緒に居る時は、練兵とか鍛錬とか警邏とか、兎に角仕事絡みしかなかった気がする。
その愛紗からの誘いを断るってのは、出来ないよねぇ。
「……その、やはり、駄目でしょうか……・?」
そう言って、上目遣いで俺を殺そうとしてくる。
今目の前に居る萌え型決戦兵器を喜ばせてあげないとねぇ。
「誰が駄目だって言ったよ。最近一緒に昼飯喰ったりさえしてないからな。今日一日、一緒に居ようか、愛紗」
言うと、嬉しそうに、しかし恥ずかしそうにこちらを見て顔を綻ばせていた。
「で、では、参りましょう」
「よっしゃ。で、愛紗。腕、組まなくて良いのかね?」
「……失礼します」
少し照れているようだけど、ねぇ。
可愛いモンだ。これが練兵している時は『鉄の女』に戻るからねぇ。
近衛の人間が中々辛いとぼやいていた。
……一般兵は、死にそうだったが。
「どこに行きたい?」
「そうですね……先ず、服を買いたいのですが……あと、その、下着も……」
……下着買いに行くのに俺が付いて行くのか……
いいねぇ!覗き放題って事だ!これで俺もTIMEの表紙を飾れる!
「……教経様?」
「いや、なんでもないさ。行こうか、愛紗」
愉しみなンだねぇ。
「教経様、この服はどうでしょうか」
服屋で、そう言いながら自分の体に服を当てて俺に意見を求めてくる。
何でもよく似合うと思うけどねぇ。素材が良いンだから。改めてじっくりと見ると、愛紗って本当に良い体してるよね。
……良い乳、良い尻、良いふともも。では皆さん、ご一緒にどうぞ。
乳、尻、ふともも〜〜〜〜〜!!!!!
けど、その服は……
「ん〜、今のと意匠が余り変わらんぜ?それだと」
そういえば、愛紗はいつも同じような意匠の服を着ていた気がする。
「その、こういったことに今まで興味を持てなかったので、この意匠の服が欲しい、とか、そういうことがないものでして」
「そりゃまた勿体ないねぇ。愛紗、お前さんは綺麗なんだから、着飾ればもっと綺麗になれると思うぜ?」
「の、教経様!」
「恥ずかしがるこたぁ無いだろうが。前も言った気がするが、俺が言ってるのは事実だ。俺ぁ綺麗でも可愛くもない女に惚れるほど物好きじゃないンだ。他の人間がそうじゃないと言ったところで俺がそう感じてるンだ、俺にとってはそれが全てさ」
「……あ、ありがとう、ございます……」
……なンだこの最終兵器彼女は。一撃でIフィールドぶち抜かれただと!?ええい、平家の愛紗は化け物か!?
「仲の良いご夫婦ですね」
「はぁ?」
振り向くと、禿げたおっさんが立っていた。
頭の貫禄から言って、店主か?
「あれ、違いますか?」
「ち、違います!」
「あぁ、わかるかね?」
「のの、教経様!?」
「いやぁ、コイツは素材が良いのに自分が可愛くないなどと思っているみたいでねぇ。お前さんからも、何か言ってやってくれないかね?困ってるンだ」
「そうですか、それをウチの嫁が聞いたら烈火の如く怒りそうですな。ウチの嫁なんて、いつ屠殺場に連れて行かれてもおかしくない程のものなのに!本当にうらやましいですなぁ。このように美しい女性を伴侶とされているなんて!」
「う、美しいなどと……」
愛紗はもじもじしている。
ところで店主……今お前さんの後に、ドドリアさんが居るように見えるんだが……
「……アンタ?」
「うひぃっ!」
「ちょっと、OHANASHI、しようか?」
「いやいや、わかってるだろう!?今私は、ほれ、こちらのお客様を接客中でだな……」
「店主、気にしなくても構わん。逝ってこい」
「ほら、アンタ。逝くよ?……お客様は、ご自由にご覧になっていて下さいな。オホホホホ」
「うへぇ……恨みますよ、お客さん……」
店主は、ドドリアさんに連れて行かれた。
多分ナメック星でお猿たちと戦うんだろう。ガンガレ。蝶ガンガレ。
男って、ああなったらお終いだよね。本当に。
……ん?あれ?何故だ!?私にも、私にも見える!同じ光景が見える!これは……ゼロシステム……!怖いんだね……?死ぬのが。だったら戦わなければいいんだよぉぉぉっ!
……何か砂漠の王子様的存在になりそうなのでこのチャンネルは斬ってしまおう。あ、切ってしまおう。
「教経様、どうされましたか?」
「いンや、何でも無いさ。それより愛紗、こっちの服はどうだ?」
「……そのようなひらひらした可愛らしい服が私に似合うでしょうか……」
「似合うさ。それとも、俺の見立てた服を着てみるのは嫌かね?」
「そ、そんなことはありません!」
「じゃぁ、着て見せてくれるかね?」
「は、はい」
俺が見立てた服を手にとって、更衣室へ入る愛紗。
フハハハハ!ここからがショータイムだ!
覗こうとカーテンを少し開けて中を見る。
……目の前に、目が見える?
「……教経様?何をなさっておられるのですか?」
「……フッ。認めたくないものだな。若さ故の過ちというものを」
愛紗の後に背後霊が見える。専門用語だと幽波紋っていうんだねぇ。
無駄!無駄ぁ!俺は逃げる!
スピードワゴンは華麗に去るぜ?
走り出そうとした俺の足首を、何者かが掴む。
……て、店主、貴様!生きていたのか!
「オ……レは……もう……ダメだ……だが・・きさま……も……道連れ……だ……!」
クロノクル・アシャーだと!?貴様、何処でそのネタを手に入れた!?
いや、今はそんなことはどうでも良い!誰か!V2でコイツぶった切って殺してくれ!上半身と下半身を分断するように、こう、ズバッっと!何ならモトラッド艦隊で踏みつぶしてやれ!コイツだけ!
クロノクルに構っていたら、後からもの凄いプレッシャーを感じた。
……ケツの穴にツララを突っ込まれた気分だ……
今……このままここにいたら確実に一人ずつ殺られる!!
「教経様!反省して下さい!」
「ヘブッ」
グ……グレートですよ、こいつはァ……
「ん……」
「あ、教経様、目が醒めましたか?」
……此処はどこだ?
寝ちまってたのか、俺ぁ。
目の前で、愛紗が俺をのぞき込んでいる。
「……愛紗、済まんな。寝ちまってたみたいだ」
「い、いえ」
心が広いねぇ。折角のデートだってのに寝ちまった俺を許してくれるなんてねぇ。
顔が滅茶苦茶痛いが、どっかでぶつけたのか?
「で、此処何処だっけ?」
「お茶屋さんです」
言われて、周囲を確認する。
……おいおい、お茶屋さんというか、喫茶店じゃねぇか。
テラス席で、膝枕されて寝ちまってたのか、俺ぁ。
よくよく見ると、愛紗は俺の見立てた服を着ている。
「……よく似合ってるじゃないか、愛紗」
「あ、有り難う御座います」
言いながら体を起こそうとして、やめた。
愛紗が、ちょっと名残惜しそうな顔をしたから。
「愛紗、もうちっとこのままで構わんかね?」
「……はい、教経様」
嬉しそうに笑う愛紗。
ゆっくりと、時間が流れていく。
「愛紗、結構変わったよな」
「そうですか?」
「変わったさ。人前で、膝枕なんて絶対にさせなかったンじゃないかね?昔なら」
「かもしれませんね」
「どういう心境の変化があったンだか」
「恥ずかしがっていても仕方がないですから。私は、少し自分の気持ちに素直になることに決めたのです。教経様とこうして一緒に過ごす時くらいは、ありのままの私を見て欲しいですから」
……本当に、可愛いねぇ。
「……天下を統一して戦が無くなったら、毎日こうやってのんびり過ごしたいモンだ」
「そうですね」
「そしたら、愛紗も普通の女の子に成れるモンな?俺と一緒にぶらぶらして、一緒に飯喰って、俺に抱かれて、一緒に寝て。それを繰り返すだけの、平凡な人生を送る、普通の何処にでもいる女の子に」
「……そうなれるでしょうか」
「なれるかどうかじゃないんだよ。そうなるのさ。そうなる為に、終わらせるンだよ。この糞みたいな戦乱をなぁ」
「はい」
夕日に照らされた愛紗の顔は、美しかった。
こういう日が、ずっと続けばいい。
長安に住む奴らだけじゃなく、この国に生きる全ての人間が、憂い無く暮らせる世の中で。それぞれがそれぞれの生を謳歌して、それぞれに相応しい死を迎える。あり得べき形で、何の波乱もなく、人の想像の範疇を飛び出さない平凡な人生を送る。
そんな世の中に、してやりたいモンだ。
「……愛紗、今日は、お前さんの番だったっけ?」
「は、はい」
「ちっと早いけど、飯喰って帰ろうか。ゆっくりするとしよう。二人きりで、ね」
「はい、教経様」
まだ、道は遠い。
だが、いつか、きっと。
愛紗の手を取って、俺たちの家へ向かって歩き出す。
前に進むだけだ。こうやって、皆と一緒にね。