～星 Side～
汜水関が陥落した。
主の思惑通りに。
前線から虎牢関へ撤退してきた華雄が、そう言った。聞けば、華雄が挑発に乗った振りをして敵軍に攻撃を加える為に関の門を開放して進み、それを切っ掛けとして一戦して退いてきたようだ。現状、主達は予定通り山中の陣へ移動しているらしい。
挑発に乗った振りではなく、我慢出来ずに乗ってしまったの間違いであろうが。
「やれやれ、漸く私の出番かい。待ちくたびれちまったよ」
「涼州魂を見せてやろうぜ、お母様！」
「……ご主人様の為にかい？アンタも本当に好きだねぇ」
「ち、違う違う！そんなんじゃない！」
「素直じゃないねぇこの娘は。パパッと襲って身籠もって来いってんだ」
「★■※＠▼∀っ！？」
……馬親娘は相変わらずの様子だ。
だが、碧。主を襲うなど出来はしないぞ？5人もいるのだからな。そう簡単には突破させん。
「恋殿、敵軍がやってきたら、打って出てやっつけるのです！これだけの兵があれば、可能なのです！」
「ちんきゅ、頑張る」
「はいなのです！」
ふむ。主が言っていた通り、今回の戦の全貌をしっかりと見据えた戦いが出来ないようだな。稟や風とは大違いだ。未熟に過ぎる。
「ちょっと待ってｍ」
「待って貰おうか」
……華雄に私の言を遮られた。
華雄？
「なんなのですか！」
「恋、ねね、月様の為にどうしても虎牢関を抜かせる訳には行かぬのだ。関外に出て戦うのは止めてくれ。それが切っ掛けとなり、平の策が成らぬうちに虎牢関が抜かれてしまっては駄目なのだ。それでは、月様が死んでしまう」
「何を言っているのですか！勝てば全て問題無いのですぞ！恋殿が居るのです、勝てるのです！あの男が言っていることは杞憂に過ぎないのです！そうなるとは限らないのですぞ！ここで、恋殿の強さを連合軍の諸侯に見せつけてやるのです！華雄も共に出撃してその名を揚げると良いのです！」
「……ねね、お前は私よりも頭が良いはずだ。分かって居るだろう。勝ってはならぬのだ。戦場での勝ちは、月様の死に繋がる。それを見過ごす訳にはいかんのだ。頼む。平の指示に従って、関を守って戦ってくれ。この通りだ」
そう言って、華雄が土下座をした。
信じられぬものを見るような顔をして、ねねが華雄を見る。
私も、信じられぬ。この女は、自分の武勇を誇ることしかできない猪武者だったはずだ。それが、董卓殿の為に恥も外聞もなく土下座までして、何とか董卓殿の為になる様に事態を向かわせようとしている。
……何があったのだ、華雄に。
十中八九、主がなにかをしたのであろうが、こうまで人が変わるものなのか。
「ねね、華雄が正しい。恋は我慢する。ねねも、我慢」
「……わかったのです。ねねも、華雄が正しいと思うのです」
「……分かってくれるか。済まん、この通りだ。有り難う」
「と、兎に角頭を上げるのですよ、華雄。どうしたのです、頭でも打ったのですか？」
「……あぁ、頭を打った。いや、打たれた。これ以上ないほどに強くな。己の至らなさに気がつけて良かった。そう思うよ」
これは、別人だ。
その在りようの、何と好ましいことか。
「『士別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし』、ですね」
「稟？」
「平もそう言っていたが、どういう意味だ？」
「日々鍛錬している者は三日も会わなければ見違えるほど変わっているということです。転じて、いつまでも同じ先入観で物事を見ずに常に新しいものとして見よ、という意味になります。教経殿も、同じ事を言っていたのですか？……そうですか」
そう言って、稟は嬉しそうにしている。
……こういうところは、稟に敵わない。思考の進め方が、二人は良く似ている。稟がそう嬉しそうに言っていた。全く、すっかり骨抜きにされてしまっているな、稟。だが、あれくらい素直な方が主は喜ぶのかな……。
「ほらほら、アンタ達、愛しの君のことを思って股を濡らすのは後にしな」
「碧！わ、私は別にそんなことはありません！」
「お、お母様！何言ってるんだよ！これから戦なんだぞ！？」
「やれやれ、翠、アンタも濡らしてたのかい？」
「そんなことあるわけないだろ！星も何か言ってやってくれよ！」
……ふむ。
「そうだな、稟も翠も濡らすのは戦の後にした方が良いだろう。主に逢った時にたっぷりと可愛がって貰うと良い」
「せ、星！……でも教経殿はそんなはしたない私が……」
「★■※＠▼∀っ！？」
ククッ。
稟はどうやらそのまま旅に出たようだ。いつも通りで何よりだな。平家名物を見れば、皆落ち着くことだろう。これも軍師としての努めだ。励むが良かろう。
翠は固まってしまっているが、何やらぼそぼそと呟いているようだ。何々？私みたいながさつで可愛くない女でも可愛がって貰えるのかな、とな？ふむ。可愛がって貰えるとは思うが、憧れ程度の思いで主に集ってこられるのは迷惑でなぁ？もう少しその思いを育んで、愛と言えるものになったなら考えてやらんでも無いがなぁ？
碧はニヤニヤと二人を見ている。
どうやら、私に似て人で遊ぶことに楽しみを見いだせる類の人間のようだ。同好の士を発見した。固く握手を交わす。
「アレがご主人様へ抱いている感情が愛情にまで育ったら、しっかりけしかけてやっとくれよ」
「まぁ、考えておいてやろう。ただ、一番の蝶は私だがな？」
「別に何番でも良いのさ。アレが思いを遂げられるならねぇ」
「碧自身もそうではないのか？」
「私は別に良いのさ。アレのところにご主人様が通ってくるようになったら、ちょいとお裾分けして貰えばいいんだからねぇ」
「成る程、強かなことだ。その時、主はどんな顔をするのかな？」
「何だかんだと言って、アレは英雄なのさ。色を好む。現状を考えれば分かるだろう？一緒に美味しく戴かれちまうだろうさ」
「……嬉しそうだな？碧」
「それはそうさ。私だって女だ。惚れた男に抱かれたいと思うのは当たり前のことだろう？」
「まぁ、そうか。しかし、強敵になりそうだな」
「それは安心してくれて構わないよ。私は別にアンタ達のようになりたい訳じゃ無い。死ぬ前に、惚れた男に一度は抱かれてみたいという程度の思いなのさ」
「……ふむ。急がねばならんのではないか？」
「まだ大丈夫だろうさ。あと10年くらいは生きて居れそうだからね。恋をすると、若返るものなのさ、女っていうものはねぇ」
「違いない」
「お前達、昼間っから何を言っているのですか！」
「馬騰、趙雲。少しその、周囲を考えて発言をだな……」
なんと、華雄に説教される日が来るとは。
碧を見ると、碧も目を見開いてこちらを見ている。
その顔がなんとも珍妙で、笑ってしまう。
碧も、どうやら私の顔が面白かったらしく、笑い始めた。
「ははははははっ。いや、これは面白いな。参った、参った！ははははははっ」
「あはははははっ。ま、まさか華雄にねぇ。あはははははっ、星、お前さんの顔、傑作だったよ。あはははははっ」
「……何が面白いのだ？」
「……ねねは何となく分かるのです」
「……？」
「……はしたない私に教経殿は……」
おお、稟がそろそろ発射するか。
「ブーッ！」
「うわっ！な、なんなのですか！これは！」
「へぇ。これが平家名物血の池地獄かい。なかなか凄いモンじゃないか」
「お、お母様！これ死んじゃうだろ！？星、何落ち着いてんだ！」
「あぁ、これはな、普通だ。いつものことだから気にしなくてもいい」
「……虹、きれい」
「いや、恋。それは汚いと思うんだが」
「……なんで？」
「……の、教経殿、私は、私は……ブーッ！」
「倒れたまま二度目の発射とは。これは二段構造ロケット……サターンIB？終に人類の技術も此処まで来たのだ！征け！アポロ7号！人類の夢を乗せて！」
「……どこに行くというのですか……」
「知らん。私に聞くな」
「宇宙空間だ。これから地球を163周する」
「うちゅうくうかん？ちきゅう？」
「何なんだい、それは」
「実は、私にもさっぱり分からん」
「……誰でも良いので、トントンをお願いします。その、意識が遠くなってきましたのもので……見える、私にも敵が見えるぞ……」
「……袁紹か？」
「知らん」
相変わらずの平家の雰囲気。
負ける訳にはいかないのだ。これを、失う訳には行かないのだ。
アポロに乗って宇宙へと旅立った稟を見ながら、そう思っていた。
……どうでも良いが、締まらないことこの上ないな。
～教経 Side～
「お～凄いじゃんこれ」
「……臭いのです」
「経ちゃん、何でこんなに牛が居るのん？」
「教経様、これは？」
「碧に言って持ってこさせたもの、その1の『牛』だ。哺乳綱ウシ目、偶蹄目の、ウシ科ウシ亜科の動物で野生のオーロックス、あぁ、これは絶滅してるンだが、を基にして、新石器時代に西アジアで家畜化されたと言われているねぇ」
「いえ、そういうことではなく……というか、何ですかその説明は？」
「学術的な牛の説明ですが、何か？」
「愛紗ちゃん、お兄さんはいつも通りのへぶん状態なのです」
「成る程」
「風、何度も言うが俺はあんな顔しない。愛紗、納得しないように。霞、笑うな」
「いやいや、こんな時やのに、あんたらはホンマ何も変わらへんのやなぁって思ってなぁ」
「いちいちこんな時用の自分を用意するほど俺は人格破綻してないんだよ」
「……教経様、破綻していると思いますが。ご自覚がないのでしょうか？」
「僕のどこが破綻しているって言うのさ！」
「主に、そういうところです」
最近愛紗がお母さんみたいだ。
「……教経様、何か折檻でもされたいようなお顔をなさっておられますが、折檻致しましょうか？」
ま、まさか此処にも乳タイプが！もとい、ニュータイプが！
流石に愛紗だ。良い乳、良い尻、良いふともも。
乳！尻！ふともも～～～～～！！！！！
乳！尻！ふともも～～～～～！！！！！
乳！尻！ふともも～～～～～！！！！！
乳！尻！ふともも～～～～～！！！！！
乳！尻！ふともも～～～～～！！！！！
はぁ、はぁ……。
ふと、目の端に風が映る。
……うん。頑張ってくれ。風。俺も頑張る。
「……お兄さん、何となく風に喧嘩を売っていませんか？」
「大丈夫だよ、風。風はこれから大きくなるかｒ ヘブッ！」
「オ ニ イ サ ン ？」
「いやいや、俺が好きなのは、風みたいな女の子なんだよ？風」
「それはわかっているのですよ。お兄さん」
……ヘルメットがなければ即死だった。
何か額に刺さっている気がするが気のせいだろう。うん。気のせいだ。
此処はギャグパートだ、何とか致命傷に止めることが出来たはずだ。
……？致命傷に？あれ？ヤヴァイんじゃね？
「ア、アニキ～、も、もう、駄目だぁ～」
「の、教経様！？」
「やれやれだぜ、なのです」
「……第三部ではそれが正義だ……グハッ」
「つ、経ちゃん、経ちゃん！？」
「……」
「だれかたすけてください～、なのです」
「……ひ～とみ～をと～じてぇ～」
「……死ぬんならはよ死なんかい！」
「おうふっ！」
扱いが、ちょっと酷いんだねぇ？この世界。
この碌でもない、素晴らしい世界は。
あ～、缶コーヒー飲みてぇ。
は？一寸皆さんこっち向いて下さい？
あ、知ってる知ってる、これあれだろ？トミー・リー・ジョーンズ的に考えて。
ピカッと光って記憶ｇ