〜詠 Side〜

「……良くそんなこと思いついたわね」

洛陽の城内で、郭嘉と程cから策の内容を聞いた私の感想だ。
自分たちが集めた糧食を、敵領内の困窮した民に施して流言を飛ばし、士気を落とす。その効果は覿面だろう。
曹操との密約。月の命そのものを心から欲している曹操にそれを諦めさせる。その事で月の生存率を上げる。
どちらも、考えついてもボクには実行できないわ。前者は糧食と時間が不足している。後者は、曹操にその要求を呑ませるだけの代償を提示することが出来ない。アイツだからこそ出来たことね。

聞けば、最初からこれあるを見越して準備をしてきたのだと言う。

「それにしても、反董卓連合に参加して名声を得る方がアンタ達にとって得なんじゃない?どうして袁紹達と事を構えようと思ったのよ」
「詠ちゃん、助けて貰ってるのにそんなこと言っちゃ駄目だよ……」
「……賈駆っち、ホンマは嬉しゅうて仕方がない癖に」
「べ、別にボクは嬉しくないわよ!」
「話しても良いですか?」
「……ええ、ごめんなさい」
「では、稟ちゃんからどうぞ」
「教経殿に反董卓連合に参加しない危険性を説きましたが、教経様が断固として諌言を拒否した為です。教経殿には今述べてきたような策があった為に、勝算が立っていての決断だったのでしょうが」
「……そう」

アイツが、自分でボク達を助けるって言ったのね……。べ、別に嬉しくなんか無いわよ。

「まあ、どうして助けようと思ったのか、という話になると、お兄さんが平家の頭領として譲れないことだから、と言ったからですが」
「平家の頭領として譲れないこと、ですか?」
「はい。『見義不為、無勇也』。義を見て為せる男こそが平家の頭領として相応しい。そう仰っておられましたから」
「実際の戦をどう推移させるか、という点については、お兄さんに直接確認して貰った方が良いのですよ」
「分かったわ」

『見義不為、無勇也』。
そんなことを本気で考えて貫こうとするなんて、馬鹿ね、アイツ。
……ま、まぁ、口だけの奴なんかに比べれば遙かに好感が持てるけど。

あの日の、横顔が目に浮かぶ。あの厳しくも柔らかい目の光。
……『見義不為、無勇也』、か……様になってるじゃない……













〜教経 Side〜

「勝負しろ!平教経!」
「いやいや、経ちゃん、ウチとやって貰わんと困るで?」

皆様こにゃにゃちわ、幸田シャーミンです。
たった今入ってきたニュースです。

平教経を巡って、二人の痴女がヤるとかヤらないとか卑猥な言い争いをしている模様です。いっそのこと『や ら な い か』と言って貰いたいものです。
一方は袴の下に何も履いていない痴女。もう一方は胸甲の下に何も付けていない痴女。もう寒い季節なのに、変態というものは本当に元気ですよね。
NO 痴女、NO LIFE。あ、これだと痴女大好きフリスキー的な感じになっちゃうね。皆様はお気を付け下さい。
幸田シャーミンでした。それでは皆さん、ごきげんよう。

「……アンタ今変なこと考えているでしょ?」

はい。考えております。ツンデレラ様。

「いや。考えてない」
「……何か今もの凄くむかつくこと考えてなかった?」

まさか、そんなことはありませんよ、ツンデレラ。

「いや、そんなことないって言ってるじゃないかね?」
「……さっきからアンタが受け答えする前にこう、イラッと来るんだけど?」

そんなことあるわけないじゃないですか、ははは。

「しつこいね、このツンデレラは。ニュータイプって怖いよね」
「……何か知らないけどとにかくアンタが巫山戯たこと言ってるのはよく分かるわ」

あ、逆だった。思考と発言が。

「いやいやいやいや、褒めてるんだって!褒めてるんだって!賈駆!可愛いって言ってるんだよ!」
「なななな何恥ずかしいこと大声で言ってんのよ!飛んでけ!」
「ヘブッ」

……お前さん、それ香ちゃんハンマーじゃ……新宿の種馬的に考えて……100tってどういうことだよ……俺より強いんじゃないかね、そんなモン持てるって……むっ!……今、秋葉原でボクっ娘眼鏡っ娘ツンデレ喫茶を開いたら儲かるんじゃないかとかいう天啓を授かった……設定料金は……そうだな個室で一時間5万円だ!どうだ、来る奴いるか!?……何か来そうな気もするな……俺が行きそうだからな……












「では、平!私と戦って貰うぞ!」

どうやら『や ら な い か』競争で華雄が勝ったらしい。
アッー!

「はぁ、いいけど、話にならないと思ってるンだがね?」
「まぁそうだろうな!この私に貴様のような軟弱な男が勝てる訳もあるまい!」

いやいや、俺はノンケだって構わないで喰っちまう男なんだぜ?
……おぇ……無理無理。

「なっ、貴様!」
「あ〜愛紗、落ち着け落ち着け。軟弱でも『貧弱!貧弱ぅ〜!』でも構わんがね。勝手に決めないで貰えないかね?俺は昼寝したかったんだが」
「ハッ、貴様、世に冠する武を持つと言われているが、たいしたことはないな!」
「まぁ、そうかもねぇ」
「張り合いのない!貴様を仕込んだ師も実に下らぬ奴だったのだろうな!はっはっはっはっは」
「あっ」

……へぇ。

「?愛紗、どうしたんや?」
「……教経様の前でそのお師匠様の悪口を言うのは、星でさえ、例え冗談であってもしない。何故なら、殺されるからだ」
「こ、殺……じょ、冗談やろ?」
「……私は馬鹿にした訳ではないが、馬鹿にされたと感じた教経様に殺されかけた事がある。その時星も死ぬかと思ったと言っていたが」
「……ほ、ホンマか……」
「……ちっと耳が遠くなったのかも知れんのでね、もう一度、言って貰えるかね?」
「何度でも言ってやろう!貴様も貴様の師も、下らぬ奴だ!はっはっは!どうした!悔しいのか!」
「……その下らぬ俺からの忠告だがねぇ。お前さん、自分が強いとでも思っているのかね?」
「当たり前だ!私は最強の武を有しているのだからな!」
「……どうやらお前さんに足りないのは危機感みたいだねぇ」

……董卓軍の将で戦前だ。殺すのは我慢してやるがねぇ、かなり痛い思いをして貰うぜ?

「の、教経様!絶対に殺さないで下さい!」
「か、華雄、直ぐに謝らんかい!このド阿呆が!」
「……外野は、黙っててくれないかね?」

あんまり五月蠅くするようなら、一緒にお仕置きするしか無いがね?
そう思って二人を見やると、黙ってうんうん頷いている。
……まぁ、分かってるさ、愛紗。殺しはしないよ、殺しは、ね。

「ふんっ、少しは出来るのかも知れんが、たいしたことはない!」
「ご託は良いから、掛かってきてはどうかね?」

華雄が戦斧を振り下ろしてくる。
……遅いねぇ。力はありそうだが、力があるだけの馬鹿に負けるはずもないだろう?
一歩。たったの一歩。だがそれだけで十分なんだよ。

「何!?」
「……別に大した事じゃないだろう。ただの『一寸の見切り』だ。それとも、お前さんの武芸の師は、こんな事も教えてくれなかったのかね?大した事のない、下らぬ俺の師匠でさえ教えてくれたことなんだがねぇ?」
「貴様!我が師を侮辱するか!」
「……貴様にはそれを言う資格なんて無いンだって事を嫌って程教えてやるよ」

清麿を抜き放つ。勿論、峰は返さない。

「!」
「惜しいねぇ、もうちょっとで腕斬ってやったのに、どうして避けたんだね?」

言いながら清麿を鞘に収める。
良く避けたな。ただの阿呆でもなさそうだ。それなりに使う訳だ。
……だが、それとこれとは話が別なんだねぇ。

「き、貴様!私を本気で殺すつもりだったな!?」
「……通信簿に良く人の話を聞きましょうって書かれた口か?腕斬ってやるって言っただろう?死にはしないさ。今回の戦に参加するのは無理になるだろうがねぇ?」
「私も貴様を殺すつもりで行くぞ!死ねぇ!」

……本当に人の話を聞かない馬鹿だねぇ。
今度は下から、か。
懐に走り込む。

「間に合うと思っているのか、馬鹿め!」

……俺の狙いが何か分かって居るのかねぇ。俺の狙いは、お前さんが戦斧を握っている右手の指を踏みつけてやることなんだよ。馬鹿めが。

「グッ!」

握った指を踏まれると、鉄の柄で挟まれて激痛が走るだろう?
そうすると、当然持っていられないよなぁ?
そのまま、清麿の柄で顎を跳ね上げてやる。口は災いの元っての、教えてやるぜぇ?

ぬるぽ。

「ガッ」

良くできました、ねぇ。
……ちゃんと「ガッ」出来たから、この程度で済ませてやるよ。顎の骨が折れてるかも知れんがね。










「……なぁ、愛紗」
「なんだ、霞」
「ひょっとして、経ちゃんってもの凄く強ないか?」
「……当然だ、私も星も一度も勝ったことがないのだから」
「へぇ〜。なんや愉しみやな」
「……霞?」
「経ちゃん、次はウチやで!」

……華雄で終わりじゃないのかよ。

「多少疲れたんだがね?」
「汗もかかんとよぉ言うわ」
「……殺すのを我慢するのに疲れてるんだがね?」
「……さよか……」
「で、霞、お前さんも死にたいのか?」
「ウチは経ちゃんの師匠を馬鹿にはしてへんよ!?そして華雄は死んだんか!?」
「……冗談だよ、冗談」
「……今言うたら冗談にならへんって」
「んじゃ、やるかね?」
「よっしゃ、やったるで!」

霞が偃月刀を構える。
……結構、いや、かなりやるね。隙が見えない。華雄とは格が違う、か。

「ほな、行くで!」

偃月刀で突いてくる。星と同等くらいの疾さだ。
見切って避けようとして、大きく後へ飛び退る。
目の前を、偃月刀が横に通過する。突きから、薙いだのか。

「……危ないな、霞」
「……アレを躱すんかいな」

続けて霞が前に出てくる。
横に大きく振ってくる偃月刀を見切って躱し、懐へ。
が、直ぐに偃月刀が戻ってくる。
もう一度、飛び退る。
その俺に向かって、偃月刀で突いてくる。今度は、薙ぎの動作から突き、ね。
これはリーチの差が大きいと厳しいねぇ。

後に倒れながら、突いてくる偃月刀の柄をつかみ取って霞の左手の指を蹴る。

「くうっ」

……成功した。が、羽織が破れている。いや、斬られている。
本当に、疾い、な。

「やっぱりやるなぁ、経ちゃん」
「そりゃお前さんの方もだねぇ」
「けど経ちゃん、まだ本気出してないやろ?」
「本気は本気だ。けど、命の危険を冒してまで勝負に出るつもりがないんだよねぇ」
「いやいや、そうやない。まだなんかあるやろ。態度に余裕がありすぎやで、自分」

……観察眼も一流か。凄いな。

「見てみたいかね?」
「あぁ、是非見せて貰いたいわ」
「……じゃぁ、いくぞ?」
「掛かってきぃ!」

100%中の100%!!!
瞬動に入る。霞の顔が驚愕に歪む。まぁ、皆そうなるだろうな。この疾さで動くってのは人間止めてますって宣言してるのに等しいだろうからねぇ。
霞の左腕を強く打とうと、右上段から左下へ清麿を走らせる。勿論、峰を返して。
だが、霞はこの速度にほんのわずかだが反応して腕を動かし、打点をずらした。

「いっ」

……確かに打ったが、打点をずらされるとは思わなかった。愛紗も星も最近漸くある程度反応することが出来るようになってきたものに、いきなり反応してきた。
だがね、霞。俺はこの速度で動き続けることが出来るんだよねえ。
そのまま、霞の後を取り、右腕を脇下から回して前から首筋に清麿を宛がう。こう、太刀で自害する時に首をはねるような形で。

「……チェックメイト」
「……なんやよう分からんけど、ウチの負けやな」
「そうだねぇ。だが、霞。凄いな」
「なにがや?」
「打点をずらしただろ?いきなり対応されるとは正直思ってなかったんだよ」
「はは。なんの自慢にもなれへんわ。でもまぁ、おおきに」

霞は凄いね。『張来来』ってのが怖かったのは理解できた気がする。

「……ところで経ちゃん」
「ん?」
「いつまでこの格好でおるん?」

あ、密着してたの忘れてた。……良い香りするね、霞。

「あぁ、済まんね。直ぐに離れるよ」
「まぁ、別に構わへんよ?そんなにウチと密着しとりたいんやったら、夜ウチの部屋にでも来るか?」

……お前さん、そんなこと言ったらヒョードル様が……

「霞?教経様を誘惑するのは止めて貰おうか?あと、教経様?誘いに乗ったらどうなるか、分かって居ますよね?」
「あ、あはは。愛紗、冗談やって。冗談、な?」
「はい!分かっております!」

……冗談でも言うなよ、霞……