〜教経 Side〜
愛紗が俺たちの同志となってから、なんだかんだでもう二月経った。
その間に、太原郡、楽平郡、新興郡、西河郡の4郡に巣くっている賊を、次々に討伐していった。やはり、将が増えたことで軍の行動範囲が飛躍的に伸びたことが大きい。また、討伐を繰り返して名前を上げれば上げるほど旗下に参じる兵も、商人が献じてくる金も増えていった。それも、討伐が順調にいった主要因として挙げられるだろう。
そろそろ、地力はついてきたと思う。
黄巾の乱が何時発生しても、何とかなるだろう。食糧自給率的に考えて。
そんなある日、風が書状をもってきた。
「お兄さん、袁紹さんからお手紙が来ているのですよ」
お手紙って風さん……ラジオか何かじゃないんだから。
袁紹って、あの袁紹か。何の用だ?というか、男じゃないんだろうなぁ、多分だけど。
本番入りま〜す。
え〜、何々?
初めまして教経さん。
はい、初めまして。
私は名族である袁家の袁紹ですわ。
俺は歴史上最も有名な負け組、平家の教経ですわ。
この度、常山に巣くう汚らしい賊さん達を討伐することに致しましたの。
太原にはもうおりませんので、討伐できませんのことよ。
ですから、貴方にこの私を手助けする名誉を与えて差し上げますわ。
はぁ、面倒くさいので謹んでご遠慮申し上げますわ。
ついては、雪融け花芽吹く頃、常山で合流しなさいな。
何時だよ。常山のどこなんだよ!お前は馬鹿か!死ね!
お〜ほっほっほ。お〜ほっほっほ。
あ〜ほっほっほ。あ〜ほっほっほ。
袁紹
教経
はいカーット!
「……風、俺は寝る」
「ぐぅ」
「先に寝るな!」
「おぉ、吹きすさぶ寒風に誘われて〜」
「……凍死するぞ、風。誘われるんじゃない、そっち行ったら死ぬぞ!そして、漸く今が春だよ。麗らかな〜とか言ってたのが漸く今なんだよ!」
「まぁ、そんなことはどうでも良いのです」
……振っといてこれかよ。まぁいいよね、かぁいいもの。
「風、こいつ、真性と書いてホンモノって読む馬鹿なの?」
「はい〜そうですよ〜」
「やっぱりねぇ。じゃぁ無かったことにしようか」
「教経様!何を仰っておられるのですか!使者殿が目の前に居られるのですよ!風、貴女も全力で肯定するのは止めて教経様をたしなめて下さい!」
「見なかった奉孝で、あ、これじゃ稟だね、方向でお願いします」
「教経殿、お呼びでしょうか」
「いやぁ、稟ちゃんは可愛いよねぇ。眼鏡クイクイして欲しいンだよねぇ」
「教経様!」
「こうでしょうか」
「稟、お前も何をやっているのだ!」
「やるねぇ、流石は郭奉孝。俺の弱点を知り尽くしているねぇ。そこに痺れる!憧れるぅ!」
「……」
「俺は眼鏡属性持ちなんだよねぇ。そして、麦茶が好きなんだよねぇ」
「 ノ リ ツ ネ サ マ ? 」
おお、愛紗・・さん・・的存在も目覚めてしまったようだねぇ。やはり俺にはハンターブリーダー的な才能が豊富にあるようだねぇ。しかもどうやら、心の叫びって奴がちょいと漏れてた様なんだねぇ。ほんの一文字ほどダダ漏れたみたいなんだよねぇ。一文字だからそれほど問題はないと思うんだよねぇ。
俺は操作系だ。強化系とは相性が悪い。ここは一旦引かせて貰うぜ?
あばよぉ〜とっつぁん!
って。あら?躰が宙に浮いていて移動できてないみたいですな。
「 ノ リ ツ ネ サ マ ? 」
「ははは、愛紗、いつもの冗談じゃないかね。大丈夫大丈夫、ちゃんと話聞くから大丈夫だよ。愛紗〜今日も相変わらずの良いt……力瘤してますねぇって ヘブッ!」
「……こいつらに頼むって、姫、本当に大丈夫かぁ?確かに一人もの凄いのが居るのは分かるんだけどさ……」
使者がそう、失礼なことを言っていた。
「待たせたな、俺が平教経だ」
「……いや、アレを無かったことにするのは流石に無理だと思うんだけどなぁ、あたいは。顔が半分腫れてるし……」
「……待たせたな、俺が平教経だ」
「……あたいは文醜ってんだ。宜しくな、御遣いの兄ちゃん」
「な!貴様!教経様に何ということを!」
「まぁまぁ愛紗、これでお相子に出来るだろ?」
「な、なるほど。教経様の深慮遠謀には恐れ入ります」
何となくまた勢いで変な方向に行きそうだから用件だけは済ましておこう。
「で、さ。文醜つったっけ?」
「おう」
「これさ、もうそろそろ春だから頭がちょいとアレな感じの人になっちまったって事でイイの?」
「……いや、姫はいつもそうだから」
「……要するに病気なんだね?」
「あたいはそんなこと言ってないからな!」
ふむ。会いたくない人NO.1的存在な気がする。各種雑誌アンケート的に考えて。
「で、これ何時なのよ。そしてどこなのよ?」
「えぇっと〜、あ〜これに書いてあるよ」
ほうほう。
「成る程。何でこれ最初に出さないんだよ、文醜。頭かち割るぞ?ダンクーガ、清麿もってこい!」
イイ笑顔でそう凄んでやる。吃驚してるみたいだな。
「はいよ、大将」
「の、教経様。殺気をお納め下さい。断空我殿も空気を読んで下さい」
「俺は断空我じゃねぇよ!」
「ではどうして来たのだ!」
ん?おぉ!気がつかなかった。
ダンクーガぁ、お前こんなとこでなにしてんだよ。
あっち行ってろ、しっしっ。
「すまんすまん。文醜、済まなかったな。だがこの次は済まさないからな?」
「わ、わかったよ、御遣いのアニキ」
アニキ、だとぅ!?
それだと俺がビルダーみたいだろうが!ドイツ、ドイツ、ジャーマン!
プロテイーン!ビルドアーップ!ビルドアーップ!
そら〜必殺のポージングだぁ〜!
いいよいいよ〜、キレてる!キレてる!
「……なんかまたおかしくなりそうな雰囲気だから、あたい帰るよ」
「……申し訳ありません。文醜殿、しっかりと教経様には反省させてオキマスノデ」
「さいならぁ〜」
とりあえず、出兵することになったんだとさ。後から聞いた話だと、だけど。
「さて、教経様」
「はいっ、もうしません!」
「いえ、教経様?」
「ん?あれ、俺どうしてた?」
「ずっとここに座っておられました」
「そっか」
なんかさぁ、変な夢見てたんだよねぇ。愛紗にマウントポジション取られて殴られ続けるとか、どんな夢なんだよ。ヒョードルに見えたわ。
「んで、なんだっけ?愛紗」
「はっ、この度の出兵に伴う兵ですが、5000程で如何でしょうか」
「……防備の方は大丈夫なのか?」
「主、この星と稟が防備に当たるのですぞ?3000もあれば十分でしょう」
「ご安心下さい、教経殿」
まぁ、二人がそう言うんなら大丈夫だろう。
「はぁ、で、何時出発になるんだ?」
「二週間後に出発することになりますね〜」
「補給物資は?」
「既に準備できていますよ〜」
流石に、優秀だねぇ。圧倒的じゃないか、我が軍は!てか。
「んじゃ、行ってみようか、馬鹿の顔でも眺めに、さ」
「はっ」
愛紗、そこは否定してあげても良いと思うんだよねぇ。
否定しようのない事実であるとしても。
〜愛紗 Side〜
「お待ちしておりました。天の御使い様の軍、で宜しいでしょうか」
「あぁ、それで宜しいんじゃない?」
「私は、顔良と申します。宜しくお見知り置き下さい」
「俺は平教経だ。宜しく、顔良」
「では、こちらへどうぞ。麗羽様がお待ちです」
「案内ご苦労さん」
指定の場所で、袁紹軍と合流した。
申し継ぎの者として出てきた顔良という者に案内されて陣中を行く。
「愛紗」
「はっ、なんでしょうか教経様」
「そう警戒するな。大丈夫だ、殺気出してる人間も、俺を殺せるほどの武勇を持った人間も居ねぇよ、ここには」
「そういうわけには参りません。教経様は我らの旗印なのです。ここで喪っては星や稟に申し訳が立ちません」
そういうと、教経様はやや呆れていたが、警戒することを止めるように言わなくなった。
……当然だ。教経様を喪うわけにはいかないのだ。
「麗羽様、平教経様をお連れしました」
「入ってきて宜しくってよ」
そう言われて中に入る。
袁紹。字を本初。
三公を輩出した、歴史的な名族の家長だ。
冀州を中心に強大な勢力を誇っている。
のだが。
「お〜ほっほっほ。この度はよくいらっしゃいましたわね〜教経さん」
……これはなんだ。
「あぁ、良く分からんお手紙有り難うよ、袁紹さん」
「まぁ!?あのすばらしい文章が理解できなかったのですか?全くこれだから得体の知れない人間は駄目ですわ〜。その点私は名族である袁一族出身ですから、あの程度の文章は簡単に理解できるのですわ〜。お〜ほっほっほ」
教経様を侮辱したな……?
「あ〜ほっほっほ。んで、賊共の勢力・布陣は?」
教経様が、怒りに震えていた私の右肩を抱きこちらを向いて右目を瞑って笑いかけている。
……まともに相手をするな、ということですね、教経様。
……ところで、その、少し、恥ずかしいのですが……
「あ、はい。こちらになります。現在、黒山賊約10000がこの本陣に向かって移動中との報告を受けています。それに対し、我が軍は縦深陣を布くことで出血を強い、敵の勢いが衰えたところで包囲。殲滅することを目的とします」
「な〜にを言ってらっしゃるのかしら、斗詩さん。華麗にやっておしまいなさ〜い」
「ふ〜ん。あんたも大変そうだねぇ。上司がこんなだと」
「あ、あははは……」
……何となく、他人のような気がしない。
「で、俺たちは遊撃でいいんだよな?」
「はい、それで構いません。お互いの軍の特徴を把握していない状態で連携した行動は不可能だと思っていますので。それであれば、最初から方針を確認した上で個々に動いた方が良いと思います」
成る程、この顔良という者は、なかなか軍略に明るいようだ。
「了解、了解っと。んじゃぁ、こっちはこっちでこれから北側山中へ移動するわ」
「北側山中ですか?」
「そうそう。袁紹軍が華麗じゃない賊共の攻撃を、華麗に耐えている所へ、俺たちのみすぼらしい軍が突撃するのさ。で、俺たちのみすぼらしい軍が苦戦している所を、華麗なる袁紹軍が華麗に助け出して賊を撃退するっていう筋書きだねぇ」
「あら、貴方なかなか分かっていらっしゃいますわね〜。褒めてあげても宜しくてよ?お〜ほっほっほ。お〜ほっほっほ」
「いや〜お褒めに預かり光栄で御座いますなぁ〜。馬鹿めが。あ〜ほっほっほ。あ〜ほっほっほ」
……教経様、それは言いすぎだと思います。そしてなぜ袁紹は気がつかないのか……はぁ。
「お〜ほっほっほ」
「あ〜ほっほっほ」
開戦の刻は近い。
だが、力が……入らないのだが。
力なくうなだれる私の肩に、顔良が手を置いて顔を横に振る。
……お互いに、苦労しているな。
そう苦笑いをして、未だ笑い?の収まらぬ二人をおいて陣屋を出た。
……放っておくしか無いのだ。