〜星 Side〜
怪我が完治し、鈍ってしまった躰を鍛え直して現場に復帰することになった私が一番初めにやったことは、新しく同志となった愛紗と手合わせをすることだった。真名は、同じ主に仕えることになったのであるから、とそのことを伝えられた時に交換してある。
主との撃ち合いを見る限り、かなりの腕前であることは分かっていた。是非、試してみたい。主以外の猛者と手合わせをして、自分がどれほどの者なのかを確認したい。先方でも、自分が打ち倒されようとした時に素早く飛び込んだ私の腕前に興味があるようで、手合わせを申し込むと一も二もなく同意してきた。
「さて、愛紗よ。私の槍、見事に捌ききれるかな?」
「星、私を見くびるな!この私の偃月刀の業を以て勝ってみせる!」
ふふっ。気負っているようだな、愛紗よ。
だが、私とて主と鍛錬をしてきたのだ。そうおいそれと敗れるわけにはゆかぬ。
まず、速さに重点を置いた突きを続けざまに放つ。
躱せるかな?
そう見ていたが、愛紗は躱すのではなく長刀で跳ね上げて来た。
……流石にやるようだ。
「ほうっ、愛紗、私の槍に合わせるとはなかなかやるようではないか」
「何度も言わせるな!私を見くびって貰っては困る!」
だが。跳ね上げた事で重心がやや右に傾いているぞ?愛紗よ。
跳ね上げる力を利用して槍を大きく回し、右足を薙ぐ。
これは長刀に阻まれる。
「次は私の番だ!」
そういいながら長刀を振るってくる。やや左上から右下へ。
凄まじい速度だ。
私をのけ反らせ、返す刀で足を打つ。そういうことだろうが、主との死合いで、そういう場合の対処は理解したつもりだ。
前に出る。主が丁度そうしたように。
愛紗はどうやら驚いているようだ。この状況で前に飛び込める人間が果たして何人いるだろうか。だが、愛紗よ、私はその何人かの人間になったのだ。主と死合ったことによって。
「くっ」
「貰った!」
槍の石突きで、愛紗の鳩尾を突く。だが、愛紗はそれを躱そうとせず、相打ち狙いで長刀を短く持ち直し、そのまま薙いでくる。
「ぐっ」
「むっ」
……やられた。最期の最期に油断をした。
まさか、相打ち狙いで来るとは思っていなかった。油断無く、攻め立てていたのに。
主の前で勝てなかった。それが一番悔しい。
「それまで、だな。二人とも、流石の武技だ。眼福だったよ」
「「はっ」」
「でもなぁ、星、最期、油断したろ?駄目だなぁ星。次はしっかり勝てるように鍛錬しないとなぁ?」
……主は最近意地悪だと思う。が、どうやら主と一緒に鍛錬する口実が出来たようだ。その機会は掴んでおく必要があるだろう。……ここは素直に伝えるとしてみようか。
「そうですな、主。一緒に鍛錬して頂きますぞ?」
そういうと、素直な言葉に少し驚いたような顔をした後で、主が嬉しそうに笑う。
「だな。星、手加減はしないからな?」
「瞬動は、おやめになって頂きますぞ?」
「いや、手合わせってのは、本気でやらんとえらい目に遭うってのをこの間実感したばかりだからなぁ?それは聞けない相談だろうさ」
「はは、主。それとこれとは話が別物で御座いますな」
「いやいや。星、絶対に使うからな」
「主?使わなかった場合の益が、お分かりになっておられないようですな?」
そういって、ひらりと裾をめくって太股を露わにしてみる。
「うん、使わないよ。使わない」
「宜しい」
怪訝そうな顔をして愛紗がこちらを見ている。まぁ、この娘はその手のことに鈍いようだしな。顔合わせの時に話をした限りでは、今はまだ主に女として恋い焦がれてはいないようだが、さてはて、いつまで耐えられるのかな?我が主は、誠美しい花であるからなぁ。
……一番の蝶が、この私であるのは譲りはしないが、な。
〜風 Side〜
「風、関羽が俺に仕えてくれることになったぞ」
練兵を視察し、町へご飯を食べに関羽さんと出かけていったお兄さんが、そういいながら嬉しそうに帰って来ました。お兄さんは、本当にどうしようもない人です。可愛いから、誘ったに違いないのですから。風が気がついていないと思っているのでしょうが、お兄さんが関羽さんの胸、お尻、太股に並々ならぬ興味を持っている事は既に判明しているのです。稟ちゃんが眼鏡をくいくいするのを眺めているのと同じ顔をして、関羽さんの躰を、それこそ舐めるように見ている時があるのです。
本当に仕方がない人です。これでは本当に色狂いなのです。
惚れてしまった風が、悪いのですが。
「そうですか〜」
「それは重畳です」
稟ちゃん、気がついていない様ですが、お兄さんは関羽さんが大好物なのかも知れないのですよ。
警戒しながら関羽さんを見ます。
む〜、いやらしい躰をしてお兄さんを誘惑するとは、とんだメス豚なのです。
でも、風だって負けてないと思うのですよ。お兄さんは変態さんなので、風のような体つきの娘が大好きなはずなのです。
「……何か今もの凄く謂われのない悪口を言われている気がするんだが。誰かに。どこかで」
とうとうお兄さんが壊れてしまったようです。前から壊れているのは知っていましたが、まだ半壊程度だったのですよ。それが、全壊に格上げされたようなのです。
お兄さん、風が、今、ここで、言っているのですよ〜。心の中で、ですが。あんな事をしたのですから、十分に謂われはあるのですよ。
「改めて、私は、姓は関、名は羽、字を雲長。真名は愛紗と申します。今後、宜しくお願い致します」
「風は、姓は程、名はc、字を仲徳。真名は風なのですよ。宜しくお願いされるのですよ。愛紗ちゃん」
「私は、姓を郭、名を嘉、字を奉孝。真名は稟と申します。こちらこそ、宜しくお願い致します」
少し、お話をしてみる必要がありますね〜。
自己紹介を一通り終えた私達三人は、女同士交流を深める、という名目で集まってお話をしています。星ちゃんの部屋で。なので、正確には、四人でお話をしているのですが。
「教経様が想っておられる理想の世の中、というものは本当にすばらしいと思います。私は、我が武を、その世界を顕現させる為に振るいたい、そう思ったのです」
なぜ、お兄さんに仕えることに決めたのか。そう聞いてみると、迸るようにお兄さんが語った夢、皆が『平凡な人生』を送れる世の中にしたい、を語った後、愛紗ちゃんはそう言いました。……お兄さん、どんな顔をしてその夢を語ったのか、何となく風には想像がつきます。もの凄く、こう、胸が締め付けられるような感じがするのです。お兄さんのことを、もっと好きになった、そんな気がします。
一通り、互いの出身地や育ちなどの話に華を咲かせた後、今日は解散、ということにして愛紗ちゃんには部屋に帰って貰ったのです。
「……で、風。どう思う?あれは、主に恋い焦がれるようになるかな?」
流石は星ちゃんです。風が愛紗ちゃんを部屋に戻した意図をよく分かっているのです。それでこそ、お兄さんの一番を争う好敵手なのです。
「そうですね〜お兄さん、多分最初は凛々しい顔をして、遠くを見ながら切なそうに理想を語ったに違いないのですよ。とんだスケコマシなのです。風や稟ちゃん、星ちゃんもあの顔にあっけなくおまたを開いてしまったのですから、愛紗ちゃんも時間の問題だと思うのですよ」
「ふふふふふ風!」
「駄目ですよ〜稟ちゃん、お兄さんとの情事を想像しては」
「あ、ああ貴女はなんてことを……」
そういいながら、稟ちゃんは妄想という名の目眩く世界への入り口の扉の前で準備万端のようです。
あ、旅に出たようです。
久しぶりの宇宙の旅、愉しんでくると良いのですよ、稟ちゃん。
「たたた、確かに、教経殿と、その、ああいうことになって……しかも風と二人でその……ああ、駄目です教経殿……そこは……その……あぁ!いけません!……いけません、教経殿!そう言う私に教経殿は……あぁ……」
「ふむ、久しぶりだな」
「そうですね〜経験を経て、稟ちゃんの妄想に磨きが掛かったと思うので、もの凄いものが見られるのではないかと風はわくわくしているのですよ」
「……風、ここは私の部屋なのだが?」
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
「いや、血なまぐさい部屋で療養など、私は御免被りたいのだが」
「……稟ちゃんの鼻血を、お兄さんに掃除して貰えばいいのではないかと風は思うのですよ」
「……成る程。だが風、敵に塩を送るとは、どういうつもりかな?」
「あのいやらしい躰をしたメス豚からお兄さんを守るのですよ〜星ちゃん。風達は、運命共同体なのです」
「……まだ躰の完治していない星を教経殿は荒々しく……な、なんということを……あぁ、でもそれは……ひぃ!そのようなことまで……星、何故貴女は平気なのですか!……」
「そろそろなのです」
「うむ。だろうな。実況が最高潮だ」
いちばんせんから稟ちゃんが発射します。
「ブーッ」
「おぉ!稟ちゃん、世界記録なのですよ。おだゆうじも吃驚なのです」
「これはまた凄まじいな……」
どこからどう見ても惨殺現場。覚醒した稟ちゃんの妄想力は、本当にすごいものなのです。