俺の名前は平教経。
名前でわかると思うけど、一応平家の末裔なんだとさ。
家には家系図があるし、本当だと両親にも一族にも言われたけど、旨く作ってあったよ、あの巻物。
確かに年季が入っていたけど、偽物だと思う。そう判じる根拠も持たないから口外しないけど。

あぁ、一族ってのは、周りの家の皆様ね。
うちの家から分家していった家で、20軒はある。
うちの家が山の上、というか石垣があるから城跡?にあり、その周りを囲むように
分家がある。
集落への唯一の入り口となる道には見張りを担う家があり、その家には鐘があって
侵入者があることを知らせる事が出来るようになっている。

そんな感じで普通の家じゃないとは思うけど、普通に両親の愛情を感じて、
価値観なんかは普通の人間と同じようなものを持つように育ったと思う。

異常なのは、分家の爺さんが小野派一刀流の免許皆伝だったことと、
その爺に小さい頃からおかしな鍛錬をさせられて、今じゃ立派に人外認定されても
おかしくない位身体能力というか、剣の腕、動体視力が高いことだ。

分家の爺さんは本当に世が世なら達人として門弟が多くいるような人だと思う。
何人か内弟子がいたが、壮年の彼らを子供扱いしていた(無手で真剣持った相手を投げてた)。

「常在戦場」
これが師匠たる爺さんの教えだ。これを教えるために、常に内弟子であるオッサン共と
真剣で立ち会いを行っていた。師匠に言わせると、殺すつもりでやって初めて人を殺すことについて実感を伴った鍛錬が出来るのだそうで、実際に何度か死にかけたし殺しかけたこともある。

とにかく、ぶっとんだ爺さんだった。

一度、拳銃を持った相手と相対した場合、どうするか?と反発心から聞いたことがあるが、
「教経ェ……残念じゃが鉄砲は真っ直ぐしか弾が飛ばんのんじゃ。
 相手が引き金引く時に避けりゃ問題ない」
と、有り難いお言葉を頂いたことがある。俺は残念でも何でもありません。
「あなたの頭が残念です」と言いたかったがそんなこと言ったら間違いなく死ねるから言わなかったけど。

一番思い出(トラウマ)に残っているのは、いきなり抜き打ちに刀で首筋を皮一枚だけ斬られたことかな……はは……あん時は穴という穴から液という液を出したなぁ……まだ4歳だぜあの時……
「殺気に慣れる必要がある」
とか言って殺気に当てられ続けてもの凄く怖い思いをさせられたりしたが、あれが殺気なんだねぇと成長してヤンキー達に凄まれた際に実感した。まぁ、ヤンキー達には暴力の世界で生きていくことを断念して貰った。O☆HA☆NA☆SHIって言うのか?させて貰ったよ。

俺自身の爺も異常で、齢5歳のかわいい孫に、「雪中行軍じゃぁ〜」とか抜かしながら朝5時から18時まで延々山の中歩かされたり……

……結構悲惨な幼少時代なんじゃないかと思ってるけど、同時にいい思い出になってる辺りが度し難い。

まぁ、その甲斐あってそこらのちんぴらが凄んだ程度じゃ何とも感じない立派な?男になったと思う。
ある程度の暴力なら何とでもなると漠然と思ってる、楽天家な俺の誕生だね。






で、成長して普通に就職して、新人歓迎会という名の暴飲暴食の宴 兼 かわいい女の子に唾付けちまおうの会をやってる最中なんだけど……なぜか会社の先輩に絡まれてるわけで……北の国から?

「だから!俺は生まれてくる時代を間違えたんだって!」
「はいはい、あ〜あ〜」
「ホモじゃねぇよ!世が世なら武将……いや君主として天下に名を残す自信があるんだってば!」
「妄想乙」
「お前だって世が世なら平家の貴公子様だぜ?戦国時代に行ってみたいとか思ったことがある口だろ?」
「お客様の中に精神科の先生はいらっしゃいませんかぁ〜?急患です〜」
「真面目に話をしているんだよ!実力主義だとか言いながらそんなことないこんな時代じゃ……」
「POISON?」
「テメェ先輩様を舐めてんのか?あぁ?」
「うわぁ、後輩に『舐めろ』ですって奥さん、最低ですわよこの男」
「……場所考えて言えよ、平」
「しっぶ〜や!しっぶ〜や!」
「はぁ、もういいや」

お諦めになりましたか。
家柄が家柄だけにそういう話を振ってくるやつが多すぎなんだよねぇ。まったく……

「おい平」
「へ?」

振り返ると先輩達がいい笑顔で酒瓶を両手に持って大挙してきた。









「とにかく飲め飲め」
「っぷはぁ〜」
「いいねぇ。こいつノリがいいし酒も飲めるし。いやぁ〜いい新人引いてきたな今年は!」
「それほどでもないっすよ」

〜2時間後〜

「そらそら、まだまだ酒はあるんだから、ジャンジャンバリバリ飲んでいこー!」
「それwwwwwパチンコwwwww」
「頭の回転早いなこの馬鹿wwwよし、俺のボトル持ってきてー!」
「来た、下町のナポレオンwwwwいいwwwwwwちこwwwww」
「今日は寝かさないからね?wwwwwww」
「アッーwwwwwwww」
「周りの奴がわからんネタするなよお前ら……」

明るい先輩が多いし、雰囲気はいい。
いい会社に就職できたもんだとしみじみ感じながら、先輩のナポレオンをがぶ飲みしてやったのだった。











「……ん……」

目を覚ますと、そこは何もない荒野の真ん中だった。

「は?」

昨日会社の飲み会終わって気持ち悪いまま風呂に何とか入って寝て……
で?
なんだこれ?
俺の家じゃないんだけど……というか何で外で寝てんだ?

「現実味があるけど、これ夢かな」

でもなぁ、夢って夢だって気がつかないんだけどなぁ。偶に気がつく時があるくらいで……

「これがその夢だと気がついた夢ってやつか?それなら好き勝手できるな!」

教経が勝手にこの状況を判断していると、背後から3人の男が声をかけてきた。

「おいテメエ!いい服着てるじゃねぇか」
「なんだな」
「兄貴、こいついいとこのぼっちゃんかなんかじゃないですか?」

振り返った次の瞬間、そこには衝撃の光景が!
なんと小汚い服を着て山賊のコスプレをした、頭の不自由な若人が3名いた!

「このお金でもっとましな服でも買いなさい」

そういって俺はポケットに入っていた財布から千円札を渡す。

「もう乞食と間違われるような格好はするんじゃないよ?」

そういって俺は立ち去り、彼らは若干頭の不自由さから解放されて、日雇い労働者ながら充実した人生を送ったのだった。

〜fin〜












じゃ、なくて。
よくポケットに財布入ってたな。4万9千円と999円か。
白地のカッターシャツにジーパン、ご丁寧に黒のロングコートまで着てる。
さすが俺の夢、ご都合主義だね。
しかし、夢なんだから一張羅じゃなくてもっとこう格好いい服とか着たかったなぁ……まぁ、ファッションに興味ないから思いつかないし、だからこそのこの格好なんだろうけどさ。

「お前、俺たちを舐めてんのか!アァ!?なんだこの紙切れ!」
「?……あぁ、あれか。千円では足りない、と」
「せんえん……?なんだそりゃぁ!とにかく、金目のものおいていけ!」
「兄貴、あいつの荷物、剣がありますぜ」
「なんだな」

荷物……?お、竹刀袋に巾着があるじゃん。さすが夢、後付で何でもありだな。
ちょうどいいから若人に人生の厳しさというものを教えてあげる必要があるな。
棒きれ持ったら無敵の俺に絡んだのが悪い。
竹刀袋の中身は……清麿!?

「なんでこれがここに……あ、夢だからか」

竹刀袋の中身は、江戸時代後期、新刀期最高の刀鍛冶である「源清麿」が打った、名も無き名刀。師匠が持っていた、人を斬っても脂が付着せず、何人でも斬ることが出来ると師匠が言っていた刀だった。

「おう、その剣おいていけ!あと服も全部おいていけ!」
「お、おいていくんだな」

山下清……なのか……?
確か芦屋さんが死んで、芸人が後引き継いだけど、全く似てない。

「ぼ、僕は……」
「あぁ!?」
「ぼ、僕は、お、おにぎりが、た、食べたいんだなぁ」
「あ、兄貴、おいらもおにぎり食べたいんだなぁ」
「テメェ馬鹿にしてんのか!おいデク!テメェも何言ってやがる!こいつ身ぐるみはがせ!」


からかうのは面白いけど、そろそろ限界だな。

「おらぁ!痛い目見たくなかったら……」
「凄んでばかりじゃまったく驚異にならんな」

殺気を放出しながら、抜き打ちに首の皮一枚だけ斬ってやった。

「ひぃっ」
「あ、兄貴!」
「みえなかったんだな」

「お前らに選択肢をやろう。
 1つ、土下座して頭を踏まれる。
 2つ、土下座して靴を舐める。
 3つ、土下座してケツからおにぎりを食う。

 さぁ、好きなのを選ぶといい」

「な、全部一緒じゃねぇか!」
「いや、兄貴、土下座の後が一緒じゃないっす」
「お、おにぎりが食べたいんだな」

……ケツからか?ケツからでもかまわんのか?

とりあえずこの夢の世界の第一村人(第三までいるが)から情報収集を試みる。
情報を制するものは世界を制する、だ。


「とりあえず、ここはどこだ?」
「へ、へい。并<ヘイ>州の太原でやす」

并<?>州の太原……中国かよ。
問題は、どういう設定の世界か、だよな。
飲み会の席で相手にしなかったが、タイムスリップして武将で活躍、とか考えてた頃がありましたよ、はい。
武将として活躍できるような世界なら……燃えるな。

「今一番ここらで有名な人間は誰だ?お前らが知っている人間の中で、だ」
「はぁ、そ、それでしたら劉虞さま……かな」

劉虞……公孫賛に責められて死んだっつ〜人か?
三国志じゃん。なかなか燃えるな。関羽、張飛、趙雲……どれくらい強いのかな?
おお、燃えてきたじゃん。でも出来るなら春秋戦国時代が良かったなぁ。

「まぁいいや、あぁ、髭」
「へ、へい。なんでしょう?」
「懐に入れてあるもの出せ」
「……何でやしょうか?」
「惚けるんじゃねぇよ。さっきから懐気にしてるのは分かってるんだよ。
 どうせどっかの誰かからふんだくったもんが入ってんだろ?出せよ」
「……」
「……死にたいのか?」
「ひぃっ……こ、これでやす」

太平要術の書……?
へぇ、これ何が書いてあるんだ?

……この世界は夢ではありません!?
なんだこれ……時代は……後漢時代。俺が生きている時代より1800年昔の時代です。だと?
んなこと説明してくれなくても大体分かるだろうが馬鹿が。
男にとっては夢のような世界……と。
夢の世界の説明がしてあるな……・夢じゃないわけないだろうが。
まぁ、戦乱の時代なら確かに男にとっては夢のような時代だわな。
とにかくこいつらからもっと情報を聞き出す必要があるけど、こんな所じゃなんだし……

「まぁいいや、お前ら……」
「まてぇい!」

ん?誰か来たみたいだな。それならそいつから情報聞き出して、この賊共はさっさと引き渡すとするか。犯罪者捕まえましたよ〜って体裁でなら、聞きたいことも聞き出せるだろうし、悪い扱いはされないだろう。

って!

「危ねぇよ!」

都合のいいことを考えていたら、いきなり女が槍繰り出して来やがった。