始まれば、いずれ終わる


それは悲しい物語にせよ


ある辛い事柄にせよ


ならば、終わらせよう


こんな冷たく悲しい物語は…


終焉へと旅立とう










Catharsis

第三十五編 夜明けへ
(1月28日 水曜日 朝)










「ぅ…」

俺は肌を撫でるような冷気に目を覚ます。体はだるく動きづらいが、寒さが否応無く体を叩き起こす。
あたりを見渡すと、そこはリビングだ。一体、昨日は…
そこまで考えて自分の体を見下ろす。
道理で寒いわけだ。
翡憐は大丈夫か?
って、居ない。

「翡憐?」
「はい」

キッチンのほうからの返答が聞こえた。
時計を見ると俺たちが寝付いてから三時間ほどしか経っていない。
どうりで少し体がだるいわけだ。

「何か御用ですか?祐一」
「いや、どこに行ったのかと思っただけ」
「大丈夫です。祐一を放ってどこかに行くつもりはありません。呼ばれればすぐ駆けつけられる範囲に居ます」
「……」

臆面もなく言ってくれるが…今の台詞、結構はずかった…。

「何か食べますか?時間的には朝食の時間だと思いますが」
「そうだな…少し腹が減ってる。運動後だからか?」
「分かりました。少し量を増やしましょう」

ちっ、動じやがらねぇ…。面白みが欠けるなぁ。
手早く服を身に着けると食卓の椅子に腰掛ける。木の椅子独特の冷たさが伝わってくる。

「なぁ、学校行くか?」
「どうしましょう。今日ばかりは考えさせられますね」

手際よく朝食を用意する翡憐の後姿に感謝をして、窓の外を見た。
すでに陽は上がり、一日の始まりがそこにあった。
雪国で朝の早い時間。朝焼けが見れてもおかしくなかっただろう。

「目覚めにどうぞ」

コーヒーが目の前に置かれる。湯気と共に香りが立ち上ってくる。

「ああ…さんきゅ」

苦味と共にかすかに感じる独特なコーヒーの甘さが広がってきた。

「なぁ、朝焼け前が一番暗いんだよな?」
「そうですね。そう言われています」
「…なら、原因も分かった今って朝焼け前か?」
「…まだ、夜かもしれません」

トースターのいい香りが漂ってくる。キッチンに立つ翡憐の姿はもはや水瀬家では
当然の出来事のように感じられた。

「朝焼け前だと良いんだがな」
「…それは誰しもが願う事です」
「翡憐もか?」
「願いはします。現実はどうであれ…」
「…お前はどう見る?」

トースターが運ばれてくる。バターのいい香り。
昨日と同じ服装なのは当然であるが…。

「まだ…真夜中でしょう。これから朝焼けに向けて全てが始まると思います」
「…そうか…」
「明けない夜はありません。結果はどうあれこの事態も必ず終わります」
「ああ、だからこそ人は終わる事を見るんじゃなくて結果を見るんだろ?」
「終焉に興味は無い。あるのは結果、ですね」
「いいや、過程もだぜ? 過程が変われば結果も変わる」
「……そうですね。祐一、あなたの言うとおりです。被害が一番少ない、過程を選びたいものですね」
「ああ、今の状況で終わりを迎えたいな」
「今を最小限の被害と思うつもりですか?」
「…思いたいな」

まだ、秋子さんも名雪も舞も死んでない。まだ、治る可能性は十分にあるんだ。
それに真琴だって帰ってくる可能性は十分あるんだ。
あゆは…これから決着をつけるが…。あゆも死なせるわけにはいかない。

「なぁ、翡憐。あゆも助けような」
「…どうなるか分かりません」
「そうか…」
「努力しだい、と言っておきましょうか」
「…お前も努力してくれよ?」
「祐一次第です」

また、その台詞か…。全部、俺次第って何かしたりするのって翡憐な気がするんだが…。
あの訳の分からん力を使うあゆに対して対抗できそうなのって翡憐だけだし。

「…なぁ、お前が使うあの不思議な力って何なんだ?」
「知りたいですか?」
「そりゃ…まぁ」
「魔法ですよ」
「魔法?」
「そうです。ただの魔法です。誰しもが持っている力ですよ」
「…誰しも、ねぇ…」

誰しもなら俺が使えても良いと思うんだが…。
まぁ、深く聞いても答えてくれなさそうだし、それに本格的に食べる体勢に入ってるし…。










「結局、サボりか」
「そうなりますね」
「なぁ…少し寄りたいところがあるんだ」

祐一はそう言って、翡憐を連れて病院とは違う方向に向かって歩き出した。
風は冷たいものの、何か別種の冷たさが混じった気分を悪くするようなものだった。
それに祐一は気づいている様子も無く、翡憐は警戒心を強めていた。
目的地に近づくほど強くなる“何か”の力を感じていた。
最初は普通の歩道された道を歩いていたが、しばらくすればそこは獣道と化した。

「ここですか?」

そこに広がっていた自然の野原。
町の景色が見渡せるその丘に二人は着いた。今まで翡憐が感じていた別種の冷たさは
そこに無く、周りを覆っているように広がっていた。

「ああ、名前は知らないがな」
「ものみの丘です」
「「えっ?」」

翡憐と祐一以外の第三者がその後ろにいた。
赤茶色の髪を肩辺りで揃え、立ち姿はきっちりと背筋を伸ばした姿だった。
その姿の所為で硬いイメージを与えていた。
祐一はそう感じていた。
ただ、翡憐はその外見よりも瞳を見つめていた。
外見上の年齢からは想像できないほど冷たすぎる瞳だった。
翡憐自身も自分の瞳は冷たい印象を与えると知っていたが、自分以外にもそれに似た瞳を見るとは思わなかった。

「えーっと?」
「一年の天野美汐と申します。相沢祐一先輩」
「あれ?俺の事、知ってた?」
「はい、一度だけ友人が話していたのを覚えています」
「そ、そうか」

俺って有名人?と考えている事が分かりそうな態度を示した。

「御速水翡憐です。天野美汐さん」
「はい」

丁寧にお辞儀をする。服装は明らかに私服姿で学校をサボっているのは目に見えて分かる事だが、
翡憐たちも人の事はいえない立場なので特に言及はしなかった。

「なぁ、ところで天野さん。ここにはよく来るのか?」
「たまに…です」
「何で今日は?学校をサボってまで来る必要があったのか?」

「それは先輩方もそうではないのですか?」と、言い返す美汐に祐一は思わず詰まった。
そんな様子を見て意地悪な返し方をしてしまったと思ったのか「すいません」と頭を下げた。

「……相沢祐一先輩はなぜここに?」
「それは私も気にかかります」
「まぁ…真琴のことを話そうと思ってな」
「真琴?」

不思議そうな翡憐の顔と、最初は不思議そうな顔をしていた美汐だったが、何か思い当たる節があったのか、
厳しい顔つきに変わった。

「……その真琴という方は、高熱が出ませんでしたか?」
「あー、詳しくは…」

視線で翡憐に語りかける。「頼む」の意思を受けた翡憐は美汐の方に向いた。

「はい、確かに高熱を出して数日後、姿を消しました」
「そうですか…」

何か心当たりがあるのか、ため息にも似た息を吐いた。
白い息が濃く、それがここの気温を指し示していた。

「何か、心当たりがあるのか?」
「…信じる、信じないは人の自由です」
「ああ」
「この丘では狐が出るといわれています。そして、その狐は人に変化をすることがたまにあります。
 しかし、長期間の変化は体に悪影響を与えるのか、高熱を出してそのまま…」

そこで美汐の声は途切れた。
自分が経験をしたことを思い出したのか、少し遠い目をしていた。過去に彼女もそれを経験したのだろう。
辛い別れというべきか…。

「それでここに来たのか?」
「別に思い出に浸るために来た訳ではありません。呼ばれた気がしたからです」

美汐が二人の横を通り過ぎて丘の中心の方まで歩いていった。
「一体、誰に呼ばれたのでしょうか?」と空を仰ぎ見て呟く小さい声。
しばらく三人はそうしていた。それぞれ何を想い、何を考えているのか…。

「そろそろ行きます」
「ん、ああ。邪魔して悪かったな」
「いえ、お気になさらず。ただの天からのお告げにしたがって来た様なものですから」

皮肉さがにじみ出ている口調。反応に困る祐一は愛想笑いのようなものを浮べた。

「冷え込みますから風邪をひかないように気をつけてください」
「はい、ありがとうございます」

似たような二人だな…。と祐一は傍で思いながら、空虚さを持った少女を見送った。
二人だけになった丘は少し寂しかった。

「…真琴さんの話をしてくださるのでは無いのですか?」
「ああ、話ってほどの事じゃないんだが…。ただ、記憶を思い出すときにこの丘の事も思い出してな…。それで」
「そうですか」
「ああ、ここに狐を放した記憶があるんだ」
「……」
「もし、天野って子の話が正しければ、真琴は狐だよな…」
「そうなりますね」

一陣の風が二人を襲った。
突風に二人は驚くが、それ以上に驚いた事は“それ”に気づかなかったことだった。

「……」
「……」

“それ”と明らかに普通の世界ではおかしい異様な何か。
それは異様な静けさとして姿をあらわした。
本来の丘ならば、動物の一匹、二匹がいてもおかしくないんだが、一切そんな気配がなかった。
「冬だから…」と言ってしまえばそれまでだが、冬にしてもいささか静か過ぎる。
何より、町の喧騒も耳に届かなくなっている。それほどの距離は無いはずだ。

「……翡憐」
「祐一。傍を離れないでください」

本来なら逆だろ?と祐一は心の中で思うものの、自分に力が無いのだから仕方ない。
あたりに異様な空気が漂う。
寒いはずなのに、じわりと汗が掻いてくる…。
背筋に流れる汗…。たぶん、これを冷たい汗って言うんだろうな。祐一の頭が冷静に
そんなことを考える。
翡憐は普段と変わらない様子であたりを伺っていた。

“……”

あたりに何かの音が聞こえてきた。

“……”

何か分からない何か…

“……”

来ては返す波のようなで、それとはまた少し違うざわめき。
純粋な一つの音ではなく、何かと何かが被った音。

“……”

人を不安にさせるような不協和音。

“……”

あたりには普通の丘である。なのに、不安にさせる要因は…
“それ”以外に思い当たるものは無い。しかし“それ”とは一体、何なのだろうか?

“……”

不安定になっていく自らの精神。祐一は耐え切れなく声を上げた。

「翡憐!」

“……”

「ここにいます」

“……”

たった数文字の組み合わせた短いワード。なのにそれだけで祐一の気分は落ち着いた。

“……”

音の大きさはほとんど変わらず、耳にかすかに残る程度の不快音。
少し大きくなったと思えば、小さくなるその不協和音

“……”

ふと、祐一は隣が暖かくなっている事に気が付いた。
翡憐の周りが微かに揺らいで見えるのは彼の錯覚かもしれない。

“……”

警戒を続ける翡憐の姿。彼女自身に何も変化は無い。
ただ翡憐の周りの揺らぎが一層、強くなった。

“……”

弾けるように不可視の何かが当たりに広がる。
祐一の体の中を何か駆け抜けた。全身に伝わる暖かい空気。
それが駆け抜けた後、周りからあの不協和音が消えていた。

「翡憐…」
「もう大丈夫です」

張り詰めていた緊張が解けたようで、祐一は思わず座り込んでしまった。
あの音が聞こえていたときには体が震えていたようで、座り込んでもなお、震えが止まらなかった。

「少し休んでから行きましょう」

翡憐も座り込むと祐一の体を引き寄せ、抱き込んだ。一瞬驚いたような顔をする祐一だが、
その暖かさが心地よく、そのまま抱かれることにした。










「…行くか?」
「……すんなりと行かせてもらえないようです」
「へっ?」

自分自身でも結構、間抜けな返答したと思う。
ただ、それだけ翡憐の言葉が急だったということだ。

「どういうことだ?」
「周りを見てください」

翡憐の言葉に従い、あたりを見渡すが大して先ほどと変化がないと思うんだが…。
と、生暖かい風が俺たちを包んだ。
気持ち悪い、湿気の帯びた暖かい風。
これは…なんだ?

「何が起きてるんだ?」
「どうやら、私が追い払ったのは一部のようです」
「いう事は……また集まってきたということか?」
「おそらくは。祐一、私のそばを絶対に離れないでください。離れられては守りきれません」
「……すまん」

非力な俺はどうやら厄介事だけしかひきつけないらしい。
翡憐に迷惑を掛けてばかりな気がする。

「力が無い者を力がある者が守るのは当然です」
「……」
「祐一、念を押しますが、私のそばを離れないでください」
「ああ…」

姿が見えないものに対して翡憐は最大限の注意を持って見渡していた。
どこにいるか分からない敵に対してこちらからは打って出られない。
後手に廻る以上、一撃目を完全に防ぎ、カウンターで仕留めないとこちらが不利になる。
俺も少しでも翡憐の手助けになればと思ってあたりに注意をめぐらしていた。
どこに来るのか?
意識を研ぎ澄ませていたとき、俺はかすかに空気が動くのを感じた。
素人の俺でも分かる動き、翡憐が分からないはずが無い。

「翡憐!」
「はい」

翡憐も気付いていたようで、空気が動いた方向に体を向け、俺をかばうように立ちはだかる。
そして、一秒にも満たない瞬間に翡憐の右腕が炎に包まれた。
って、炎!?

「ひ、翡憐!!」
「大丈夫です」
「だ、大丈夫ってお前、燃えてるぞ!?」
「燃えていません」
「は?」

いや、燃えているって…。
あんだけ、メラメラと燃え上がってんだから…

「って、あ、あれ?」
「まやかしです。ものみの丘に住み着く何者かの」
「……」

毅然とした態度で生暖かい空気の集団を見つめていた。
右手を振り上げると、炎は綺麗に消えていった。そこには先ほどと変わらない腕があった。

「答えなさい!! 丘に住む物!!」

翡憐が毅然とした声を上げる。
普段からは想像つかない凛とした声色。
丘に響くが返答は無い。相変わらず俺たちを包み込む。
しかし、どこか収束していっている気がするのは気のせいだろうか?

「翡憐…」
「ものみの丘の力でしょう…」

“……”

何かがまた話しかけてきた。
気持ち悪い不協和音が俺の耳に届く。気持ち悪いことこの上ないが、何とか耐える。

“……”

「…沢渡さんのことを言っていますね」
「何! 真琴の事!?」
「はい、丘の狐が世話になった。それについて礼は言うが、ここに立ち入り、彼の者の帰りを望むな。それは丘の掟に反する、と言っています」

どうやら翡憐はこの不協和音を聞き取ることが出来たらしい。
しかし……だからといって諦められるかよ。

「悪いが諦められないな」

と、言う同時に風が吹き抜けた。
かすかに右腕に痛みを感じて視線を遣ると服と共に腕が無くなっていた。

「えっ?」
「大丈夫です。どこも切られていません」
「い、いや…だって…」

腕が無いぞ? 俺の腕…

「大丈夫です」

といって翡憐が俺のなくなった腕に触った。
って、触られている感触がある?

「あ、あれ?」
「まやかしです。しっかりと現実を見つめてください」

もう一度見直すと、そこには服も切られず、確かに腕があった。
こんな無茶苦茶なことがあって良いのか?

「祐一。どうやら、これは力ずくで沢渡さんを取り返さないといけないようです」
「いや、掛け合ってみる」
「祐一?」
「話せば何とかなるって」

何も暴力ばかりじゃ駄目なんだってな。
ちっとはまともなことをしねぇと。

「おい! 丘に住んでる奴! 俺はただ真琴を返して欲しいだけだ! それ以外は何もいらない!! 真琴を帰してくれ!!」

“……”

「……何だって?」
「掟は守る。だから、その幼い狐は渡せない、と」
「……むぅ…こう妥協点というものはないのか?」

“……”

「無い」
「ストレートなことで。こりゃ…力ずくか?」
「祐一が望むなら力ずくでも何とかなります」

“……”

「向こうもどうやら、その気ならこちらも…だと言っています」
「……いや、こうなりゃ意地でも穏便に済ませてやる」

翡憐に武力以外を望んだんだ。
意地でも穏便だ。

「祐一…」
「おい!! 真琴はどうなんだ!! 掟云々以前に真琴の意思はどうなんだ!!」

“……”

「掟が絶対だそうです」
「掟が絶対だと!? 生きたい奴を殺すなんて許せるかよ!! 生きる意志をつぶすなんて事が許されるのかよ!!」

“……”

「そうであっても、だそうです」
「掟が絶対だろうと、本人の意思をつぶすな!! それで命を奪うことなんて認めないぞ!!」

絶対にだ。
掟で殺されるなんて認められるかよ!
生きる意志をそれが邪魔するくらいなら掟をぶっ潰してやる!!

「それが祐一の憖い?」

今、俺、翡憐に何か言ったか?

「えっ?」
「掟をつぶすことが祐一の憖いですか?」
「あ、ああ…でも、掟を壊すことなんて出来るのか?」
「掟とはこの丘に存在するある種の摂理。ならばその摂理を壊せばいいだけのこと」
「……頼めるか?」
「祐一が望むなら」
「……真琴を戻したい。頼む」

俺は真琴を戻した。
みんなが笑ってすごせる日が帰ってくるなら…俺は何だってしてやる!

「分かりました」

翡憐はそういうと、正面をキッと見据えた。
そしてゆっくりと息を吐き出していくと、翡憐の周りに光が踊り始めた。
赤と青の光の粒が集まる。
何が起きてるのか俺にはわからない。
ただ、危険ではないことは分かっている。どこか暖かい懐いが詰まっているのを感じたからだ。

「命を奪う掟など必要あらず。私は私の意志に従って掟を壊す」

翡憐の周りに集まっていた赤と青の光の粒子が言葉に応じてはじけた。
そして、丘を赤と青の光の乱舞が起きる。
生暖かい風たちは依然、そこにいたが、何かが消えていくような感覚があった。
もちろん、何かは見えないし分からない。
ただ、翡憐の言う掟という節理が消えていっているのだろう。

「終わったのか?」
「……はい。これで丘の摂理は消えました。後は祐一しだいです」
「おう」

翡憐がお膳立てしてくれたんだ。
しっかりと真琴を帰してもらうぞ?

「おい!! 掟は消えたんだ! 真琴を帰せ!!」

“……”

「幼き狐の意思は帰ることを望み、掟が無い以上、彼の者を縛れない、と言っています」
「なら、返してもらう!!」

“……”

「時は今にあらず、力が戻りし時、かならずこの狐を帰そう」
「…すぐには無理か。まぁ、いいさ。帰ってくるんだろうな!!」

“……”

「ああ、必ず、だそうです」
「ならいいさ」

これで真琴も帰ってくるんだ。
それなら良いか。
俺はホッとしたとき、隣で音がした。

「って、翡憐! 大丈夫か?」
「はい、少し疲れたみたいです」

丘に座り込む翡憐を俺は支えた。
あの力を使うって事はそれだけ体力も消費してるのか?

「大丈夫か?」
「はい、少し疲れただけですから。少し休んだら病院にいきましょう」
「分かった。ただ、無理だけはしないでくれよ。まだ後があるんだから」
「はい」

俺と翡憐は丘で少し休むと、病院に向かった。










夜はようやく目覚めの時を迎えたようだね。
黒い帳に赤い色
開かれる暗澹の向こうに見えるものは?
どうか、心地よい朝陽でありますように