夢…
それは記憶の整理
それは昔の思い出
だが、それは夢としてみる事は何なのか?
それは何を示すのか?
俺は分からなかった。夢か現か…
夢から覚めても夢だった…
Catharsis
第九編 いつかの記憶
(?月?日 夢)
「…おい…寒いぞ」
「うん、雪国は寒いよぉー」
俺は名雪に騙されて家の庭で遊んでいた。
名雪のほうはすでに三個目の雪ウサギの制作に取り掛かっていた。
家に撤退しようにも普段はとろい筈の名雪なのだが、今日に限って抜群の感覚で俺の動きを察知していた。
「なぁ、名雪。いいかげん、家の中に入らないか?」
「もうあと十個作ったら入るよぉ〜。だから、祐一も手伝ってよ」
「……」
後十個…。すなわち一人五個のノルマだ。
「いいだろう。十個作ったら入るぞ」
俺はすぐさま作業に取り掛かった。自分が五個作るだけで家の中には入れるのだ。
雪をかき集めて人の目のような形に整える。後は目と耳をつけて…
「おっし、一個作ったぞ」
「うん、祐一うまいね」
「おお、どんどん行くぞ…」
そのまま、俺は五個といわず、七個作って家に入った。
確かに雪ウサギを作るのは楽しかったが、やはり寒さが俺を家に導いた。
「お、おい、くすぐったいからやめろ…」
ふさふさとした尻尾の毛が俺の頬をくすぐった。
俺が今、抱いているのは怪我していて弱っていた狐だ。現在は傷もほとんど癒えて走り回れるようになった。
「しかし…お前も元気になったな」
そうは言った物の狐が返事を返してくるはずも無く、ただ入り口の方を見つめつつ、
俺の頬にあたるように尻尾を振っていた。さすがに俺も耐えられなくなってきたので、狐をお姫様抱っこの体勢にした。
「これなら気持ち良いだろ?」
さらに左右に振ってやる…。気持ち良さそうに目を閉じたり開けたりして、懸命に睡魔と闘っているようであった。
しかし、それも小さな抵抗…すぐに目を閉じて眠った。
「おやすみ、真琴…」
「なぜだ…なぜ見つけられないんだ…」
結構、大きな麦畑で俺は一人の少女とかくれんぼしていてるんだが……。
「くそ、情けないぞ、俺」
俺が鬼になってはや三十分。しかし、全然つかまる気配が無い。
あっちは身長が低いので、目立つ兎耳のカチューシャをつけているのだが、全然見えない。
麦畑の麦の高さが高いのか…それとも単に俺が小さいだけなのか…。
どちらにせよ、俺はまだ見つけられていなかった。
「無理だー!! 降参だーーー!!」
情けないが降参しよう。
余りにも情けなくて涙が出てきそうだ…。
「やった! 私の勝ち!」
かなり近くで、声が聞こえた。いや、近くというより、背後で声がした…。
「…後ろにいたのか?」
「うん、ずっと祐一の後ろをつけてたんだ」
「……情けないぞ、俺…」
ショックだった。後ろにいることを気づかない俺ってかなり鈍感?
「しかし! こんな所で諦めてはおれん! つぎは俺が隠れるぞ! 見つけてみろ、舞」
「うん、頑張って探すからね」
舞のそんな言葉を背中に受けて、麦畑の奥に身を投じた。
「祐一君。ここからの眺め本当に良いよ」
「それはよおござんしたな。俺はあいにくと高所恐怖症なんだよ」
「残念だね」
俺は木の下で仕方なしに地面に生える雑草などを眺めていた。しかし…よくあんな高い
ところに上れるよな…。俺なら間違いなく失神しているぞ。
「祐一君、そろそろ日が沈むね」
「そうだな。そろそろ帰るか?」
「うん、そろそろボクも帰るよ。降りるからちょっと向こう向いてて」
「おお、分かったよ」
がさがさと木がゆれる音。しばらくして“タンッ”という音と共に俺を呼ぶ声がした。
「もう良いよ、祐一君」
「それじゃ、帰るか?」
「うん、また明日も遊ぼうね」
「ああ、遊ぼうな、あゆ」
俺はそう少女に別れを告げて小さな丘を降りていった。
「くぅー、綺麗だな」
「……うん」
俺の家の近くにある丘の上でのんびりと横になっていた。
ちょうど今は桜が咲いていて、俺達の上に桜の花びらが降り注いだ。
「なぁ、こうやってても暇じゃないか?」
「ううん……楽しいから……祐一君は…面白くない?」
「いや、こうやってたまにはのんびりとしないとな」
「…年寄り…くさい」
「失礼な。こう見えてもまだまだ若者だぞ?」
「…それが…お年より…」
俺は少し傷ついた。
全く若い者を捕まえて、失礼な事をいう女じゃのぉ。
「今日も暖かいな…」
「…うん、明日も晴れたら……良いな…」
「どうしてだ?」
「祐一君に…会えるから……」
「そうか…俺に会えることがそんなにうれしいのか?」
「…うれしい…だって、友達だから…」
「そうだな…翡憐」
更に強い風が吹いて、俺達に桜の花びらという雪を降らせた…。
『夢か…これは夢なのか?』
“そう、夢。夢だよ。祐一君”
『誰だ?』
“ボクが誰でもいいじゃないの…”
『まぁ、いい、それより……何か用か?』
“ただ、君がここに来たから話をしただけ。いい夢だったでしょ?”
『俺は御速水を昔から知っていたのか?』
“うん、知っていたよ。君ととっても仲が良かった。ある日までは、ね”
『ある日って何時だ?』
“それは自分で見つけるか、彼女に聞いてみたらいいよ?彼女は答えないと思うけど”
『どうしてだ?』
“それも答えは彼女が握っている。っと、時間だよ。おやすみ、祐一君”
『お、おい! 待て! 俺はまだ聞きたいことが…』
“また、会おうね”
“遊ボウヨ……”
「あ、名雪か?」
「なゆき? ボクはあゆだよ」
「あゆか?」 “遊ボウヨ……”
「あぅー?」
「んっ? 真琴?」
「どうしたの? 私は舞だよ」 “遊ボウヨ……”
「舞か…」
「……どう…したの? 私は…翡憐」
「えっ? 翡憐?」 “遊ボウヨ……”
「誰? それ…ボクはあゆだよ?」
「あ、あれ? あゆ?」
「あぅー?」 “遊ボウヨ……”
「あれ? 真琴?」
「大丈夫? 舞だよ」
「舞…なのか?」 “遊ボウヨ……”
「私は…翡憐…。大丈夫…?」
「……お前は誰なんだ?」
「ボク? あゆだよ?」 “遊ボウヨ……”
「……もう、誰が誰なのか分からない…」
「どうしたの?」
「どうしたの?」「どうしたの?」 “遊ボウヨ……”
「「どうしたの?」」「どうしたの?」
「「どうしたの?」」「「どうしたの?」」
「俺に話し掛けないでくれ…」 “遊ボウヨ……”
「…」
「誰だ?」
「……」 “遊ボウヨ……”
「誰だ? さっきから俺に話し掛けてくるのは?」
「………」
「誰なんだ?」 “遊ボウヨ……”
「……クス…」
「誰だ?」
「……クスクス…」 “遊ボウヨ……”
「…答えろ……お前は誰だ?」
「クス…クスクス…」
「お前は誰なんだーー!!」 “遊ボウヨ……”
「っっ!!」
「どうしたのですか? 相沢祐一さん?」
慌てて起き上がる。どうも変な夢を見ていた。しかし、ここは…
日が沈む夕暮れ時。教室には俺と女子生徒との二人しかいなかった。
「っあ、御速水?」
それは目の前に立っており、俺を覗きこんでいた。
「はい、そうですが…何か?」
「いや…何でもない」
俺は何か嫌な夢を見ていた気が……。
って、ここはどこだ?確か俺は高校のはずだが……。
「どうかしましたか? 授業はもう終わりましたが?」
「…ここはどこだ?」
「はい? 学校ですが、それが何か?」
不思議そうに御速水が覗き込んでくる…。
しかし、御速水が着ているこの服装。確か中学時代の制服だったはず。
なぜだ?俺は確か高校に通っているはずだ…。
それに翡憐は俺と一緒の中学じゃなかったはずなのになぜいる…。
「……学校……」
「はい、すでにHRもおわり、今は四時三十二分ですが?」
「……そうか」
「大丈夫ですか? 何か非常に良くない夢でもご覧になったのですか?」
「…いや、大丈夫だ。ただ、少し変になっているだけだ」
「そう…だと、思った」
急に横で御速水が笑いだした。普段、全然笑わない御速水が笑っているのだ。
しかし、その笑いは尋常ではなかった。
狂気に満ちた顔。普段の冷静でひんやりとした顔ではない。
恐ろしいまでの笑顔。
「…御速水?」
「クスクスクス…遊ぼうよ……祐一君」
口調が明らかにおかしい。不可解な空気があたりを包む。
「……お前…」
「どウしタの?遊ボうヨ……」
徐々に翡憐の顔が歪んでいく。狂気に満たされ、もはや普段の御速水との違いは歴然だった。恐怖が俺の心臓をつかむ。
呼吸が荒くなり、思考がとまる。何も考えられない。目の前に起きている事象を受け止められない。
「誰だ…誰なんだ?」
「ワたシ…?御速水だヨ…」
俺は立ち上がり、御速水から距離を取った。
少しでも彼女から離れようと後退る。
「違う…。お前は御速水じゃない…。誰なんだ?」
「クスクスクス……遊ボウヨ……」
それを追いかける様に御速水がゆっくりと体をこちらに向かってきた。
ただ、体がほとんど動かない。辛うじて後退る事が出来た。
「…誰…なんだ…」
「クスクス……遊ボウヨ…」
ゆっくりと御速水の腕が伸ばされる。
それに捕まらないように逃げるが無駄な努力だった。
「お前は誰だ……」
「どうしたの? 祐一クン? 遊ボウヨ」
肩を捕まれ、引き寄せられる。
狂気に歪んだ御速水の顔が数cmのところに映る。
背中に嫌な汗が流れ、体中が震えているのが自覚できた。
俺は最後のひとかけらの力を振り絞って叫んだ。
「お前は誰だ! 誰なんだーー!!」
「っっ!!」
目が覚めた。外はまだ暗い。
自分のいる場所は…大丈夫、自分の部屋だ。それは間違いない。
「夢、か…?」
“うん、夢だよ”
「っ!! 誰だ!!」
“誰でも良いじゃない。ボクは君を知っている。そして君はボクを知っている”
「…どういうことだ?」
“そのまま、君が思ったとおり”
「ここは……どこなんだ?」
“夢…現…夢…現”
「何?」
“君はさまよう。君は迷える子羊だよ…祐一君”
「……」
“目が覚めるのかな?”
「…もう、俺は何かわからない…教えてくれ」
“誰も教えてくれないよ…”
「……」
“おやすみ、祐一君”
夢
夢は大切。
自分の深層を見れる時
深層は見れたかな?