やったー! げんこう を つかまえたぞ!
「ん…う」
…目が覚めた。久しぶりに布団で寝られた気がする。
「……なんだ、まだ7時半か…」
昨日寝るのが早かったせいか、いつもより早く起きてしまった。
「…着替えよ」
「!!!?」
突然、凄まじいまでの大音量が鳴り響いた。
カバディカバディ!ジカンダヨ!ハッスルハッスル!トッピンパラリノプウ「何だ!? 目覚ましか!?」
「名雪の部屋からか…?」
恐る恐る扉を開ける…と同時に、更なる大音量が耳を襲った。
ユメノナカヘー!ユメノナカヘー!オンドゥルララギッタンディスカー!!「うわ、スゲー数だなぁ…」
数えるのも馬鹿莫迦しい数の目覚まし時計。その全てのアラームが一斉に鳴っていた。
「……いや、こっちのがすげーな…」
その騒音の中で、気持ち良さそうに平然と眠っている名雪。
「とりあえず、これ消すか…」
パチパチとボタンを押し、目覚まし時計を止めてゆく。
「おーい、名雪起きろ〜」
…と、この爆音で起きないのに普通に声をかけたくらいで起きる訳がない。
「Hick on sit! Hick on sit! Sass sat to hic on sit! しばくぞ!!」
蒲団叩きで激しく蒲団を叩きまくるが、一向に起きる気配を見せない。
「ねぇ、バギーラー、起きてよーバギーラー」
頬をペチペチと叩くがそれでも起きる様子がない。
「……ぜ、全然起きねぇ…」
騒いでも揺すっても口を塞いでもまるで反応がなく、ただすやすやと寝息を立てている。
「くー………」
「……いいや、秋子さんに聞こう…」
それが一番効率がいい気がする。
………。
階段を下りると、丁度秋子さんが洗面所から出てきた。
「あ、秋子さんおはよう」
「あら、おはよう。葉君は起きるの早いのね。」
「昨日は寝るのが早かったから…」
「名雪は起きたのかしら…? 随分早いけれど。」
「まだ寝てるなぁ…目覚ましを止めたのはオイラだし」
「あらそうなの? ごめんなさいね騒がしくて」
「んー…むしろアレで起きない名雪の方にビックリした…」
音にも確かにビックリしたが。アレ、近所から苦情は来ないんだろうか…?
「ふふ…じゃあ名雪を起こしてくるから、その間に顔洗ってらっしゃい。凄い頭よ?」
「はーい…」
そう言って秋子さんは二階へと上がっていった。
「? とりあえず、顔洗うか…」
「……確かに、こりゃスゲーな…」
前髪以外の全ての髪が逆立っている。どこの野菜人だ?
「こりゃ、一旦水に濡らさないとダメだな…」
ザーッと水を被り、バスタオルで頭を拭きつつ髪を梳かしてゆく。
「おはよー…って、何してるの?」
「んあ、名雪か?」
振り向くと、眠そうな顔をした名雪が立っていた。
「髪の毛が爆発してたから、水付けて無理矢理梳かしてたんよ」
「わ、私の髪の毛もぼさぼさだよ〜」
名雪の髪の毛も凄い事になっている。どこのピーチ姫だ?
「うう〜」
髪を水で濡らし、必死に寝かせようと櫛を通す。
「…手伝うか?」
一通り髪を寝かせたのを確認して、名雪に問い掛ける。
「んー…大丈夫。先にゴハン食べてて」
「ん、そうか」
そう言われ、一足先にリビングへと向かう。
………。
リビングでは、秋子さんが朝食の準備をしていた。
「あら早いわね。もうすぐパンが焼けますから、席に着いて待ってて下さいね。」
「お、焼けた」
チーン! と音が鳴り、トースターから焼けた食パンが飛び出した。
「あ、丁度良かった?」
名雪が髪を結いながら食卓へと歩いてきた。
「ええ、たった今焼けた所よ」
「そっか」
ゴムで髪を結わえると、名雪はテーブルに着いた。
「いただきます」
「いただきまーす」
「はい、どうぞ」
早速名雪はトーストの上にイチゴジャムを乗せ、嬉しそうに頬張る。
「オイラも食うか」
トーストにオレンジマーマレードを塗り、噛り付く。
「イチゴジャムおいし〜」
「久々だなー朝食にパン食うのは」
パンを1枚食べ終えると、秋子さんは頬に指を当て、思いついたように言った。
「葉君。私の特製のジャムがあるんですが、どうです? まだ試作品ですが…」
「あ、じゃあ是非」
ガタン! と、突然テーブルが鳴った。
「…大丈夫か? 名雪」
「だ、大丈夫、なんでもない…」
「ん、そうか」
「ご、ごちそうさまー(棒読み)」
「もう? 名雪って結構少食なんだな」
「え? あ、う、うん」
「?」
名雪はこっちを心配そうにチラチラ見ながらそそくさと去ってゆく…変なの。
「はい、葉君。食べてみて下さいな」
「あ、はい」
秋子さんが差し出した透明な瓶の中には、鮮やかなオレンジ色のジャムが入っていた。
「はい、遠慮なくどうぞ」
「いただきまーす」
ジャムをトーストに塗付し、噛り付く。
「………」
「どうでしょう?」
「…甘くないなぁ…なんか物足りない気がする…」
「物足りない?」
「これダシとりました?」
「ダシ…ダシねぇ、なるほど…」
(ダシってなんだーー!?)
ドアからこっそりこちらを覗いている(つもりなんだろう)名雪がガタガタいっている。
「んー…これ、主な材料は?」
「材料ですか? めそ…いえ、やっぱり秘密です」
「秘密かぁ」
(今「めそ」って言った! 「めそ」ってなんだーー!?)
そんなこんなでトーストを食べ終え、食器を流し台に片付ける。
「ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
ドアを開くと、まだ名雪がカタカタしていた。
「葉くん、よくアレ食べられたね…」
「…いや、別に美味しくは無かったけど食えんほどでもないだろ」
「うう、葉くんってすごい…」
「変な感心の仕方すんな」
「ふぅ、やっと着いた」
朝食を摂り、名雪と少し会話を交わした後に葉はこの場所へとやってきた。
「よ、起きてるか?」
『む、今日は早いのだな』
「はは、朝飯食ってすぐ来たからな」
『そうか』
「…なあ、幻咬。ちょっと聞きたいコトがある」
『…聞きたい事?』
「ああ」
神木の幹に背中を預け、座り込む。
「…お前は昔、人と妖の全てを滅ぼそうとしたんだってな」
『…うむ、懐かしい話だ』
「だけど、それは『主の代わりに』って話だった。て事は、その前は違ったのか?」
『…いや、目的が変わっただけだな。やっていた事は変わらん』
「?」
『その昔、我は今で言う「中国」と云う国に居た。』
「ふむ」
『その頃は毎日が退屈で仕方が無くてな…ただ悦楽の為だけに人に化けては争いを引き起こしたり、無意味に妖を狩り滅ぼして遊んでいたのだ』
「とんでもねぇな」
『まぁ、それも大半は「尾」に唆されての行動だったのだがな…』
「…尾?」
『我々「九尾の狐」の尾は初めから生え揃っていた訳では無く、二百年に一本ずつ徐々に増えてゆく。そしてその「尾」にはそれぞれ別の意思が宿るのだ。』
「尾に、意思が?」
『そうだ。それが我の魂が分岐したモノなのか、かつて喰らった魂達が結束し独立したモノなのかは定かで無いが。』
「八俣大蛇みてえだ」
『尾は成長するに連れて知恵を付け、二百年もすれば独自の名を持つ迄になる。』
「幻咬の尾は何て名前なんだ?」
『我の尾か? 生まれた順に、天・中・地・逢難・胞身・肝魂・魂珀・霊・終だ。』
「九本で、一つの尾が名前を持つまで200年だから…え、1800歳越えてんのか!?」
『…さあな、数えてはいないのでな。3000年位迄は数えていたんだが…』
「じゃあもう爺さんだな」
『ふふ、そうかも知れんな』
「尾ってのは我侭なのか?」
『正直言えば鬱陶しい。我の尾は特に凶悪なのでな…だが居なければ居ないで退屈だ』
「そういうもんか」
『本当の意味で殺戮を愉しんでいたのは尾の連中であって我自身では無い。とは言え我自身にとってもそれなりに退屈凌ぎ程度にはなっていたが。』
「…んで、周囲から恨みを買った訳か」
『まぁ当然の報いだろう。「獣の槍」…人間がアレを作ったのも我を滅ぼしたいが為だろうしな。』
「…そんで、何でわざわざこんな狭い島国に来たんよ? 言葉は悪いが、向こうの方が人は多いし妖の質も良いだろうに」
『…我は逃げたのだ。「獣の槍」と云う追手からな。』
「…そんなに強いのか、その獣の槍ってやつは…」
『強い。我の力の悉くがアレには通用しなかった。…当然と言えば当然か。我の力は「混沌」。対してアレは感情を持たぬ武器、殺戮の為だけに造られたモノ。「1に向かわせる力」が元々1である物に通用しないのは至極道理だ。』
「よくわからん。混沌ってなんだ」
『混沌。即ち全てが入り混じり区別の付かぬ事…つまりは1 = 2の証明だ。』
「…って待て! a - b は0だろ!?」
『その通り。「0で割る事」を可能にするのが我の能力という訳だ』
「なんてこった!」
『しかしこの能力にも制約はある。我の力を上回るモノ、存在を正しく把握できぬモノ、意思を持たぬ器物は能力の対象にはできんのだ。』
「そりゃ、計算式が立てられないんじゃ計算しようがないからな」
『それ故、純粋に「殺す為」だけに造られたアレに我は対抗できなかった…』
「…逃げ切れたのか?」
『その時はな…だが負傷は激しかった。我を見失った槍はあらぬ方向へと飛んで行ったものの、既に我は虫の息…そしてその時我が墜落した島こそがこの日本だったのだ。』
「そうだったのか…。」
『そして死にかけていた我を救った人間…それが君の先祖「麻倉葉王」だ。』
「アサクラ、ハオ?」
葉王…ハオ…どこかで、どこかで聞いた名前だ…何処だ? 思い出せない…!
『…意外だな、君がその名を知らないとは。てっきり「麻倉」の一族は彼を殺す為に行動しているものだと思っていたのだがな…。』
「すまん、多分聞いた事ねぇや…」
『別に謝るような事ではない…話を続けるぞ』
「ん、あぁ、頼む」
『我は彼から多くを教わり、我もまた彼に多くを教えた。傷が癒えて尚、我は人の姿となって彼の許に留まった…思えば、彼は我の唯一の友人だったかも知れんな』
「幻咬が、人間からモノを教わった…?」
『彼は非常に興味深い人間だった…誰より優しき心の持ち主であり、誰よりもこの星に住む全ての生き物を愛した者。この星の行く末を案じ、地球から人と云う名の災厄を取り除こうと考えるも、その優しさ故に決断を下せなかった男。』
「………。」
『彼が求めたモノは「平和」…それもヒトに限ったものではなく、この星全体にとってのもの。故に彼は動物に好かれ、妖に慕われ、自然に愛され…人に忌まれた。』
「…だろうな」
『そんな彼を見兼ね、我は「聖戦」の存在を教えた。』
「それが、シャーマンファイトか」
『そう…「二つの彗星、幾星霜の年月を越え星に害悪の種を撒き散らす。大地の命を抱えし者、破滅の未来を摘み取らん。故に我らは渇望す、今一度の聖戦を。総ては星に芽吹いた災厄を、防ぎ除き消し去りたいが為だけに。目醒め給え星の記憶…超然たるその力、再び揮われんことを希う。其が冠するは精霊の王。その頂を目指す者…汝、自らの魂を以って己が最強を証明せよ___。」と云う「星祭」の伝承だ。』
「葉王の持霊はやっぱり幻咬だったんか?」
『いや違う。確かに我は彼と共に星祭に向かったが、彼は我の力など全く必要としなかった…元々彼はこの国最強の大陰陽師。地獄の門番たる鬼神を喚び出し戦いに臨んだ。』
「なるほど、式神か。麻倉だもんなぁ」
『だが彼は敗れた…「獣の槍」を持つ男の手によって。』
「…え?」
『その戦いで葉王は死に、彼の希望は潰えた…故に我がその願いを代行する事にした。』
「…それか。お前が人を滅ぼそうとした理由は」
『結局は我もまた、獣の槍によって墜とされたがね…思えば1000年前の災いとは、我の事を指していたのかも知れんな…』
「…待ってくれ」
『どうした?』
「良く考えたら、それじゃオイラが産まれなくねぇか?」
『ああ、すまんなそこは端折った。彼には幸という名の奥方が居た…星祭に参加したのは子を成した後の話だ。尤も、幸もまた子を友人に託した後、彼の後を追ったらしいが…』
「…そうか」
「そういやさっき、『麻倉』はハオを殺す為に行動してるとか言ってたよな?」
『ああ、言ったな。』
「おかしくねえか? だってもう葉王はとっくに死んでるんだろ?」
『…普通ならそうだな。だが、彼は仮にも日本最大の大陰陽師。彼は「泰山府君の祭」を以って再び転生を果たしたと言われている。』
「泰山府君の祭?」
『早い話が閻魔大王との契約だ。生前の記憶を「消去」ではなく「忘却」する事によって巫力や霊力をそのままに新しい肉体に転生する。所謂「つよくてニューゲーム」が可能となる訳だ。形はどうあれ閻魔大王に気に入られさえすれば誰にでも可能な事だ。』
「て事は、葉王が転生していたとしても前世の記憶はない訳だろ? そんなの、わざわざ殺す必要があるんかねぇ…?」
『いや、記憶が無いと言えど「忘却」だからな、ふとした切欠で思い出さんとも限らない。前世と深い関わりを持つモノと共に転生したり、前世と深い関わりを持つ何かがある場所や血筋に転生したりすれば記憶を取り戻す可能性は飛躍的に上昇する。』
「つまり前世の記憶を取り戻している可能性は無きにしも非ず、か…」
『君が葉王の存在を知らなかったとなるとそれもまた怪しいがね。』
「それもそうか…そういや幻咬。昨日お前はオイラと一緒に来てくれるって言ってくれたけど、その転生した葉王がお前を探している可能性は無いのか?」
『案ずるな…だからこそ我は君を選んだのだ。』
「?」
言っている意味がよく判らない。幻咬は葉王を避けているのか…?
「そりゃ、一体どういう…」
『さて、待ち人が来たようだぞ? 麻倉葉』
「ん…?」
振り向くと、あゆがてこてこ歩いてこちらに向かっているのが見えた。
「ウルトラマンコスモスの『スモス』って何だろう…?」
『重甲ビーファイター』を見終えた名雪は部屋へと戻ってきた。
「狐さん…はまだ寝てるか」
子狐を起こさないようにそっと近寄る。
「……はぁ、困ったなぁ…」
一つ溜息を吐き、ゆっくりとベッドに腰掛ける。
「ねぇ、私はどうしたらいいのかな…?」
小さく子狐に問い掛ける。無論、答えなど返ってはこない。
「葉くんはいい人だし、別に嫌いな訳じゃない…」
俯きながら言葉を続ける。
「けれど私には他に好きな男の子がいる…でもきっと想いは実らない」
「…祐一」
『名雪は不満じゃないのか? 自分の好きな相手を選べないんだぞ?』
「あはは、葉くんに嫌われちゃうかなぁ…」
「でも、会いたいなぁ…祐一…」
「ねぇ、私はどうしたらいいと思う…?」
「…ダメ、か。やっぱり自分で考えるしかないんだよね…」
ばたっ、とベッドに横たわり、名雪は苦悩を続けた。
「…という訳だ。すまん。」
昨日起こった事の大筋をあゆに説明し、謝罪した。
「ううん、良かったよ。迎えの人が見付かって」
「でもその所為であゆは昨日ずーっと寒い中待ってたんだろ?」
「そうだけど、そんな事があったんじゃしょうがないよ。無理に抜け出す訳にもいかないだろうし」
「いや、そりゃそうなんだが…」
「はい、もうこの話はおしまいっ! 今日は最初の学校なんだからさ」
「…それもそうか。それじゃ早速…」
「授業の時間でーす!」
「…え、授業?」
「葉くんはイイナズケの女の子に会いに来たんだよね?」
「ん、あぁ、そうだが」
「とゆー事は、その女の子に好きになって貰わないといけないよね?」
「まぁ、そうだな」
「一時間目の授業は、ズバリ『女心』だよ!」
「…はぁ!?」
「いいから! レッスゥ〜ン、ワァーン!」
「れ、れっすんわ〜ん…」
言われるままに続ける。なんでこんなにテンション高いんだ…?
「ある、晴れた日のこと…葉くんは公園で彼女と待ち合わせをしています。」
「はぁ」
「少し遅刻してきた女の子に向かって、何て言う?」
「え? あー…『次は気を付けろよー』…とか?」
「ブー! 惜しい、30てん!」
「30点…」
「正解は、服の前をはだけながら『やらないか?』でしたー」
「ぜってえウソだーーー!! しかも惜しくねーし!!」
「リピ〜ト、アフタァミー。『やらないか?』」
「やらねぇよ!!」
「こらっ、ちゃんと続けて!『やらないか?』」
「…や、やらないか?」
「『 や ら な い か ? 』キュピーン!(←謎の発光音S.E.)」
「や ら な い か ?」
「葉くん! 歯が光ってないよ!」
「そんなんできるかー!」
「むー…じゃあ次」
「うう、何でオイラがこんな事…」
「レッスゥ〜ン、トゥー!!」
「れっすんとぅー…」
「その後デートで、映画館に行きました。見た後一言、何て言う?」
「そりゃ、『結構面白かったな』…とか?」
「ブー! だめー。フツーにだめー★」
「そんなダメかよ」
「うんダメ。正解は…『ホテル行こうよ?』でした〜」
「コイツ信用できねえーーー!」
「はーい、リピ〜ト、アフタァミー。『HOTEL行こうよ?』」
「待て、その本を貸しなさい」
「『ホテル、行こうよ?』ギュピイィーン!(←謎の発光音S.E.)」
「ギュピーン! じゃねえ!!」
「なんだよノリ悪いな〜。ぶー」
「ぶー、じゃねーよ…何だコレ?」
えーと、【イチャイチャパラダイス・女を落とす801の方法】…ってオイ!!
「お、女の子がこんなもの読んじゃいけませんッ!」
「なんで?」
「なんで?じゃない! 大体ドコから引っ張ってきたんだこんなの」
「お父さんの部屋にあった」
「そんなもん勝手に持ってきちゃダメだろ」
「だって葉くんならこーゆーの知っといた方がいいんじゃないかなーって思って…」
「気持ちはうれしいけども頑張る方向が間違っています」
「えー」
あゆは大仰な仕草でガクリと膝を付くと天を仰いで呟いた。
「うぐぅ…バカなっ、ボク一人が道化だったとでもいうのか…!」
「もうワケがわからん」
だからなんなんだこのノリは? つーかもうお前誰だ!?
「本当はただ葉くんのこと応援しようかなー…って思っただけなんだけど」
「うん、それはなんとなく判った。その気持ちは素直に嬉しいんだが…」
「本当?」
「ん、本当だ」
「じゃあ気を取り直して…レッスゥ〜ン、スリィー!!」
「しねえよ! なんでそうなるんだよ!!」
「サービス問題です。ちょー簡単です!」
「ああ、そう…」
「葉くんは牛丼屋にいます。注文した牛丼が来た時、入口から気になるあの子が入ってきました! 女の子の好感度を上げるにはどうしたらいい?」
「…って全然簡単じゃねーし! 何だよその状況!?」
「いいからほら、答えて答えて」
「むー…『声をかけて隣に座らせる』とか?」
「…本当に、それでいいんですか?」
「うん、別にいい…ってゆーか、どうでもいい…」
「…正解は、CMの後ッ!!」
「え? は? CM?」
「チャンネルはー、そのままっ!」
「えー、何? 終わんの? マジで? こんなトコで!?」
なんて中途半端な!!