※このSSはフィクションです。ネタバレ有りですが、クラナド本編とはかなり関係がありません。
「…どうして…こんなことに……」
夕暮れに染まる午後の旧校舎。
今はもう使われていない空き教室の床に、あかいものが広がってゆく。
床に倒れる男と、その傍らに立ち尽くす人影。
その人影は、きびすを返すと、目撃者がいないかを気にしながら部屋を後にする。
残されたのは、赤い水たまりと、ぴくりとも動かない金髪の男。
夕焼けが教室を紅く照らし、赤く穢れた床を清らかな色に染め上げる。
机の上に無造作に広げられていた本が、開け放たれていた窓から吹く風にパラパラとめくられてゆく。
男の側に転がっているのは、星を模った木彫りの彫刻。
その星にはベッタリと血痕があり、そして男の頭からは今もなお血がとめどなくあふれ出ている。
かつて不死身の男と称された、殺しても死なないとまで言われた男の死。
その男の死体の第一発見者は、皮肉にも彼が親友として慕っていた男だった。
「…う、うわっ!? お、おい、冗談だろ!? 春原、おい、春原ぁっ!!」
第一発見者の叫び声が、旧校舎にこだまする。
こうして、連続殺人事件は彼の死をもって幕を閉じた…。
家政婦は見たっ! 恐怖、春原陽平殺人事件 〜前編〜
完
「…って、終わっちゃだめじゃんっ!!」
「前編が終わりで、ここからは後編なんじゃない?」
「わけわからんしっ! …ってゆーか、前編短すぎだろっ!?」
「はいはい、そんなことより、こいつ本当に死んでるわけ?」
「…いや、そんなことって……まあいいけど、さすがにこの状況だと死んでるとしか思えないだろう」
俺の叫び声により、たまたま旧校舎に居合わせた数人が集まってきていた。
第一発見者である俺の名前は岡崎朋也。一応そこで死んでる奴の悪友だ。
「だってさ、こいつって不死身じゃなかったっけ? 少なくとも、殺しても死なない奴だと思ってたけど…」
真っ先に駆けつけてきたこの女の名は、藤林杏。
善く言えば面倒見のいい奴。悪く言えば疫病神。
厄介ごとを持ち込ませたら右に出るものなどいないのではないだろうか。
でも、こんな奴でもそれなりに可愛いところがあったりして、一応俺はこいつの彼氏ってことになってる…らしい。
「…す、春原…くん…ほ、ほんとに…きゅ、救急車…先生を呼ばないと……あぅ……」
「ちょっと、椋!? しっかりしなさい!!」
この惨劇を目の当たりにしてパニックに陥っているのは彼女の双子の妹の藤林椋。
とても双子とは思えないほど姉と正反対の性格をしていて、いつも姉の影に隠れておどおどしている娘だ。
「…あ、あの…どうかしたんですか…?」
「あ、ああ、古河か。いや、なんか春原の奴が死んでるんだよ」
「はぁ…それは大変ですね…」
「…ああ、大変なんだが……」
「春原さんが……って、えええっ!? し、ししし、死んでって、す、すの、すの、すの……」
「お、落ち着け、古河っ! あいつは殺しても死なない奴だっ!
どうせそのうち復活するに決まってるっ!」
…なんて、いくらあいつでも無理だろうけど。
「そ、そうですよね。春原さんなら大丈夫ですよね」
いや、だから無理なんだが…まあ、そういうことにしておこう。
こいつは古河渚。こう見えても実は俺より年上で留年経験者。
廃部になった演劇部を復活させようと頑張っていて、演劇部の部長を自称している。
昔流行った『だんご大家族』が大好きなお気楽天然娘だ。
「…でも、一体誰が春原さんをこんな目に…」
「一応言っておくが、俺じゃないぞ」
「わかってます。岡崎さんは、そんなことをする人じゃありませんから」
「まあ、そうなんだが…随分と信用してくれてるんだな」
「…えっと…その…信じてますから……」
古河は完全に俺を信頼した瞳で俺のことを見つめてくる。
俺も古河を見つめ返して…。
「はいそこ、彼女の目の前でいちゃつかないようにっ!」
「えっ!? そ、そんな…わたしは……」
「そこまでですっ!!」
「な、なんだ!?」
いきなり割り込んでくる女の子の声。
そこに現れたのは…。
「風子っ! 参上ですっ!!」
「…なんだ、またおまえか……」
伊吹風子。ヒトデのことが我を忘れるほどに大好きな、お子様天然爆走娘。
自分の彫ったヒトデの彫刻を、全校生徒にプレゼントしようと企むヘンな奴。
こいつはつい先日、俺に彼女がいるとも知らず、
いきなりヒトデを押し付けてきて「風子と付き合ってください」なんて言ってきた。
もちろん俺は断ったが、それ以来ずっと俺と杏を付け狙っていたりする。
「今の言葉は聞き捨てなりなせんっ! 岡崎さんの彼女は風子ですっ!」
「何言ってんのよ。朋也はあたしにぞっこんなんだからね」
「今時ぞっこんはないと思うぞ」
「うるさいわねっ! あんたは大人しく頷いてりゃいいのよっ!」
「そんな押し付けがましい独りよがりな愛なんて、愛じゃないですっ!」
「あんた、よくそんな恥ずかしいセリフを平然と言えるわねっ!」
「愛があればもーまんたいですっ!」
「あんたねぇっ!」
「なんですかっ!」
「ふーっ!」
「きしゃーっ!」
…なんなんだよ、おまえら、「ふーっ!」とか、「きしゃーっ!」とか…。
…っつーか、春原のことはどうなったんだ?
「なんだおまえら、騒がしいな」
「ああ、智代か。何か今、大変なことになっててな…」
「大変なこと? こいつらのケンカならいつものことじゃないか」
「いや、そっちじゃなくてだな…」
新たに現れたのは、坂上智代。
かつて、夜の町を徘徊しては、一般人に迷惑をかけたがる頭の悪い連中を狩って歩いていた伝説の女。
もっとも、今では生徒会長を目指す真面目な生徒で通っている。
実際にこいつは真面目で頭もよく、今ではすっかり優等生だ。
「そこの教室の中、見てみろよ」
「教室? 教室がどうかし……なっ…なんだこれはっ!?」
「春原が倒れてるんだ」
「すぐに救急車を呼んでくる。それから先生もだ」
「ああ、頼んだ」
「待ってください!!」
救急車を呼びにいこうとする智代を、風子がいきなり呼び止めた。
「なんだ? 急がないと春原が死んでしまうかもしれないだろう?」
「このヘンな人はもう手遅れみたいです。そんなことより、これは殺人事件です。
そして…犯人はこの中にいるはずですっ!」
「な、なんだって!?」
いきなり風子が探偵口調で語り出しながら、春原が死んでいる教室へと入ってゆく。
俺たちは全員風子の後を追って教室に入る。
「いいですか。まずはこの血だまりです。
まだ血痕が乾いてないので、ヘンな人が殺されてからほとんど時間が経過していないということです。
そして、周りの机が乱れたりするなどの、ヘンな人が抵抗した形跡というものが見当たりません。
…ほら、やっぱり。風子の直感は正しかったみたいです」
「直感ってなんだ、直感って」
「岡崎さんは黙っててください。これからがいいところなんですから。
とにかく、抵抗の後が見られず、鈍器かなにかで頭部を強打した痕跡。
これは明らかに、顔見知りによる犯行です」
「じゃあ、犯人はあんただってことね」
「そう、犯人は風子…って、なんでそうなるんですか!?」
「だってそこに血のついたヒトデが転がってるもの。これは明らかにあんたの犯行ってことでしょう?」
「…なっ!?」
杏の指し示す指の先には、血痕のついた木彫りのヒトデが転がっている。
確かに、この状況証拠からは、風子が犯人だということは明らかだ。
「ちょっと待ってくれ。これは、ヒトデ…なのか…?」
「ああ、これは星に見えるが、製作者本人曰く、ヒトデ…ということらしいな」
「この間同じものを渡されて、思わず受け取ってしまったが…ヒトデだったのか…」
智代はなにやら妙にショックを受けたらしい。
ふらふらと近くの机の椅子を引き、そこに崩れるように座りこむ。
「ちょっと待ってくださいっ! 風子は犯人なんかじゃありませんっ!
これはきっと風子を陥れようとする真犯人の罠なんですっ!」
「何言ってんのよ。この状況で言い逃れは見苦しいわよ。
どう考えてもあんたしか犯人はいないじゃない」
「異議ありです。風子にはヘンな人を殺す動機がありません。
きっとこれはとても可愛くて岡崎さんに心から愛されてる風子を妬んだあなたの犯行に違いありませんっ!」
「なに勝手なこと言ってるのよっ! 朋也があ、あ…愛してるのはあたしなんだからねっ!」
「それはあなたの勝手な妄想ですっ! 岡崎さんは生まれる前から風子のことを愛してくれてるんですっ!」
「それこそあんたの勝手な妄想でしょうがっ!」
「あ、あの、お姉ちゃん…」
「おふたりとも、ケンカしないでください」
「「あなたたちは黙っててっ!!」」
「「は、はいっ!」」
果敢にもふたりを止めようとした古河と藤林は、ふたりの一喝で何も言えなくなってしまう。
「そもそも朋也の彼女はあたしなんだからねっ!」
「岡崎さんは風子のことを好きだって言ってくれましたっ!」
「ちょっと待て、いつ言った、そんなこと」
「ほらみなさい。朋也はあたしのことが好きなんだから」
「違いますっ! 岡崎さんはこれから風子のことを好きだって言ってくれるんですっ!」
「あんた、ぼーっとしすぎてヘンな白昼夢でも見てるんじゃないの?」
「風子、ぼーっとしてないです。いつでも気を張ってますから、白昼夢なんて見ないです」
「あんた、よく言えるわね、そんなこと…」
「とにかく夢なんかじゃないです。そうですよね、岡崎さん」
「え? …あ、ああ、そうだな、風子……」
「「「えええっ!?」」」
俺のいきなりの爆弾発言に智代を除く3人の悲鳴が教室に響き渡る。
「ちょ、本気で言ってるのっ!?」
「ああ、本気だ。風子…俺はおまえが……」
「…朋也…あんた、いっぺん死んでみる?」
「…そこの春原のようにか?」
「なっ…!?」
智代がいきなり椅子から立ち上がり、杏に手にした本を突きつける。
智代が倒れこんだ机の上に置いてあった本だが、よく見ると血痕がついているようだ。
智代は杏に見せ付けるようにゆっくりとページをめくっていく。
すると…
「なっ!? あ、あたしの名前!?」
「ふっふっふ、年貢の納め時のようですねっ」
「な、なによっ!?」
智代ではなく、なぜか風子が勝ち誇った表情で杏に詰め寄ってゆく。
「これは、そこのヘンな人が最後の力で書き記しただいいんぐ・めっせーじというものです。
おそらくあなたはそこのヘンな人にセクハラされて、思わずヘンな人が持っていたヒトデを掴み、殴り殺してしまった。
焦ったあなたは、たまたま凶器に使ったのが風子の作った愛らしいヒトデだったことを利用して、風子に罪を被せようとした。
でも、最後の最後でヘンな人の執念に打ち負かされたみたいですね。
ですが、あなたにとってなにより誤算だったのは、風子が名探偵だったことです。
風子には、あなたの考えることなど全てお見通しなんですからっ」
「いや、名探偵って…ダイイング・メッセージを見つけたのは坂上さんだし、あんた推理なんてしてないじゃない」
「語るに堕ちましたねっ! そのセリフこそが、あなたが犯人だという証拠ですっ!」
「はっ! し、しまった…」
「ふっふっふ、さあ、杏さん。おとなしく自首したほうが身のためですよ。
岡崎さんのことは、風子が責任をもって面倒をみますから」
「ああ、ごめんねボタン…椋、悪いけどボタンのこと…よろしくね」
「お、お姉ちゃんっ!」
「椋っ!」
ひしっ、と抱き合うふたり。
開け放たれた窓のそとからは、パトカーのサイレンの音が鳴り響いていた…。
「…っていう夢を見ました」
「って僕死んでるのっ!? しかもセクハラ容疑っ!?」
土曜日の昼下がり。
杏と放課後の中庭でまったりとしていると、そこに春原が来て、風子が来て、そして何故か風子が見た夢の話になった。
そう、先程までの話は、全て風子が見た夢の話。
夢だけあって、途中から…というか、最初からなんか話が変だった。
つーか、風子の夢なのになんで視点が俺になってるんだ? しかも俺浮気してるし。
「そ、そういう夢ならあたしも見たわよ。セクハラした陽平をあんたが殺して、
あたしに証拠を突きつけられたあんたが自ら死を選ぶっていう夢」
「やっぱり僕殺されるんですねっ!? しかもやっぱりセクハラですかっ!?」
「なあ、春原…殺される前に自首したほうがいいんじゃないか?」
「僕って信用ないんですねぇっ!?」
「いや、だってありうる話だし」
「なんでだよっ!?」
「そうですっ! 夢のとおりに、岡崎さんは風子と結ばれるんですっ」
「へぇ…朋也、覚悟はできてる…?」
「ちょっと待て、そんな無茶苦茶な夢、現実になるわけないだろっ!」
「問答無用っ! ボタンっ、ラグビーボールっ!」
「ぷひっ」
パチンと指が鳴らされると、杏の足元にいたボタンは短い足を縮める。
ボタンの七つ芸の一つ『ラグビーボール』。
杏はラグビーボールのような形で固まったボタンを掴み、それを思いっきり俺の顔に向けて投げつけてきた。
バキィっ!
直撃を受けて、そのまま俺は仰向けに倒れる。
「あーっ、風子の岡崎さんになんてことするんですかっ」
「誰がいつあんたのものになったのよっ」
「生まれる前から風子のものって決まってるんですっ」
「あんたいつまで夢見てるわけ? いい加減目を覚ましなさいっ!」
「風子はちゃんと起きてますっ」
ふたりの言い争いはいつまでも続く。
俺は仰向けに転がったまま、腹によじ登ってきたボタンの背をゆっくりと撫でる。
ふたりを止めようとした春原が殴られる音を聞きながら、こんな日々も悪くはないな…と思う。
いつまでも、この幸せが続きますように……。
涼>またまたやっちゃいました。壊れSSでしかもtaiさんに投稿。今、涼もSSもいい感じで壊れてます。
春原>なんで僕っていつもこんな役ばっかなんだよっ!
涼>あわれ春原、セクハラ容疑でご臨終…。
春原>殺すなっ!
涼>まあ、春原なら鈍器で殴られたくらいじゃ死なないよなぁ。
春原>それは100歩譲ってよしとするから、セクハラ容疑を何とかしてくれっ!
涼>でもおまえって美佐枝シナリオで美佐枝さんにセクハラしようとしてたよな。
春原>な、何故それを!?
涼>…ここに証拠のテープレコーダーが…。
春原>ちょっと待てっ! なんでそんなもんがあるんだよっ!?
涼>というわけで、今回は壊れギャグの話でした。もし次があれば真面目に書きますのでお許しください。
春原>それはいいからそいつをよこせっ!
涼>…あとがき終わり。退却っ!
春原>逃がすかよっ! 待ちやがれーーーっ!!
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